20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:「水をすくう〜少女の闇と光」 作者:小原ききょう

第8回   村上陽一に



 吐く息が白い。けれど雪が降るほどの寒さでもない。
「こんなに寒いのに、陽一もよう頑張るわねえ」
 母の感嘆の声をあとにして僕は自転車に跨って吉水川に向かう。
 吉水川の土手に自転車を停めると橋の上にまた山中くんがいるのが見えた。
「おーいっ」僕は土手から橋の上にいる山中くんに大きな声で呼びかけた。
「なんや、また前のお母さんを思い出してたそがれてるんか?」
「村上かっ!そっちに行くわっ」山中くんも大きな声で応えると土手の方に降りてきた。
「山中とここで会うんはこれで二度目やな」
 山中くんが土手に降りてくると二人で土手の上に座った。
 山中くんとはそんなに仲がいい方でもないけど、こういう風に外で会ったりすると親近感が沸くものだ。
「それで、また前のお母さんが恋しいっていうわけか?」
 夏の終りに会った時には「前の母ちゃんが恋しい・・」と僕に打ち明けていた。
「ちゃうんや、今のお母さんのことや」
「なんや、もう今のお母さんの方がええようになったんか」
 僕にとってはどっちでもいいことだ。山名くんがどのお母さんを恋しかろうが、僕には何の関係もない。けれど話は聞いてやろう。
「そういうことでもない。やっぱり前の母ちゃん、本当のお母さんが恋しい」
「そしたら何やねん?」
 よくわからない奴だな。
「今のお母さん、ほんまに僕によくしてくれるし、僕にはもったいないくらいのお母さんや」
「それで何を悩んでるんや、ええことばかりやないか」
「クリスマスプレゼントや、何がええか?って訊かれて、何にしようかと考えてたんや」
 なんちゅう贅沢な悩みや、それだけのことでこんな寒い所にわざわざ来るのか?
「山中、もうそんな年でもないんとちゃうんか。小遣いでええやろ。僕の家も去年からそうやで」
 身も蓋もないことを言ってしまう。
「そ、それもそうやな」
 山中くんは頭をかきながら照れたような表情を見せたけど、少し考えるようにした後
「でもなあ、今のお母さんとの初めてのクリスマスやからなあ」
「野球のグローブは?」
「もう買ってもらった」すぐに返事が返ってくる。
「ボーリングゲームは?」
「もうある」たぶん欲しいものはないんやな。
「他に悩みごとがあるんやろ?」僕は思い切って訊ねてみた。
「えっ・・」
 図星だ。顔の変化を見てわかった。
 クリスマスプレゼントに何をもらおうか、と考えるのにわざわざこんな寒い場所に来る奴なんていない。
「村上、何でわかるんや?」
「普通、誰かって、わかるぞ」
 冷たい風が頬に当たる。まだ走っていないから体が冷えてきた。
「村上、本屋に一緒についてきてくれへんか?」
 ぼそっと呟くように言葉を吐いた。
「本屋って、何か買いたい本でもあるんか?」
 山中くんはカバンの中から一冊の漫画本を取り出した。
「それ、面白いんか?今、流行ってるみたいやけど」
 これの続きを買いたいのか?でもそれは悩みとは関係ないだろう。
「これ、店から盗ったもんなんや。実はここに来た目的は、この本をここに捨てていこかと思って来たんや」
 なんかすごいことを聞いてしまったな。
「本を捨てる?・・それに盗ったって・・万引きしたんか?」
 山中くんは黙って頷いた。
「盗った本はちゃんと返さなあかんと思うてなあ」
「それで僕と一緒に本屋に・・」それって、なんかいやな役回りやなあ。
「他の奴に言うたかってかまへんぞ」
 そう言った山中くんがやけくそっぽく見える。
「誰にも言わんけど、みんなに知られたらまずいやろ! それにお母さんは知ってるんか?」
「知ってたら、こんなに悩まへん」
 お母さんが知ってたら、お母さんと本屋に謝りに行くだろうな。
「ずっとこのことばっかり考えてるんや。こんなこと、もしお母さんが知ったら悲しむやろし」
 僕の母だったら、僕がもし万引きをしたりしたら悲しむだろうか?
 答はすぐに出てくる。僕の母はやっぱり悲しむと思う。
 だからと言って黙っているわけにはいかない。
「山中、お母さんには言った方がええと僕は思う。僕となんか本屋に行かんでもお母さんと行くべきや」
 僕もたまにはまともなこと言う。
「ほんまはそうやけどな」
「なんや、自分でもわかってるやないか」
 山中くんはこくりと頷く。
 僕の考えた言葉は役に立たなかった。山中くんもそれなりに色々と考えている。

「見られてしまったんや」
「見られたって、何をや?」
「本をカバンに入れたところ・・」
 山中くんは「ついに言ってしまった!」というような表情をした。
「誰にや?」つかさず訊く
「それは言われへん」山中くんは首を振った。
 誰なのか興味はあるけれど、今は寒い!
「話がようわからん」
 だんだん、本当に寒くなってきた。僕はここに走るために来たのだから、すごく薄着でよけいに寒い。
「一人に見られたんやったら、クラスの奴、全員に知られたってかまへん」
「言いたいことはわかるけど、クラス全員はまずいやろ」
 僕はそう言うと立ち上がった。座っているより立ち上がった方が寒さはまだましだ。
 山中くんは暖かそうなジャンパーを着ているからいいけど。
「かまへん!お母さんに知られるより、そっちの方がまだましや」
 そやから、お母さんにちゃんと話して、本屋に謝りに行った方が・・
 そうか・・万引きもそうだけど、誰かに見られた、ということをお母さんに知られたくないのか。
「おまえ、そいつに何か言われたんやろ?」
「その通りや」
 山中はそいつに脅かされてるということなのか?
 お母さんが自分の子供が脅かされていることを知ったら、普通はその相手とも話をしようとするだろう。親であれば必ずそうする。
 でも親にとってはよけいな仕事でもある。
 本当のお母さんでなければなおさら気を使う。
 山中くんがそこで尻込みをして戸惑ってしまうのもわかる気がする。
 けれど今の山中くんにとってお母さんは一人しかいない。



 智子へ
 私も元気にしているよ。でも寒い!本当にこっちは寒い。
 お互い、風邪には気をつけようね。
 私、友達はまだ出来ていないけど、家に帰る方向が同じ子がいます。席もわりと近いので今度、声をかけようかと思っています。
 でも勇気がいるよ。その子も智子みたいに大きな荷物を持って私に近づいてきてくれないかな。私、手伝うのに・・という具合で私にはそんな勇気はありません。
 智子は長田さん・・恭子ちゃんと上手くやっているようで私も嬉しいです。
 でも少し恭子ちゃんが羨ましい。
 私も「芦田堂」のどら焼きが食べたいよ。

 智子が押し花のことを書いてあったので思い出したことがあったので書きます。
(智子にとっては思い出したくないことかもしれないけど)
 以前、給食のスープ事件(橋本さんのスープにウサギの餌が入ってた時の事)で橋本さんが智子に「最初はウサギの餌なんて入ってなかった」って言ったの覚えてる?
 確か智子が廊下に立たされた時だよ。
 智子が話を聞いてなかったみたいだったから、橋本さんは智子と一緒に給食当番をしていた伊藤さんにそのことを教えたんだよ。
 そして智子が廊下に立たされる原因となった宿題のプリント紛失事件、その時は智子のランドセルから川田さんが抜き取ったところを伊藤さんが見ていて、それを私に教えてくれたってことも覚えてる?
 その後、橋本さんと伊藤さんは智子に対するイジメを目撃したことを互いに教えあって私に告げるかどうかを相談し合ったことがきっかけで友達同士になったの。
 二人はそれまでお互いに友達がいなかったんだけど、お互いに家に遊びに行くくらいに仲がよくなったって聞いたわ。
(ついでに言うと二人とも恭子ちゃんの押し花はもらわなかったそうです)

 けれど私が言いたいのはそのことじゃないの(まわりくどくてごめん)
 私が言いたいのは智子に対するイジメを教えてくれた時に伊藤さんが私に言った言葉だよ。
 私が伊藤さんに「こんな大事なことを教えてくれるなんて、私たちも友達みたいなもんだね」って言った時に「大事な友達は一人でいい」って伊藤さんは言ったの。
 ちょっと突っ返された感じがしたけど、その時の伊藤さんの言いたいことはよくわかったつもりだった。
 でも最近、私は「本当にそうかな?」って思っています。
 だって今でも智子と私、そして恭子ちゃんと三人、こうやって繋がっているんだから。
 二人きりじゃないけど、すごく大切に思っているよ。
 それに友達って男と女のような夫婦じゃないしね。
 でも男と女じゃないから、かえって難しいっていうこともあるかもしれないわね。

 でも、そっかあ。恭子ちゃんは裕福でない人には押し花を渡さなかったんだね。
 村上くんが言うんじゃなくて本人が言ってるんだからそうなんだよね。
 橋本さんも伊藤さんもそう見られてたのかあ。なんかショック!
 でも、智子は「人ってそう簡単に区別できるのかな」って書いてあったよね?
 恭子ちゃんもまだ私たちと同じ小学五年生だし、間違いもあったかもしれないね。
 私も恭子ちゃんが押し花を渡すのは違う理由で渡していた人もいたと思います。
 それこそ「感」とか。
 今度、恭子ちゃんに聞いてみたら?
 ではこのへんで。

 追伸、新しい曲、難しくてまだ弾きこなせていません。
 また追伸、ところで村上くんは元気にしてる?
                          智子の大親友、加奈子より


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 228