20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:僕達の夏休み 作者:りじょうみゆき

第2回   2 夏休みの宿題と野球編
僕達の夏休み
2 夏休みの宿題と野球編




夏休みも10日が過ぎた8月の初め
母ちゃんが言った

拓 、ちったぁ〜宿題は済んだんかね〜。

と聞かれ僕は、

はい、大丈夫で〜す。

と答えた。

「それならええが、絵日記とか天気を書くようになってるから、その日のうちに書かないと雨だったか晴れだったわからなくなるからね〜毎日ちゃんと書かんと駄目ばい」

と母ちゃんが言った。

『はいはい、そうなんだよね〜
一学期の終わりに去年と比べると半端なく夏休みの宿題が沢山出たんだよね。
算数ドリルやら漢字ノートやら
絵日記やら、おまけに、夏休みの友、と言う勉強一式のノートがあった。何が夏休みの友だよ、僕にしたら夏休みの地獄だ。
だが僕には地獄に、仏の荒井君がいる。荒井様々だ。
なぜかと言うと、荒井君は坊ちゃん刈りで少し痩せていて眼鏡を、掛けていて、そして、頭が良い。
一年生の時も二年生のときも全て荒井君のドリル等を丸写しさせて頂いた。
今年もハカセと夏休みの終わり頃には宿題を見せてもらう事になっている。
毎日三人一緒だから絵日記も同じ内容で良いのだ。

だが、荒井君は勉強はできるが運動が苦手だ。運動会のときの行進も右足と右手が同時に出るタイプで、ツゥーステップが踏めずフォークダンスを踊らせると足が空回りしてこけてしまう。だから女子からは荒井君と踊りたくない、と言われたりする。
そんな荒井君ではあるが優しいし勉強ができるので学級委員長に推薦されていて、皆んなから頼りにされている。
一番頼りにしているのは、僕とハカセだ。
だから僕とハカセにとっては荒井様々なのである。

『僕の友よ・・・』

夏休みの後半になると、野球の練習に駆り出された。
なんせ、ここ福岡南小学校は全校生徒合わせても100人も居ない小さな学校で、その中で男子は40人程しかいない。
毎年夏休みには隣町の小学校と野球の試合があるが、今年は丁度6年生の全員が課外授業か?臨海学校か?よくわからないが、奈良県の寺まで修行に行って6年の男子はいない。
また5年生や4年生も各々の家庭で夏休みの旅行でほとんど男子がいなかったのだ。
それで僕達はまだ3年生だがメンバーが足りない為、3人も野球の練習に駆り出されたのだった。

ハカセはともかく荒井君は全く野球などしたこともなく、キャプテン(小杉ちゃん)に、

とりあえず荒井、ライトの守備に付け!

と言われても荒井君はライトの位置もわからない。
僕が一緒にライトまで行く、

「荒井君、ここに来たボールを拾って内野に投げ返すんだよ。」

と教えた。
荒井君は、「わかった」と答えた。

カキーンとライトへ、フライが上がった。
僕はお手本にオーライオーライと言って取って見せた。
そしてピチャーまで投げ返した。

「こうやるのさ」

と教えたら荒井君は、うんわかった。と言った。

またカキーンとライトへ、フライが上がった。
荒井君はオーライ、オーライと言ってグローブを構えだが、ボールは3メートル先に落ちた。

それから幾度かフライが上がったが荒井君は一度も取ることは出来なかった。

そして今度は打つ練習だ。
荒井君がバッターボックスに入った。
ピチャーがボールを投げても荒井君は全く動かなかった。
僕は、

「荒井君ボールをよく見るんだよ!」

とベンチから声を掛けた。

「うん、わかった」

と荒井君は答えた。
ピチャーが投げてキャッチャーのミットの中に入ったそのボールを荒井君はずっと見ていた。

「荒井君!ピチャーが投げたらそのボールを見てバットを振るんだよ」

「うん、わかった」

と荒井君は言った。

ピチャーがボールを投げた、ビュンビュンと何度もバットを振った。カスリもしない。完全にアウトだ。

こうして荒井君のバットには一度もボールは当たらなかった。無理もない。

そしていよいよ試合の日がやって来た。
同じクラスのルリ子ちゃんが応援に来てくれていた
僕はテンションが上がった。

試合の結果は散々であったが、なんだか爽やかな感じだった。

5年生の小杉ちゃん〔キャプテン〕が僕達の前に来た。

「お前らが、いなかったら試合にも出られなかった。有難うな!」

とお礼を言われた
僕等は緊張して

「はい、有難うございました」

と一礼した。

何より僕が2ベースを打った時、ルリ子ちゃんが飛び跳ねて喜んでくれたのが一番嬉しかった。

家に帰り、風呂に入って晩御飯を食べながら母ちゃんと父ちゃんに今日の活躍を話した。
特に父ちゃんは、

「良くやった」

と褒めてくれた。

父ちゃんは昔から野球が好きで僕とよくキャッチボールをしてくれていた。野球の試合があればラジオで聴かせてくれたり、たまに本物の野球の試合に連れて行ってくれた。だから僕は野球のルールやプレーがわかるので、突然野球に駆り出されても少しも動揺せず活躍出来たのだ。

盆も過ぎて少し涼しい風が窓から入って来た。

コオロギがキリキリキリっと鳴いている

『あぁー
そろそろ夏も終わりだな〜〜
宿題も少しはしとかないとな〜
明日荒井君ちに行って宿題見せてもらおうかな〜』

と思っていた。

その時電話がリーンリーンと鳴った。
今の電話と違ってまだ交換局を通す電話だった。
母ちゃんが電話に出た。

はいもしもし、はい、へ、の何番です、、ホ、の何番から電話です
・・・としばらく母ちゃんが誰かと話をしていた。

「拓 〜荒井君から電話よ〜」

と母ちゃんが僕を呼んだ。荒井君から電話がかかってくるなんて珍しい。僕は電話に出た。荒井君が泣きじゃくりながら何かを言っているが言葉になっていない、よくわからない。

「荒井君どうした?よく聞こえないから今から行くから待ってて 」

そういって慌てて荒井君のうちへと向かった。母ちゃんも心配して一緒に付いて来てくれた。

まだ街灯などさほどない頃で外は月明かりしかない。母ちゃんが後ろから懐中電灯を照らしてくれた。

荒井君の家の前に来ると人集りが出来ていた消防車も来ていた少し焦げ臭い。火事か?!
ハカセも来ていた。その人集りの中から荒井君が泣きながら出て来た。

「荒井君どうした?」

「これ、・・・」

と荒井君が見せたのは、燃えかけた
『夏休みの友』であった。

「宿題全部燃えちゃった。ごめんね。
明日二人に見せるために今日宿題してたんだ。
そしたら、この間のトウモロコシを焼いたマッチが出て来て、なんとなく、擦っては消して、擦っては消してしているうち、風が吹いて来てカーテンに燃え移って、消そうとして慌てて机にあった宿題のノートやドリルでバタバタしたいたら宿題が燃えちゃったんだ。
母ちゃんと父ちゃんがすぐに消し止めてくれたからカーテンしか燃えなかったけど近所の人が消防車呼んでくれて、でも宿題が・・・」

「何いってるんだ、
荒井君が助かってよかったよ。
宿題なんてチョチョイのチョイでやってしまうから心配するな」

と僕は荒井君を慰めた。
心の中は複雑であった。
帰り道母ちゃんが、

「お前やっぱり夏休みの宿題まだやっとらんかったんか!」

「うん荒井君に見せてもらおうと、おもっとったから全然しとらん〔やってない〕」

「困った子じゃね〜母ちゃんも手伝ってあげるけん明日から遊びに、行かんで宿題しなさいよ」

と母ちゃんに、言われた。
どうやらハカセも同じようであった。

残りの夏休みは宿題に追われながら、そうして過ぎて行くのだった。


僕達の夏休み

続く


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1292