念願の『既婚者合コン』に、参加出来る! 祐一は、遠足前日の小学生のようにワクワクした。
それは休日の昼間、銀座で開催された。 妻には「仕事」と言って来た。(男はいつの世も[仕事]という印籠が、錦の御旗になる)
雑居ビルにあるその店は薄暗く、女性たちの顔をハッキリ見ることは出来なかったが、妄想していたような若くて美人の人妻は一人もいなかった。 (まぁ、そういうプロの店ではないから仕方がない) それでも席に着いて少しすると、祐一好みの、華奢で目がパッチリした上品な女性を発見した。 若い頃好きだったアイドルにどことなく似ていた。 (よし、この女にしよう!)祐一はターゲットを定めた。
受験戦争を勝ち抜いたバブル世代は、今の草食系男子とは違い、根っからの肉食系だ。 今だに「嫌よ嫌よも好きの内」なんて言って、嫌がる女性に迫るジジイすらいる。それを世間では[セクハラ]と言う、ということすら理解していないオッさんたち。
祐一は、今までの経験値から、女にはとにかく褒めることが一番だと信じている。 特に微齢の主婦は、女としての価値に敏感になっている。 社会からも夫からもババア扱い、『若さ』と言う呪縛が女にはつきまとう。 そんなジレンマを抱えた主婦達に「綺麗」だの「若い」だの「女優の〇〇に似ている」なんて煽てて、美味しい餌を撒けば、一人や二人は簡単に釣れるだろう。 でも、あまりにもおばちゃんや、デブはゴメンだ。 こっちにも選ぶ権利はある。 斜め前に座っている場末のホステスか?と思えるような水商売風の女は、色んな男達とLINE交換をしていた。客を探しに来たのだろうか?若いキャバ嬢と違い、年増のホステスは厳しいのだろう。必死さが痛々しかった。
そんな中で、一人だけ初々しく、逆に目立ったのが 山田カコ(加代子)だった。 パッと見た感じ、既婚者には見えなかった。 後から知ったが、カコは子供を産んだ経験がない。大病をしたからだと言っていた。 どおりで尻周りに無駄な肉が付いていない。それが尚更若い印象を与えているのだと思った。 声も中年女特有の野太いダミ声とは違い、か細く弱々しい。潤んだような瞳も祐一のタイプだった。祐一に限らず、男はこういう女に弱い。 結婚しているのだから、少なからず男には慣れているはずなのに あの社内不倫の、若い派遣女子の方が、よほど男慣れしているように思えた。
祐一は、とにかく積極的に誘った。 LINEでも自分の趣味の写真だの、自分の話を送りまくって、カコの気を引きたかった。会社でも家でも尊敬などされないおじさんは、余計に自分語り、自慢話が増えていく。
カコはそんな祐一からのLINEにも、返事をしてくれた。 祐一は益々図に乗って、今一番ホットなラグジュアリーホテルの設計を自分が手掛けた、是非案内したい、と見栄を張ってしまった。(このホテルなら大概の女は断らないだろう)
カコは「不倫は嫌だ、話しがしたい」と言う。
あーいう会に参加する既婚者は、全員ヤリ目、セフレ探しだと思っていたが そうでない人間もいるのか? 祐一には理解出来なかった、と言うより理解などする必要はないと思った。 とにかく会う約束さえしてしまえば、こっちのもんだ。
田舎の地主の長男として生まれた祐一は、幼い頃から大切にされ、我儘に育った。男尊女卑も今以上に蔓延る時代と地域。
身体の弱い母親はいつも泣いていた。 金使いが荒く、女好きの父親。 思い返せば、カコにそんな母親の姿を重ねたのかもしれない。
その母親も、祐一が東京の大学を卒業する前に亡くなってしまった。 その直後に父親は再婚した。 多分、母が亡くなる前から付き合っていた女だろう。
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