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作品名:Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年) 作者:なおちー

第8回   実はミスズは外貨預金をしていた。
外貨預金とは日本円を特定の通貨に両替し、特定の口座に置いておく運用法である。

ミスズがやったのは証拠金を使ってレバレッジをかけるFXではなく、
SBI証券で外国為替両替をしただけだ。いずれ米国株でも買おうと思い
2020年のコロナ化で為替が円高だった春から夏ごろにかけて両替をし、
USドルで持っていた。平均取得単価は為替レートで106円と、
長期的視点で振り返るとベストなタイミングで両替ができていた。

しかしながら、ミスズには生活に必要のないお金だったので、
ガストの仕事に夢中で両替したことさえ忘れてしまい、
令和12年の2030年まで放置していた。

(ちなみにミスズのやり方は厳密には外貨預金とは言えない。
 金利はつかないし、手数料である為替スプレッドも割高だ)

前回の話で大好きな彼に「株取引はしてないのか」と言われたので
ふと自分の金融資産のことを思い出したのだ。
彼女は久しぶりにスマホで証券口座を開いた。

SBI証券。雨宮美鈴様。
外貨建て口座。残高を確認。

評価額は円換算で
「GLD」(金のETF)が83万円。
「RWR」(米国不動産リート)が121万円。

株式を含めた他の有価証券はゼロ。
残りのお金はUSドルで保有していた。

このポートフォリオ(資産配分のこと)では
現金(ドル)の比率が8割近くを占めており、
円換算の資産残高がおよそ2180万円となっていた。

「増えてたんだ……」

ミスズはしばらく画面を見つめ続けていた。

コロナ発生当時、株式は暴落した。リスク回避の視点から
各国の通貨に対して円がずいぶんと買われ、極端な円高となっていた。
そんな時にめずらしく父から電話があって、
今すぐドルに両替して米国株を買いなさいと言われた。

まもなく世界がインフレやスタフレになるから、米ドルだけでなく
カナダドル、豪ドル、NZドルにも分散しなさいと言われ、
お小遣いとして『2000万円』をもらっていた。

ミスズは二か月かけて少しづつUSドルに両替を済ませて(時間の分散)
から、さあ何を買おうかなと思ったが、米国株のことはよく分からない。
外国の企業なので決算書類は英語じゃないと読めない。
そもそも当時のミスズは企業の業績にも経理にも興味がなかった。

豪ドルやカナダドルにはもっと興味がなかったので手を出さなかった。
外国為替取引自体が破産者を量産させるFXのイメージだったので嫌っていたのだ。
多くの女性は投機(いっぱつ賭け)を嫌う。

それにアメリカも好きではなかった。
米国ではマックやコーラなどの食品産業が世界で一番発展しているわけだが、
資本家連中と末端労働者との賃金格差が大きいことはよく知られている。
世界一の資本主義帝国は、その資本の巨大さゆえに世界一の格差社会を生み出しているのだ。

ミスズは庶民派の人間だから、従業員を奴隷として使用する経営者の
連中はむしろ悪だとさえ思っていた。実際に彼女はレストランやスーパーを
利用する時に店員に対してすごく愛想がよい客だった。

彼女に丁寧なサービスを提供してくれる店員さんたちの給料が
一円でも上がってくれたらいいと毎日願っていた。
だからスーパーでは安いものを探しつつもカゴいっぱいに買う。
それを彼女は衝動買いだとは思わないようにしていた。

定員の顔も全部覚えていて、急にあの店員がいなくなった、
新しい人が入って来たとアキオによく話をしていた。
多くの客が事務的に買い物を済ませる中で、店員の風貌や体調に
まで気を使って買い物をしているのはミスズくらいだろう。

彼女の優しい視点は、むしろ経営者やリーダーのそれだった。

資産運用の話に戻るが、ミスズは何を買うべきか悩んだ末に、
安全資産とされている金を買うことにした。
これは彼女が今後の中央銀行のやり方や、貨幣経済の行く末に不安を
覚えたからではなく、あのレイ・ダリオがお勧めしていたことを知ったからだ。

ミスズは父からよくこう言われていた。

「自分がどうしてもわからないと思う分野の事ことは、
 その分野について一番詳しいと思う人の話を信じなさい。
 きっとその方がうまくいく。国の大臣だって専門の助言役が何人も
 いて、実際の政治はナンバー2が立案しているんだよ」

ミスズは父親からとある著書を渡されたので、しっかりと全部読んでみた。

 『世界のエリート投資家は何を考えているのか―――
      「黄金のポートフォリオ」のつくり方』

この本は作者のアンソニー・ロビンスが友人のダリオに
直接インタビューし、彼の投資哲学を聞いたものである。
なんとダリオに無理を言って個人投資家でも作成可能な
「オールウェザー」型のポートフォリオの作り方を聞き出すことに成功した。

前も述べたが「オールウェザー」とはブリッジウォーターで
使用されている主力ファンドである。全天候型と訳される。

「投資家は自分が思っているほど、リスクの許容度は高くない」
「株式は大変なリスク資産だ。株式の比率を下げるべきだ」
と大賢者は言う。

オールウェザーでは資産の5割以上が中長期債券になり、
株式がたったの3割。それに金や商品を一部組み入れる。
あらゆる経済の「季節」に対応するための資産配分だ。

「最小のリスクで最大のリターンを」

もはや常人では到底思いつかない高度な戦略だった。
これは勝つためではなく負けないための配分である。

(執筆時点の2022年初頭では、まもなくFRBの利上げが
 予想されるうえに、実質金利がマイナスの状態で債券を
 保有することは論外のため、上記の配分で組まない方がいいです。
 今が仮に好景気で高金利の経済ならば、暴落時から資産を守ってくれます。
 実際にダリオ自身もコロナ化では株式の比率をかなり増やしています)

発売当時に全世界の個人投資家に革命を起こしたほどの本だった。

ミスズから見てレイ・ダリオよりも資産運用が上手な人は、
世界中を探しても一人もいないと思われた。
確かにコロナ発生時の大暴落では、換金可能なあらゆる資産が
溶けてしまったのでダリオのファンドも損失を出したが、あれは仕方ない。

ヘッジファンドは、レバレッジを利かせて短期的な利益を生み出したり、
空売り(ショート)を使ってリスクをヘッジする。

このように短期的かつ機動的な売買をしながらも、中期的な視点で
安値で資産を買い集めたりと様々な技を使う。一見すると投機なのだが、
ダリオの場合はこの売買で利益を出し続けていることが脅威なのである。
普通ギャンブルだったら一度買っても二度負けて退場するのが世の常である。

日本市場で個人投資家に勝負を挑んでくるのが、こういった海外の
ヘッジファンド集団なのである。個人投資家が知識の量や経験で
彼らに勝てるわけがないから、筆者は「短期売買は無駄」だと考えている。

なお個人投資家が「この株はもう終わった」と売ってしまったものは彼らに
安値で拾われている。なぜならヘッジファンドは個人投資家と反対売買をして儲けるからだ。
仮に試合開始後(東京時間、朝九時)に先物主導で日経225の売り浴びせを
仕掛けられたら、個人投資家はパニックを起こして意味もなく売却してしまう。

お金がなくて信用取引で大量の株を買っている個人は、あらかじめ
半年先までと決済期間が決められているので余計に判断力を失う悪循環が発生している。
だから株は現物でのんびり持った方が精神的に楽なのだ。
現物なら時間で強制決済されることはない。

ダリオの口癖は「現金は紙くずだ」(キャッシュ・イズ・トラッシュ)である。
金本位から貨幣経済制に移行してからの貨幣は中央銀行が自由に
増発できることからどんどん価値が減少するため、こんなものを
後生大事に抱えてるメリットはないと氏はずっと前から警告している。

劇中の日本ではスタフレが8年間も続いて、気が付かないうちに一万円の価値は
一万円ではなくなっている。貨幣とは当然、物やサービスとの交換に
使われるものであり、平成時に比べて物価が上がり続けたが
賃金が上がらなかった(むしろ下がった)のでお金の価値が2割以上減ってしまった。

ここでミスズはとんでもないことに気づいていた。

「ただ貯金していると、気が付いたら損をしている?」

つまりインフレ化の社会では、株式、不動産、金、商品(コモディティ)などを
持たない人は、知らないうちに自分のお金をドブに捨てているのだ。

だからミスズも重い腰を上げた。だが株式は嫌いだ。
そこでゴールドやリート(不動産投資信託)ならどうかと思った。

毎日電子画面を見ながら8万円ずつゴールドとリートを買い集めた。
その当時はまだインフレではなかったが、いずれインフレが高進したら
商品先物価格に続いて実物資産である不動産の値が上がることは常識だ。

それにリートは高配当なこともあり、いっそ死ぬまで保有して分配金
(ETFの場合は配当ではなく分配と呼ぶ。国債の場合はクーポン)
をもらい続けるのも有りだ。むしろそうするべきだろう。

ミスズは慎重なのでリートを一日5万円ずつ買った。
買い付け時に手数料が発生するが、気にしない。
最も重要なのは、慎重に買い集めて標準単価のばらつきを抑えることである。

これは米国株取引の際には手数料を気にして一度に12万円分ずつ
買い集めるのがお徳だと言い張る某ユーチューバーの考えに反するが、
最も重要なのは、一度の買い付け手数料ではなく資産の総評価額なのである。
あとで高値で売ることを視野に入れるなら、手数料はそこまで気にすることはない。

ミスズは素人なのにチャートなど気にせずに少額で買い集めるという、
本来なら貴金属ディーラーなどのプロが行う運用方法を初めから知っていた。

(貴金属の運用担当者ほど素人が驚くような、凄腕の買い方をしてると
 よく錯覚されるが、実際の場合は「素人の何倍も」地味な買い方をするものだ。
 なぜなら、それこそが賢者の知恵だからだ)

しかもコロナ発生当時は、多くの投資家が混乱の極みにあり、
日本市場では多くの退場者を出していた時期に冷静に買い向かったのである。
ミスズの判断はあとで振り返ってみると完璧な運用だった。

一種の天才である。ひとつ過ちがあるとすれば、それはあまりにも
投資金額が少ないことだ。手元にあるお金は全て株を
買うのに使ってしまうおバカな彼氏とは大違いだ。

では、なぜドルを9割も残しているのか。とつぜんだが質疑応答を始める。

「三週間くらいで飽きちゃったから」

……え?

「だってETFをチマチマ買い集めても評価額がぜんぜん増えないのよ。
 それにNY市場って日本時間だと開く時間が遅いのが地味にストレスなの……。
 私は早寝早起きが基本だから夜は10時過ぎには寝ちゃうから。
 それに夜遅くまで起きてるとお肌にも悪いわ」

なるほど。小柄な人ほど睡眠時間が多いことは分かるのですが、
もし継続して積み立てをしていたら、今頃すごい金額になっていたはずです。
成り行き注文や自動積み立てを利用しようとは思わなかったのですか?

「うん。思わなかったよ。だって買ったからって絶対に増える保証はないじゃない。
 私の買いのタイミングが完璧だったって言われても、それは今だから分かること。
 あの時はこんなインフレになるなんて誰にも分からなかったし、私だって怖かったわよ。
 資産運用って思ってたよりもすごいストレスよ。二度とチャートなんか見たくないわ」

含み益がすごいですね。リートはプラス40万円。
ゴールドはマイナス17万ですが、
現在は1ドル116円なので為替で儲けています。
為替スプレッドを計算しても
2000万円の投資元本で、およそ180万円も増えてる計算です。

「実はさっき両替の注文を出しておいたわ」

え!?

「全部じゃなくて一部だけ。
 儲けの部分の180万円分だけをドルから円に換えておくの。
 あとでアキちゃんにあげるお小遣いとして使おうと思って」

なるほど。リートとゴールドはそのままに、
現預金のドルの部分から円に両替したのですね。

「うん」

そのお金を彼にあげてしまったら、また株を買うのに使いますよ。
いいんですか? あなたが運用した方が儲かると思いますけど。

「別に儲けるためにやったわけじゃないし、
 ただインフレやスタフレからお金を守ろうと努力しただけよ。
 私の彼は投資が大好き。投資をしないと生きていけない。
 だから彼にお金をあげるの。彼に生きがいを与えるために」

そんな考え方もあるんですか。

ちなみに彼女のように資産防衛目的で、そこまで力を入れずに
運用(というか途中で忘れてる)人の方が、血ナマコになって
チャートを見てる人よりも成績が良いことは現実世界でも有り得ます。

投機はギャンブル。
投資は賭け。
運用は賢者の知恵。

この違いがよく分かると思います。運用は基本ほったらかしですが、
ギャンブルほどストレスが大きくて精神的に疲れることも明らかになっています。

ちなみに米国超長期投資といえば
「ジェレミー・シーゲル」が大御所です。

大賢者・シーゲル博士の著書 『株式投資の未来』は
全世界の長期投資家のバイブルとされています。
およそ200年間に及ぶ米国株式のリターンを研究した結果、
「低PER」の高配当銘柄を所持し「配当を再投資」をするのが
資産増大の最適解だと示した彼の著書は、まさしく長期投資の教科書です。

特にシーゲル博士は「時間」を味方につけて長いレンジで
チャートを見ることを勧めています。「時間」は目に
見えないものですが、実は資産増大のための最大の武器となるのです。

基本的に筆者の作品では、
シーゲル博士、バフェット、レイ・ダリオ、以上の三名の批判は行いません。
彼らの考えが絶対に正しいと信じているからです。
断言してもいいですが、日本の総理大臣が
仮に一万人いたとしても、彼らの賢さには及びません。

この三名の考えが合わない人は本作を読まない方がいいかもしれません。

さて話をヒロインの美鈴に戻します。
それにしても……ダメ人間を養うために自分の利益を使う。
しかも損することが分かっているのに。
筆者には到底理解できませんが……。

「だからなに? 別に理解されたいと思ってないから。
 うざいからそろそろ消えてくれる?
 てか、なんでさっきから私は地の分と会話してんのよ」

分かりました。失礼します。

……このように雨宮ミスズさんは彼氏以外の人には
冷たい態度を取ることがあります。特に彼氏のことを
馬鹿にするのは絶対にやめましょう。本気で怒りますので。


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