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作品名:同じ日を繰り返す人々 作者:森本晃次

第4回   「同じ日」と「毎日」ー1
                 第二章 「同じ日」と「毎日」

 オサムが、
――同じ日を繰り返しているかも知れない――
 と、感じた時がいつだったのか、ツトムと出会って話をした段階では、ハッキリとしていなかった。
「俺と君が毎日会っているという感覚は、実は俺にはあまりないんだ。同じ日を繰り返しているという意識があっても、同じことを繰り返しているという感覚とは少し違っているようなんだよ。同じことを繰り返していると、飽きてくるだろう? その感覚がまったく皆無なんだよ」
「ということは、僕と会っているという意識はあっても、同じ日になるんだろうけど、前回の記憶が薄れているということなのか、それともまったく同じということではないということなのかのどちらかなのでしょうか?」
「そのどちらでもあって、どちらでもないという感覚かな? ちょっと難しいかも知れないけど」
 またまた、意味が分からない話をしている。
「二つのことがどちらでもあって、どちらでもないということは、完全に一緒ではないということなんでしょうね」
「そう単純なものでもないような気がするんだ。百のうち、九十九までがまったく同じであっても、残りの一つが本当に些細なところで違っていても、その二つは一緒であってはいけないんだよね」
「さっきの鏡の話みたいですね」
「そうだね。鏡というのはまったく同じものを写し出すんだけど、でも、左右対称なんだよね。まったく同じもののはずなんだけど、見ている人の感覚によって、本当に同じものなのかという疑問を抱いて不思議がないように思えるけど、なぜか、誰も不思議に思わない。きっと、疑問を抱いてはいけないと思うのかも知れない」
「常識が邪魔をするというところですか?」
「常識というよりも、理性の問題なのかも知れないね。常識という言葉であれば、人によっては、逆らいたいと思う人もいるだろうけど、自分の中にある理性であれば、逆らうことはできないと思うはずだからね」
「常識よりも、理性の方が信憑性があるということですね」
 ツトムと話をしていると、最初こそ、
――何を言っているんだ、この人。意味が分からない――
 と思っていたが、ツトムが相手であれば、自分の意見を素直に言うことができる。
 他の人が相手であれば、たとえ、相手が振ってきた話であっても、自分の発想が突飛であればあるほど、相手が信じてくれないような気がしていた。
 それは、相手が頑なに自分の意見に固執しているからで、自分から話を振るのも、本当は、
――俺の話を皆に認めさせたいからだ――
 と思っているからに違いない。
 話が難しければ難しいほど、分かる人は少ないだろう。そして、分かるであろうと思っている人に話しをしても、その人が全面的に自分の話を信じてくるとは最初から思っていない。
 だが、全面的に信用してもらえないのであれば、話をするのは無意味だった。話をするのは、この奇抜な話をすることで、自分の存在を相手よりも有利にしたいという気持ちの表れだったりするからで、話をされた相手も、自分なりの意見を持っているとすれば、きっとその意見を通そうとするはずである。
 お互いの自我が衝突することになり、優しい口調で話していても、一歩間違えれば、一触即発の状況に陥ってしまうのは必至だった。
 ツトムもオサムに対して同じような感覚を持っていただろう。しかし、分かってくれる相手がいるとすれば、オサムしかいない。しかもオサムは自分と同じ環境にいることが分かっている。お互いにその状況をいかに感じるかというのが大切なことなのだろうが、同じ感覚でいることはないとツトムは感じていた。
 それはオサムには分からない感覚だった。なぜならツトムは実際に同じ日を繰り返しているという意識を持っていて、オサムにはまだその感覚がないからだった。だから、ツトムはオサムに対して、自分の状況を説明し、少し分かりやすい状況まで感覚を落としてあげれば、ツトムに組みしやすいと思ったのかも知れない。ただ、オサムがツトムの考えをどこまで咀嚼できているのか、ハッキリと分かってはいなかった。
「君は、自分が同じ日を繰り返しているかも知れないという感覚を持っているんじゃないかって、俺は思っている。しかも、それをいつから感じるようになったのか、自分でも分かっていないと思う」
「それはどういうことですか?」
「まだ、君が本当に同じ日を繰り返しているわけではないということさ。自分でも実際に繰り返しているという意識はないだろう? それは、まだ実際には繰り返していないという証拠だよ」
 この言葉は意外だった。
 てっきり同じ日を繰り返してはいるのだが、自覚がないだけだと思って、不安に駆られていたが、自覚のないことは、本当は入り込んでいないという証拠だと言われると、ホッとした反面、違う不安もこみ上げてくるからだ。
「今の僕は前兆状態にいるということですか?」
 こみ上げてきた不安をストレートにぶつけてみた。
「そうだね。ある意味前兆状態だと言っていいかも知れないね。でも、同じ前兆と言っても、少し違うかも知れないと思うんだ。一つのことが起こる時の前兆というのは、決まった形があると思うんだよね。前兆で、実際に起こることが分かるというような決まったものがね。でも、今の君の前兆は、同じ日を繰り返すという意味での前兆に違いないんだけど、これからの状況によって、同じ日を繰り返すことになった時、どの道に入りこむかというのは、まったく分からない」
 この話を聞いて耳を疑うほどビックリした。
「えっ、ということは、同じ日を繰り返している人には、いくつかのパターンというものが存在しているということですか?」
 というと、ツトムは即答することなく、少し考えていた。今までのツトムはすべてに対して即答してきたのに、どうしたことだろう。
 それだけ、理由を説明するのが難しいということなのか、これ以上の話は、話し方によって、相手の捉え方一つで、取り返しのつかないことになることを示唆しているということなのか、オサムは頭の中で試行錯誤を繰り返していた。
「俺はそう思っている。だから、同じ日を繰り返している人はきっと俺だけではないと思うようになったのさ。もっとも、俺が同じ日を繰り返しているということも、他の人から聞かされたことで、人伝えになっているところもあるようなんだ」
 と、ツトムは話した。
 ツトムはさらに続けた。
「俺の場合は、まったく同じ日を繰り返しているなんて思いはなかったんだよ。ただ、そのことを教えてくれた人がいたから自覚したようなものだったんだ」
「でも、それなら、実際にツトムさんが自覚するまでにかなり大変だったんじゃないですか?」
 オサムは、自分の身になって置き換えてみた。
 自分は、最初から前兆のようなものがあって、意識は何となくあった。しかし、そのことを指摘されると、今度は頑なに否定して見たくなるから不思議だった。それでも、最初から何も聞いていないツトムにとって、かなり大変だったことは想像に値するものではない。
「それはそうだよな。最初は確かにそうだったけど、一度、『待てよ』と思ってみると、分からなくもない気がしたんだ。不思議なんだけどな」
「そうですよね。でも、今の僕は逆なんですよ。何となく分かっていたはずなのに、改まってツトムさんからその話を聞かされると、却って頑なに否定してみたくなる自分がいるような気がするんですよ」
 感じていることを言ってみた。
「その気持ちは分からなくもない。俺がさっき言ったいくつかパターンがあると言ったのは、そのことも含んでいる。だから、君のように前兆を感じている人でも、君とは違って、人から聞かされると、すぐに納得してしまう人もいるんだよ。でもね、いつかはどこかで壁にぶち当たって、信じていたはずのことが音を立てて崩れていくのを感じるように思えてくることもある。そんな人を俺は知っているんだが、また後で話してやろう」
「その人もツトムさんが教えてあげたんですか?」
「いや、それはできない。なぜか一人の人に教えられるのは一人に限られているようなんだ。というよりも、最初からこの人も同じ日を繰り返していると感じるのは、一人だけだということになるんだ」
「そうなんですね。いろいろな制約があったり、決まりごとのようなものがあるようですね」
 と少し皮肉を込めていうと、
「そうだな」
 と、ツトムは苦笑いを浮かべていた。
「それにしても、ツトムさんはそういう決まりについては、いろいろとご存じなんですか?」
「いえいえ、そんなことはない。俺にも分からないところがいっぱいあるんですよ。でも、同じ日を繰り返していると半分は意識の中だから、慣れてくる中で、自然に分かってくることも多いんだ」
 ツトムは続けた。
「ただ一ついうと、前兆状態にあるということは、オサムくんは、誰かに影響を受けて、同じ日を繰り返しているという前兆に入り込んだと思うんだよ。この場合の同じ日を繰り返している前兆というのは、決して自分一人だけで成し遂げられることではないからね」
「そうなんですか? 私にはピンときません」
 と言いながら、思い返してみた。
 確かに今まで思い返したことがなかったから、考えたこともなかったわけで、想像していないのだから、分かるはずもない。改まって考えてみると、誰かの影響を受けたと言われれば、
――その通りなのかも知れない――
 と、かなりの高さで信憑性を感じるのだった。
 ツトムの話を聞いているふりをしながら、思い返してみた。だが、聞いているふりなどというのは、元々オサムには無理なことだった。一つのことに集中すれば、他のことが疎かになるオサムに、話を聞きながら考え事などできるはずはない。もしできるとすれば、もう一人の自分の存在を考えることになるだろう。
 オサムが考え事をしているのに、おかまいなしにツトムは話している。ということは、やはりオサムにはもう一人の自分がいて、その人がツトムの話を聞いているのだろう。ただ、オサムはツトムの話を聞いていないようで、頭の中に入っているように思えていたので、やはりもう一人の自分は本当にいるのかも知れない。
 一つのことに集中する人には、もう一人、見えない自分がいるのかも知れない。オサムは同じように一つのことに集中するとまわりが見えなくなる人を知っているが、そんな人には、もう一人の自分の存在を感じずにはいられなかった。それも、分かるのはオサムのように同じような性格の人間にしか見えない存在なのかも知れないと感じていた。
 ツトムはそんなオサムにはお構いなしだった。普段から冷静沈着で、まわりのことが見えていると思って、そんな彼を尊敬していたが、こうやって考えてみると、当たり前なところもある。
 ただ、ツトムに対して感じた尊敬の念が色褪せることはない。同じ日を繰り返しているという他の人にはない「リスク」を背負いながら感じることなので、自分ならパニックになるかも知れないと思うことを冷静に受け止めているツトムに尊敬の念は当然のことだった。
 ツトムは、冷静沈着であるが、たまにいきなりキレることがある。
――どうしてこんな大したことのないようなことでキレなければいけないんだ?
 と思うようなことにキレるのである。
――どうかしている――
 と思っていたが、それも他の人の経験していないことに直面しているのだから、普通に毎日を刻みながら生きている人から見れば、キレたくなるのも無理もないことなのだろう。
 しかし、オサムはツトムの立場に近い将来入り込む前兆にいるという。回避できるものなら回避したいと思うのは当然のことである。だが、それを聞いてみるのも怖い気がして、なかなか話の核心に入り込むことができなくなっていた。
 ツトムもそのことには敢えて触れようとしない。それだけでも回避は不可能に思えた。
 いや、本当は前兆の時に分かっていれば回避できたのかも知れない。ツトムがこのことを知ったのは、すでに回避できない状態に入りこんでからだったのだとすれば、オサムにみすみすこの世界から抜けられる方法を教えることはないだろう。
――一人でも仲間がほしいと思うはずだ――
 他にも数人はいるという話だったが、ツトムはその人たち皆と連絡を取り合っているのだろうか? もし取り合っているのだとすれば、どんな話をしているのだろう? ひょっとすると、元に戻ることができる方法を算段しているのかも知れない。
「ツトムさんは、同じ日を繰り返している人を、たくさん知っているんですか?」
「数人は知っているけど、それが全員なのか、それとも氷山の一角なのか分からない。他の人に紛れてしまえば、直接話を聞かない限り、その人が同じ日を繰り返しているとは分からないからね。もちろん、中には表に曝け出している人もいる。完全に怯えの中で暮らしている人だね。でも、そんな怯えというのは、前回の同じ日と寸分狂っていないわけではないということはすぐに分かるんだよ。よほど意識して毎日を変えない限り、同じ日を繰り返している人は、やっぱり他の人と見分けが付かないほど似かよっているものなのさ」
 と、ツトムは言うが、
――そんなものなのかな?
 と、オサムは、半信半疑だった。
「君は、自分が同じ日を繰り返しているという予感めいたものを感じたのは、誰かの影響があるって言ったね」
 オサムは、一瞬ハッとした。話の展開から、自分がそのことを話したという意識がなかったからだ。ひょっとすると、無意識のうちに口走っていたのかも知れない。
 ツトムは続ける。
「君は、僕が自分のことを見抜かれているようで、気持ち悪いと思っているかも知れないけど、俺は同じ日を何度も繰り返すことで、他の連中よりも、一つのことには長けてきているような気がする。それが、気になっている人の行動パターンが分かることなんだ」
「同じ日を繰り返しているからですか?」
「そうだね」
「だったら、同じ日を繰り返している人というのは、誰もが何かしらの力を持っているということになるんですか?」
「俺たちは、少なくとも先に進めないという『弱さ』を持っている。この弱さというのは、自分が強い弱いというよりも、運命に制限されたことで、欠点に近いものなのかも知れないけど、俺はここで敢えて「弱さ」という言葉を使いたいんだ。そんな弱さを持った俺たちなので、何か一つでも他の人にはない特筆すべきものがなければ、他の人とのバランスが失われるような気がするんだ」
「普通、弱さというのは、まわりに影響されることというよりも、むしろ自分の内なる部分が影響しているように思えるんですけど、どうなんですか?」
「その通りなんだよ。俺が敢えて欠点という言葉ではなく弱さだと言ったのは、そのためなんだけど、欠点というと、自分の内から見ることよりも、まわりから見ることの方が強い気がする」
「同じ日を繰り返しているというのは、それぞれの人に力を付けるんだと思うんですけど、ツトムさんは、人の心を読むことに長けてきたということなんですね?」
「人の心を読むということは、実際に読めるようになると、誰にでもできることではないかって思えてきたんだ。普通の人はそんなことなかなか難しいと思っているだろう? だから俺は余計に、今までどうしてできなかったのかということを思うようになって、そのことも含めて、今まで見えていなかったものが見えてきた気がしたんだ」
「でも、人の心を読むなんて、そう簡単にできることではないですよね。それをできると思うというのは、それだけ、全体を見渡すことができるようになったからではないかと思うようになったんではないですか?」
「その通りだと思う。超能力というものは、本当は誰もが持っていて、それを使いきれていないということを聞いたことがあったな」
「僕もあります。人間は自分の能力の十パーセントほどしか表に出せず、使いきれていないということらしいんですが、そういう意味でいけば、持っているのだから、使いこなせる人がいたとしても、それは別に不思議なことではないですよね」
「そうだね。超能力と言われる部分は、その人それぞれの潜在能力のようなものだと思うんだよ。それは意識と同じであって、意識にも潜在意識というものがあり、それを本当の意識に置き換えないと活用することができない。潜在能力も、発揮できる場所に置き換えることで意識もできるし活用もできる。超能力を使うということはそういうことではないのかな?」
「じゃあ、ツトムさんは、超能力者というのはいると思っているんですか?」
「超能力者というのは、人間皆そうなんだよ。それを使いこなせるかどうかで変わってくる。つまりは、いかに潜在能力を意識することができて、それを能力として活用できるところに持ってこれるかということに掛かっているということだね」
 何か、少しだけ話が脱線しているような気がして、思わず苦笑いをしたオサムだったが、それを見たツトムは、
「話が少し逸れたみたいだけど、実はそうじゃない。他の人にはできない特別なことを、超能力のように思っていることも、実は潜在能力だと考えれば、理解できなかったことも理解できるようになるという意味では、横道に話が逸れたというわけではない。こうやって一つのことを話題にして話していると、お互いに違うところを考えているようでも、次第に感覚は近づいてくる。相手の姿が見えてくるとでもいうべきなのかな?」
 そう言って、屈託のない笑顔を見せるツトムに対し、
――やっぱり僕の考えていることなんて、この人にとっては、手に取るように分かることなのかも知れない――
 と感じていた。
 オサムはツトムと再会したことで、何が自分の中で進んでいないのか分かるような気がした。それが、前に進むことのできないツトムからだというのも、何か皮肉めいたものを感じたのだ。
「僕に不思議な力が備わっているとすれば、何なんでしょうね?」
 と独り言のように呟いてみた。
 最初は考えていたツトムだったが、
「考えられることとすれば……」
 とおもむろに口を開くと、
「何かありますか?」
 オサムも興味を持った。だが、オサムはツトムが何かを言おうとした時、何を言おうとしているのか、予感めいたものを感じた。すると、今度はツトムがニッコリとしながら、まるで勝ち誇ったかのように、
「やっぱり思った通りだ」
 と言った。
「どういうことですか?」
 と聞いてみると、
「君には前兆のようなものがあると分かった時に、気付いてもよかったんじゃないかな?」
「ん?」
「だって、君は俺が考えられることを言おうとした時、俺が何を言おうか分かったんじゃないかな? それは、俺が言おうとしたものというよりも、自分の中に何があるかということだよ。僕はそれを見て、君が思っていることと、俺が感じていることが同じで、それが真実だということを確信した気がするんだ」
「じゃあ、僕に特殊能力が備わっているとすれば、それは予知能力ということになるんですね」
「そうだと思う。前兆は自分が感じている予知が、形になって現れている証拠なのだが、君自身は、予知できることを表に出したくないという思いがあって、本人にすら自覚させないようにしていたんだろうね」
「予知能力と言っても、ツトムさんのいうように、僕には自覚症状がありません。だからどのようにリアクションしていいのか分からないんですが、予知能力にも力のレベルのようなものがあると思うんです。僕の場合は、まだまだだと思うんですが、どうなんでしょうね」
「予知能力には、段階というものは存在しないと僕は思っていたんだけど、でも、君の場合は特別なのかも知れないね。確かに君が感じているような予知能力の段階を感じることができるんだ。しかも、君には前兆という最初の段階があった。その時には自分の能力を知らなかった」
「そうなんですよ。僕は予知能力と、何かの前兆を感じるということは、別物だと思っていたんです。何かの前兆を感じることができるすべての人に予知能力が備わっているとは思えなかったからですね」
「予知能力が君のいうように前兆とは別のものだとすれば、前兆を感じることができる人は、霊感が強いと言えるのかも知れない。本人の意識の外で起こる前兆というのは、ひょっとすると、彼を守っている守護霊の力によるものなのかも知れないからね」
 オサムはその話を聞いて意外に感じられた。
 ツトムという人は冷静沈着な人で、霊感や守護霊のような、曖昧な力を信じたりはしない人だと思っていたからだ。
 確かに、彼の話にも一理ある気がしたが、オサムは自分が実際に感じた前兆に、霊感や守護霊のようなものを感じることはできなかった。
 それは自分が信じていないということの証のようなものであり、そもそもあまり霊感めいたものを信じるようなことはなかった。
 だからといって、現実主義に凝り固まっているというわけではない。超常現象が起こったとしても、それを頭から否定することはしない。しかし、最初から霊感で片づけてしまうことはなく、理論的に考えて、それでも自分に納得ができないことが生じた時、初めて霊感のようなものを感じるようにしていた。霊感や予知能力をまったく信じないというわけではないところが、逆に最初に理論的に考えることができる証拠なのかも知れない。
「確かに、なかなかすぐには理解できない難しい話ではあると思いますが、まずは理論的に考えてみたいと思います」
「それがいいのかも知れない。でも、俺は今君に対して感じていることを言わせてもらうと、君が前兆を感じた時、君のそばに前兆を知らせる誰かがいたのではないかと思っているんだよ。実は同じ日を繰り返している人で、俺が知っている人の中に、同じように前兆を感じたという人がいて、その人がいうには、『俺は前兆を感じた時、そばにいた人に前兆を教えられた気がしたんだ。もちろん、言葉で言われたわけではないんだけどね』と話していたんだよ」


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