妻に見つからないようにこっそり開封すると、そこには衝撃的な内容が書いてあった。
カコが 自殺をした。
本名は、山田加代子ということ、年齢も想像していたよりいっていたこと、 更にカコの夫と自分が同じ歳だということを、その手紙で知った。 カコの夫は全てを知っていた。探偵が調べた証拠写真や、カコの日記から自殺の原因が祐一にもあること、慰謝料などの法的措置、その他、細部に至る事柄が記してあった。 多分弁護士に相談して作成したものだろう。
祐一は寒くもないのに、手と膝が震えだした。
カコが自殺...。
時々寂しそうではあったが、まさか自殺なんて...。 一緒に行った旅先で、土産を買ってあげたら喜んでいたじゃないか。 俺の誕生日には、好きなブランドのネクタイをプレゼントしてくれたじゃないか。
(これは夢なのか?悪夢なら早く覚めてくれ)
とにかく、このことは誰にも知られてはいけない。 家族、会社......。 こちらもプロ(弁護士)に相談した方が良さそうだ。
翌日、会社近くの弁護士事務所へ相談しに行くことにした。
ところが、不運は重なる。その現場を人事の偉い人間に見られてしまった。 更にその人事の偉い人間と弁護士が家族だということを、後から知った。 だからって「不倫相手が自殺して、その相談に来た」なんて内容は、バレないはず。 弁護士には守秘義務がある。 ......と、思っていたが、嫌な予感は当たる。 この手の話はどこからか必ずバレる。
その数日後に、祐一は人事に呼ばれた。
同期の高橋は不倫バレで左遷させられたが、自分もそうなるのか? (どの支社へ飛ばされるのだろう?それとも子会社? 関連先?) 色々考えていると、人事部長は 「今回のことは社としても重く受け止めている。コンプライアンスは元より、メディアからの取材や報道も懸念している、株価にも影響が出るかも知れない。そうなると、株主及び他の従業員へ迷惑がかかる。...分かるよね?」 祐一が「あ、...あの、」と口ごもっていると 人事部長は「辞表の文言は[自己都合]ということで、出来るだけ早く提出してくれたまえ」 と、早口に言うと「以上だから」と、そっぽを向いた。
まさか辞めさせられるとは...。 部屋を出ようとすると、人事部長は「それから、前に辞めた派遣の子のことも把握している。彼女が辞める時に全部話してくれたよ」と、トドメを刺した。 俺は何も言い返せなかった。
この歳で再就職は難しい。ましてや超大手企業の給料と同じ額を出してくれる会社など皆無だ。 子供達の学費はどうする? 親の介護費用は?様々なことを思った。 妻には何て言おう...。
重い足取りで家に着くと、妻の姿が見当たらない。 リビングのテーブルに『離婚届』と、白い封筒が置いてあった。
開封すると 〔ずっと前から祐一が浮気だの不倫だのしていたことは知っていた。でも子供のことがあって耐えてきた。今回、相手の女性が自殺したことはショックだった〕と。その中でも祐一が一番驚いたことは、娘のひとみ のことだ。 ひとみとは、彼女が高校生の時に中絶をして以来、まともに口を聞いていない。 あれから 2度も中絶をしたこと。 それも誰の子か分からず、更に怪しい薬に手を出して警察の世話になったこと。 2度目の妊娠はレイプ同然だったことなどが書いてあったが、自分の娘の話しとは思えなかった。 どこかのB級映画を観ているようだった。 〔祐一に相談したかったが、仕事と嘘ばかりついて不倫に夢中で、全く親身になってくれなかった〕ともあった。
確かに子供達のことは、殆ど妻に任せきりだった。
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