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作品名:同じ日を繰り返す人々 作者:森本晃次

第9回   リセット−2
「僕には信じられない」
 と、オサムがいうと、
「オサム君は、今まだ、自分が前兆にいると思っているんじゃないかい?」
「ええ、まだ、同じ日を繰り返しているという自覚はありません。毎日を先に進んでいますからね」
「実はオサム君だって、すでに同じ日を繰り返しているんだよ。でも、同じ日を繰り返している部分よりも、先に進む部分の方がまだ大きくて、同じ日を繰り返しているという意識がないだけなんだ」
「難しいお話です」
「これは同じ日を繰り返している人は、意識していることなんだけど、自分が同じ日を繰り返していて、午前零時を過ぎて、次の日になっていないことを感じた時、それは日にちが変わる瞬間であれば、向こうの世界に飛び出すための扉が見えるんだっていう。それは僕の研究ではハッキリと証明できたわけではないんだが、ツトム君の小説のネタにはなっていた。だから、彼に同じ日を伝える役が僕になったというのは、まんざらでもなかったのさ」
「同じ日を繰り返しているということを、その人に納得させるために、誰かが話をしたやるということは、ツトムさんから聞きました」
「どこまで聞いたのかな?」
「同じ日を繰り返しているということを教えてことができるのは、一人に対して一人だということでした。それ以外にも聞いたような気がしたんですが、正直覚えていません」
「その時に君は、僕の存在を聞いたんだね?」
「ええ、そうです」
「普通に毎日を暮らしている人、つまり、同じ日を繰り返していない人だって、日付が変わった瞬間に、必ずその扉を開けて、向こうの世界に飛び出しているんだよ。その人は無意識にしているだけのことで、覚えていないけど、その行為がなければ、明日という世界は開けてこないんだ」
「ヨシオさんの話を聞いていると、まるで、次の日に進むことの方が難しいんじゃないかって錯覚を覚えるような気がします」
「それは錯覚ではなく真実なのかも知れないよ。オサム君は、自分が今まで歩んでいたことだけが真実だと思いこんでいるから、そのことを錯覚だと感じるのさ」
「どういうことですか?」
「今まで意識したことのないものを、いきなり意識すると、それは唐突に出てきたことであって、余計に今まで歩んできた自分を正当化したくなるものさ。それは当然のことなんだろうけど、それって、本当は絶対的な保守を自分で作ってしまっていることの証明をしているだけになるんだよ。すべて自分が正しいということを自覚していないと、自分に自信なんて持つことができないのが人間というものだからね」
「人間というのは、そんなに弱くて、流動的なものなんですか?」
「そうだよ。僕は人間を研究すればするほど、そのことを痛感させられる。人間というのは一人では生きられない。でも、一人で生きていこうとする意識は何よりも強い。他の動物は本能で、まわりへの感情と、自分が一人で生きていくという境目を感じているだけで、意識はしていないのさ。だからうまく行っている。うまく行っているけど、それは潜在意識なので、人間のように悩んだり苦しんだりしない分、余計なことは考えない。それが幸せなのかどうか分からないが、『知らぬが仏』なんて言葉、本当は人間に使うものではないような気がしてくるよね。でもね、確かに人間は弱くて流動的なんだけど、本能に逆らうことができるのも人間だけなんだ。ただ、逆らったらどうなるかということは本当に『神のみぞ知る』というべきなんだろうね。そこから先は、僕の研究の外だったんだ。というより、それ以上研究することが怖くなったというべきなんだろうね」
「どうしてですか?」
「だって、自分の運命を自分で見てしまうことになるからね。それは先を見るわけではなく、これから起こることを知ってしまうというのは、自分の人生の終わりから、遡っていく感覚になることなんだ。そこまで考えてくると、同じ日を繰り返している方が、気が楽になるような錯覚に陥ってしまう。これは完全に錯覚なんだと思うんだけど、きっと同じ日を繰り返す人というのは、自分の最後を考えたことのある人なんだと思う。本当に見た人がいるのかどうか、分からないけどね。でも、ここまで考えてくると、自分が知ってはいけないことが次に日に待ち構えているんじゃないかって無意識に感じた人は、次の日に進むための扉を目にすることになる。そして、扉を見た瞬間、それを超えるのが怖いと、皆思うんじゃないかな? それこそ『知らぬが仏』さ。無意識に前に進んでいた今までの自分にゾッとするほど恐怖を感じる人もいるんじゃないかな?」
「それが同じ日を繰り返しているということになるんですか?」
「そうだよ。同じ日を繰り返すのと、毎日先に進むのとではどっちがいいのか、その人それぞれということだね」
「でも、先に進むのが怖くて、毎日を繰り返すようになった人は、二度と、先に進むことを望んだりしないんですか? 老いることもない。ただ同じ日を繰り返しているわけでしょう?」
「そうじゃない。同じ日を繰り返していると言っても、それは精神的なものであって、身体や感覚は着実に先に進んでいるんだ。年も取れば、年齢相応の感覚を持つことになる。だから年を取れば感覚も衰えてくるものなんだけど、でも、同じ日を繰り返している人のほとんどは、いつの間にか、先に進んでいたということも珍しくはない。同じ日を繰り返している時に誰かに教えられることはあっても、先に進む毎日に戻る時には、誰も教えてくれる人はいないんだ。元の世界に戻った時、その人は同じ日を繰り返していたという意識は消えてしまう。記憶が抹消されるわけではないけど、その記憶が表に出てくることはない。もし出てくることがあるとすれば……」
「あるとすれば?」
「その人は、自分の死期がハッキリと見えているのかも知れない」
「それは、ヨシオさんの科学者として発見した事実なんですか?」
「僕は科学者として事実だと思っているけど、でも証明することは難しい。だから、僕の考えを他の人に強制しようとは思わない」
「じゃあ、どうして僕に話してくれたんですか?」
「どうしてだろうね。でも、僕はこの話をするのは君だけにではないんだ。もちろん、ここまでの話をツトム君にはしていない。同じ日を繰り返していることを誰か一人が、他の一人に教えてと言っただろう? それは決まったことしか教えることはできないし、個人の考えを正当論のようにして伝えることもできない。だから、ツトム君には、必要最低限のことしか話をしていない。君だって、ツトム君からは必要以上なことを聞いていないはずだからね」
「確かにそうですね。ツトムさんの話がどこまで信憑性があるか分からなかったけど、あなたの話が裏付けになっているのも事実ですね」
「でも、僕は君にこの話をするということは、君は気付いているかも知れないけど、もうすでに前兆ではなく、本当に同じ日を繰り返していることになるんだよ」
「どうしてですか?」
「だって、今君が言っただろう? 同じ日を繰り返している人に対して、一人は一人にしか言えないって、僕はすでにこの世界から抜けているから誰に話しても問題はないんだけど、でも、聞く方の君としてはツトム君からも聞かされて、僕からも聞かされることになるということは、君は意識はないかも知れないが、同じ日を繰り返す世界に入っているんだよ」
「でも、確かに昨日とは違う日を繰り返しているはずなんですけど?」
「まだ完全な自覚があるというわけではないんだろうね。しかも、君は自分に前兆があるという意識があった。前兆という意識からはなかなか抜けられないものなんだよ。しかも君は意識はしていないまでも、この世界のことを自分なりにいろいろ想像している。それはツトム君や僕のように想像力があるわけではないが、実は君の中で、大きな仮想の世界を作り上げているんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ、君には意識がないと思う。しかも、その理由を君に言えば、ひょっとすると、言葉を聞いただけでは訝しい表情になることは目に見えているんだ」
「それは一体どういう?」
「それは人間誰もが持っている『欲』というものが働いているからなんだ」
「欲ですか?」
「ああ」
 きっと自分でも訝しい表情になっていることが分かっている。
 しかし、オサムは「欲」という言葉をすべて悪いことだとは思っていない。確かに悪いイメージはあるが、
――人間にはなくてはならない必要なもの、いわゆる「必要悪」のようなものなのかも知れない――
 と思っていた。
 そのことを彼は言っているのだろう。そうだと思うと、オサムは訝しい表情になったとしても、それは反射的なもので本能ではないと思う。相手がどう思っているか分からないが、誤解は解いておきたいと思った。
「欲というものは、自分ではどうすることもできないものだという思いをほとんどの人が持っているんだろうが、決してそんなことはない。逆に自分の中にある欲を利用しようと思えば、簡単に利用できるものなんだよ」
「でも、利用している人なんているんですか?」
「心の持ちようで、利用するものというのは、利用できると思うからこっちが利用していると思っているわけでしょう? じゃあ、どうして利用できないかというと、そのものの本質を分からないから、利用できないと思いこむのさ。本質を知らないということは、怖がっているということ、怖いから、そんなものを利用するなんておこがましいと思いこむのさ」
「じゃあ、欲というものを怖がっているということですか?」
「利用できないと思っているということは怖がっているということだよ。ただ、それは本質を知らないから怖がっているわけではない。欲というものを悪いものだと決めつけているから怖いと思うのさ」
 少し考えてみたが、答えは見つからない。分かりそうで分からないことというのは、じれったいものだ。
「性欲にしても、征服欲にしても、あまりいいイメージに見えないだろう。でも、食欲や睡眠などの欲は、誰も悪いとは言わない。つまりは、自分だけの中で解決できない欲、人に迷惑を掛けてしまう欲、それを怖がっているのさ。性欲にしても、征服欲にしても、どちらも実現させようとすると、どうしても犯罪が絡んでしまうような気がしてくるだろう?」
「そうですね。テレビ番組なんかの影響かも知れませんが、確かにその通り」
「でもね。テレビ番組で取り上げるというのは裏を返せば、それだけ誰もが気にしているということを示しているんだよ。タブーとされながらでも、そのことを取り上げれば、視聴率が上がる。それだけ興味があるということなんだね」
「それは、実際には犯罪になるからできないけど、テレビドラマなどで、自分の代わりに誰かがやってくれるという意識なんですかね?」
「それもあるだろうけど、やっぱり、普段は避けていることでも、架空の世界の出来事なら、ありだと思っているんじゃないかな? しかも避けているということをテレビドラマを見ながら意識する。それは普段の自分を客観的に見ている自分がいるような気がするんだけど、違うかな?」
「ツトムさんは小説を書いていると言っていましたけど、あの人も小説の中で、自分の願望を叶えようとしていたんでしょうか?」
「彼はそんなことはしない。しないというよりも性格的にできないんだと思うよ。でも、それは彼が善人だからできないというわけでもないし、書くということになると、発想が浮かんでこなくなるというわけではないんだ。彼の中で自分なりに法則のようなものを持っていて、彼が欲について小説に書くということは、反則だと思っているんじゃないかって思うんだ。ただ、本人は、自分に発想が浮かんでこないからだって思っているに違いないんだけどね」
「どうして、ヨシオさんは、そんなに人のことが分かるんですか?」
「いや、人のことが分かるわけではなく。ツトム君のことだから分かるんだ。人には、『この人のことなら、手に取るように分かる』という人が、誰にでも一人はいると思っている。ただ、そのことを意識しない人はたくさんいるのさ。出会っていないのかも知れないし、出会っていて、しかも時々話をする人であっても、そこまで相手のことを分かるとは思っていない。それだけ自分に自信が持てる人間なんていないということさ」
 オサムは自分を顧みて考えてみた。
――僕にはそんな人はいない――
 元々、人と話をすることがめっきりと減ってしまった。
 最初は相手からウザいと思われても、お構いなしにこちらから話しかける方だったが、大学三年生くらいの頃から、次第に人と話をしなくなった。
 人と話をするのが煩わしく感じられるようになったのだ。
 こちらが煩わしいと思っていることは、相手にも伝わるもので、ぎこちなくなったのはお互いさまだった。
――ひょっとすると相手も僕と同じように、自分の方から話をしないから相手が話をしてくれない――
 と思っているのかも知れない。
 この思いは相手に気を遣っているからではなく、それだけ相手のことを考えていないからだ。
――まずは自分中心――
 この考えが、オサムを自分の殻の中に閉じ込めて、独自の考えを生む手伝いをするようになったのだ。
 ヨシオが話を続けた。
「僕は同じ日を繰り返しているという研究をしている時だけ、意識は同じ日を繰り返していないんだ」
「それはどういう意味ですか?」
「この世界にも慣れというものがあって、さすがに同じ日を何度も繰り返していると、感覚的に分かってくることもある。ただ、逆に慣れてしまって、気付くべきことが気付かずに、ずっと未来に向けて生きている人には気付くはずのことを気付かなかったりする。毎日を繰り返している人というのは、それだけ感覚が退化してしまっているのかも知れないんだ」
「そういえば、ツトムさんが面白いことを言っていましたね」
「何と言っていたんだい?」
「同じ日を繰り返している人は、それだけでハンデを持っていることになるから、他の人にはない特殊能力を持っているんだって言ってました」
「特殊能力ねぇ」
「ええ、しかも、特殊能力と言っても、それは人間誰しも持っているものであって、ただ、その感覚が研ぎ澄まされているだけだという話にもなりました。僕はその意見に賛成なんですけどね」
「なるほど、その意見には賛成だね。と言っても、その話は僕と話をしている時にも出た話題ではあったんだけどね」
「そうだったんですね。でも、ヨシオさんは、同じ日を繰り返しているという研究をいつから始められていたんですか?」
「僕は、自分が同じ日を繰り返すようになってから研究を始めたわけではないんだ。元々から、同じ日を繰り返しているという感覚を持っていて、その中で考えていたことなんだけど、同じ日を繰り返しているというのは、夢の中でしか存在できないことだって、ずっと思っていたんだ」
「夢の中だけで繰り返しているということは、夢の世界が繋がっているということですか? 以前、『夢の共有』という、他人と同じ夢を共有しているっていう感覚の話をしたことがあったんですが、何となく同じようなニュアンスに聞こえますね」
「君が、『夢の共有』についてそれなりの感覚を持っていてくれているのであれば、同じ日を繰り返しているのが、夢の中だという感覚を案外と理解しやすいのかも知れないと思っているよ」
「夢というのは、一回完結じゃないですか。しかも、どんなに印象の深い夢であっても、気が付けば忘れてしまっている。きっと目が覚めるにつれて忘れていくんでしょうね。目が覚めるまでに時間が掛かるのは、夢を忘れるためだって、僕はずっと思っていました」
「その通りだよ。だからこそ、夢は現実世界に自分が引き戻された時、一度リセットされる必要がある。それが目が覚めるにしたがって夢を忘れることなんだ。どうしてそんな必要があるかというと、その人の中で一度見た夢は繋がっているからなんだよ」
「じゃあ、たとえば今夜夢を見るとすれば、それは過去の夢から繋がっているということなんですか?」
「その通り。だけど、それは一度前に見た夢だとは限らないんだ。今日という日が、必ず昨日という日の続きである現実世界とは明らかに違う。そのため、夢というのは、現実世界に引き戻される間にリセットされる必要があるのさ」
「まるで、デジャブを感じさせますね」
 デジャブというのは、一度も見たことがないはずなのに、過去に見たことがあるような気がしてくることで、それがいつのどこだったのか、決して思い出すことはできない。
 なぜなら、デジャブというのは、「記憶の辻褄合わせ」のようなものであり、見たというのは、本当にそのものズバリを見たわけではなく、たとえば、壁に掛かった絵を見て、その時に、
――どこかで見たことがあるような気がする――
 と感じたことが、意識の中に残っていると思っていたのだ。
 つまりは、過去に感じた、
――どこかで見たこと――
 というのは、本当にさらに過去のことなのか、オサムは疑問だった。過去であるなら、同じ記憶が果てしなく過去に繋がっているものであり、それはそれで不思議な感覚だ。
 しかし、逆に過去に感じたどこかで見たことというのが、未来に感じるはずのことを予知しているだけだと思えば、その時と二回だけのことを考えればいいだけで、よほど、過去に果てしない思いを馳せることよりも、信憑性があるのではないだろうか。そう思えば同じ日を繰り返している人の特殊能力の一つが、この予知能力だという考えも十分にありなのではないだろうか。
 この考えをヨシオに話すと、彼も、
「もっともの考えだって思います。僕もそこまでハッキリとデジャブに関して考えたことはなかったけど、僕の考えを裏付けるには十分なものだって思っていますよ」
 デジャブについて考えていると、さらにヨシオは自分の考えを続けた。
「今話に出たデジャブと、考え方として交わることはないけど、ニアミスを侵しているような気がするね」
「まるで決して交わることのない平行線を描いているようですね」
「というよりも、『限りなく透明に近い白色』というイメージの方が強いかも知れませんね」
「その表現もピッタリだ。でも、僕はもう一つ別の考えを持っているんだ。それは、違う考えというわけではない。そういう意味では、交わることのない平行線を描いていると言えるのではないだろうか」
「それはどういうことですか?」
「同じ日を繰り返しているという世界では、慣れてくると、同じ日の過去であれば、どこにでも飛び越えることができるような気がしていたんだよ」
「同じ日なのにですか?」
「そうだよ。同じ日を繰り返していると思っているのは、僕は錯覚なのではないかって思うんだ。次の日になって新しい日が開けるのか、それとも、同じ日を繰り返すことになるのかの違いというのは、日にちが変わるその瞬間に、リセットされるかどうかで決まるということなんだ」
「リセットというのは?」
「感覚的なものだけをリセットするという意味なんだけど、日にちが変わる瞬間に、実は誰もが頭の中をリセットされると思っているんだ。普通に新しい未来が開ける人は、その日一日をリセットするんだ。でも、同じ日を繰り返している人というのは、前の日をリセットするわけではなく、その一日よりも前をリセットするんだ。同じ日を繰り返しているのか、それとも日にちが変わった瞬間に未来が開けるかどうかの問題は、このリセットがどちらで行われるかということで決まるのさ」
「じゃあ、同じ日を繰り返している人は、過去をいつもリセットしているということになるんですか?」
「いや、それは最初の一回きりなんだよ。二回目に同じ日を繰り返して、日にちが変わろうとした瞬間には、その日をリセットしようとする。でも、一度それ以前をリセットしてしまったことで、その日をリセットしてしまうと、すべてがリセットされてしまうことになる。そんな恐ろしいことはできないって無意識に思うんだよ。だから、この世界からなかなか抜け出せないのさ」
「じゃあ、思い切ってその日をリセットすることができれば、その人は同じ日を繰り返しているという呪縛から逃れられるのかも知れないとも言えるんですよね」
「僕は正直そう思っている。ただ、今は実際に同じ日を繰り返しているわけではないんだけど、今の君の話を実行したという感覚はないんだ。だから、もし実行できたとしても、それは戻ってしまった瞬間に忘れてしまっていることになる。これって何かに似ている感覚だろう?」
「あっ、それこそ、夢の感覚じゃないですか」
「だからこそ、僕は同じ日を繰り返していることに、夢の世界が関わっているという仮説を立てたんだよ。そして、同じ日を繰り返すということを、人間であれば誰しも一生に一度は起こることだって思ったんだ。夢を見ない人間なんていないと思うからね」
 彼の話は実に興味深いものだった。
 話をしていて共感できることは今までにもあった。ただ、それはお互いに意見交換の中で納得していくもので、この時のように、ほとんどが相手の意見を聞いているだけなのに、ここまで共感でき、さらに発展した考えを持つことができるようになるなどということは思ってもみなかったことだったのだ。
「ヨシオさんがさっき言っていた『慣れてくれば、過去のどこにでも飛び越えることができる』というのは?」
「いくら同じ日を繰り返しているとしても、過去が一枚岩ではないということさ。どこかに違いがあるから、紙のように薄っぺらいものでも、重なって行くにしたがって、次第に厚みを帯びてくる。逆にいうと、薄っぺらい紙と言っても、それは『限りなく薄いが、まったくのゼロではない』ということにもなるだろう」
「ヨシオさんは、過去のどこかに戻ったことがあったんですか?」
「戻ることはできなかったね。僕の中の理論では戻れるはずだっていう思いがあるんだけど、どうしてもできない。それは、リセットという感覚が影響していたんだけど、そこに気付くまでにかなりの時間が掛かった。リセットというイメージは、同じ日を繰り返すということを考え始めた比較的最初の頃から持っていたのに、それと過去に戻るという感覚がなかなか結びつかなかったのさ」
「でも、過去に戻ることのできる人もいるかも知れませんね」
「僕も理論的には不可能ではないと思っていたんだ。実は、そのことを話した人間が今までに一人だけいるんだ」
「それがツトムさんだというんですか?」


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