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作品名: 作者:りじょうみゆき

最終回   単線のトコトコ行く列車の駅と少女のお話




この駅に立つのは何年ぶりだろうか?

この駅には学生時代に毎日お世話になった。

実家に帰るのはいつも車だったので、この駅に来るのは、かれこれ40年ぶりかな?
主人が、たまには列車で行きたいと言ったので久しぶりに列車に乗って来た。

実家にはもう父も母も亡くなって兄夫婦が住んでいる。

今回は母の18回忌に訪れた。

この駅は40年前と少し変わった。

木造の建物の外観は変わりはないが、置かれていた待合室の椅子も、売店もなくなっていた。
がらんとした待合室があるだけ。

切符の販売機が一台あり
駅員さんのいた部屋はカーテンが閉められていた。

無人駅となっていた。

主人と実家までの道のりを、この駅の事や昔の事を話しながら歩く。

私がこの町に引っ越してきたのは、高校1年生の夏だった。

それまでは本線の列車に乗って学校に通っていたので
この路線で通学して来る学生に対して少し優越感を持っていた。

なぜなら
本線は10分おきに列車が来るのに
この路線は朝夕なら1時間に3本の時もあるけど
昼の時間は2時間も待たないと乗れなかったりするぐらいだった。
この路線は田舎のイメージしかなかった。

初めてこの駅から列車に乗った時は、びっくりの連続だった。

まず乗ろうとしたらドアが開かない

『半自動ドア』

と書いてある
どういう意味かわからなかったのでボーッと立っていたら
後ろの人がドアを開けてくれた。

どうやら乗るときは手動のようだ。

本線は6輌編成か8輌編成なのでホームの端から端まで止まる事もあるが、この列車は2輌しかない。

しかも線路は単線。
単線とは
登りも下りも同じ線路を走る事。
なのですれ違う駅で時間調整をする。
その待ち時間が15分ぐらいの事もある。
そんな単線の列車に乗って、高校1年の二学期から通い始めた。

この駅から朝7時30分発の列車に乗る。
2輌編成の列車は学生達で一杯だった。

その沿線には、
高校がいくつかあったので、いろんな学校の学生が乗り合わせた。
その時間に間に合わなかったら次は8時10分しかないので、乗り遅れると、完全に遅刻となるので、
みんなその列車に遅れないように乗るのだった。

列車に乗ってしばらくすると
長〜いトンネルになる。
夏はクーラーなどはなく、扇風機しか回ってないので乗客は窓を全開にして乗る。
さすがにその長〜いトンネルの時だけは窓を閉める習慣がある。

トンネルの中にいても学生達はガヤガヤと賑やかに話をする。

トンネルを抜けると山沿いのカーブを曲がり、
橋のような橋でないよくわからない所を通過する。

田舎なので田んぼか山しか見えない。
いくつかのカーブを曲がると次の駅になる。

当時の私が乗る駅には駅員さんが常駐しており、改札口で切符を切ってくた。
私は定期を見せて乗った。
しかし次の駅ではほとんど人が乗ってこない。
人口が少ない町のため、乗客がほとんどいない。
次の駅は駅員さんが居ないので無人駅だ。

だが私はその駅が好きだ。

春には桜が窓から見ても溢れるほど咲き
誰が手入れをしているのかわからないけど、沢山の花がホームに咲ている。
秋は紅葉が綺麗で
冬は私の住む町よりも早く雪が積もる。
雪景色もとても好きだ。

そんな無人駅の事を好きだったけど、私の住む町より田舎だな〜、と少し優越感を感じながら乗って景色を眺めた。

しかし、私が朝晩乗り降りした、この駅も無人駅になっていたとは・・・

あの2輌編成だったものが今や1輌だけになっていた。
乗り鉄の主人はこの列車がとても気に入ったらしく

「ディーゼル車かぁ〜たまらんね〜」

と言う。
私はディーゼル車がどういうものか知らないが、
とにかく目的地まで乗れたらそれで良い。


列車を降りる時は運転手さんの所に運賃箱があり、そこへ切符か現金を入れる。

現代の自動改札のように
「ピー」では降りられない。

後ろの人も初めて乗ったのか
ピーっと通す所を探していたが
運転手さんに

「すいません現金払いなんで、220円になります。」

と言われて、慌てて現金箱にお金を入れた。

そうなんです。本線と大きく違うのはここなんです。

この路線は鉄道が民営化になった時、赤字で廃線になる予定でした。

しかしまだまだ学校に通う子供達もいたので、沿線の住人達は鉄道会社に嘆願してなんとか残してもらったのです。

その時から鉄道会社の運営ではなく地域運営となったのです。

だから
鉄道会社共通の『ピー 』は通らないのです。

私は歩きながら、主人に学生の頃の話を始めた。

「私ね〜高校1年生の夏からここに引っ越してきたんだけど、田舎だから、ちょっと嫌だったんよ。」

「えーこんなに素敵なとこなのに」

「だってお母さんと2人で暮らしていたのに、ここに引っ越した途端いきなりお兄ちゃん家族と暮らす事になって、大家族になってね、なんだか居場所が無くてね、
自分ちじゃ無い感じがしてたから〜」

「そうか〜」

「その頃バレーボール部に入ってて、中学の頃はバレー好きだったんだけど、高校になると好きなバレーも先輩が厳しくて、ちょっときつくなってた頃だったんよね〜」

「ふぅ〜ん」

「朝練とかあった時、この列車の朝一番に乗れなくて2番に乗ったら結構遅くに学校に着いちゃって、朝練のネット張りに間に合わなかったのよ。」

「先輩にこっぴどく叱られて、それから先輩に目をつけられて何かといじめられ始めて・・・」

「う〜ん・・・」

「帰りは部活が終わるとお腹すくので、みんなはおやつとか買って食べて帰ってたけど、それしてたら、帰りの列車に間に合わなくなるからおやつも食べないで帰ってたのね。」

「お腹すくね」

「うん、冬とか寒くて暗くてこの道を帰るのが怖くて〜」

「うん」

「駅前の商店街も早くに店を閉めるし、こんな田んぼのあぜ道を通るとなんか怖くて・・・」

「うん」

「ある日、変な男の人に声かけられて慌てて走って帰った事があってね〜」

「え〜っ!怖いね〜」

「お母さんに話したら次の日から田んぼのあぜ道の所まで迎えに来てくれるようになったんよ。
多分私が着く列車の時間に家をでてたんだと思うんだけどね〜、
ちょうど駅と家の中間あたりでお母さんと出会うのよ〜」

「うん」

「その帰る道でお母さんと色んな話しをしたのよ〜。
家に帰っても大家族だからお母さん忙しくて私と話す暇がなかったから帰り道に話せて楽しかったの。
父もその頃転勤先から戻って、定年になったから家にいたし、甥っ子や姪っ子が、ちっちゃかったからお風呂入れたりご飯作ったり、洗濯機も1日3回も回してたらしいの 」

「そうなんだ〜お母さん大変だったんだね〜」

「うん、私ねそんなお母さんの苦労も知らなくていつももんくばっかし言ってたのよ。」

「なんで?」

「うん、わがままだったからかな〜。
ある日お父さんに自分の洗濯物ぐらい、たたみなさい。って言われたんだけど私が無視してたから、お父さんにごつんと叩かれて後にも先にもお父さんに叩かれたのはあれが一回限りだったな〜。
私ね思春期だったから叩かれた事にショッックで
『好きでこんな家にいるわけじゃない!』
って思わず言っちゃったの」

「・・・」

「でね〜お母さんが
『叩かんで〜』
と言ってかばってくれたりしたんだけど、私も反抗的だったから、すぐに自分の部屋に閉じこもってむくれてたんよ。
その後ね。お父さん脳梗塞で急に亡くなったの。
謝る事も出来なかったのよ〜」

「・・・」

「お母さんに帰り道のほんの15分ぐらいだったけど色んな事を話したんよね〜。
帰り道の15分だけは私だけのお母さんだったから。」

「そうか〜」

「ある日ね、部活の事を話したの、先輩からのいじめが辛くて、でも後輩達を残して辞めるのは可哀想で、泣きながらお母さんに話したの」

「うん」

「お母さんは後輩の事よりもそんなに辛いなら部活は辞めたら?と言ってくれて部活は2年生の夏頃やめちゃったの」

「うん」

「でね〜他にやりたい部活もなかったから帰宅部って事で授業が終わったらすぐ帰るって感じになってね。」

「うん」

「それから、同じクラスのヨシミちゃんとトミちゃんと3人で帰るようになって列車の中で楽しかったし、もう明るいうちに帰るからお母さんも迎えに来なくなったんだけど、寂しくなかったな〜。
毎日がバラ色だった。
花の女子高生って感じで、毎日毎日楽しかった。
一緒の列車で登下校してたから3人が親友みたいになって」

「うん、うん、」

「帰る時は決まってポテトチップスとチョレートとジュース買って乗るのよ」

「いいな〜」

「でね、ポテトを食べて口の中が塩っぱくなるでしょ、そこに甘いチョレートを食べて口の中を緩和させてジュースでグビグビ・・・」

「うまそう〜」

「朝はさぁ〜相変わらずのぎゅーぎゅー詰めの列車に乗って、妄想するのよ〜、カッコいい背の高い男子生徒が、立ってる私のカバンを網棚にあげてくれて、
『良かったらこのつり革につかまりなよ。僕はその上の鉄の棒につかまるから』
って背の高い男子高校生に声をかけられて、素敵な出会いが始まるの〜。
って妄想したりして、でも周りを見てもダサい田舎の高校生ばっかしで、たまにこの人は!?と思っても彼女様がちゃんといらっるのです。」

「ハッハッ、そりゃ〜お疲れ様。」

「でも恋愛とか私にはまだまだ縁がなくてね〜。ヨシミちゃんとトミちゃんと馬鹿話しながらキャーキャー言って乗ってるのが楽しかったの」

「おーぉ青春だね。」

「ある時、帰りの電車でいつものようにはしゃぎながら3人で乗ってたら隣の席のおばさんが
『あなた達は良いわね〜羨ましい』
と言われたの、なんかうるさかったのかなって思ってそれから私達は勉強をするふりをしてカバンから教科書取り出してじっとしてたの。」

「ハッハッ、おばちゃんも、ええ迷惑やな。」

「でも今考えるとあのおばちゃんやっぱり羨ましかったんだね〜」

「そうだね〜。」

「学校でも三年間2人とは同じクラスだったし家も近所だったから、お互いの家を泊まりあいっこしてたのよ〜。」

「うん良いね〜」

「トミちゃんちはお父さんが大工さんでお母さんが畑仕事してたのよ。
でね、ヨシミちゃんちは農家なんだけど、新米のご飯がすごく美味しくっておかずがなくてもご飯だけでも何杯でも食べれるくらい美味しかったのよ〜。」

「俺も食いてぇ〜」

「高校を卒業する頃だったかな〜鉄道が国から民営化になる話があってテレビとかで大騒ぎしてたんだよね〜」

「あったねー」

「私達には関係無いって思って、いつものようにペチャクチャ話して乗ってたの。」

「うん」

「この列車は学校に行く時は、終点まで乗って本線に乗り換えて行くの。
帰りは本線から乗り換えて、この列車に乗るんだけど、始発だから夕方でもガラガラで、本線から降りて発車まで少し時間があるので乗って待ってるのよね〜。」

「良いなー俺もその頃乗ってみたかったな〜」

「でね、いつも発車を持ってる間に鉄道の保全の人が乗って来て、列車とか線路をちょこっと整備して降りるの。」

「保全かぁ〜、あこがれるな〜」

「その保全の人は2人でいつもやって来るんだけど、私達は暇だからいつも保全のお兄さん達をからかってたのよ。」

「悪い子達だね〜。」

「甘えて色々とからかっても、お兄さん達は私達を子供扱いで『ハイハイ』って感じで何を言ってもニコニコしてたんよね。」

「心が広い人達だね〜」

「でね〜ついテレビで言ってた事をペロッて言ってしまったの、」

「なんて?」

「『お兄さん達、民営化になったらリストラされるんでしょ』ってね」

「ひどい」

「うん、そうなんよ、私達まだ子供だったから民営化とかリストラとよくわかってなくて得意げに言っちゃったんだけど、そのお兄さんの片方の人が『リストラにはならん!』って怒ってね。ちょっと怖かったんよ。」

「そりゃ〜怒るわ。」

「それからお兄さん達もうその列車に乗ってこなくなったんよね〜何故なんだかわからなかったけど、」

「そうなんだ〜」

「そんな事があった事はすっかり忘れてたんだけど、
私が社会人になってトミちゃんやヨシミちゃんとは段々と疎遠になっていったんだよね。

ある日、ヨシミちゃんから電話があって」

「うん」

「『まゆちゃん(私の事)、私、結婚する事にしたのよ』
『えっ〜!おめでとう!!!ねっねっ誰と?、私の知ってる人?』
『うん』
『えッ誰?』
『あの保全の人』
って聞いてびっくりしたのよ。」

「すごっ!感動するね〜」

「そうなんよ、ヨシミちゃんに聞いたらあのリストラの事を言った時に怒った人だったんよ。
あれからヨシミちゃんと付き合いだして結婚する事になったんだって、知らなかったから本当にびっくりしたよ。」

「そりゃ〜びっくりするよね〜」

「うんびっくりしたけど、でもなんとなく、そうなんかな〜って思ってた。
やたらその保全の人、ヨシミちゃんの事を無視してたくせにチラチラ見てたからね。」

「鋭い観察力だね」

「うん、私達も子供だと自分達では思ってたけど、どこかで大人の女性になってたんよね〜。」

「そうかー。
うんうんなんか良い話で泣けるな〜」

「なんでこんな話で泣いてんのよ。」

主人は私の思い出話にポロポロと泣きながら歩いていました。

と、そんな話をしているうちに私達は実家に着きました。

実家で法事を済ませて一泊させてもらい翌朝あの駅に行く。

販売機で切符を買い、
1輌編成の半自動ドアを手で開けて乗る。

長いトンネルを抜けていくつかのカーブを曲がると次の駅が見えて来る。


今年も満開の桜が出迎える。
私は少し窓を開けた。

単線のため少し待ち時間がある。
誰も乗ってこない。

無人駅だが
ホームには誰かが花を咲かせてくれている。
そして綺麗に掃除した後がある。

花の匂い、草の匂い、山の匂い、風の匂い、

昔と変わらない。

私は列車から見るこの駅の風景が大好きだ。

そして毎日乗り降りしたあの駅も、
母との思い出や、
友達との思い出が一杯詰まっている。
私が育った町のあの駅も大好きだ。

単線のトコトコ行く列車の駅と少女のお話


おしまい


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