20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:水を支える〜二人の少女の秘密 作者:小原ききょう

第22回   祭りへの誘い


「小川さんをお祭りに誘いに来ました。他にも僕の友達や親戚の人がいます」
 そう村上くんがお母さんに言った。
 村上くんが嘘をついてくれた。そのおかげでお母さんは私が仁美ちゃんをお祭りに誘うことを知らない。もし知ったらきっと只では済まない。
 お母さんの前では「香山」とか「仁美ちゃん」の言葉は絶対に言ってはならない。
 家の中ではそれは禁句だ。
 でも私は知っている。
 お母さんのお遣いで郵便局にお通帳を記帳に行く時、私はいつも何度も見ている。そこに毎月「カヤマ」という字が印字されているのを。
 何の目的のお金なのかはっきりとわからないけれど、このお金の一部をあの男と藤田のおじさんに渡しているのも見て知っている。そしてお母さんはそのお金を男の息子、敏男の学費にも充てているみたいだ。
 駄菓子屋のお駄賃もきっとあの男に渡ってしまっているのだろう。
 そのことを私のお父さんはおそらく知らないだろう。
 でもお父さんには知って欲しくない。お父さんに知られたら私が汚れているのも知られてしまう気がする。
 お父さんのような立派な人から見れば、私はお風呂にもほとんど入っていない髪もばさばさで垢だらけの本当にみっともない女の子だ。こんな姿は絶対見られたくない。
 この先もずっと、私はお父さんに会わなくていい。
 でも、もし私が将来、綺麗になったりしたら・・
 そんなことはない、と思っていても想像したりする。そしたら、そうなった時には、お父さんに会いたい。
 そして、「お父さん」と呼んでみたい。
 私は幼かった頃・・お母さんと二人きりでここに住んでいた頃、お父さんがいつか迎えにくれるものと信じていた。
 だから私はお父さんのいる高台の家をいつも見上げていた。
 そんな私を見つけてはお母さんがいつも叱りつけた。小さい頃はお母さんはよく言った「あの高台は特別の国なの」と・・
「お父さんはあそこにいるけど、私たちには手が届かない世界なの」とか「行けば、みじめになるだけ」とも言った。「悠子の家族はこの世界でお母さんだけよ」と。
 でもそれが嘘だとわかる時がきた。
 仁美ちゃんが私の前に現れたのだった。
 おばあちゃんが会わせてくれた。
「お姉ちゃん」というのが正しい言い方だけど、今はそう言ってはいけないと仁美ちゃんに何度も念を押されている。
「絶対に本当のお姉ちゃんになって、必ず悠子を迎えに来るから」と仁美ちゃんは言ってくれた。
 まるでおとぎ話の白馬に乗った王子様みたいに会うたびに何度も何度も繰り返し、その言葉を言った。
「その時が来たら私のことを『お姉ちゃん』と呼んで」と言いかけるといつも仁美ちゃんは泣き出してしまう。
 仁美ちゃんが泣くと、私も泣きたくなる。
 だけど、あれから状況はひどくなる一方だった。
 お母さんのお酒の飲む量が増え、あの男と敏男が住みつくようになりお母さんも向こうの肩を持つようになった。
 仁美ちゃんは「その日にあったこと全部話して」と言うけれど、あんまり心配もかけられない。
 どうして村上くんがあんなこと言い出したのかわからないけれど、村上くんが一生懸命なのがすごく伝わった。だから私も一生懸命になってみよう。
 明日、絶対に仁美ちゃんの家に行ってお祭りに誘おう。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 908