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作品名:ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら 作者:杉内健二

第26回   第4章  1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり 〜 1 昭和三十八年 三月十日
第4章  1963年 プラスマイナス0 - すべての始まり

岩倉家の庭園に出現したタイムマシン。
そしてそこから現れ出た……昔と変わらぬ桐島智子。
剛志はマシンを使って、智子を昭和三十八年へ帰そうとするが、思わぬ乱入者が現れて……。



  
1 昭和三十八年 三月十日

 まさしく、小さい頃に乗ったエレベーターのようだった。
 ただし記憶にある印象より極端で、上から押されるように感じたかと思えば、その数秒後、身体が少し浮き上がったように思う。
彼がフラフラと立ち上がった時、すでに出口は消え去っていた。驚いて振り返れば、あの膨らみが眩いくらいに輝いている。まるで爆発寸前の宇宙船のように、七色の光がぐるぐる回りながら空間全体を照らしているのだ。
 どうして? そう思うと同時に、身体全体であの違和感を受け止めた。
 ――吹っ飛んだ拍子に、あの膨らみに当たったのか?
 そんなことを思った時には、すでに過去の世界にいたのだろう。
 音もなく、妙にシーンと静まり返って、
 ――くそっ……ここはやっぱり、あの林じゃないか!
 再び現れた出口から、庭園ではない光景が視線の先に広がっている。
 きっと、あとほんのちょっとだったのだ。あと少しで膨らみは壁の中に消え去ったろうし、そうなった後ならば、剛志が吹っ飛ばされようとこんなことにはならなかった。
 あと一歩のところでマシンは起動して、少なくともあの林が残っている時代にやって来た。そうして勝手に扉を開き、あとは何事もなかったようにただ静まり返っている。
 ただとにかく、ここが昭和何年であろうが戻るしかない。一時でも留まる理由がないし、元の時代にいる智子のことも心配だった。ところがそうは問屋が卸さない。
 ――なんで、扉が閉まらないんだよ!
 それ以前に、知らぬ間に消え去ったあのパネルが出てこないのだ。
 パネルがなければ数字の色を変えられないし、あの膨らみだって光ってはくれない。
 ――一度ここから出ないと、続けては動いてくれないのか?
 それとも単に、一定時間経過しないとダメだってだけか? ただ、そうでないなら、いくら待ったって起動しないままということになる。
 とにかく一度階段を駆け下りてから、またすぐここに戻ってみよう。
 そんなことを即行決めて、恐る恐る外の景色に目を向けた。
 すると遠くに人影はあるが、幸い誰も剛志の方を見ていない。今しかない! とっさにそう思って、階段を一気に駆け下りる。そのまま数メートル走ってから、慌てて戻ろうと後ろを向いた時だった。
 目に飛び込んだのは、テレビで見慣れた光景そのもの。マシンを取り囲むように警察官が何人もいて、その周りあちこちにも関係者だろう姿があった。それから当然の成り行きで、そのうちの何人かが剛志の姿に目を向ける。そこからは、まさにあっという間の出来事だ。
 一目散に階段を駆け上がり、飛びつくように座席に座った。すると思った通りに、壁からパネルが迫り出してくる。この時、剛志は紛れもなく警官にとって不審者で、ちょうど数字を黒くしたところでのご登場!
「おい、そこで何をしている!?」
 振り返れば入り口に警官が二人、一人はすでに飛びかかろうという体勢だ。
 この瞬間、剛志の判断は早かった。数字の横にある突起を思いっきり叩き、そのまま出口に向かって飛び出したのだ。
 警官一人は階段から転げ落ち、もう一人は剛志とぶつかり何やら大声をあげていた。
 ただ少なくとも、あれが消え去った時には外だったろうし、たとえまだ中にいたとして、気にしている余裕はもちろんない。
 ちらっと後ろを振り返ったが、あったはずの入り口が消えていた。だから動き出したのは間違いないし、後はただただ逃げるだけだ。
 ところがそこは庭園じゃない。広場のような空間から外はまさに自然のままだった。
 木々の中へ走り込んですぐに、剛志は足を何かに取られ、そのままダイブするように倒れ込んでしまった。
 逃げられない! そんな覚悟を瞬時に思い、彼はとっさに腕を伸ばした。木の根の間に手を突っ込んで、心の底から願うのだった。
 ――頼む! お願いだから見つからないでくれ!
 次の瞬間、そんな心の声を押しつぶすように、背中に何かがドシンと乗った。
 途端に息ができなくなる。
「確保!」
 そんな大声が耳に届いて、彼は薄れゆく意識で微かに思った。
 ――腕時計は智子が持っている。だからきっと、大丈夫だ……。


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