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作品名:「継母長田多香子の憂鬱」 作者:小原ききょう

第38回   変わるということ


 年が明けた。芦田堂は新年の商品販売、特売やらに大忙しだ。
 年末も忙しかったが、明けてからはチラシの効果が抜群だったのか、更に忙しくなった。
 お父さんは「猫の手も借りたい、いや、智子みたいな子がもっと欲しい」とか、訳の分からないことを言っている。
 店がようやく落ち着きを取り戻した頃、
 芦田堂には時々、クリスマスの時の写真撮影の三人のモデルたちがやってくるようになった。下校時間の空いている時間に喫茶室に寄ってくれるからいいお客様だ。
「ねえ、芦田さんのお兄さんって、女子にすごく人気があるんだって?」
 と笑顔の橋本妙子ちゃん。
 私には理解できないけれど、お兄ちゃんがモテるのは本当のことだ。
「へえ、お兄ちゃんが・・」と私は知らないふり。
「サッカーしてるところ、格好いいんだって」
「でも、噂ではサッカー部、辞めちゃうって聞いたわよ」
 と凛々しく頼れる感じの伊藤早苗ちゃん。
 小学校まで噂が届くなんて、どういうこと? 
 伊藤さんが聞いた噂も本当のこと、サッカー部は中学三年生になればどの道、すぐに引退なんだけど、お兄ちゃんは春の試合を待たずして部活動をやめることにした。
「お兄ちゃん、受験勉強に集中したいんだって。今から頑張らないと志望校の合格レベルに追いつけないらしいよ」
 お兄ちゃんは元々の志望していた高校よりもワンランク上の高校を目指すらしい。サッカーとは別の目標ができたようだ。お兄ちゃん自身の人生なのだから、好きにすればいい。
 お兄ちゃんが頑張ることは、妹は絶対に応援する。
「お兄さん、何かに目覚めた・・とか?」
 と諭したように言ったのは文学少女の水野明美ちゃん。
「えへへ・・そうなのかあ」私は3人の女の子のテーブルにお茶を配しながら笑った。
 そうかもしれない。
 ただの妹の感だ・・たしかにお兄ちゃんは最近、少し変わった。
 それまでお兄ちゃんは、がさつで、ちょっと乱暴な口の利き方をしていた。
 あ・・それは今でもだっけ。
「そこ、邪魔やからどけ!」とか「智子、饅頭そんなに頬張ったら、変な顔になる!」とか・・今でも言っているわよね。
 変な顔? あれ?・・最近は私のこと「ブス」と言わなくなったのかな?
 その方が確かにいいけど、でも「変な顔」もちょっと文句を言いたくなる。
 口が悪く優しい兄ちゃんは人のことにいつも首を突っ込む。昔からだ。
 恭子ちゃんの家から帰ってくると「今日は、恭子ちゃんと、どんな話をしたんや?」と興味津々で訊ねてくる。
「女の子同士の話は秘密だよ」と言っても「秘密じゃないことだけでも教えろ」とか、とても強引だ。でも訊かれると、ちょっと嬉しい。
 そんな口の悪いお兄ちゃんはクリスマスの日、恭子ちゃんに「智子がいつも世話になってるから」と言って素敵な帽子をプレゼントした。
 デパートに三人で行った時に恭子ちゃんが試着していた帽子だった。
 恭子ちゃんはその帽子が大変お気に入りなのか、春が近づくにつれ、帽子をかぶる回数が増えている。
 実は私も春の帽子をクリスマスプレゼントにもらった。去年は何もくれなかったのに、一体どういう風の吹き回しだろう?
 いずれにせよ、帽子はどう見ても恭子ちゃんの方が似合っているよ。
 たぶん、私が貰ったプレゼントはついでだ。

 最近、お兄ちゃんに何か変化があったみたい。
 店の手伝いを進んでするようになったし、言葉使いもちょっと丁寧になって、私が外から帰ってくると「お帰り」と必ず言うようになった。お母さんにそれを言うと「そんなん、当たり前のことや」と返された。
 けれど、やっぱりおかしい・・
 お兄ちゃんが少し変わった理由、その理由はすぐにわかった。
「智子、悪い・・これ、やっぱり、まずいんや」
 お兄ちゃんが私の部屋に持ってきたのはテレビアイドルの御堂純子のポスターだ。私が勝手に上げて勝手にお兄ちゃんの部屋に貼ったポスターだ。剥がして丸めて持ってきた。
 私がどうしてお兄ちゃんにあげたのか、理由はもう忘れちゃったけど、お兄ちゃん、ポスターがあると都合が悪いようだ。
 きっと、お兄ちゃんは好きな人ができたんだ。
 一度、恭子ちゃんのお家で、あの神園純子さんと一緒になったことがある。
 恭子ちゃんは神園さんと会うのは3度目らしい。神園さんが来る時は恭子ちゃんの部屋ではなくお庭に面したテラスでお茶を飲むということだ。
 私も二人に合わせて三人でテラスで過ごした。遠野さんが時々会話に加わる。
 神園さんの会話にはお兄ちゃんや、お兄ちゃんのお友達、佐伯さんだっけ?・・二人のの話が何度も、何度も出てきた。
 二人を語る時の神園さんはとても楽しそうで、目が輝いている。
 ははーん・・もしや三角関係?
 そう思ったのは私だけだろうか?
 とりあえず、私は心の中でにんまりと微笑む。
 ・・ということはお兄ちゃんの「年下好き」は少し変わったのかな?
 お兄ちゃんの年下好きのこと、私は昔っからよく知っている。
 だって小さい時から、いつも私の友達の話をよく聞いていたもの。幼馴染の悠子ちゃんと遊んでいる時だって、遠くから見ていたし、運動会の時、加奈ちゃんを紹介した時も、すっごく照れてた。
 クリスマスの撮影会の時、恭子ちゃんを含めて4人も年下の女の子が来た時だって、朝からそわそわしていたし、女の子に囲まれている村上くんを羨ましそうに見ていたのも知っている。それにお兄ちゃんはクリスマスの撮影会でカメラマンをしてくれた村上くんをライバル視していた。なんだか、すごく可笑しかった。
 何と言っても一番は恭子ちゃんと接する時のお兄ちゃん、最高にドギマギしてたよ。
 妹の私が見ていても、こっちが恥かしくなるくらい。
 ただ、それは憧れに近いものだったのかな?
 私のお兄ちゃんの恋は別の場所で育まれていたみたいだ。



「恭子ちゃんのお母さんに、よけいなことを言ってしもうたかもしれへん」
 智子が席を外している時を狙って長田恭子の向かいに座った。
「お兄さま、よけいなことって?」
 淡々とした口調で聞き返される。芦田堂の喫茶コーナーのテーブルには智子の飲みかけの湯呑みがある。
「そ、その・・なんや・・親子の大事な思い出が少ない・・んとちゃうかとか・・これから作ってやらなあかんのとちゃうか・・とか」
 しどろもどろになりがら話すと恭子ちゃんは綺麗なブルーの瞳で微笑み、
「やっぱり、お兄さまは、智子のお兄さまですね」と言った。
 何や、それ、と思っていると、
「お二人、とても似ています」と恭子ちゃんは微笑んだ。
 まさか「顔が似てます」と言うんとちゃうやろな。
「智子も、お兄さまも、お優しいです」
 ちょっと安心した。
 俺が「それで、思い出は?」と訊ねると、
「私とお母さまの間にはとっても大切な思い出があります」と遠くを見つめるような表情で言った。
「お兄さまが、私に思い出させてくれました」
「俺、何か、言ったっけな?」
「言っていましたわ・・お兄さまに遊園地に連れていって頂いた時に、『子供を遊園地に連れて行く人なんて、親・・お母さん以外にはいない』・・って」
 俺の言葉、憶えてくれてたのか。
「ああ・・やっぱり、恭子ちゃん、 小さい頃、お母さんに連れていってもらってたんやな」
 思い出した・・ということはかなり前のことなのだろう。
「はい」
 綺麗なトーンの返事が聞こえた。目も声も綺麗だ。
「それで、そのお母さんっていうのは?」
 どっちのお母さんや?
「はい、お兄さまがお会いした人です」と強く言った。
 多香子さん・・
「今、私がお母さんと呼ぶべき人は、あの人しかいない、そんな気がするんです」
 そっか。俺には実母と義理の母との繋がりとか、わからないが、恭子ちゃんが今、信じる道を辿ればいい、そう思った。
「この前、私、神園さんに言われました」
「あの神園に?」
 神園の奴、恭子ちゃんに何を言ったのだろう?
「ええ・・『私の余計なお節介だったみたいね』って・・神園さんは、私が窓から母の実家を見ていたことに気づいていたそうです」
 そもそも、二人が会うようになったのは、それがきっかけだ。
「『恭子ちゃんはもう十分に親子、してるじゃない』って言われましたわ」
 もう十分か・・そうかもしれない。俺も神園も多香子さんを見て、そう思ったということだ。あの人なら恭子ちゃんのいい母親になれる。
「そっか・・あの神園が、そんなことをねえ」と言いながら神園のことを考えていると、
「神園さんからお聞きしました。お兄さまと佐伯さんは神園さんのとても大事なお友達だと」と恭子ちゃんは言った。
 俺が「そ、そうか」と応え「あいつ、そんなことを」と思っていると、
「佐伯さん、そして神園さんも、今度、私の家に本を借りに来られるそうです」と言った。
 なんや、それ、俺だけが仲間外れか?・・俺も本、読もうかな・・
「今度、お兄さまも家に来られますか?」
「そ、そうやな」あいつらが行くんやったら。
 どんな本を借りればええんや? 佐伯にでも訊くとするか。
「私の部屋に漫画の本もありますわ」
 漫画って・・何か、俺だけ、佐伯や神園と違うように見られてるんか?
「しょ、少女漫画やろ?」
「そうですけど・・面白いですよ。男女のいざこざとか・・」そう言って恭子ちゃんは微笑む。
 智子がいつも読んでいるような少女漫画か? 女の妬みや嫉妬、陰謀満載の連載漫画。 
 俺が「お、俺は小説の方が読みたいな」と言うと「どんな本ですか?」という風な顔をしているので「そやな、スタンダールとか・・」と適当に佐伯から聞いた名前を言った。
「その小説家の本、佐伯さんの愛読書らしいです」
 どうして知ってるんだ? 神園が言ったのか? もしそうななら、佐伯は神園と本の話をしたことになる。俺の中で色んな想像が渦巻く。
 恭子ちゃんはそんな俺の顔を見て、
「お兄さまは、佐伯さんとライバルなのですか?」と言った。
「え?・・」
「もしやお兄さまは、神園さんのことを、お好きだとか・・」
「ちょっ・・きょう・・」
 恭子ちゃんは何てストレートに、しかも淡々と澄ました顔で、そんなことを言うんだ。
「恭子ちゃん、俺はやな・・」
 焦ったところに丁度、助け舟のような智子が戻ってきた。
「ねえねえ、二人で、何を話してたの?」
「本の話と・・智子とお兄さまが似てるって話をしてたのよ」と恭子ちゃんが答える。
 俺が「そや、そんな話や」と同じように誤魔化すと、
「えへへ、そっかなあ」
 智子がそう言って頭を掻き、
「私とお兄ちゃん、そんなに顔が似てるかなあ」と言うと、
「ちゃうっ!」怒る俺。
「智子、違うわ」澄ました表情で否定する恭子ちゃん。
 二人、声を合わせて言うと、「あれ、お兄ちゃん、顔が赤いよお」と智子に指摘された。


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