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作品名:水を支える〜二人の少女の秘密 作者:小原ききょう

第11回   押し花


「あなたが香山さん?」
 去年、学校ではじめてその子が話しかけてきた時、まるで外人の女の子みたいだと思った。金色の髪が肩まで伸びていて少女漫画みたいに綺麗にカールされている。
 私はここまでのことは絶対にできない。この子は私とは別の世界に住む人間だ、と思った。
「これ、あげるわ」
 彼女は私にスミレの押し花を手渡した。
「これを受け取ったら、あなたは今日から私の配下だから。花言葉知ってるわよね?」
 何、それ? 配下・・冗談じゃない。
 いくら外人の子みたいだからって、どうしてこの子の配下にならないといけないの?
 それに花言葉・・「忠実」だっけ?・・意味になってないわよ。
 長田恭子、というのが彼女の名前だと後で知った。この町に越してきた転入生だった。
「香山さんも、もらったの?」
 彼女が立ち去ると清田さんと八木さんが駆け寄ってきた。二人もスミレの押し花をもらったようだった。
「香山さんはどうするの?」八木さんが訊ねてくる。
 清田さんと八木さんはどうしてだか、私に何でも聞いてきたり意見を伺ったりする、たぶんそれは私の家が金持ちだからだ。
「私は長田さんに返すつもり」
 私がそう答えると二人は顔を見合わせた。
 次の日から二人は私を避けるようになった。
 おそらく長田さんが私よりずっと金持ちで町の中でも力を持っているからだろう。でもそんなことは今の私にはどうでもいい。

「長田さん、私、あなたの配下になんてならないから」
 次の日、私は長田さんにきっぱりと言って押し花も返した。
「どうして?・・家の人も香山さんとは仲良くしなさいって言っているわ」
 家の人って、親よね。
 親が言うからなの? 長田さんは何ておかしなことを言うんだろう。
 友達も親が指定して決めるというのだろうか?
 親が決めるのは兄弟くらいだ。でもそれも私にとってはあやしい決め事だ。
「お友達になれなくて残念だわ・・」長田さんはそう言って去った。
 私には友達なんて最初から一人もいない。
 清田さんと八木さんはしばらくすると私に接してこなくなった。その方がよかった。
 学校ではできるだけ悠子の傍に一緒にいてあげたいからだ。

 あれから私は五年生になった。
 私は学校から帰ると二階の勉強部屋に上がって窓から下のアパートを見下ろす。
 すぐ下のアパートの南側の棟に悠子がいる。高台に住む私の家から悠子の家が見渡せるのだ。
 今日は駄菓子屋におばあさんが出ているはずだから悠子はもう家に帰っているはずだ。 なるべくなら悠子と一緒に帰るのがいいのだけど毎日というわけにもいかない。
 私は塾の日と悠子の駄菓子屋の当番の日を合わせた。学校から帰るといつも私はアパートが見える位置に置いた勉強机で宿題をしながら聞き耳を立てる。
 悠子に何かあったらすぐに駆けつけるつもりだ。いつも準備している。
 一階からお母さんが3時のおやつを用意したと私を呼ぶ声がする。
 のんびりとした何も考えていないような声だ。何も考えていないようだが、いつも世間体を気にしてお父さんの行動を監視し私のことは家に縛りつけようとする。
 お母さんは裕福な地元の家に生まれ、昔から何一つ不自由しなかったらしく、今まで全て自分の思い通りにして過ごしてきたようだ。親戚の人からそう聞いたことがある。
 けれど、お母さんの最大の誤算はお父さんの浮気だった。
 私が生まれる前の話だからよく知らないけれど、当時、お母さんはかなり荒れたと聞いている。今のお母さんを見ていても、お父さんがよその女の人に心を許してしまったのも何となくわかる気がする。何かと言うと世間体だ。
 世間体の前にお父さんの会社の方を心配してあげて欲しい。
 でも今は父と母の関係はどうでもいい。どうでもよくなってしまった。
 今の私の頭の中には悠子のことしかない。
 お母さんのわがままで私の部屋には悠子の写真を絶対に置かせてもらえないけれど、私には悠子のいるアパートが見渡せるこの景色がある。写真よりずっと安心できる。


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