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作品名:僕達の夏休み 作者:りじょうみゆき

第7回   7話 過去からの贈り物編
7話 過去からの贈り物編続 僕達の夏休み 過去からの贈り物編



妻が食事の支度をしていた。

『うぅっ・・』

ご飯の炊ける匂いに、急にむせた。

最近僕は少し体調を崩していた。
食欲もなく少し痩せたようだ。
歩いていてもフワフワとする。
特に胃のあたりが痛むのであった。

医者嫌いの僕に妻が病院に行こうと言うが、僕は医者には行かなかった。
(怖かったから行けなかった。)

愛犬のジョン三号も老衰の為、先月亡くなって少し気落ちしていたからだと私は思っていた。
全てになにもやる気が起きなかった。
ジョンは利口な犬で私がよく散歩に連れて行った。
ジョンがいなくなってからはもう外に出る気もしない。

若い頃から私は音楽活動をしていて、仲間達とライブ活動に飛び回っていた。
疲れと云うものを知らなかった。とにかく歌っているのが好きで、皆んなと騒ぐのが楽しかった。
しかし年齢も、もう60を過ぎると、コンサートやライブに意欲も無くなって、曲も良いものが作れなくなっていた。
なんだか感性というものが少しづつ無くなっていくような気がした。

日々を淡々と過ごしているだけだった。

ここ数年は昔のナンバーを歌うだけで、自分が乗らないのだから観客も活気がない。
客の年齢層も僕らと同じぐらいだ。
次第にお客が減って行くのがわかる。

若い頃は2、3日寝ないでぶっ通しでライブをやり、ガンガンに燃え上がって観客をわかせていたが、もうそんな気力も湧いてこない。

ジョンの家にはもうジョンはいない。

僕の家にも僕がいなくなる日が来るのだろうか。
そんな事を最近よく考えるようになった。

ある日
福岡南小学校の同窓会のハガキが来た。
僕は3年生の終わりに長崎へ引っ越したので、福岡南小学校は卒業していなかったのに、なぜ同窓会のハガキが来たのかわからなかった。

しかし、なんだか嬉しくなって、出席に◯を付けて返信した。

同窓会は三ヶ月先。

僕は、またあの皆んなと会えると思うと急に元気が出てきた。

嫌だった医者にも行って検査の為入院した。

ストレス性の胃潰瘍で、ポリープが出来ているとのこと。

幸い悪性ではなく、胃カメラを飲み切除し、退院した。

やせ細ってみっともないので、少しトレーニングして筋肉を付けた。
昔のいい男になった。

『うぅ〜んマンダム.ダム』

と言いつつ鏡でポーズをとる。
妻が後ろでクスクス笑った。


妻も僕と一緒に同窓会が行われる福岡まで連れていく。

同窓会のある時間は、妻はひとりで観光をすると言う。

妻と遠出するのは久しぶりだ。

私が住んでいる東京から福岡まで飛行機で行く。
福岡のホテルにチェックインした。

このホテルが同窓会の会場になっている。

前日、ハカセと荒井くんと会った。

第一声が

「やぁ〜お互い老けたな〜」

だった。

僕はあんなに頑張ってトレーニングしたのに、まあ仕方ないか?


同窓会は明日だが旧友と個別に会いたかったので、僕が2人を呼び出した。
妻も一緒に4人で、博多の屋台がずらりと並ぶ飲屋街で呑んで食べた。

食事をしながら昔話に花が咲いた。

「ところでなんで僕は南小学校を卒業してないのに、同窓会に呼んでもらえたのかな?」

と言うと、ハカセが

「拓!当たり前じゃん。お前がいなけりゃつまらんよ。
それに俺たちの学校は全校生徒合わせても100人もいなかったんだぜ。
同級生なんか20人もいないし、あれから炭鉱もさびれて、どんどん人口も減ってさ、今じゃ南小学校は福岡小学校に吸収合併されて、ずいぶん前に廃校になったよ。」

「そうだったんだぁ〜」

僕は知らなかった。

「わかる範囲で在校生だった人に案内を出したけど、もう皆んな結構な歳だろ、
宛先不明で返って来たり、
体調不良で来れないとかで、結局200通ぐらい出したけど出席者は40人ぐらいさ。」

幹事は学級委員だった荒井くんがお世話をしてくれたらしい。

「そういえば小杉ちゃんもくるぜ。」

「小杉ちゃんも来るのか。楽しみだな。」

小杉ちゃんと云えば、僕とバンド活動を一緒にしていたが、メンバーも歳をとって、体力的に無理があるからと、去年僕達のバンドは、ある祭りのステージを最後に解散したのであった。

しかし、ここ何年かラストステージと云ってはコンサートをして解散するけど、翌年になるとまた歌をやりたくなり自然にメンバーは集まる。
まるで何処かの閉店セールのようなものだ。
なかなか音楽と縁が切れない。
来年もきっと歌っているだろう。

「小杉ちゃんとは、半年ぶりだな〜」

と僕が言うと、荒井くんが

「小杉ちゃんも途中で引っ越しちゃったんだけど、懐かしくてさ呼んだんだ。俺はこの間のコンサート以来だから3年ぶりかな〜。」

「ルリ子ちゃんは?」

と僕は妻が横にいながらも聞いた。

「ルリ子ちゃんも来るよ」

と荒井くんが言った。
思わず僕はにやけた。

「あの頃は本当に楽しかったな〜。
昼も夜も皆んなで遊んでさ。」

「そういえば、小学三年の夏休みに星空観察の宿題が出て、夜中10時ごろ神之池神社(コウノイケジンジヤ)
の境内に、集まった事があったよな〜」

「うん、星空観察というか、肝試し大会みたいになってさぁ〜、お化けの格好でわざとみんなを怖がらせる奴もいたしな〜。面白かったな〜。」

「夜中に外に出ることなんかなかったから、神社がいつもと違って見えて、ワクワクして楽しかったよな。」

「うん、そうそう、確かあの時は3年だけだと危ないって、4年生や5年生6年生も勝手に来たんだよね。」

「そうそう。皆んなでキャーキャー言って大騒ぎしたよね〜」

「夏の大三角形や北斗七星や何とか星座とかを観察しろとか先生に言われたんだけど、星がありすぎて、何処が何の星座やら何処に大三角形があるのやらさっぱりわからんかったな。」

「そうそう、そして適当に教科書にある星座を写して さ、結局境内でみんなして遊んだんだよね。」

「あっ、そういえばあの時、拓が神社の階段から落ちて大怪我したよな。」

「頭から血が流れててさ〜
それでも拓が大丈夫、大丈夫って言って家に帰って皆んなも帰ったんだけど、あれ大丈夫だったんか?頭をだいぶ打って痛かったやろ。」

「あぁーそんな事もあったなー
よく覚えてないけど、家に帰って母親に怪我したって言ったら、ツバつけときゃ治るよって、なんか水みたいなもんこすりつけられて、手ぬぐいを頭に巻かれて、そのまま寝かしつけられたよ。」

「はっはっはっ 。昔のひとは豪快だったからな〜。」

そうだよ思い出した。
僕は血だらけで帰ったのに母ちゃんはつばつけときゃ治るみたいな感じで全然とりあってくれなかったな〜。
忘れかけていた事がどんどん思い出される。

久しぶりにハカセと荒井くんと懐かしい話でしばらく盛り上がった。
だいぶ呑んで出来上がったみたいだ。
話は尽きないが、

「じゃあまた明日な!」

と言って2人と別れた。

妻とホテルに帰りながら、ふと福岡の空を見上げた。
東京よりも綺麗な星が見える。

今僕の住んでいる東京は、ビルとビルとの隙間に少しだけ空が見えて、夜でも街の灯りが明るすぎて暗くならない。
空気が汚れているせいで、空も霞んで星もよく見えない。

『あの頃の星を僕はよく見ておけばよかったな。』

僕は今そう思う。

向こうから3人の若者が楽しそうに歩いて来る。
彼らも今を、この瞬間を生きているのであろう。
そしてこれからも生きて行くのだろう。
色々な事を抱えながら。

そしてもうひと組、年老いた3人組が酔っていい調子でこっちにやって来た。
その人達の若かった頃は何をしていたのだろうか?どんな人生だったのだろうか?聞いてみたいものだ。

誰か僕に話を聞かせてくれないだろうか?
その時君は何を考えていたのか?
何を探して求めていたのか?
その探していたものは見つかったのか?
それとも別の物を探し始めたのか?

あの若い3人組はハカセと荒井くんと僕の姿か?

あの歳老いた3人組は僕とハカセと荒井くんの姿か?

過去からの贈り物か?
この先の僕への贈り物か?
過去の自分が今の自分を見ているのか?
未来の自分が今の自分を見ているのか?

あの頃と変わりなく星は輝いていた。


続く


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