6話 ジョン トロッコに乗る 編
『今日も暑いな〜』
真っ青な空に入道雲が見える。 ギラギラと陽炎も見える。 庭先の向日葵(ヒマワリ)はピンと真っ直ぐに上を向いていた。
僕は新しい曲作りをしながらポロンとギターを鳴らす。 少しづつ曲が出来上がってきた。
空が赤く染まる頃、窓辺の風鈴がチリンとなった。涼しい風が部屋に入ってきた。
外から子供達の元気な声が聞こえてきた。
「じゃあな〜!」 「またな〜!」 「おぉー明日な〜!」
子供達の夏休みもそろそろ終わりか? 僕も夏のコンサートもあと数える程になった。 僕はギターを抱えて仲間達と色々なコンサートをした。 春・夏・秋・冬 日本中のライブハウスやコンサート会場で僕の歌を歌ってきた。 今日は久々に家に居て曲を作っていた。
向日葵に妻が水まきをしていた。
我が家にはジョン三号と云う犬がいる三号と云うのだから一号二号がいる。
ジョンが初めて我が家に来たのは、僕が小学校の一年の時だった。父ちゃんが知り合いから生まれたばかりの仔犬を両手で大事そうに抱えてきた。
「どうだ拓、可愛いだろう」
「うわ〜何!イヌ? 仔犬だ〜!! 父ちゃん僕んちで飼っていいの?」
「ああ〜良いよ。 こうやってミルクやるんだぞ」
「うん僕この子の面倒見るよ」
「名前つけなきゃな」
「ジョンがいいよ!」
僕はお父さんの顔と子犬の顔を見ながら言った。 何故ジョンとつけたかったかと云うと、従兄弟のお兄さんの家に遊びに行った時、ジョンと云う名前の犬がいた。 その犬がとても利口で可愛い犬だったので、僕は従兄弟の家によく遊びに行っていた、でもその犬が去年亡くなった。とても哀しかった。 だから、この仔犬にジョンと、名前をつけたかった。 正しくはジョン二号である。
僕はその仔犬が可愛くて毎日抱いて寝た。そして、ミルクをやったり身体を綺麗にしてやったりしていた。
僕には兄弟がいなかったので弟が出来たみたいだった。嬉しく、楽しかった。
ジョン!ジョン!ホラッ! 走るぞ! と僕はジョンと走ったり転んだりしながらよく遊んだ。 ジョンは、柴犬との雑種だったが利口で、僕の言うことを良くきいた。
ある日父ちゃんがジョンの家を作ってくれた
「どうだ拓!」
「うわ〜!うん!すごいね〜父ちゃん。『ジョンの家』って書いてもいい?」
「ホラッと父ちゃんがペンキを渡してくれた」
僕は小学一年だったのであまりうまく書けなかったが、ジョンをみると満足そうに自分の家を眺めていた。 母ちゃんが寒く無いように毛布を持ってきて引いてくれた。 父ちゃんが首輪も買ってきてくれていた。首輪をつけて紐(ヒモ)をつけた。小屋の横にクイを打って紐を結んだ。
「ジョン、今日からここがお前の家だぞ。入ってみな」
そう言うと嬉しそうに尻尾を振って自分の家に入って、くるっと回って顔を出した。 母ちゃんが水を飲む為の洗面器と餌を入れた器を持ってきた。 ジョンは餌を美味しそうに食べた。
しばらくは僕は一緒に寝たが、それ以外はジョンは新築の一軒家で過ごした。
あれは小学二年の夏休みの時だった。 その日は紙芝居の叔父さんがやってくる日だった。僕は母ちゃんに5円もらって荒井君とハカセとそしてジョンを連れて紙芝居を見に行った。
紙芝居は僕の大好きな王銀バット(オオギンバット)だった。 夏祭りに王銀バットのお面を買ってもらったので、5円で水飴を買って舐めながらお面をかぶって紙芝居を見た。
『王銀バットとは』
銀色のガイコツにマントをした少し怖い感じのするヒーローがさまざまな悪と戦う物語でハッハッハッハハと「高笑い」をし、銀色のコウモリが飛んで来て王銀バットが現れる。僕らはその物語に夢中だった。
紙芝居はいつもちょうど面白くなってきた所で続く。となる。
次回までのお楽しみである。
僕らは紙芝居を見て王銀バットの真似をして遊びながら駆けずり回った。
いつの間にか街はずれまで来ていた。
ふと見ると使われなくなったトロッコがあった。
僕らはトロッコに乗ろうと考えた。
だがトロッコに乗る為には柵を越えなくてはならない。
柵には
『入るな キケン』
と書いた札が貼ってあったが、どうしてもトロッコに乗りたかった。
僕らは柵の壊れた所から、ほふく前進をしながら進入した。ジョンも体を低くして柵の中に入った。僕がトロッコに乗る。その後ハカセが乗り、荒井君がモタモタしながら乗って、最後にジョンがぴょんと飛び乗った。
トロッコのシーソーになった部分を漕いでみた。ギギーと鳴ってトロッコは線路の上を走り始めた。ジョンを先頭にして、頭には王銀バットのお面を被せた。そして首にひらひらとする風呂敷を巻いてやった。
「よーし突撃じゃ〜!」 「おぉー!」
ハッハッハッハハとハカセが言いながらシーソーを漕いだ。 トロッコは加速していった。
気持ちい〜! おもしろい〜!
トロッコはどんどん走っていった。
突然荒井君が大きな声で叫んだ。
「げぇー!やばい線路が無い!その先は崖になっている。」
「えぇ〜?!どうしよう〜!」
ブレーキなどついていない、線路からはずれた。そして勢いよく僕らはトロッコから放り出された。
「うわ〜!!」
「うわ〜!!」
「うわ〜!!」
「キャイン!!」
と3人と一匹は崖に落ちていった。
気がつくと真っ暗な洞窟のような所だった。掘り尽くした後の鉱山のトンネルに落ちてしまったようだ。
しばらくすると、向こうに薄明かりが見えた。近寄って行くと光苔(ヒカリゴケ)だった。 僕らは光苔を体に塗ってトンネルを手さぐりで歩いた。
上から水が、ピチャンと僕の背中に落ちた。
「ぎゃー!」と思わず叫んだ。 ハカセと荒井君も、つられて「ぎゃー!」と叫んだ。 するとその声にバタバタと無数の何かが飛んで来た。
「ゲェーコウモリだ!気持ち悪い」
僕らは外に出る道を探してどんどん歩いた。何か向こうに四つ光っているものがあった。
僕らはその四つの光のする方へ歩いた。
するとトンネル中に響き渡るほどの声で、
『お前達、俺の住みかに何しに来た。』
と恐ろしい声でそいつは言った。 そしてその声の主は大きく立ち上がった。
見上げるとその四つの光は目だった。 そいつは身の丈3メートルはあるだろう。 大きく、そして全身真っ黒だった。 頭の上に耳が付いていた。 コウモリが数百匹飛び回っていて、そいつの合図で僕らに襲いかかって来た。
僕らはビックリして、逃げたかったが何処に逃げれば良いのかわからなかった。 僕はその四つ目の黒ずくめの怪人に掴まれ上の方へ持ち上げられた。僕は苦しくてもがいていたら後ろの方から
ハッハッハッハハ・・・とトンネル中に響き渡るほどの声が聞こえた。
一匹の銀色のコウモリがジョンの方に飛んで来た。 ジョンが見る見るうちに変身して人間程の大きさになり、姿は王銀バットになっていった。 いや王銀バットならぬジョンバットだ。 ジョンバットはマントをひるかえして飛び立つと、黒ずくめの四つ目に向かってバシッとパンチをくらわした。
黒ずくめは、『うわっ〜、』とビックリしたのか僕を離した。 ジョンバットは僕を素早くキャッチしてくれて静かに降ろしてくれた。
黒ずくめが攻撃してきてジョンバットを吹き飛ばした。 しかしジョンバットはすっくと立ち上がって黒ずくめの腹を蹴り飛ばして頭にチョップした。 黒ずくめも手下のコウモリを使ってジョンバットを苦しめた。 ジョンバットはコウモリを網のようなものに捕まえて壁に吊るした。一網打尽だ。・・・?
『オノレ〜!』と悔しがる黒ずくめはジョンバットにパンチをしたが、ジョンバットはビクともせず逆に黒ずくめに数発のチョップやキックをして黒ずくめを倒した。
黒ずくめが 『助けて下さい』 と謝ったので
僕が
「許してやるから僕たちをここから早く出せ!」
と言った。すると黒ずくめは 『わかりました。』
とショボっとて何か呪文のようなものを唱えた。 『アラアラー オラオラー サラサンバァー・・・』
すると僕らは元のトロッコ置き場に戻っていた。
ジョンバットも元の犬の姿に戻っていた。
「こらっー!!!」
と声がしたので振り返ったら
やばい、交番の野口さんだった。
「お前らここに入ったらいかんじゃろが、ここは危ないから早く出なさい」
と怒られた。
当然、今日帰って父ちゃんと母ちゃんに、しこたま絞られるに違いない。
『あぁ〜嫌だな〜、でもなんか楽しかったなあ〜』
僕はジョンを見ながら『お前本当は王銀バットだったのか?』
と問いかけたがジョンはいつものように
ワン!
と答えるだけであった。
そうあれは僕が小学二年の夏休みの出来事だった。
僕達の夏休み
続く。
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