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作品名:Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年) 作者:なおちー

第7回   「丸亀製麺でお昼を食べましょう。あっ、道中でテロに気を付けてね」
アキオは、無性にうどんが食べたい気分だっので丸亀に行った。
支払うのはアキオだが、例によって彼女の金で食べるわけなので遠慮してしまい、
一番安い「かけうどん」と野菜のかき揚げを買って終わりにしようと思ったが、

「それだけでいいの? ちゃんと栄養付けなさい」
 とイカやエビのてんぷらを始めとしたサイドメニューを満載にされた。

お昼を安値で済ませるサラリーマンがチラホラいる中で、アキオのお盆に乗せられた
メニューは高級料理と言えた。皮肉なことに令和12年でこれは誇張ではなく、
コロナ以降のスタフレが進行した日本国では、丸亀製麺でうどんのみならず、
天ぷらを注文できる人は「セレブ」と呼ばれた。

レストランの外には乞食になってしまった老人が日中からはびこっており、
来店する客に手を差し伸べて「寄付金」を求める。

「お金を上げちゃダメ」

とスズは言う。

アキオは、はっきり言って彼らの姿に同情していた。

令和12年では人口の四人に一人が老人となった。
コロナが始まってからの八年間で、若者(現在の若者の定義は50歳まで)
の自殺者数が150万人を超えてしまった。

特にひどいのが、ひとり親世帯の親子である。
貧困にあえぐだけでなく、学校でもSNSを利用したいじめが横行したせいで
子供の自殺率がここ数年で12倍に拡大してしまった。

国が貧しくなると、子供の心も悪に染まり、いじめの比率が上がるのは当然だ。
親にお小遣いをもらえない子供たちは、近所のお店の襲撃、強盗、窃盗、殺害など
やりたい放題やっていた。また大人たちも生活に必要なものを手に入れるために
レジを通さずに商品を持ち去る(スリ)ことは常識である。

途中で店員に発見された場合は、殴るなどして逃走を図るのが全国で横行していた。
レジで会計をする奴は負け組だとの指摘もある。

スタグフレーションと自民党の政治が進んだ結果、

    「略奪」と「暴行」が

       日本の消費社会の基本となっていた。

これのどこが消費なのか。さすがにそれは無理があるだろ。
読者の皆さんは疑問に思うかもしれないが、
近未来を描いたこの小説ではこのような設定になっている。

この内容は、前作「令和10年シリーズ」と共通である。

「でもあの人たちだって好きで乞食になったわけじゃないんだ。
 少しくらいお金を分けてあげてもいいんじゃないのか?」

「貧乏な人は一度お金をもらったら調子に乗って
 次はもっとたくさん要求してくるのよ。一度めぐんでしまったら負け。
 そもそもアキちゃんは人にお金をあげられるほどお金を稼いでいるの? 
 どうなの? 先月の売り上げはどうだったの。ちゃんとお金稼げたの?」

「そ、それは……」

「アキちゃんは余計なことは考えなくていいの。
 自分のお金を増やすことだけ考えてなさい。
 私はアキちゃんが幸せになってほしいと思うから
 お小遣いを上げてるんだよ。ねえねえ。私の気持ち、わかるでしょ?」

「ああ……わかるよ」

「だったら、ちゃんと頑張りなさい」

「はい。すみません……」

いつも、こうだった。

ミスズは貧者に対して厳しいのだ。

アキオには無制限にお小遣いをあげる一方で寄付はしない。
寄付の方法も様々で、小さなものではコンビニの募金箱、NPOなどの支援団体から、
市役所の市民課の窓口で寄付(児童福祉施設などに送られる)する方法もある。

(俺ばっかり良い思いをして、あの人たちは道端の草を食べて生きてる……。
 こんなことが許されるのか。政治家の奴らはうまいものばっかり食べて
 住居費すら国民が負担してるのに、乞食の人たちは、レストランの残飯をあさる。
 田舎では犬や猫を食べ、農家の野菜を盗んでいるそうだ……)

こんな時代を生きているのかと思うと、
美味しいはずの讃岐うどんがちっとも味がしない。


その日の夜だった。

アキオはネットでひどいニュースを見てしまった。
生活に行き詰まったやもめ(バツイチの女性)が、子供を抱きながら
青酸カリを飲んで自殺したのだ。4歳になる娘は事前に首を絞めて殺していた。

令和12年では政府の命令で「貧困は自己責任」とされていて、
市役所の窓口で生活保護を申請して断られた場合は、
職員から『致死量の青酸カリ』が支給される。

彼女は、職場の人間関係のストレスで「うつ」になり、
少しの間休職したいので、その間だけでも生保をもらいたいと願ったが、
受け入れてもらえなかった。その結果、人生に絶望して死んでしまった。


「それがどうしたの?」

とミスズは冷たく言う。アキオは少しカチンときたが、黙っていた。

「去年の令和11年では年間自殺者が30万人を超えていたんだから、
 自殺する人なんてめずらしくないでしょ。生きてるより死んだほうが楽だと
 思うから死んだんじゃないの。むしろ賢明な判断をしたと褒めてあげるわ。
 収容所行きになって奴隷として過ごすよりは死ぬべきよ。
 生まれた国を間違えたと思って諦めるしかないの」

「収容所か……」

「うん。収容所」

「うちの国ってさ。収容所の囚人ってどれくらいるのかな?」

「年によって変動するから正確な数字は分かりにくいんだけど、
 総務省の統計によると少なくとも40万人以上はいるそうね」

ここでタイトルコールを回収する。

『Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年)』

とは令和7年以降に始まった制度である。

まず政治犯(自民党以外の国会議員)を初め、反自民党的な思想を
持つと思われる全ての国民が強制収容所送りになった。収容所とは
読んで字のごとく囚人に強制労働をさせるための施設である。

土木作業の比率が高い旧ソ連や北朝鮮とは違い、
自民党の収容所とは主に工場労働を指していた。
工場内の施設の中に閉じ込められて24時間体制の監視の中、
生産活動に従事させられるのだ。

一日の労働時間は16時間の無償労働。
食料は一日あたり食パン一枚と野菜スープのみ。
夜は粗末なベッドにすし詰めで寝させられる。
シャワーを浴びれるのは三日に一回。

実は、これは現実世界の日本でも存在していた。

『入管法改正、外国人の特定技能制度』を覚えているだろうか?
分かりやすく言うと、現代版の『外人奴隷制度』である。

通常国会の厚生労働委員会に提出された、
2018年までのデータによると、こんな例があった。

工場労働者が勤務中にトイレに行ったら、罰金。
自給が110円。あるいは220円で長時間のカキ漁(広島湾)を行わせる。
安全綱を付けずに建築現場での高所作業をさせて落下させた。
日本語の指示が理解できず、工場のプレス機に頭部や腕を挟まれた。
寝泊まりする場所は8畳間の部屋に10人をすし詰めにする。

前作でも散々語った内容で恐縮だが、
寮から脱走した外人の数が7000人越え。
指三本レベルの切断の労働者が380人。

なおこれは、かろうじてケガと認定された数にすぎず、
使用者側が事実を隠ぺいした場合は
(もちろん労災認定したくないから自己責任だと言い張るのだろうが)
公表されず統計にも含まれない。実際の労災は軽くこの三倍は発生しただろう。

日本政府は中国のウイグル人強制労働問題(ユニクロ)については批判するが、
自分達も堂々と奴隷制度を作っているではないか。大いに矛盾している。

小説の設定に戻るが、コロナ化で国境封鎖されたことによって外人奴隷の
入国がしばらく制限されていた。そのため自民党は不足する単純作業労働者
(本来の制度は一次産業従事者を大募集していた)
を国内の不穏分子(政治犯)で補うことにしたのだ。

令和12年では自民党以外の党はすべて解散されており、
二度と選挙が行われることがない。
実はミスズが一番恐れていたのは秘密警察に逮捕されることだった。

丸亀製麺での楽しい?食事の最中でも、店内に仕掛けられた監視カメラと
盗聴器によって市民の動向は政府(行政組織)に監視されている。

自民党は言った。「貧困は自己責任」だと。

すなわち、これは拡大解釈すればレストランの駐車場で
布団をかぶって寝転がっている貧困者に「寄付」することも、
「反自民党分子」と見なされかねない。そうなったら、「収容所行き」となる。

令和12年では、自民党に逆らう者に人権はない。
自民党こそが絶対の神なのだ。古くから権力者に逆らうことを
良しとしない日本国民を支配するのに、全体主義ほど便利な思想はなかった。

(だけどよぉ……。そんなのってねえよ。ねえよ……)

アキオが拳を握るが、余計なことは口にできない。

ヤマダ電機の駐車場にいる若い女性の乞食に、お金持ちらしい、
小さな女の子がコンビニのおにぎりを渡しているのを見たことがあった。
乞食の人は何度も頭下げておにぎりを頬張ったが、
すぐにゲホゲホと咳き込んで食べたものを吐いてしまった。

一週間以上まともに食べてない人は内臓機能が弱まっており、
いきなり食べてしまうと胃がびっくりしてもどしてしまうのだ。

小さな女の子は「きたなーい。ばっちー。ゲロるなら、あげなきゃよかったぁ」
と笑いながら駆けて行った。幼稚園児と思われる娘である。
悪気はないのだろう。しかし、その言葉がどれだけ彼女を傷つけたのか。

その後、すぐに秘密警察がやって来て乞食の女性はどこかへ連れ去られてしまった。
火葬場で処分されたが、あるいは収容所に送られたのか。

「アキオくん」

「は? あ、ああ……。なに?」

「私、言ったわよね? 余計なことは考えちゃだめって」

「ごめん」

「分かってないようだから、私がこの世の真実を教えてあげる。
 いい? よく聞きなさい。この世界ではね、自民党こそが正しいのよ。
 私達国民は、自民党に管理運営されて生存することが許される。
 私のお父さんは生まれた時から自民党員だったから生活が保障されているし、
 私たち家族は一度も飢えることなく今日まで暮らすことができた」

「あ、ああ」

「貧しい人は自己責任。あの人たちが自分から進んでああなったんだから、
 同情の余地はないの。だって日本では、たとえ貧しくても
 努力すれば上を目指せるシステムになっているのよ。
 努力もしないでお金を恵んでもらおうだなんて呆れちゃうわ。
 そういうのって負け組の発想じゃない? それ以前にね、貧者救済は
 自民党の偉い人たちのお仕事。だからアキオが考えることじゃないのよ。
 アキオはただの市民じゃない。あなたは自分が政治の立場に立って
 物を考えられるほど立派な人間だったのかな。それは違うわよね?」

「すみません……。俺みたいなロクデナシが出過ぎたことをしました」

「本当に反省してる? 反省してるんだったら今すぐここで私に誓ってもらうけど。
 今後貧しい人を見かけたとしても、絶対に同情なんかしないって。
 ほら、どうなの。約束できる? ちゃんと私の目を見て誓って」

「誓います。俺は二度と貧乏人に同情しません」

「本当に分かってるんでしょうね!!
 あんまり私を怒らせないでほしいものだわ!!」

「すみません。すみません……。俺は絶対に自民党様には逆らいません。
 貧困は自己責任です。あいつらが飢え死にしようと俺には関係ありません」

「そうよ。それでいいの。まったくもう!!
 アキがいつまでもウダウダしてるからムカついたわ。
 あんまり私をイライラさせないでよね!!」

「ごめん……」

資本主義の世界では「金」こそがすべてである。
アキオは改めて自分の生殺与奪の権利を握っているのが自分の彼女なのだと
思い知らされ、涙を流さずにはいられなかった。

ミスズの苗字は雨宮と言って、江戸時代以前より続いている家だった。
彼女の家系は代々政治家を輩出しており、その気になればミスズも
衆議院議員にコネで採用されることも可能だったのだが、彼女自身は
政治家になることも、またお嬢様として一流企業に勤めることも良しとしなかった。

ミスズは、金持ちのお嬢様に一定数存在する「庶民派」の人間だった。
大学受験も自分の力でやったし、卒業後も自分で選んだ民間企業に勤めた。
金持ちと思われることを嫌い、親の権力にしがみつくことを嫌い、
庶民の生活を好むことから、アキオと同じ安いアパートで独り暮らしをしている。

つまり二人はわざわざ別々の部屋を借りていて、
ほぼ毎日ミスズがアキオの部屋にお邪魔しているのだ。

同棲に限りなく近い。
ミスズの父には表向き一人暮らしをしていると説明しているのでこうなっている。
娘が大好きな父親が嫉妬するのといけないので交際は秘密にしているのだ。

(ミスズの設定は、前作令和10年シリーズの「坂上瞳」にそっくりである。
 筆者の発想力が底をついてしまったため、こうなってしまった。反省はしてない)

ちなみに二人の馴れ初めは、たまたま同じコンビニで働いた時期があったからだ。

あらすじで描いた内容と被るが、アキオは新卒(大卒)で入った保険会社を
すぐに辞め、再就職を探していた。就職先がなかなか決まらないので、
繋ぎのつもりでコンビニバイトをしていた。

鬱で苦しんでいたミスズも、コンビニの昼から夕方のシフトで働いていた。
そこで意気投合した二人が軽い気持ちで交際を始めたのだが、
やがてお互いが依存しあうドロドロした関係になってしまう。

(ちょっと言い過ぎちゃった……)

ミスズは冷静になって後悔した。彼女は本当に、いつもこうなのだ。

「アキちゃんごめんね? お説教はもう終わりにしてあげるから。
 はいハンカチ。これで涙ふいて。よしよし。もう泣かなくていいのよ」


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