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作品名:「継母長田多香子の憂鬱」 作者:小原ききょう

第11回   小川悠子


 土曜日、
 ホームルームの時間、
 てきぱきと委員長の神園が先生の指示を受け議事を進行させている。
 副委員長の方は能力が神園に比べて能力が格段に落ちるみたいで、ひたすら神園の後方支援に回っている。
 俺は退屈な時間を頬杖をつきながら適当に聞き流している。
 と、言いたいところだが、落ち着かない。
 これって何作用って言うんだ?
 結晶作用か?・・じゃないよな。
 俺、あの子を呼ぶとき、どんな風に呼べばいいのだろう?
 長田さん?恭子ちゃん?それともお嬢さん?
 長田恭子があの邸宅に戻るのは明日の日曜日の夕方。
 悲しいのか、嬉しいのかわからない。確かなことは俺の精神が昂揚していることだ。
「佐伯、疲れたぞお!」
 帰ろうとする佐伯を呼び止め横に並ぶ。
「芦田くん、今日は部活は?」
「休みだ」
 ショルダーバックをぶんっと振り再び肩にかける。
「芦田くんの家はこっち?」
「ああ、風呂屋の横だ。佐伯は市営団地やろ?」
 市営の団地は商店街に通じる道にある。丁度、智子の幼馴染の小川悠子が住んでいるあのボロアパートの向かいだ。二人で校門を出る。
「芦田くんは回り道、だよね?」
 俺の家は学校を出て右に行って商店街の方向に上がりまた芦田堂のある左に曲がれば回り道になる。
 ただ、佐伯とちょっと話したかっただけだ。佐伯の問いを無視して進む。
「それで、何が疲れたっていうんだい?」
「実はな、今、俺の家に・・」
「この前、言ってた年下の子が気になるって話?」
「ああ・・」
「お相手は芦田くんの、妹さん、だっけ?」
「ちゃうっ!」
 俺、そんなこと言ってないよな?
「だって、この前、芦田くんは『年下の子が、気になる・・妹が心配だ』って言ってたから・・僕はその話以外、聞いていないよ」
 そうだっけ、その後、佐伯がややこしい本「伊豆の踊り子」の話をし始めたから。
 長田恭子のことは佐伯には話さなかったんだよな。
「すまん、話が途中だったんだ」
 俺は今、家に泊まりに来ている長田恭子のことを佐伯に説明した。
「その女の子、ドイツ人の父親との混血なんだ」
「すごく国際的な話だね。僕の読む本にそんな話は出てこないよ」
「な、すげえだろ?」
「うん・・だから、僕には理解できない」
 理解できないって、何だよ、それ・・せっかく打ち明けたんだから話し相手になってくれよ。
「芦田くん、何回も訊くけど、どうして疲れるんだ?」
「そ、その、なんだ・・その子のことが気になるから」
「それは恋だよ」
 佐伯はメガネの縁をくいと上げ優越感に浸ったような表情をする。
 こいつ、人が恋に落ちるのを見て面白いのか?
「まだ、そうと決まったわけじゃないだろ」
「そうだね、人はそんな簡単に恋をしない」
 違うのか?
「そうや、佐伯、『人と向き合う』って、どういうことや?」
「芦田くん、ごめん、何の話かわからない」
「妹がその混血の女の子は『自分に向き合ってくれる』と言っていたんだけどな。それこそ何のことかわからないんだ」
「君の妹さん、すごいね」
 おい、俺と同じことを言うなよ。俺も妹のこと「すげえ」とは思ったけど。
「芦田くん、今度、妹さんを僕に紹介してよ」
「ちょっ・・」
 佐伯、何を言い出すんだ。
 それにお前、女の子と話すと顔が赤くなるんだろ?
「お前、女の子と話すの、恥ずかしくないのか?」
「年下だったら、大丈夫かもしれない」
 俺と逆じゃねえか!
 と言おうとした時、俺を呼ぶ声が後ろでした。
「智子ちゃんのお兄ちゃん!」
 女の子の小さな声に振り返ると息を切らしながら小川悠子が向ってくる。
「ああ・・悠子ちゃんか・・学校の帰りか?」
 小川悠子は首を振ると「今から商店街のお店に行くの」と答えた。
 駄菓子屋の店番をしに行くんだな。
「そちらの方はお友達ですか?」
「まあ、そのようなもんだ」
 俺がそう答えると佐伯は「えっ」とこっちを見て俺の言葉が意外だという顔をする。
「僕、芦田くんの友達です」
 メガネの縁を自慢げにくいと上げ軽やかに返事をする佐伯。
 お前、年下だったら、本当に大丈夫みたいだな。
「私、小川悠子って言います」
 丁寧に頭を下げ小川悠子は佐伯に自己紹介をして商店街の駄菓子屋の宣伝もした。
「智子ちゃんのお兄ちゃん、また、和菓子に飽きたらお店に寄ってください」と言って手を振り自分の住むボロアパートの横を通り過ぎ商店街に向って駆けていった。
 ランドセルは一度家に置いてから行かないのか、そのままだ。店番をしながら宿題でもするのだろうか?
「今の女の子、妹さんのお友達なんだね?」
 小川悠子の後姿を見送っていると横で佐伯はポツリと訊いた。
「そうだ」
「芦田くんって、あの子も気になるんじゃないの?」
「!」
 確かに智子が小さい時には気にはなっていたのには違いないが。
「もしかしたら、芦田くんは、誰でもいい・・とか?」
 少し、考えた。
「おい、佐伯っ!」
 少し大きな声を出す。
 佐伯は「なんだよ、びっくりするじゃないか」と言ってメガネの縁をくいくいと二度三度上げた。
「佐伯、そんなことって、あるのか?」


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