3 話 カッチョ罠編
夏休みの宿題もやっと終わり今日は夏休み最後の休みを楽しむ為に、荒井君とハカセと三人で山の基地に行った。
そして山鳥のカッチョを取るためのカッチョ罠を仕掛けた。 鳥を取って何かするわけではないが、ただ罠に何かが、かかる事が楽しいのである。
カッチョ罠とは 山に住む鳥でカッチョは、雀によく似ている、ツグミ科で別名腹が白いので、シロハラと言う鳥だ。この地方ではキッチョ、キッチョと鳴くところからカッチョと呼ばれていた。そのカッチョを取る罠で枝を曲げてバネを作り米のエサを巻くエサを食べにカッチョが食べに来るとバネが外れて仕掛けた丸太の木が落ちて鳥を挟むようになっている簡単な仕掛けである。
だがなかなか、カッチョは罠にかからなかった。 少し待つ事にしたトランプをしたりメンコをしたりしながら三人で遊んでいた。
母ちゃんに、むすびを作ってもらっていたので、むすびを食べて、昼からは忍者ごっこをして遊んだ。 しかし、なかなかカッチョは罠にかからなかった。
少し雨が降ってきたので三人は基地で待機することにした。 じっとしていると昨日必死で遅くまで宿題をしていたせいか、ウトウトと眠くなってきた。しばらくすると。
雨も止んだらしく、日が差してきたのでなんとなく目が覚めた。
『おやおや、なんか重いぞ』
バタバタと僕は暴れた。 なんと、丸太に挟まれていた。 大きな目玉が僕の方をジロジロ見ていた。 そして鳥籠のような所に押し込められた。 ゆらゆら揺られて、ある家まで着いた。 よく見るとその家はハカセの家だった。 ハカセは自分の部屋の窓極に鳥籠を吊るして、僕にこう言った。
「待ってなすぐ餌を持ってきてやるからな」
と、言われても、僕は何がなんだかよくわからなかった。 身体を見ると僕はカッチョになっていた。 そしてハカセに捕まり鳥籠に入れられていた。 何故だ何故だ。訳がわからない。
ハカセが粟の様なものを持ってきて小さな棒の先につけて鳥籠のすき間から僕に食べさせようとした。 僕はバタバタと騒いだ。
「ハカセ!ハカセ僕だ!僕だ。拓郎だよ」
と叫んだがハカセの耳には、キッチョ キッチョとしかし聞こえてないようだ。
騒ぐのも疲れて、僕はおとなしくしていた。 ハカセは僕をじっと見て、
「お前なんだか拓ちゃんに似てるな?」
とつぶやいた。
『当たり前だ、僕は拓郎だからな』
泣きたくなったが鳥は涙は出ないのだろう。涙が出なかった。 しばくしてハカセの家の父ちゃんが帰ってきた。 どうやら晩御飯のようだ。 ハカセは食卓の部屋へ行った。
しばらくすると食卓の方から怒鳴り声と共にガチャーン ガチャーンと食器などを割る音がした、そしてガタンと大きな物音も同時にした。 慌ててハカセが部屋に入ってきた。
どうやら父親に殴られたのであろう、顔にあざが出来ている。 ハカセの母ちゃんと父ちゃんが、大きな声で喧嘩していた。 ハカセは耳をふさいで小さくなって震えていた。 こんなハカセを僕は見たことがなかった。 そういえば、たまにハカセは顔にあざを作って学校に来たことがある 。 僕が
「どうしたのか?」
と聞くと家の前の段階で転んだ、とか話をいつもはぐらかしていたが、 もしかしていつもこうして父親に殴られていたのではないだろうか?
僕の母ちゃんから、聞いた事があるが、ハカセの父ちゃんはとても親切で優しく、子煩悩な人だったが、長女の道子ちゃんを亡くしてから、酒を浴びてはハカセの母ちゃんに暴力を振るうようになったそうだ。 道子ちゃんとはハカセが生まれる4年前に生まれてヨチヨチ歩きの時ハカセの母ちゃんが一緒に野良仕事に連れて行って、目を離したすきに近くの川に落ちて亡くなったらしく、その事でハカセの父ちゃんはハカセの母ちゃんを酒を飲んでは怒鳴り殴りしていたそうである。 しかしまた身ごもって道子ちゃんの代わりに生まれて来る子が女の子を望んでいたのに、男の子だったものだからハカセの父親は全くハカセを可愛がらなかったそうだ。そして段々と母親だけでなくハカセにも、
『なんでお前は男の子なんだ!道子じゃないんだ!』
とハカセを殴るようになったらしい。 いつも元気の良いハカセからは想像もつかなかったので、母ちゃんからそんな話を聞いていてもあまり気にしてなかった。 やっぱりハカセは家で父親に殴られていたんだな、と思った。 ハカセは膝を抱えて震えていた。 ハカセは僕の方を見て、
「なんだかお前を見ていると拓ちゃんといるみたいで安心するよ」
と鳥になった僕に、言った。
僕はハカセが安心するならずっと鳥のままでも良いと思った。
ハカセは何故『ハカセ』と言うあだ名になったかと言うと、一つの事に集中して、物事を深く研究する事が大好きなのだ。興味を持てば一晩中でも研究していた。だからみんなからハカセと呼ばれていた。 だが、今日わかった。ハカセは父親と母親の喧嘩が絶えられなかったので耳栓をして何かに熱中し現実から目をそむけていたかったのだろう。 いつも明るいハカセだったから、僕はそんなハカセの哀しみは何も知らなかった。
一夜が過ぎて、ハカセの母ちゃんがハカセを起こしに来た。 そして僕を見つけて
「諭吉、カッチョは山鳥だから人に飼われたら死んでしまうから早う逃してあげなさい」
ハカセは
「うん でも僕この鳥はなんだか拓ちゃんに似てるからこの鳥を見ているだけでも安心するんだよ」
とハカセが言った。
「そうなんだね ごめんね諭吉ほんとは父ちゃんも諭吉の事は好きなんだけど、どうしても死んだ道子ちゃんの事が忘れられなくて。 ついお酒を飲んで暴れてしまうのよ。母ちゃんが全部悪いんよ。ごめんね諭吉」
「大丈夫だよ母ちゃん。 俺、母ちゃんも、父ちゃんも大好きだから、俺学校に行くよ。 そして、このカッチョを離すよ」
と言ってハカセは鳥籠から僕を掴んで僕を逃してくれた。
「バイバイカッチョもう捕まるなよー」
僕はバタバタ羽を動かした。そしてヨタヨタとしながら飛び立った。久しぶりに空を舞った。 雨も止んで空がキラキラ光っていた。
眩しかった。その眩しさに目が覚めた。目の前にいつもの大きさのハカセの顔があった。
『おっ、僕は元の人間に戻ってる。 さっきまでいた基地だ! 夢か〜?』
僕はハカセの顔をじっと見た。 ハカセが、
「なんだよ拓ちゃん俺の顔になんか付いてるか?」
と聞いた。
「いやなんも無い」
「あーカッチョも取れんかったな、明日から学校かー」
僕たちの3年生の夏休みはこうして終わった。 その後、僕たち3人の歩んだ人生は・・・
僕達の夏休み 続く
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