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作品名:愛執 作者:天赦人

第2回   2
念願の『既婚者合コン』に、参加出来る!
祐一は、遠足前日の小学生のようにワクワクした。

それは休日の昼間、銀座で開催された。
妻には「仕事」と言って来た。(男はいつの世も[仕事]という印籠が、錦の御旗になる)


雑居ビルにあるその店は薄暗く、女性たちの顔をハッキリ見ることは出来なかったが、妄想していたような若くて美人の人妻は一人もいなかった。
(まぁ、そういうプロの店ではないから仕方がない)
それでも席に着いて少しすると、祐一好みの、華奢で目がパッチリした上品な女性を発見した。
若い頃好きだったアイドルにどことなく似ていた。
(よし、この女にしよう!)祐一はターゲットを定めた。

受験戦争を勝ち抜いたバブル世代は、今の草食系男子とは違い、根っからの肉食系だ。
今だに「嫌よ嫌よも好きの内」なんて言って、嫌がる女性に迫るジジイすらいる。それを世間では[セクハラ]と言う、ということすら理解していないオッさんたち。

祐一は、今までの経験値から、女にはとにかく褒めることが一番だと信じている。
特に微齢の主婦は、女としての価値に敏感になっている。
社会からも夫からもババア扱い、『若さ』と言う呪縛が女にはつきまとう。
そんなジレンマを抱えた主婦達に「綺麗」だの「若い」だの「女優の〇〇に似ている」なんて煽てて、美味しい餌を撒けば、一人や二人は簡単に釣れるだろう。
でも、あまりにもおばちゃんや、デブはゴメンだ。
こっちにも選ぶ権利はある。
斜め前に座っている場末のホステスか?と思えるような水商売風の女は、色んな男達とLINE交換をしていた。客を探しに来たのだろうか?若いキャバ嬢と違い、年増のホステスは厳しいのだろう。必死さが痛々しかった。

そんな中で、一人だけ初々しく、逆に目立ったのが
山田カコ(加代子)だった。
パッと見た感じ、既婚者には見えなかった。
後から知ったが、カコは子供を産んだ経験がない。大病をしたからだと言っていた。
どおりで尻周りに無駄な肉が付いていない。それが尚更若い印象を与えているのだと思った。
声も中年女特有の野太いダミ声とは違い、か細く弱々しい。潤んだような瞳も祐一のタイプだった。祐一に限らず、男はこういう女に弱い。
結婚しているのだから、少なからず男には慣れているはずなのに
あの社内不倫の、若い派遣女子の方が、よほど男慣れしているように思えた。

祐一は、とにかく積極的に誘った。
LINEでも自分の趣味の写真だの、自分の話を送りまくって、カコの気を引きたかった。会社でも家でも尊敬などされないおじさんは、余計に自分語り、自慢話が増えていく。

カコはそんな祐一からのLINEにも、返事をしてくれた。
祐一は益々図に乗って、今一番ホットなラグジュアリーホテルの設計を自分が手掛けた、是非案内したい、と見栄を張ってしまった。(このホテルなら大概の女は断らないだろう)

カコは「不倫は嫌だ、話しがしたい」と言う。

あーいう会に参加する既婚者は、全員ヤリ目、セフレ探しだと思っていたが
そうでない人間もいるのか?
祐一には理解出来なかった、と言うより理解などする必要はないと思った。
とにかく会う約束さえしてしまえば、こっちのもんだ。

田舎の地主の長男として生まれた祐一は、幼い頃から大切にされ、我儘に育った。男尊女卑も今以上に蔓延る時代と地域。

身体の弱い母親はいつも泣いていた。
金使いが荒く、女好きの父親。
思い返せば、カコにそんな母親の姿を重ねたのかもしれない。

その母親も、祐一が東京の大学を卒業する前に亡くなってしまった。
その直後に父親は再婚した。
多分、母が亡くなる前から付き合っていた女だろう。


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