20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:愛執 作者:天赦人

最終回   6
カコも母親も、もういない。
あの優しい笑顔は消えてしまった。

祐一は声を出して泣いた。
カコの瞳からこぼれたビー玉の涙とは比べようもない、汚水のような涙が流れた。

俺は、カコも母親も救ってやれなかった。

そして、......妻も、 ......娘も。

カコも、母親も、娘も、愛に執着していたのかも知れない。

でも、一番執着していたのは自分だ。


祐一は、カコがくれたネクタイをドアノブに掛けて、自分の首に結んだ。

保険金の受け取りは子供達と元妻にしてある。

祐一には、それしか出来なかった。

どんなことをしたって、償えないことも分かっている。
誰も喜ばないことも知っている。

それでも、この方法以外は考えられなかった。

生きていたら、旨いものを食べることだって出来る。
生きていたら、季節の風に心が和むこともある。

カコには、そんなささやかな喜びすら、もう出来ない。

妻が言うように、俺は非道で自分勝手な人間だ。
今までは、自分の欲のために周りの人間を傷つけても何とも思わなかった。

あんなに「お話がしたい」「不倫は嫌」と言っていたカコを泥沼へ無理矢理引き込んだのは俺だ。
あの時、カコとお茶でも飲みながら、色んな話をしていたらカコは死ななかったのかもしれない。
子供が産めないカコに息子の自慢話なんてしなければ、カコは苦しまなかったかもしれない。

妻ともきちんと向き合って、もっと早く別れてあげれば良かった。
彼女も、もっと早く新しい人生が始められただろう。
娘もこんな父親を見なければ、あんな風にならなかったのかもしれない。


......と、そんなことを考えていると、突然スマホが鳴った。

元妻からの着信だった。

俺は慌ててネクタイを緩めて、電話に出た。

「今、警察に呼ばれたんだけど、祐也(息子)が強姦で捕まったのよ!」
「えっ! 祐也が?」
「大学の友達と、未成年の女の子襲って大怪我させて...、祐也
ニュースにも出てるのよ」
「......。」(俺は言葉が出なかった)
「とにかく警察に行かないと。あんたも早く来てよっ!」

日本一の、あの大学に合格した自慢の息子が......。
......強姦。......犯罪者。

(どうか、間違いであってくれ)
(息子じゃなくて、強姦まがいなことをして来た俺を裁いてくれ)


祐一は もう死ぬことも出来なくなっていた。




← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 657