さすが銀座、出口が沢山あって便利だ。でも以前の銀座とは随分雰囲気が変わっていた。新しいビルが増えて続け2020東京オリンピックの頃にはもっと変わっているのだろう。 頻繁に来ていないと迷ってしまう。 Googleマップで探しても自分がどっちを向いているのか分からなくなる。
やっと到着した会場はすでに半分くらい席が埋まっていた。 この日のために上品に見えるワンピースと本革のパンプス、それに合う小ぶりなバッグをAmazonで買い揃えておいた。 [自殺プロジェクト]を決める前から練炭だのロープだの、それ の道具を揃えようと検索をしていた。最近はAmazonから「練炭」「ワンピース」「完全自殺マニュアル」「バッグ」「パンプス」といったチグハグな〈あなたにオススメの商品〉メールが届くようになり苦笑してしまう。
会場は銀座とは思えないような薄汚く安っぽいレストランだった。
女性は年齢順に座らされているようで、パッと見た感じ加代子より年上の女性も複数人いて 少し安心した。
この国では女性は1歳でも若い方が価値があって40歳も過ぎようならババア、おばさんとデスられる。 そういや夫も「同期が22歳も若い女と結婚しやがった。チっ」と、ひどく羨ましがっていた。 そう言う夫は私より5歳年上だ。 こういう会の殆どは女性は男性より5歳〜10歳くらい年下に設定されている。なんで既婚者同士なのに女性だけ若くないとダメなんだろう?などと考えてるうちに既婚者合コンはスタートした。
飲み放題だったせいか少し酔った。 「ここは初めて?」目の前に座った男が聞いてきた。 「はい、初めてなんです」 「僕もなんですよ。なんか緊張しますね」と言っていたが、隣に座った女性に 「前に会いましたよね?」とツっこまれていた。
どこに住んでいるのか?とか子供はいるのか?などザックリした自己紹介をし合いながら、男性だけ3人ずつ横にずれていくという流れだった。 この流れを『お見合い回転寿司』と言うらしい。
さすがに2時間も同じような質問と会話で疲れてきた。 中でも加代子を困らせたのは「なんで参加したの?」という質問だった。
まさか「[自殺プロジェクト]の一環で」なんて答えるわけにはいかず 「え〜と、美味しいものを一緒に食べに行けるお友達を探しに...」と答えた。 あながち嘘でもないし。
すると何回も参加しているという男が「ふ〜ん。ところでさ、旦那さんとはまだあるの?」と聞いてきた。 加代子は驚いた。そういうことを恥ずかしげもなく聞いてくる参加者がいたこと。 もっと驚いたのは会が終了するやいなや、二人仲良くどこかへ消えて行くカップルがいたこと。あ〜、そういうことだったのか。 男性達が「何時までに帰れば大丈夫なの?」と聞いてきたのは。。 そういや真冬なのに真っ赤なノースリーブ姿の女性、やたらと胸の谷間を強調している女性や昭和のバブリー感満載のボディコン女性も目立った。彼女達は主婦には見えなかった。新規の顧客を増やそうとしている年増のホステスに見えた。 まるで場末のバー… ここはそういう場所だったのか?
加代子のような初参加の素人は逆に目立ったのかもしれない。既婚男たちにモテた。 多くの男性からLINEやメール交換をお願いされた。名刺をくれる男もいた。
こんなにモテたのは何年ぶりだろう。いや何十年?もしかすると自分史上初かもしれない。 「一緒に食事に行きませんか」「女優の◯さんに似てますね」「綺麗」「若い」 お世辞とわかっていても嬉しくて舞い上がってしまう。 決して若くはない自分でもまだ需要があることが何よりも嬉しかった。 聞けば男性たちの中には(真実はわからないが)超一流企業の社員だったり医者だったり、今の加代子には無縁のハイスペック男性もいた。 そんな自分とは遠い世界の男たちの考えや生き方に興味をもった。 知らない世界の話が聞きたかった。
そう、死ぬ前の 冥土の土産に。
後日、加代子はその中で一番積極的に誘ってきた、でも決してギラギラしていない 高藤祐一と会う約束をした。
彼が手掛けたというラグジュアリーホテルのレストランで待ち合わせをした。 高層階にあるそのレストランは薄暗くて顔がよく見えなかった。 あの日に会った祐一とは別人?と思えるような男が声をかけてきた。会うまでに何回もLINEでやり取りをしていたから勝手にイメージが出来上がっていたのかもしれない。 「カコさんですか?」 加代子は自分の名前が好きじゃなかった。結婚して町田加代子から山田加代子に変わり余計に田舎者になってしまったようで、更に嫌になった。 最近のキラキラネームを名乗るほど図々しくはないが、せめてもう少し今風の可愛い名前を名乗りたかった。加代子から余計な一文字(代)を取って、加子(カコ)にすることにした。
「加子です。祐一さんですか?」 すると祐一は「はい、レストランでお食事をする前にご案内したいところがあるので一緒に行きましょう」と、加代子の返事を聞く前にホテルのコンシェルジュらしき女性と歩き始めた。 何処へ行くのか分からなかったが付いていくと、そこは‥。
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