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作品名:「水をすくう〜少女の闇と光」 作者:小原ききょう

第16回   再会


「それじゃ、村上くん、まるで本当のサンタさんね」
 休み時間、僕が二学期の終わった次の日、クリスマスに「芦田堂」のチラシのため写真を撮影することになったことを香山さんと小川さんに話すと、香山さんが僕のことをサンタみたいだと言ったのだ。
 別に僕はそんなつもりはない。
 でも本当のサンタはどこかに現れるのではないだろうか?
「村上くん、すごいわあ、撮影なんてまるでプロみたいやわ」
 小川さんが感心したように褒め称える。
「私も知らなかったわ、村上くんがそんな趣味を持ってるなんて」
「仁美ちゃんはちゃんと知っとかなあかんよ」
 香山さんが小川さんの方をキッと見て「何でなん?」と訊ねる。
 小川さんは香山さんを見て微笑んでいる。
 僕は写真に写るお客さんに香山さんと小川さんを写したいとお願いしているのだ。
「でもそれは遠慮しておくわ」
「仁美ちゃん、何でなん?」
「だって、その日、クリスマスでしょ」
「ああ、そうやわ」
 何か関係あるんか?二人だけでどこかに行くとか。

「それより、村上くん、最近、長田さんと仲がいいのね」
 香山さんは腕を組みながらいつものつんつん顔で言う。
「香山さん、長田さんとは仲がええんとちゃうって。色々、頼まれてるだけや」
 最初はカメラの使い方、今回の写真撮影、そして写真のモデル探し。
 こき使われている気もするし。
「仁美ちゃん、長田さんに焼き餅焼いてるん?」
「ちょっと、悠子、何でそうなるのよっ」
 香山さんが怒鳴りながら小川さんの背中をポンと叩く。
 小川さんは叩かれてもけらけらと笑っている。
 そうそう。小川さん、それは勘違いも甚だしいというものや。

「村上くん、それと長田さんに頼まれたっていう後の三人、橋本さん、伊藤さん、水野さんだっけ」
「そう、その三人や」
「話は分かったけど、水野さん、来てくれるかしら?」
 僕はあの展望台の喫茶室で長田さんから聞いた話を二人にしていた。
 水野さんと水野さんに会いたがっている橋本さんを「芦田堂」の写真撮影に参加させる。
 そして、橋本さんの現在の友達の伊藤さんも連れてくる。
「橋本さんは水野さんに会いたがっているから、来てくれると思うけど、水野さんの方はどうかな?と思うわ」
 香山さんが疑問を投げかける。
「やっぱりそう思うか」
「だって、水野さんは橋本さんの昔、友達だった子よ。それも単なる友達じゃないわ。そ、その、訳があって、橋本さんの親に引き離されたんでしょ?・・水野さんの方にはちょっと抵抗があると思うわ」
 香山さんの口調が少しうわずっている。
「家の事情」と言うのは香山さんにイヤな事を思い出させてしまう。
「それに伊藤さんの方も、橋本さんの前の友達なんて・・」
「仁美ちゃん、男と女の話やないねんから」
 小川さんが香山さんを落ち着かせるように言う。
「でも、悠子、女同士でも嫉妬とかあるものなのよ」
 香山さんは姉らしく妹に説明している。
 ふーん。女同士ってそんなものか、僕にはわからない。
 ただ一つだけわかることがある。
「香山さん、今、思ったんやけどな、伊藤さんがそんな心の狭い友達やったら、橋本さんも伊藤さんと友達として続いてへんのとちゃうかな」



「陽一、叔母さんから一時間ほど前に電話がかかってきたわよ、今から家を出るって」
「そしたら、もう駅に着く頃やな」
「叔母さんを駅まで迎えに行くの?大きな荷物は無いって言ってるけど」
 駅まで行くのに今日は自転車に乗らずに歩きながら水野さんのことを考えていた。
 山中くんの話によると水野さんは吉水川の土手の集落に住んでいるらしい。
 道理でクラスの連絡網も先生からの直接の連絡だけで終わっているはずだ。
 あの集落なら夜に連絡事項があった場合、怖くて近づくのをみんな嫌がるだろう。
 学校側の配慮で先生からだけの連絡になっているのだ。



「あれえ、水野さんじゃないの?」
 駅前の通りを歩いていると私に白々しく声をかけてきたのは沢井さんだった。
 忘れもしない、私に無理やり万引きをさせた子だ。
 そして、給食費の盗難事件の時、私に罪をなすりつけようとした。
 隣に知らない女の子がいる。
「私に、な、何か用なの?」
 私は思わず身構えてしまう。
「水野さん、何もそんなつれない言い方をしなくていいんじゃない」
 こんな子と「本当の幸い」を探しに銀河鉄道に一緒に乗ろうと思っていた自分が情けない。
「一度は駄菓子屋とか一緒に行った仲じゃないの」
 あの時は私に全部買わせた。そして沢井さんに「そんなの食べないわよ」と言われた。
 同級生と初めて行ったお買い物だったのに、すごく嬉しかったのに。

「ねえ、沢井さん、この子が前に話してた子なの?」
 隣の女の子が沢井さんに訊ねる。
「そうよ。あの『友達が欲しくて欲しくてしょうがない子』よ」
 沢井さんがそう紹介するとその子も「そうなんだ」と言って楽しそうに笑みを浮かべる。
「水野さん、あれから友達はできたの?」
 いやな事を訊いてくる。
 私は参考書を立ち読みするために本屋に行くだけだ。邪魔しないで欲しい。
 私は首を振った。
「できるわけないわよねえ」
「ど、どうして?」
 沢井さんと話すのはイヤだけど訊ねてしまう。そんな自分自身もイヤだった。
「水野さん、臭かったのよ、私、言わなかったけれど」
 沢井さんは眉間に皺を寄せて臭がるような素振りをする。
「そんなの知っているわよっ、自分でもわかっているわよっ」
 通りの中なのに思わず大きな声を出してしまう。
 ただの負け惜しみだと分かっていても口惜しい。
「あなたも嗅いでみなさいよ」
 沢井さんは隣の子に声をかける。
「私は遠慮しとくわ」その子は手を顔の前で振って断る。
「もう、やめてっ!」
 私が男の子だったら沢井さんに殴りかかっていただろう。
「自分でわかっているのなら、どうして友達なんて欲しがったりしたの?」
「私、そんな事を言ったりは・・」
 私は沢井さんに「友達になりたい」なんて一言も言っていないはずだ。
「水野さんって、友達が欲しいって顔に書いてあるのよ」
 そう言うと沢井さんはぷーっと吹き出しすのを堪えるように口を手で押えた。
 笑われた。最悪だ。
「そんなっ」
 長田さんにも言われた。
 妙ちゃんもそう思っていたのかな?
 私はどうしてそんな子なんだろう。

「水野さん、今、友達がいないのなら、また私が友達になってあげようか?」
 沢井さんはイヤな笑いを浮かべている。
「もうあっちへ行ってちょうだいっ」
 私はこんな残酷な人が世の中にいるなんて知らなかった。
 沢井さんにとっては私をからかうことが何よりも面白くて仕方なかったのだ。
 それは私にとっては残酷な沢井さんの遊びだ。
「じゃあ、頑張って友達を作ってね」
 沢井さんはからかうようなセリフを残して二人で去った。

 路上に一人残された私はバカみたいに一人で立ち尽くしていた。
 そして、ぼんやりとお母さんに偉そうに言った言葉を思い出した。
『お母さん、世の中、みんな、そんな悪い人ばかりじゃない』
 でも私の前に現れたのはそんな人たちばかりだった。
 いろんな人がいたけれど、辛いことばかりだったけれど、
「妙ちゃん」だけは違ってた。
 遠足の時、「バスから降りたら、水野さんのこと。明美ちゃんって呼んでいい?」と妙ちゃんは言った。
 私はバスから降りるのが待ち遠しかったけれど、今、思えば永遠にバスが目的地に着かない方が良かったのかもしれない。
 そうすればずっと私は幸せでいられた。
 バスを降りると「妙ちゃん」「明美ちゃん」とお互いのことを呼び合った。
 公園では妙ちゃんは他の子の輪の中には行かないで私の所にいると言ってくれた。
「明美ちゃんが行かないのなら、私も行かない」と言った。
 私が「行かないと仲間はずれにされちゃうよ」と言うと「私たち、友達でしょ!」と答えた。
 その後、鹿さんにおせんべいを二人であげたんだ。
 あの鹿さん、理科の中田先生に似てたな。
 それからお揃いのキーホルダーを買ったっけ。
 妙ちゃん、今でも私、このキーホルダー持ってるんだよ。
 私はポケットの中のキーホルダーに優しく触れた。
 空を見上げると今にも雪が降りそうな雲が町を覆っていた。

 学校で長田さんに言われた言葉を思い出した。
「水野さんと友達になるのは、私じゃないわ」
 そう言われた時、なぜだか妙ちゃんのことを思い出した。
 ひょっとしたらまだ心の片隅に妙ちゃんと友達になれるのでは?という思いがあるのだ


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