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作品名:邪欲 作者:天赦人

第1回   1
「やっぱり本物のビールは旨い!」(いつもの発泡酒とは違うなぁ〜)
山田裕之は、上手く事が運んでくれたことに、酔いしれていた。

なんと! 妻の加代子(カコ)が、自殺してくれたのだ。
自殺する数ヶ月前に、『既婚者合コン』とやらで出会った男と不倫してくれたお陰で
相手から慰謝料は貰えるわ、掛けていた生命保険も一年後には手に入る。
そんな自分史上最高な仕上がりに、ちょっぴり値が張るビールで祝杯をあげていた。

(俺って、もってる男?)

これで家のローンは完済できるし、余った金でレクサスでも買っちゃう?
いや、アウディの方がいいかなー?
それとも思い切ってアストンマーチン?
車好きの裕之は、めくるめく妄想が膨らむ。

あ〜そうだ、真由美の意見も聞いてみよう。

真由美とは、随分前から付き合っている。
実は、加代子より前から不倫していたのは、裕之の方だった。

バツイチで、シングルマザーの真由美のアパートへは、月3〜4日通っていた。
それでも、ここ数年は月に2日ほどに減ってきている。
金が続かないのと、真由美の再婚願望が鬱陶しくなってきた。
不倫が続かなくなる要因は、大体男は金、女は深みに嵌るからだろう。
最初は「遊び」「割り切った関係」なんて、耳ざわりのいい言葉で肯定していても
女の方は、だんだんと未来を夢見て安定を求めてくる。

「このまま歳を取ったら、私どうなるの?」
「他に新しい女が出来たんじゃないの?」

男はそうなると途端に逃げ出したくなる。

今の裕之には、子連れの微齢女なんて重たいだけだった。

こうなったら、何もくたびれたシングルマザーなんかじゃなくて、若くて新しい女に
フルモデルチェンジするのも悪くない。

(それにしても、こんなに上手くいくなんて、本当に俺はツイてる)

加代子は元々身体が弱く、働き口も収入もない。
実家は極貧、強烈な毒親の元で育ったらしく、帰るところすらない。
(俺ならその時点で自殺しているか、親を殺しているかもしれない)

元々ガキが嫌いな俺は、子供なんて欲しくはなかったけれど
「子供が産めない無能な女」と、加代子をイビり罵った。
加代子には、精神的に追い詰める言葉を浴びせまくって、自分のストレスのはけ口にしていた。
そのせいか、加代子はどんどん痩せて病んでいった。

大概の女は中年になるとブクブク太るが、加代子は男が守ってやりたくなるような華奢な女だった。
子供を産んでいないせいか見た目も若く、年齢の割には純粋、と言うより繊細な女だった。
最初はそんな加代子が自慢だったが、何年も夫婦をやっていると飽きてくる。
やっぱり、若くて新しい女がいい。
「これは男の本能だから仕方がない」と、言うのが裕之の常套句だった。

裕之は、気に入らない事があると直ぐ『離婚』と、加代子を脅した。
本気で離婚する気はなかったが、そうやって常に相手を脅して自分の地位を確固たるものにしたかった。
そういう行為を世間では『モラハラ』と言うらしいが、知ったこっちゃない。
「モラハラ」と「不倫」は、一度味をしめるとやめられない。
罪悪感や背徳感は段々と麻痺してくる。

それはそうと、モラハラする対象が、こうも呆気なく死んでしまうと、ちょっぴり寂しい気もする。
新しいストレスの発散方法を考えないと。

色々考えていたら、トイレに行きたくなった。
(ちょっと 飲み過ぎたかな)

(あゝでも、あそこは、まだ死体の跡が消えないで残っているんだった。
嫌だなぁ)
加代子のヤツがこの家で自殺したから、家を売却する時に査定額が低くなりそうだ。
そのことが裕之には不満だった。
(事故物件ってやつか〜)
しかも、加代子の幽霊でも出たらシャレにもならない。



用を済ませて、ソファーにもたれていると、玄関の鍵が開く音がした。

加代子がいつも履いていたスリッパが見えた。

誰だ?
(えっ、加代子? 死んだはずじゃなかったのか?)
(おいおい、やめてくれよ。俺が幽霊が苦手なこと知ってんだろ)

すると、ピンク色のカーディガンを羽織った加代子が立っていた。

そして、突然泣き出した。
ビー玉のような涙がとめどなく落ちて、リビングの床があっと言う前に埋め尽くされていった。
俺のいるソファーも埋まりそうな勢いで、ビー玉の涙が溢れていく。

俺はビー玉から逃げようと、高い所へ移動するが、ビー玉はどんどん増えて
とうとう口元まで迫って来た。
(冷たい!このままじゃビー玉を飲み込んでしまう)
「助けてくれー!」「誰か助けてー!!」

裕之は自分の叫び声で我に返った。

ほんの数秒だったが、ものすごくリアルな夢だった。
ビー玉の色や触感、冷たさが今でも肌に残っている。

加代子の奴、俺のこと恨んでいたのか?



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