僕達の夏休み 1 トウモロコシ編
僕は、蝉時雨の中、汗を拭きふき坂道を家に帰って行く、犬のジョンが庭先でワンワンと僕の帰りを喜んで迎える
「ジョン!ただいま、!待ってろすぐ餌を持ってくるからな」
と、ジョンを撫でてやった。玄関のガラス戸をガラガラと開け、
「ただいま〜母ちゃん腹減った〜〜」
と、靴を脱ぎ捨てて、居間のドアを開ける。 普段ならまだ仕事から帰ってないはずの父が鬼の形相で立っていた。 ドスッと腹を足で蹴飛ばされた。そして胸ぐらを掴まれ、バシッ、バシッと往復ビンタをされボコボコにされた。あまりの出来事に僕は、
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と父に謝った。きっといたずらがバレたのだろうと思ったが、心当たりがあり過ぎて、どの悪戯かわからなかった。母ちゃんに助けを求めようと、母ちゃんの方を向いたら母ちゃんは、ベーっと舌を出した。告げ口したのは母ちゃんかぁー なんという母親であろう。 殴る蹴るは、今の時代なら完全な虐待である。 だが普段は温厚な父が、ここまで怒るのだから相当である。
一番身近ないたずらは今朝の佐藤さんちの事だろうと思った。 父は何も言わず僕の首根っこを捕まえて、僕は靴も履かないまま、ひこづられて佐藤さんちまで連れていかれた。
すでに、友達の荒井くんとハカセが父親と一緒に、佐藤さんの家の前にいた。
『やっぱりか〜〜ぁ〜』
と思った。
事の発端は去年の2学期 荒井君〔荒井新一君〕が夏休みに東京に行って、夏祭りで食べた、焼きとうもろこしがとても美味しかった。と話してくれたのを聞いて、ハカセ〔松永諭吉君〕とその、焼きトウモロコシを食べたいと思ったのだった、
ここは九州の田舎の炭鉱町 時は昭和35年、高度成長期時代で目まぐるしく色々な物が変わる時代に僕達は育った。
僕は井上拓郎 〔通称、拓ちゃん〕、福岡南小学校の三年生である。荒井くんとハカセは近所で幼い頃からよく遊んだ、いわゆる竹馬の友だ。
この町にトウモロコシが有るのは佐藤さんちだけだった。 僕らは去年、佐藤さんちのトウモロコシをもらいに〔黙って〕行ったが、すでに刈り取られた後であった。どうやらトウモロコシは7月が最盛期らしく2学期の始めの9月には既に無かった。
そして僕らは一年後の今日、夏休みの初日に佐藤さんちのトウモロコシを頂きに行く計画を立てていた。
ひと気の少ない朝6時ラジオ体操に行く振りをして家を出た。 そのまま荒井くんとハカセと合流し誰も居ない佐藤さんちのトウモロコシ畑に進入して各々一本づつ拝借した。 トウモロコシは元気よく育っておりポキッといい音がした。うす緑の葉っぱを向くと黄金色したトウモロコシがプツプツとしていた。
「うまそう〜〜」
だが、まだ食べない。 僕達はそのトウモロコシを持って山の基地まで行った。僕達手作りの隠れ家で、なんでも揃っている。
今日は家からマッチをくすねて来た。 枯葉や枯れ木を集めて火をつけた。 火事に、ならないようにバケツに水も用意していた。パチパチと火が燃えた。 このままトウモロコシを火に入れることも考えたが、
「トウモロコシには醤油を垂らして焼くととても美味しいよ。」
と荒井くんが言ったので、トウモロコシに、竹串を刺して炙るように焼いた、焼けた頃に醤油を少し垂らして更に焼いた。実は醤油も家からくすねて来ていた。 醤油の香ばしい、いい匂いだ。 トウモロコシから焼けた合図で中から汁がじわじわ出て来た、少し焦げて来たので僕らはトウモロコシをがぶりと食べた。 口の中にトウモロコシのプツプツとした食感と口一杯に甘い味と醤油の香ばしい香りがして、なんとも言えない美味しさだった。 綺麗に黄色いプツプツを食べた。 残った芯のところは埋めておいた。
「もしかしたらトウモロコシがここに生えてくるのではないか?」
とハカセが言うので、試しに埋めてみた。 よくスイカの種を縁側からペッペッと飛ばしておくと庭にスイカの芽が出て来ていたのでトウモロコシも同じだと皆信じた。
僕らはトウモロコシを食べた後、昼ご飯を食べに一度、家に帰った。
母ちゃんには、ラジオ体操が終わって少し遊んだ事にした。なんとか母ちゃんをごまかした。 だが、あまりにも僕が必死で言い訳をしていたので、母ちゃんは少し変な顔をしていたが、そそくさと昼ご飯を食べて、また荒井くんとハカセと、フナ釣りに出掛けた。
そして夕方帰ると、このありさまである。
三人は佐藤のお爺さんの前に土下座して頭を父親から地面にこすりつけられた。
「本当に申し訳ございませんでした」
と三人は謝った。 そして父親達も佐藤さんに謝った。 佐藤のお爺さんは笑いながら
「よかよか〜〔良いよ良いよ〕 子供んするこっちゃけん元気があって良かとよ〜、ほれっ・」
と三人にトウモロコシを二本づつ手渡してくた。
「茹でて食べても美味しかけ〜皆さんで食べなさい。 あんた達も食べたくなったらいつでん食べに来なさい」
と佐藤のお爺さんは優しかった。
その後、佐藤さんちの前を通ると、その度に佐藤さんが僕達を見つけては、
「おーいトウモロコシはいらんか〜」
と大きな声て言ってくるので
僕達は「イエ結構です」
と足早に佐藤さんちの前を通り過ぎた。
それが、毎回言われると、なんだか気まずくなった。そして、もう佐藤さんちの前は通らない事にした。 だからもう佐藤さんに、会うことも無かった。
しばらくして、たまたま佐藤さんの家の前を通ったら、トウモロコシ畑にブルドーザーが入って畑を潰していた。
家に帰って母ちゃんに聞いたら、佐藤さんは亡くなったらしく、都会に住んでいる、息子さん達が佐藤さんの家と畑を、なんとかと云う会社に売ってしまったというのだ。
佐藤さんちと畑には大きなビルを建てるようである。
田舎の町にも近代化の、波が押し寄せていた。
僕達の小学三年生の夏休みはまだ始まったばかりだ。
僕達の夏休み 続く
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