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作品名:同じ日を繰り返す人々 作者:森本晃次

最終回   飛び出す未来−3
 オサムはツトムと再会し、吹っ切れたところで横溝に会うというシチュエーションを頭に抱いている。それは同じ日を繰り返している横溝なのか、それともこちらの世界に戻った横溝なのか考えていた。
――同じ日を繰り返している人は、一度は死を考えるものだ――
 と思っていた。
 それは自殺を意味しているが、普通であれば、切羽詰っていないと決行はできないだろう。確かに奇妙な世界に入りこみ、頭が錯乱しているのだから、自殺を考えても不思議ではないが、考えたとしても行動に移すだけの理由が見当たらない。しいて言えば、
――自殺をすることしか、この世界を抜けられない――
 という思いが、その人を切羽詰らせるのかも知れない。
 オサムは自殺を考えていた。
――この世界は自殺しようとしても、できるものではない――
 というのは、本気で自殺をする人などいないということだ。自殺というよりも、この世界に一つの起爆剤を投入しようという意識であるが、危険極まりないことに変わりはない。
 もし失敗したら、本当に死んでしまうかも知れない。成功したとして、その後、どうなるというのだろう? オサムの考えとしては、日にちが変わる寸前に戻って、そこから新しい日に飛ぶことができるという発想であったが、これもあまりにも自分に都合のいい発想だ。
 ただ、オサムが考えているのは、
――死ぬことによって自分が発想している場所に届くかも知れない――
 ということであり、何も考えのない人が死んでしまったら、どうなるのか、想像もつかなかった。
――一体、同じ日を繰り返している人というのは、何か見えない力に誘導されているとしても、その力は彼らに何をさせようというのだろう?
 以前見た映画で、タイムスリップを題材にしたものがあったが、その映画のテーマというのが、
「歴史は俺たちに何をさせようというのか?」
 というものだった。
 タイムスリップ自体、歴史に対する挑戦である。しかも、映画のタイムスリップは一人だけではなく、そのあたりにいた人をすべて巻き込んだ、いわゆる局地的なタイムスリップで、個人の問題ではなかった。それだけに、考えは個人個人で違っている。
 タイムスリップが起こった時に、爆風のようなモノが吹いたことで、火薬に火をつけて爆発させようとした人がいたが、それおまわりの人が必死に止めた。止めなければ間違いなく当たり一面木っ端みじんで、普通に考えれば生き残っている人は誰もいないからだ。
 しかし、それも、
「歴史は俺たちに何をさせようというのか?」
 というテーマがあるから言えることで、映画の中では、爆発は厳禁だという発想ではなく、テーマを実現させるためには爆発を起こして、どうなるかを見極めさせることはできない。もし、爆発させてどのような結果になるかというのはやはり、
「神のみぞ知る」
 人間が神の領域に入り込んではいけないということなのかも知れない。
 この場合の爆発させなかったことに対して、映画を見ていた人のほとんどが、ホッと胸を撫で下ろしたことだろう。
――爆発させて危険に晒されるよりも、もっと他に方法はないのだろうか?
 という発想をほとんどの人が抱くに違いない。
 もっとも、爆発させて、その後におびただしい数の死体が転がっているという情景を思い浮かべるだけでも恐ろしいのに、スクリーンいっぱいに見たいとは思わないだろう。
 だが、それがたとえば戦国時代の映画で、戦場であれば、別にそこまでは感じない。何が違うというのだろう。
 それは、戦国時代には戦というものがあり、そこでは殺し合いが行なわれ、終わった後には夥しい数の死体が転がっているということは頭の中で事実として理解しているからである。
――事実というものは、想像していて悲惨なものであっても、頭の中では認めるしかないということを知っているのだ――
 と言えた。
 しかし、タイムスリップを起こさせるために、火薬を爆発させるというのは、過去の事実にはないことだ。前例がないことはそれだけでも危険なのに、火薬を爆発させるということは、精神に異常をきたしていないとできることではない。それだけ切羽詰っているということなのだろう。
 それは、同じ日を繰り返している人が自分で死を選ぼうとしているのと似ている。同じ日を繰り返すというのは、一種のタイムスリップで、それを抜けるには、前例のないことでも奇抜な発想に従うしかないという思いも、切羽詰っていればありえることだ。
 しかも、自殺は他の人を巻き込むわけではない。止める人は誰もいないのだ。自分の意志でどこまでできるか、それが自殺を思い立った人の発想であろう。
 しかし、本当に死ぬことができるかどうかというのは、疑問である。
 オサムは、自分がその立場に立ったらどうするかを考えた。
――僕なら、死のうと思うかも知れない。死を思い止まるのは臆病で、逃げているように思う――
 と感じたからだ。
 それは、やはり切羽詰って、どうしていいか分からない時に考える発想だからであろう。そうなってしまっては、自分の考えを原点に戻す必要がある。すべてをリセットしなければいけないと思えば、それをするためには自殺するしかないと思うのは、無理もないことだと思えた。
 オサムは無理にこの世界から逃れることをしないようにしようと考えるようになった。死ぬということに直面してみると、
――一体、何が怖いというのだろう?
 と考えるようになったからだ。
 まず最初に考えるのが、
――痛い、苦しい――
 という直接的な考えだ。
 これは、今までに経験したことのないことなので、本当に怖い。しかも、その先を考えてしまうと余計に恐ろしい。
 この世への未練ということも考えてみた。
 オサムはこの世に本当に未練があるのかということを考えてみたが、仕事にしても、別に生きがいを感じるほどのこともない。彼女だっているわけでもないし、何よりも、
――どうせ、僕が死んだって、悲しんでくれる人はいないさ――
 家族だって、まわりの人だって、その時は悲しんでくれるかも知れないが、数か月も経たないうちに皆忘れていくさ。どうせ他人事なんだからと思う。
 家族は、他人事とまでは思わないだろうが、引きづるようなことはないだろう。
 オサムは、自分が考えているほど、死に対して本当は恐れる必要などないのではないかと思うようになった。
 しかし、苦しい思いをして死んだ後のことを考えると、それが恐ろしい。
――死んだ後、どうなるんだ?
 よく言われるのは、自殺はよくないことで、死んでからもその苦しみから逃れることはできないと言われていることだ。
 実際に自殺を思い立ち、自殺を試みる人が、どれだけ本懐を達成することができるというのか、結構、未遂で終わってしまう人も多い。それはやはり自殺というものが死んだ後も苦しみを引きづることになるということに、気が付いたからだろう。
 それは死のうとした時に感じるもので、その瞬間に分かるだけで、死に切れなかった後で思い返してみても、
――私はどうして、死ねなかったのだろう?
 一番、本人が不思議に感じている。まわりの人は、
「やっぱり、この世に未練があるからだよ」
 というだろうが、それこそ他人事のようで、無責任な発想だ。そうではないことは、自殺しようとした本人が一番分かっていることである。
 オサムは、実際に同じ日を繰り返しながら、死のうとは思っても、そこまで行動に移していない。行動に移さないのは、この世界では、自殺に及ばなくても、ここまで考えることができるからだ。そう思うと、
――ひょっとして、同じ日を繰り返す人の見なかった共通点というのは、遅かれ早かれ、何かの理由で自殺を考えることになる人の前兆だからだろうか?
 このままなら、自殺に追い込まれることになる人を、同じ日を繰り返す世界に入りこませて、そこで本人に何らかの選択をさせようとしているのかも知れない。
 まず一つは、
――ここで思い止まって、元の世界に戻ってから、死ぬ気になったことを覚悟してから今後の生活を全うすることで、自殺を考えない――
 ということになるのか、あるいは、
――このまましばらくこの世界にとどまって、元の世界に戻るのではなく、もう一度他の人に生まれ変わることを考えるために、自分がこの世界に呼ばれた――
 という考えもあるだろう。
 果たしてそれを本人が選択できるのかどうか疑問であるが、オサムは少しずつこの世界のことが分かってきた気がした。
 少なくともオサムはこの世界で死を選ぶことはしない。
――僕はどうしようというのだろう?
 オサムは、次の日にツトムと出会うことを予感していた。
――僕は、このまま前の世界に戻るのだろうが、自分が変わるのではなく、戻った世界が変わっているのかも知れない――
 と感じた。
 自分に都合よく変わっているような気がしてきたが、それも同じ日を繰り返すという世界を経験したからだ。この世界の得体の知れない不気味さは、死を選ぶことにも通じているのかも知れない。そう思うと、
――死んだ気になって――
 と、まるで生まれ変わった気になれるだろう。それが戻った世界に影響を与え、自分の都合のいい世界を作り上げていると考えるのは、甘いのだろうか?
 ミクやアケミやシンジは、そのまま自分の新しい世界に存在しているだろう。喫茶「イリュージョン」は変わりなく存在し、自分の知っている人のほとんども、見た目は変わらない世界が広がっていることだろう。
 ツトムと喫茶「イリュージョン」以外で出会うというのも、戻ってきた世界が、今までの延長ではないという証拠なのかも知れない。
 オサムは、戻ってきた世界に一人だけ、今まで存在していた人がいないことを感じていた。
――横溝はどこに行ったのだろう?
 そういえば、横溝の下の名前は知らなかった。苗字も頭の中に漢字でしか浮かんでこない。
――横溝は生まれ変わったんだ――
 と思っていると、戻ってきた世界は、少し事情が変わっていた。
 シンジとアケミは結婚していて、アケミは懐妊しているという。オサムは、そのお腹の中にいるのが男の子で、それが横溝の生まれ変わりであるということを次第に確信してくるのを感じるのだった……。
――同じ日を繰り返している世界――
 本当に存在していたのだろう?
 あまりにも自分に都合のいい世界。だが、そんな世界の実在を信じている人が何も言わないが増えているのは確かなことだと、オサムは考えるのだった……。

                 (  完  )


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