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作品名:僕達の夏休み 作者:りじょうみゆき

第5回   5話 僕達の夏休みは終わらない お相撲さん編
5話 僕達の夏休みは終わらない お相撲さん編



僕は今コンサートでアンコールで

『僕達の夏休み』

を歌っている。この歌を歌っていると、いつも思い出す。

麦わら帽子のおじいさん
可愛がっていた柴犬
カッチョ罠
鮒釣り
ウナギ捕り
竹馬
メンコ
山の隠れ家

それから・・・

あれは小学二年生の暑い夏の日だった。

「拓ちゃ〜ん!」

「おぉー!今行く」

犬のジョンがワンワンと庭先で吠えていた。

「悪いなジョン!今日は連れていけないんだ。家で待ってな」

とジョンの頭を撫でてやった。

今日は荒井君とハカセと夏祭りに行く約束をしていた。

夏祭りは神之池神社(コウノイケジンジヤ)の境内でヤグラの上で太鼓を打って
その下で盆踊りを踊る。

毎年お祭りには相撲の力士さんも巡業で来ていた。
町を上げての大イベンドだ。
僕等は、『南 琴の風』(ミナミ コトノカゼ)という力士に憧れていた。

その 南 琴の風が今日やってくる。
嬉しくて朝から土俵の一番前で僕らは席を取っていた。
同じクラスのルリ子ちゃんもやって来た。

「拓ちゃん今日はお相撲さん何人来るん?」

「わからん 一杯来るって母ちゃんが言ってた。俺、南 琴の風だけでも見れたら嬉しいんだ」

と僕はルリ子ちゃんに言った。

ここは福岡の小さな炭鉱町。
僕は福岡南小学校の二年生だ。
名前は
『井上拓郎。通称、拓ちゃん』

幼友達のハカセと荒井君と毎日遊んでいた。

今日は夏祭りで、朝からワクワクだった。
催し物などめったに無いが、
この夏祭りに合わせて相撲の力士さん達が毎年やって来る。

炭鉱の会社の社長さんが相撲が大好きで、毎年夏祭りに合わせて呼んでくれているらしい。
なんて素晴らしい社長さんなんだろうか!
僕は大きくなったら炭鉱の会社の社長さんになりたい。

去年、南 琴の風の相撲を見て僕は一目でファンになった。
そして、ハカセや荒井君ともよく相撲をとった。
僕はいつも 南 琴の風を名乗って相撲をとった。

大好きな南 琴の風に会えると思うと、ワクワクで、朝から一番前の席を陣取っていたのだ。

ふと後ろを見るとルリ子ちゃんがふたつ年上の小杉ちゃんに泣かされていた。
僕はルリ子ちゃんが好きだったので、ルリ子ちゃんを泣かす小杉ちゃんに腹が立って突進して行った。
小杉ちゃんは突進して来る僕の方に下駄を履いた右足をお相撲さんがシコを踏むように腰の高さまで上げた。
小杉ちゃんは大きかったので、その右足に履いていた下駄が勢いよく僕の胸元に食い込んだ。

うぅ、ぅ、、、

あっけなく僕はその場に倒れこんだ。
ハカセと荒井君が

「拓ちゃん大丈夫か?」

と二人の声が遠くの方から聞こえた。

気がつくと二人が家まで抱えて連れて帰ってくれたらしく、僕は家の居間に寝かされていた。

母ちゃんが横にいた。

「拓!大丈夫か?誰にやられたんか?」

と聞かれて

四年のコスギ・・・。

と答えた。
母ちゃんは、カッとなって寝ていた僕を起こして、小杉ちゃんの家まで連れて行った。
だが小杉ちゃんも小杉ちゃんの親も誰も居なかった。
母ちゃんの怒りは収まらず、
小杉ちゃんの担任の山本先生の家に怒鳴り込んだ。

山本先生は書道の先生で物静かでとても優しい、そして美人で、僕のマドンナ先生だった。

母ちゃんは山本先生に向かって、

「これ見て下さい。!!!
お宅のクラスの小杉にうちの子がこんな事されたんですよ。!!!」

と、
僕の服をめくり胸を見せた。
さっき小杉ちゃんに蹴られた下駄の後がクッキリ付いていた。
山本先生は物静かに、

「はい 、それは大変でしたね。
井上君。大丈夫ですか?」

と優しく声を掛けてくれた。
僕は

「はい、、、」

と小さくうなずいた。なんだか恥ずかしかった。

母ちゃんの怒りはそれでも収まらなかった。
プンプンと鼻息も荒く、小杉一家を探した。

道を歩いていると、
小杉ちゃんに泣かされていたルリ子ちゃんと出会った。
母ちゃんがルリ子ちゃんに聞いた。

「ルリ子ちゃん小杉に、泣かされたんだって?」

そう聞くとルリ子ちゃんはキョトンとして

違うよ。

と頭を横に振った。

「うちが、髪飾りをなくして泣いていたら小杉さんが一緒に探してくれようとしていたの、そしたら
いきなり拓ちゃんが突進して来て
小杉さんが相撲とりのように足あげたら、
拓ちゃんがその場に倒れたんよ。」

と話してくれた。
母ちゃんは慌てて
山本先生の家に戻って
勘違いだった事を伝えた。
が、もう遅かった。
山本先生が小杉ちゃんの母ちゃんに電話した後だったらしい。

僕と母ちゃんは急いで小杉の家に向かったが、またもや小杉の家には誰もいなかった。

仕方ないね。
明日にでも母ちゃんが謝っておくから、
今日は南 琴の風が来る日じゃったね
早よ〜神社に行かんば、

と母ちゃんと僕は神社の相撲がある土俵まで行った。

しかしもう、相撲は終わっていた。

小杉ちゃんと小杉の、母ちゃんもその祭りに来ていたので
母ちゃんと僕は
小杉一家に謝った。

小杉ちゃんは全然怒ってなかった。
小杉ちゃんの母ちゃんも全く怒ってなかった。
それどころか小杉ちゃんが

「拓ちゃん痛かったやろ〜
ごめんな〜」

と言ってくれた。

ハカセと荒井君もいた。ルリ子ちゃんも来ていた。
相撲は見れなかったが、
みんなで盆踊りをした。



小杉さん
あの時は、すみませんでした。



僕達の夏休み

続く。







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