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作品名:Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年) 作者:なおちー

第4回   ☆本編☆  「アキちゃん。はい。今日のお小遣いよ」
ガチャリ、バタン……。

控えめに閉じられたな……。とアキ(アキオのこと)は思った。
玄関の方を見もしなかった。
どうせ誰が来たかなんて、分かりきっている。ミスズだろう。

「こんにちわ」

「おう……」

「この前掃除したばかりなのに、また部屋が散らかってるじゃない」

「ごめん。今綺麗にするから……」

「あっ、別にいいのよ。
 私がやってあげるから、アキちゃんは座ってて。
 仕事の邪魔しちゃ悪いわ。三時まで真剣に取引するんだもんね」

(何が、真剣なものか)

と思いながら、アキはPC画面を凝視した。
大きなちゃぶ台の上にノートPCを乗せ、あぐらをかく。
これが彼のスタイルだった。
今どきの若者は椅子に座るのものだろうが、彼は古風を好んだ。

「ちっ、また外資の売り浴びせかよ。いつもこの時間だな」

東京証券所。大引け。取引時間は9時から15時までだ。
東証を実質的に支配しているのは、外国の大手金融機関(投資銀行や証券会社)であり、
全体の取引量の7割を彼らが占めている。そのため、日経平均株価が上がるかどうかは
外資によって決められていると言っても過言ではない。

「アキちゃん。今日は損しなかったの?」

「……株が下がったからって売ったりはしない。
 俺はもう、あの時みたいに馬鹿じゃないからな」

あらすじでも述べたが、彼は取引が下手だった。
取引において感情を交えるのはタブーとされている。

毎日眺めてみると分かるが、株価とはよく分からない理由で
上下するために、一度下落を始めたからと焦って売ってしまうと失敗する。
長い目で見れば売った後に上昇をしてしまい
「やっぱり売らなければ良かった」となることが多い。

長期投資が推奨されるのはそのためだ。
ただし、一つの株を長期で持つためには、企業の業績や財務の分析
(ファンダメンタル分析と言う)が必須であり、最低でも
決算書類が読める程度の理解力がないと、ただのギャンブルになってしまう。

「アキちゃん。掃除、終わったよ」

「おう。サンキュ」

「はい。今日のお小遣い。大切に使ってね」

「いつも悪いな(今日は一万円か……)」

「ねえねえ。聞きたいことがあるんだけど」

「あ、ああ。なんだ?」

「さっき本棚の奥で見つけたんだけど、これ……なにかな?
 表紙に成人向けって書いてあるんだけど」

アキオの好きな、艦〇コレクションのエロ同人誌だった。
戦艦大和や金剛を始めとした巨乳キャラとビーチで
イチャイチャラブラブする内容の漫画だ。

「また私に内緒で通販で買ったんでしょ……。
 こんなもの買ってたんだ……。どうしてこんなことするのよ?
 あなたには私がいるじゃない。なのに、どうしてなの?
 表紙の女の子、胸が大きいわ……。やっぱり巨乳が好きなんだ……」

「そ、それは違う!! お、俺はこんなもの好きじゃねえ!!
 ったく誰だよ。こんなくだらない漫画を注文した奴は?
 きっと業者が間違えて俺のもとへ届けちまったんだ!!
 そうだ。そうに違いない!!」

アキオはカッターで同人誌をズタズタに引き裂き、さらには
コンロの上であぶってしまう。勢いあまって火傷しそうになったが、
一瞬で消しカスになった。ようやくミスズが泣き止んでくれた。

「俺はミスズのことを愛してるから他の女なんて興味ねえ!!
 だいたい漫画なんてくだらねえよ!! 
 こんなのただの絵じゃねえか!!
 俺にはミスズがいるから漫画なんて必要ないんだよ!!」

「本当に……?」

「本当に本当だ!! 
 俺はミスズと一緒にいられたら、それだけでうれしくてさ。
 もう本当に生きててよかったって思える!!」

「ふふ。うれしいわ。
 でもね、アキちゃん。多分私の気のせいだと思うんだけど、
 先月も同じセリフを聞いた気がするよ? その前も。その前の月も」

「あ……そ、そうだったかな? いやぁ……そのぉ……なんていうか。はは……」

「適当なことを言ってれば、何とかなると思ってるんだね。
 そうよね。私なんて……あなたにとっては便利なお財布だもんね。
 財布女……。私はそれでもよかったのよ。あなたが私を頼ってくれるなら、
 それで十分満たされていた。でも……あなたは私に嘘をついたのよね。
 嘘をついて艦これの漫画を買っていた……。エッチな漫画を……」

ミスズは風呂場へ駆けた。何をするつもりなのかと彼が後を追いかけると、
ミスズはバスタブの中でうずくまり、左の手首に刃物(カミソリ)を当てていた。
俗にいう、リストカットである。

「うわあああ!! バカバカバカっ!! やめんかあぁああ!!」

アキオが刃物を取り上げ、窓から捨ててしまった。

さすがにアキオが本気で怒ると、
ミスズは涼しい顔で「私にはそれしかなかったのよ」と言う。
彼女にとってアキオに頼りにされることが生きがいなのである。
だから生活に必要なお金もあげるし、家事もやってあげる。

アキオにとってミスズとは姉であり母であり、神様のような存在で
なければならなかった。アキオが背が高い女(成人女性でミスズより身長の低い人が
そもそもいないのだが……)や巨乳の女に鼻の下を伸ばしたり、陰で
知らない女と逢っていたりしたら、彼女は世を絶望して自殺してしまう。

「スズちゃん……。さみしい思いをさせちゃってごめんね……。
 俺はずっとスズちゃんのそばにいてあげるからねっ……」

「本当にそう思ってる? 口から出まかせじゃないのよね?」

「ああ。俺は君を愛してる。世界中の誰よりもね」

「ふふ……じゃあ、もっと言ってよ」

「スズちゃん。愛してる。俺は君がいないと生きていけないんだ。
 こんな情けない俺だけど、君が許してくれるなら、
 これからもずっと俺のそばにいてくれないか」

優しく抱きしめながら、耳元でささやく。
やはり女は口で言われると弱いもので、すっかりスズの機嫌は良くなった。

「俺まだ昼食べてないんだよ。よかったら一緒に食べない?
 今日はピザが食べたい気分だから、今から注文しようかなって思ってんだけど」

「うん。いいよ」

「もちろんミスズの分も俺が払ってあげるからな?」

「うん」

スマホで注文しながら彼はこう思った。

(俺が払うとは言ったが、そもそも俺の金じゃねーんだよな)

それでもミスズは心から嬉しそうだった。
アキオは仕事もろくに続かず、株の運用も下手だが、
女を口説くことだけは得意なのでミスズのヒモとしてうまく生活をしていた。

彼は、仮にこの世界に「国際ヒモ男選手権」が存在したら、上位10名に
入賞できるほどの自信があった。毎朝鏡で眺める顔立ちは悪くないと思っている。
うぬぼれかもしれないが、ミスズは「かっこいい」と褒めてくれる。照れ臭かった。

アキオは毎月ミスズにプレゼントをする。

先月(11月)の末には高価なマフラーをネットで取り寄せたし、
たまには外出してミスズの好物を食べさせてあげたりもする。
ミスズはケーキなどの甘味よりもガッツリとしたに肉を好んだ。
パスタよりも油ぎっしりの豚骨ラーメンを好んだ。

とはいえ、ミスズもさすがにラーメン屋や焼き肉屋に行くのも飽きてきた。

それを機敏に察したアキオは、ならばこれならと八丁味噌を使用した
「名古屋風、味噌煮込みうどん」のお店に連れて行った。
大きな煮込みうどんと、ご飯(お代わり無料)と
漬物が付いて1000円を少し超えた。ミスズは大満足してご飯をお代わりしていた。

彼女は「アキちゃんにご馳走してもらえて、うれしい。
今日もご馳走様でした」と笑う。そのたびにアキは不思議に思っていた。

(だからよ。そもそも俺の金じゃねーんだよ)

繰り返すが、彼はヒモである。
ヒモとは、生活費を交際相手の女性に依存するダメ男のことである。

彼は三流投資家なので、なんと個人資産の全てを
証券口座に入れてしまい、株の取り引きをしていた。
おまけに証券口座の中でも現金余力(プール)はなく、
つねに全額投資(フルインベスト)をしていた。

市場の暴落を懸念して一部の銘柄を空売りしたり、
インバースを購入してヘッジをしているが、
実際は8割の資産で現物株式を購入しており資産配分の比率が悪い。

彼は値上がり(買い方の側)を常に狙っているわけで、
このようなポートフォリオでは一度暴落をしたら耐えられない。

専業投資家を名乗っている割には、空売りの仕方も下手くそだ。
このような運用をするのは三流以下である。売り方(空売り)でもうけを
しっかりと出せるのはヘッジファンド並みの技量がないと難しい。

※空売りやインバース性のETFは、
 通常の株価指数と真逆の値動きをするので、
 下落したときに儲かる仕組みとなっています)

※ヘッジファンド
 お金を最大限に増やすよりも減らさない運用を心掛ける組織。
 金融に対する高度な知識と機敏な取引を必要とするプロ集団を指す。
 マーケットニュートラル、グローバルマクロなどの高度な戦術を使う。
 世界最大のヘッジファンドの創設者、レイ・ダリオを初め有名人多数。


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