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作品名:「継母長田多香子の憂鬱」 作者:小原ききょう

第24回   クリスマスパーティ


 毎年のことだがクリスマスが近づくと教室はざわつき始める。
 ある男子は親からのプレゼントがどうのこうのと騒いでいるし、「まだ親から、もらってるの?」と女子にからかわれたりしている奴もいる。
 またある者は誰かに告白するのだとか、大事なことを言い触れ回っている奴もいる。
 そんな状況を尻目に俺はというと、冬になってからサッカーの試合数も少なくなり部活も少なくなったので、暇さえあれば、あのメガネの佐伯と過ごすことが多くなっている。
 佐伯の方は迷惑がってもいないようだから、こっちからどんどん話しかけている。
 神園も冷やかしてくることはあの日以来なかった。
 相変わらず佐伯の話は本の話や難しい話が多かったが、それなりに楽しめる。
 佐伯が神園が俺のことを好きなんじゃないか、とも言っていたが、俺は気にしないし、佐伯が間違っていると思っている。
 そこんところは佐伯に深く追求はしない。それに佐伯が神園のことを本当に好きだとしたら、まさしくややこしい三角関係だ。
 青春ドラマではそういうのは何度か見たことはあるが、俺はそんなの真っ平ごめんだ。
 ただ・・
 智子の友達、青い瞳の長田恭子のことは気になる。
 あの子が好きだとか、そんなんじゃない。
 ちょっと気になるだけだ。ほっとけない、というか。
 それはたぶん、あの子がさびしく見えるからだ。
 彼女にはあんなに魅力的な家政婦さんが傍についているのに、いつも寂しく見える。
 それは唯一の親族である母親が傍にいないからだ。傍にいるべき母親がついてやっていないせいだ。
 そう思考を巡らせていると、よく考えれば、赤の他人の俺が考えてどうこうなるもんじゃねえ。
 それに長田恭子には智子がいるじゃないか、と結論に辿り着いた。
 今度、智子に「恭子ちゃんのいい相談相手になってやれよ」とでも言っておこう。
 いや、もうなっているかもな。
 それに、彼女はあくまでも妹の友達だ。これからは会う機会もそんなにないだろう。
 そんなことを考えながら俺は購買部で買ったメロンパンを口に放り込みコーヒー牛乳で流し込んだ。
「昨日の昼のテレビ、見たか?」「見たで・・御堂純子がゲストで出とったな」「むちゃ可愛いなあ」
 俺たちの背後で日曜日の昼に放映されているアイドルのオーディション番組の話題も飛び交う。
 俺の部屋のポスターの子が出てたのか・・それじゃ、見とけばよかったかな・・と、変な使命感にかられる。
「芦田くんは御堂純子を見なかったの?」
 流れてきた男連中の話題に佐伯が振った。
「佐伯、おまえ、アイドルなんて興味があったのか?」
 佐伯は頷く。おまえの好きなのは委員長の神園じゃないのか?
「僕も芦田くんと同じように、誰でもいいのかもしれない」
「おい、俺は誰でもいい、なんて言ってないぞ!」
 それはたしか、俺が小川悠子の後姿を見送っている時に佐伯が言ったんだ。
 ま、どっちでもいいか・・最近、言い返せる自信もなくなってきた。
「それで、芦田くんはご両親にクリスマスプレゼントは何をねだってるんだい?」
「あのなあ、佐伯よ、クリスマスプレゼントなんてなあ、俺はもう何年も前に卒業したんだよ」
 本当のことを言うと去年もらった。今年ももらうかもしれない。
「僕はまだもらっているよ」
 平気でいうなあ、こいつ。母親の稼ぎだけで暮らしが大変じゃなかったっけ?
 そう思っていると佐伯は「あえて貰うことにしているんだ」と言い「そうじゃないと、自分の家がみじめに思えてくるだろう?」と続けた。
 おまえなあ、そんな事を言われたら、俺はどう返せばいいんだよ。
「それで、何をもらってるんだ?」
「図書券だよ」
 何だよ、それ面白くとも何ともねえ・・まあ、佐伯らしいか。
 そう思っていると、
「佐伯くん、この前はごめん!」
 神園が近くに来てペコリと頭を下げる。
 あの生意気な委員長が、だ。
「神園さん、何のことだい?」
 佐伯は黒縁のメガネの中心をくいと上げると委員長の神園を見た・・いや、見てない。 俺と神園の間の向こうの壁を見ている。やっぱり同世代の女の子の顔はまともに見れないんだな。
「私、佐伯くんにちょっと偉そうに言ったかな、って思って・・」
 神園、おまえ、いつも偉そうだぞ。
 佐伯は「僕は別に気にしていないよ」と神園と目を合わせずに言った。
「ねえ、芦田くん、佐伯くん、よかったら、二人で今度の日曜日、私の家に来ない?」
 え?・・いきなり、何を言い出すんだ。
「そ、その、みんなでクリスマスパーティーをするのよ」
 珍しく神園は少し照れながら言った。
「まさか、僕たちだけかい?」と言って佐伯は何度もメガネの縁をくいくいと上げ続けた。
 おい、佐伯、おまえ、すごく動揺しているのがわかるぞ。
 目は神園と合っていないが、ちょっと震えているぞ。
「ち、違うわよ、美和子といずみも来るわ」
 美和子といずみは、同じクラスの越野美和子と牧野いずみ、だな。
 佐伯は少し落胆したように見えた。
「神園、今度の日曜日って、まだクリスマスじゃないぞ」
 俺がそう言うと「他の子の都合なのよ」と神園は説明した。
 他の女の子の出席者に合わせるのかよ。
「神園って、あいつらと仲よかったか?」
 俺が訊くと「『あいつら』って何よ」と返された。
 佐伯の方を向き「そんなもの行かねえよな?」と口に出しては言わないが、佐伯の顔を見ると「芦田くん、一緒に行こう」と軽い調子で答えた。
「ああ」と俺は返事した。俺だけが断るのもおかしい気がする。
 あのでかい屋敷に行くことになるのか・・

 OKの返事をもらった神園は「時間が決ったら言うわ」と言って髪を揺らし席に戻った。
「芦田くん、誘われたのなら、行かないわけにはいかないだろう?」
 動揺してたかのように見えた佐伯は小さく言った。
「なんでや? 俺はお前が断ると思ってたぞ」
 佐伯は女の子と向き合うと顔が赤くなって話せなくなる・・と言ってたからな。
「これは僕の推測だけど、他の二人の女の子は、パーティーに芦田くんを連れてくることが条件で参加することに合意したんだと思うよ。芦田くんは人気があるからね」
 条件付き?・・そこまでして神園の奴、何のためにそんなパーティなんかをするんだ?
 でも、それはあくまでも佐伯の推論だ。

 日曜日の午後、約束の時間に間に合うように天井川の橋の上で佐伯と待ち合わせをして二人で神園邸に向っていると、後ろで女の子たちの黄色い声が聞こえた。
「芦田くんだけだと思ってたら、佐伯くんも呼ばれてたんだ」と越野美和子。
「佐伯くんって、神園さんと仲よかったっけ?」と牧野いずみ。
 そう言いながら二人ともくすくすと笑っている。
 佐伯は二人の声に何も言わず、その表情がぐっと何かを押し殺したように固まった。
 佐伯は神園とは何とか会話ができるようになったみたいだが、他の子とはまだまだみたいだ。
 俺は「お前らこそ、神園と仲よかったんか?」と言おうとしたがやめた。話がややこしくなりそうだ。
 その代わりに「おまえら、神園の家、行ったことあるんか?」と訊いた。
 二人とも「初めてよ」と答えたので俺は「見たら、びっくりするぞ、めっちゃ大きいで」と自分の家のように自慢した。
「芦田くん、神園さんの家に行ったことあるの?」と牧野いずみに聞かれたので「遠くから見ただけや」と答えると「なんだあ」とバカにされたような言い方をされた。
 佐伯は俺たちのやり取りは聞こえない振りをしているかのように川を眺めながら黙々と歩いている。
 二人は俺の横に連なって歩きだした。
 神園邸の玄関まで来て、その大きさに驚いたのは二人の女の子よりも佐伯だったと思う。
「こんなっ・・」と呻くような声を小さく漏らした。その声を聞いたのはおそらく俺だけだ。
 越野と牧野も驚いてはいるが、それはどことなく、自分たちの家とのあまりの違いに遠い世界の出来事を傍観しているような感じだ。
 おそらくこの二人の女の子は神園と親しくないし、親しくなろうともしていない。
 家の大きさに、本当に驚いているのは神園と親しくなろうとしている佐伯なのだ。
 親しくなろうとしても、その限界を目の前に突きつけられた、と感じたのだろう。
 そして、俺は確信した。
 やはり佐伯は神園が好きなのだ、と。
 この先を進めば佐伯は更に現実を噛みしめることになる。
「それにしても、おっきな家よねえ」
「ほんと、一体、何人家族なの? って思うわよね」
 二人の女の子たちは佐伯の思いなどは御構い無しにキャッキャッとはしゃぎながら呼び鈴を押した。
「でも、芦田くんが、来てくれて本当によかったわ」と越野美和子。
「そうよね、こんな所、美和子と二人だけだったら、ちょっとねえ」と牧野いずみ。
「こんな所」って何だよ!と心の中で俺は心の中で呟く。
「たぶん、あの子たちにとって、僕は場違いの人間なんだ」
 呼び鈴の反応を待ちながら佐伯は二人には聞こえないように俺にそっと言った。
 俺は返事をしなかった。
 たぶん、その通りだ。頷いても佐伯を傷つけるだけだし、否定すれば嘘をつくことになる。
「遠慮しないで、さあ、はいって、はいってっ」
 出迎えた神園は俺たち四人に笑顔でそう言った。
 いつもの棘とげした雰囲気はなく、どことなく柔らかい物腰だ。
 神園の後をついて、小道を歩く。頭の上を覆っているのは・・これは藤棚か?
 藤棚を抜けると僕たちの前に二階建ての荘厳な造りの日本家屋が現れた。
「なんか刑事ドラマに出てきそうな家ねえ」
「ほんとね、殺人事件でも起きそう・・一人で入るには、ちょっと怖いかも」
 重厚な玄関の引き戸を神園が「この引き戸、ちょっとかたいのよ」と言いながら重そうに開けた。ガラガラと鈍い音が響く。確かにかたそうだ。
「お邪魔しま〜す」と越野と牧野が声を揃えて入る。息ピッタリだな。
 昼間なのに少し暗い、長い廊下を通り抜けると、大きな中庭に面した縁側の廊下に出た。
 部屋側は障子があり、庭側はガラス戸で閉ざされている。
 スリッパの音だけがぺたぺたと響く。庭は綺麗に刈り込まれた松の木等が大きな盆栽のように広がっている。
 途中、佐伯が庭を指し「芦田くん、池に鯉がいるよ」と言った。
 その声に女の子二人がが関心を惹いたのか「どれどれ」と笑いながら庭の池を見た。
「ここが私の部屋よ」
 案内された部屋の中は先ほどまでの日本家屋のイメージとは打って変わり、明るく女の子らしい部屋だった。と言っても俺の部屋の4、5倍位の大きさだ。
 隅っこの勉強机に参考書が並び、蛍光スタンドの横には赤い色のラジカセが置かれ周りにはいろんなアクセサリーがぶら下がっている。
 壁には男性のアイドル歌手のポスターがべたっと貼られてある。
 机の反対側には大きなクリスマスツリーが綺麗に飾り付けられている。
 俺が「ここでパーティーをするんか?」と訊ねると神園は「人数、少ないから、ここで十分よ」と答えた。
 俺の部屋なら勉強机で一杯になるが、ここは勉強机や箪笥を置いてもまだまだ空きがある。真ん中に大きなこたつテーブルがあり、十分にくつろげるスペースがある。
 しばらくすると家政婦さんらしい人が現れジュースやお菓子を運んできて「ゆっくりしていってくださいね」と言って一礼をして部屋を出た。
 若い人なので女の子二人は神園の姉とでも勘違いしたらしく女の人が出て行くと「神園さん、さっきの人、お姉さん?」と訊ねた。
「ちがう、ちがう」と神園は首を振って「通いのお手伝いさんなの」と答えた。
 神園はしばらくすると佐伯に向って、
「佐伯くん、結局、両親、帰ってこなくなっちゃった・・」と言って笑った。
 返事を返さない佐伯の代わりに俺が「正月には帰ってくるんやろ?」と訊いた。
 だが、神園は首を振って「今回は無理みたい、向こうで忙しいらしくて・・」と答えた。
 ということは・・
 正月に、この大きな家には後妻・・つまりあの長田恭子の実の母の両親と通いの家政婦さんがいるだけなのか。
 神園にとっては血の繋がらない祖父母と正月を過ごす、ということなんだな。
 俺がそう考えている間、二人の女の子たちはお菓子を食べたり、立ち上がって神園の本棚を眺めて「神園さん、この漫画、持ってたんだ」と言って本を抜いて漫画を読み始めたりしている。
 一方、佐伯はこたつに足をいれたまま動かない。
「神園さん、ご両親が帰ってくるのが迷惑みたいに言っていたけど、いざ、帰ってこないとなると寂しいものだろう?」
「そうね、佐伯くんの言う通りかもね」
 神園は佐伯の言葉に素直にそう言って笑った。
 両親と言っても、父親は実の父親だが、母親は義理の母だ。あと、腹違いの妹。

 全員がこの部屋に落ち着きだすとみんなで持ち寄ったプレゼントを互いに交換をしたり、テーブルゲームをしたりして時間を過ごした。
 その間、越野と牧野はやたらと俺に話しかけてくるが、佐伯はほとんど無視されている。
 二人は神園すら相手にしていない。
 こいつら、何をしに?・・いや、それより、神園は何でこいつらを呼んだりしたんだ?
 そんなことを考えているとトイレに行きたくなってきた。ジュースの飲みすぎだ。夏でもないのにかなり飲んだ。
 俺はトイレの場所を神園に訊いて席を立った。部屋を出て長い廊下を進んだ先の行き止まりにトイレがあるらしい。
 トイレに辿り着くまでの手前に横に長い手洗い場があって、4、5人分の蛇口と大きな鏡が並んでいる。中学校の廊下にある手洗い場みたいだな。
 更に先を進むと驚いたことにトイレが男女別々だ。しかも、神園が言うにはここは客人用のトイレらしい。トイレとも便所とも書いていないので教えてもらわないとわからない。
 気持ちよく用を足していると、さっき通った手洗い場から女の子たちの黄色い声が流れてきた。
「部屋の中、息が詰まりそうっ」これは越野美和子の声。
「ほんとね、芦田くん、席を外しちゃうんだもの」これは牧野いずみだ。
「いずみも、トランプをする前に、お菓子で手がベタベタだから手を洗いたいなんて、外に出る言い訳、よく思いついたわね」
「だってずっと考えていたんだもの」
「でもさあ、芦田くんと仲良くなれそうなのはいいけど、あの佐伯がさあ、まさか来るなんてねえ」
 佐伯は呼び捨てか・・
「ほんと、ほんと・・神園さん、何を考えているのかしら?・・佐伯って、ちょっと気持ち悪いし」
「芦田くんって、何であんな奴と一緒にいるのかしらねえ」
「美和子、さっきのプレゼント交換、佐伯のが当たったんでしょ?」
「ああ、あの財布ねえ・・あれ、どう見ても男ものよねえ、女の子の数の方が多いのわかってるのに、あんなのいらないから、弟にでもあげるわ」
「弟って、まだ小学二年生でしょ」
 そこで二人は声を揃えて笑った。
 少し間を置いてまた会話が始まる。手を洗い終えたようだ。
「神園さんの両親、ここにはいないのよねえ・・こんな大きな家なのに寂しいわねえ・・でも神園さんが教室ではあんなに偉そうにしてるのって、どうしてなのかしら? 気を張っているのかしら?」
「私のお父さんが言ってたわ、片親ならともかく、両親と住んでない子って・・性格が歪むんだって」
「そうなんだ・・神園さんて、そんな感じよね。教室で偉そうにしてるのって、それの憂さ晴らしじゃない?」
「だったら、ずいぶんと迷惑な話よね」
 また二人が声を揃えて笑うのが聞こえた。
「あれ、いずみ、今、この奥で音しなかった?」
「やだ、美和子、この奥、トイレよ。もしかして芦田くんが中で・・」
 その通りだ・・おまえらのおかげで小便が止まっちまったぞ。
 同時に女の子の声も止まった。
 お前ら、さっき「俺と仲良く」とか言ってたな。
 そんな日は永遠に来ないぞ。
 俺はむすっとしてトイレのドアを開けた。
「芦田くん・・ここ、おトイレだったのね・・」越野が罰が悪そうな顔で言った。
 俺は「ああ」とだけ返事をすると手も洗わずに神園と佐伯のいる部屋に向った。
 二人は俺の後ろをついて来る。
 俺は部屋に戻り「待たせて、ごめん」と言って自分の席に座った。女の子二人は何も言わずにこたつに足を入れた。
 神園に「芦田くん、トイレの場所わかった?」と訊かれたので俺が「わかった」と返すと「トイレに行くまでの廊下、暗いから、みんな、よく迷うらしいの」と言い「小さい子供なんか、幽霊が出てきそうって、すごく怖がるのよ」と続けて言った。
 さっきの醜い会話を聞いたせいだろうか、神園の顔が可愛く見える。アイドルの御堂純子よりよほど・・
 佐伯が「神園さん、僕もトイレに行きたくなった」と言ったので神園がまた説明し、今度は佐伯が席を外した。
 俺は思った・・トイレに行く順番が俺と佐伯が逆でなくてよかった。
 越野と牧野の会話だけは佐伯には聞かせたくない。もちろん、神園にも・・
 佐伯がトイレから戻ってくると神園が「みんな揃ったところでトランプ始めよっか?」と全員に声をかけた。
 神園がトランプの親になってカードを配る。神園は女の子二人の口数が全くないことに気づかないふりをしているみたいに見える。
 おそらく、神園にとっては女の子がしゃべっていようがいまいが関係ないのではないだろうか?
 ただ、ここにいてくれさえすればいいのではないだろうか?
 俺は神園が不憫に思えた。
 だが、今から俺は神園にとって悪者になる。
「なあ、神園」
 俺はトランプの自分の手札を見ながら神園に静かに声をかけた。
「何? 芦田くん」
 きょとんとした表情が俺を見る。
 神園、ごめん!
 俺は心の中でそう言うと、持っていたトランプを放り投げた。カードがテーブルの上でパラパラと舞った。
 この場にいた全員が驚いたのを見届けると、
「おまえら、もう帰れ!」と俺は越野と牧野に大声で言った。
「芦田くん?・・」
 神園は何のことかわからないようだ。
 俺の「おまえら」と言った言葉が誰を指すのかわからないのだ。
 だが、越野と牧野は気づいている。自分たちの会話を聞かれたこともおそらく知っている。
「性格が歪んでいるんは、お前らの方や!」
 神園が「ちょっと、芦田くん!」と制した。越野と牧野に言っているのがわかったようだ。俺だってこんなこと言いたくないし、したくなかった。みんなとわいわい言ってパーティーを楽しみたかった。
 でも我慢できへんのや。

「き、君たち、もう帰った方が・・いいよ・・」
 そう言ったのは佐伯だった。
 二人はお互いの顔を見合すといきなり立ち上がった。勢いでテーブルが傾く。
「何よっ。私たち、神園さんに頼まれたから来てやっただけなのに」
「芦田くんも、ちょっと、女の子に人気があるからって、偉そうに!」
 さっきまで黙っていた二人はいきなりわめきだした。
「ええっ・・美和子、いずみ、いったい、どういうことっ?」
 神園は大慌てだ。全く状況が理解できないようだ。
「知らないわよっ、芦田くんに訊いてよっ」
 越野にそう言われて神園は「芦田くん・・」と救いを求めるように俺を見る。
「神園、俺もなあ、あんまり言いたくないんや」
「芦田くん、全然、わからないわ」
 神園がそう言うと二人はまた顔を見合わせて、
「だいたい、神園さんて、この大きな家を自慢したくて、私たちを呼んだんじゃないの?」 と言った。
「そんなっ」神園は言葉を詰まらせた。
「いずみ、帰ろっ」
 二人が勢いよく部屋を出て行くと神園は大きな声でこう言った。
「ユキさんっ・・お二人がお帰りです!」
 二人を引き止めるのがもう無理だと悟ったのか、大声で家政婦に見送りを頼んだ。
 しばらくすると、ユキさんと呼ばれた人が現れ「お嬢さま、お二人をお送りしてきました」と報告した。
「ありがとう、ユキさん」
「お嬢さま、よろしかったのですか?お二人ともご機嫌が悪いようでしたけど」
「いいのよ、二人には学校で謝っとくわ」
 神園がそういうと家政婦さんは退出した。
「神園っ・・本当にごめんっ!」
 俺はテーブルに両手をついて謝った。
「芦田くん・・」
「せっかくのパーティー、台無しにしてしもうて・・」
 神園はふーっと大きな息を吐いた。たぶん呆れ果てているのだろう。
「俺、あいつらが、神園や佐伯の悪口を言ってるのんを、トイレで聞いてもうて」
「おトイレで?」
「俺、もう我慢できへんかったんや」
「芦田くん、ごめん、何のことかわからないわ」
 神園はかなり困惑顔だ。
「神園、もうあんな奴ら、家に呼ぶな」俺がそう言うと佐伯が「神園さん、僕は芦田くんがどんな話を聞いたのか、わかってるつもりだ」と真顔で言った。
「佐伯くん、何がわかるの?」
「だって、あの二人、ここに来た時から神園さんや僕に対して敵意むき出しだったからね」
「ふーん」神園はちょっと納得したような表情だ。
 すっかり場の雰囲気を悪くしてしまったと思っていたが、神園は意外とそうでもないように見える。
「それに、自分の悪口は聞かない方がいい・・芦田くんも神園さんに言ってはいけない」
 佐伯はメガネの中心をくいと上げた。
 おまえ、ちょっと格好いいぞ! それにもう目を逸らしていない。
「話してくれなくても、何となく、わかるわよ」
 そりゃ、あいつらに直接「大きな家を自慢・・」とか言われたりしたらな。
「それに知っても何の得にもならない」
 佐伯が更に真面目顔でそう言うと神園はぷっと吹き出したような顔をした。
「佐伯くんって、面白いのね・・芦田くんが佐伯くんと仲良くしているのもわかる気がするわ」神園が和やかな表情で俺たちを交互に見て言った。
「僕は芦田くんと仲良くしてるつもりはない」澄ました顔で佐伯が言った。
「俺もだ!」
 俺たちがそう続けて言うと、
「やっぱり、二人とも、おもしろいっ」
 神園は今日一番の笑顔でそう言った。


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