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作品名:Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年) 作者:なおちー

第13回   「前から気になってたんだけど、ミスズは投資はしないの?」

  ※注意!!  
   この話は、第八回「実はミスズは外貨預金をしていた」
   の前に投稿するはずのものでした。
          入れ忘れたので投稿します。
   時系列がめちゃくちゃになってしまってすみません!!



タイトルのアキオの問いに対し、ミスズは涼しい顔でこう答えた。

「株を買うのは怖いじゃない」

「まあ確かに怖いね」

「買った後に株価が下がったら落ち込むわよね?」

「落ち込むね」

「心が不健康になるわ」

「なるだろうね。俺がいい例だ」

「だったら、やらなくていいと思うの」

「でも金持ちなのに、ただ預貯金しておくのはもったいなくない?
 俺よりミスズの方が相場に詳しそうだから向いてるんじゃないか?」

「私は生活には困ってないし? これでも一応働いてるから多少の収入はあるのよ。
 だからね、一か八かの賭けに出る必要はないのよ」

「……実際お金はどれくらい持ってんの?
 俺は家賃とか光熱費までミスズに出してもらってるから
 完全にヒモだけどさ、実際ミスズがいくら持ってるのかずっと気になってた」

「私の場合はカードだから」

「カード? クレジットカード?」

「そう。クレジットカード」

「どのくらい使えるカードなの? 限度額とかは?」

「知らない」

「はい?」

「いつも残高が500万になってるの。
 何度おろしてもすぐにお父さんが補填してくれるから、すぐ500万に戻るの。
 私はこのカードを自由に使っていいと言われてるのね。
 生活に困らないようにって意味なんだろうけど、どれだけ
 使ってもお父さんから文句言われることないから、好きなだけ使ってる」

「なんじゃそりゃ……」

令和12年では、自民党の国会議員の平均年収は引き上げられて
7500万とされている。独裁政権のため議員の入れ替えもなく、
勤続年数の長いものほどお金が溜まる仕組みとなっている。

自民党議員は末端の人でさえ株を買いまくるなどして
さらに資産を増やし、30代の若い議員で資産が数百億円の人もいるほどだ。

一方で消費税率は『22%』まで上昇していたのだから、ふざけたものだ。

(自民党の最終目標は、消費税率34%。そうしたら議員の家計レベルの税支出が
 増えるために、それを補う目的で議員の年収はさらに引き上げられ、
 最終的には一人当たりの給料が1億1千万程度に落ち着く。なお、
 それでも末端の国民の実質賃金が一円も上がらないことは言うまでもない)

「カードは予備の分も渡されてるし、
 スマホの電子決済サービスもお父さんの口座と繋がっている。
 あと金地金(きんじがね)も渡されているわ。
 よく覚えてないけど、あの時の時価だったら300万円分の価値だったと思う」

「300万!! 金持ちすげえ!! 現物でゴールドを持ってんの!?」

「いらないから家に置いてきた」

「家って!? 久喜市にある母方の実家にか!?」

「うん。お母さんにお願いして地下の金庫の中に置いてきた。
 ゴールドを持っていると、お金の匂いがするから強盗に入られるんだよ。
 かといって貸金庫サービスを使ったら手数料を払うのがもったいないじゃない。
 そう考えるとめんどくさいから、いっそ持たなくていいかなって」

「やべえ……金持ちやべえ。俺みたいな貧乏人とは住んでる世界が違うわ」

「アキちゃんはこれからも私が支えてあげるからね。
 確かお父さんは700億円くらい資産があったと思うから、
 たとえ議員を首になったとしても一生遊んで暮らせるわよ」

ここでアキオは衝撃を受けて言葉が止まってしまった。
ミスズの家は金持ちだとは思っていたが、まさかここまでとは。

彼はヒモの割には彼女のお金のことを心配していた。すでに数百万円も
お小遣いとしてもらっている(世間一般的な小遣いのレベルを超えているが……)
いくらミスズがお金持ちだとしても、額が額だけに、
彼女が将来本当にお金に困った時に全額返せと言われたら、文字通り破産だ。

しかし娘に甘い父親が700億も保有している以上、
もはや500万円を超える小遣いなど
端数みたいなものだと知り、むしろ安心した。

「あ、ありがと。愛してる。実はまだ気になることがあるんだけど」

「スリーサイズだったら教えないよ?」

「そんなんじゃないよ。つーかもう裸見てるじゃん。
 俺が気になったのはその……ミスズは大金持ちの割には
 庶民ぽいって言うか、例えばランチするのは千円以内って
 いつも俺に言うじゃん。高級料理には興味ないのかなって思ってさ」

「何を言ってるの。ファミレスのご飯だって十分美味しいじゃない」

「いや、確かにそうだけどさ……」

「アキちゃんは勘違いしているようだけど、雨宮家は決して下品な
 成金ではないのよ。先祖代々の資産を受け継いでいる家だからこそ、
 お金を増やすことよりも減らさないことを第一に考えて
 質素に暮らしているの。確かに私だってたまには贅沢がしたい時もあるけど、
 普段の生活は質素でいいのよ。最低限の生活が送れたらそれで幸せじゃない?」

「それはそうだね。今は貧乏で一日一食しか食べられない人もたくさんいる」

「そうそう。お金を持っていることが幸せなんじゃないの。
 明日も明後日も、食べていける。お金があるから生きられる。
 生きていることが一番の幸せなのよ。それに安くても美味しい料理は
 たくさんあるわ。日本のレストランは安いのに世界一美味しいのよ」

「ミスズは本当にグルメだよね。食べることが一番の趣味なんだね」

「それはもう!! 食べることは人生における最大の喜びよ!!」

ミスズは身長が小学生並(139センチ)だが、よく食べる方だった。
ラーメンなどの油物を好むから男性と食味が合う。
むしろ栄養価が高くない食材は、お腹がいっぱいにならないので嫌いだった。

野菜はあまり食べないからバランスは良くない。
中学生の頃から身長コンプレックスに悩まされ続け、
運動部の男子のように栄養のあるものを食べて大きくなろうと努力したことが
きっかけだった。30歳になってからは牛乳を飲むのは
さすがに無駄な努力だと察して止めた。

彼女がアキオに口癖のように言っていたのは
「気分が落ち込んだ時は食べなさい」だった。
美味しいものを食べてお腹がいっぱいになれば、
生存の欲求が満たされて良い考えが浮かんでくる。

それと彼女は散歩が趣味だった。たくさん食べた後は、たくさん歩いた。
夏場などはアキオを連れて夜の街を一時間も散歩することもあった。

ミスズは業務スーパーに通うのが好きで、外国の食材
(韓国製ラーメン、タイの激辛スープ、ブラジル産のソーセージなど)
を買ってきては調理して食べさせてくれた。

特にジューシーでスパイスの利いたブラジル産のソーセージやウインナーは
安いわりに絶品だった。フライパンの上で弱火でじっくりと焼くのが
コツなのだが、ミスズは火の加減の仕方も美味かった。

彼女はレシートを持ち帰り、
いちいち家計簿をつけて節約すること美徳としていた。

本人は一流の主婦を気取っているが、そもそも二人は結婚してないし、
子もいないのでアキオには少し滑稽に感じられた。子がいない理由は、
ふたりの間で子供を作ろうという話をしたことがないからだ。
その理由はアキオには分からない。また結婚しようとも言われたことがない。

このまま一生恋人のままの関係が続くのか。
いっそこのこと彼女の結婚観を訊いてみようとかと思ったが、おしゃべりな
ミスズはヤオコーの冷凍食品の話で盛り上がってしまっているため、
ひたすら聞き役に回ることにした。

34個入りの冷凍のたこ焼きが安くてお勧めらしい。
自然解凍した後レンジでチンして、たっぷりの鰹節と
ソース、そしてタバスコを適量入れると絶品だそうだ。

スマホのアプリでヤオコーの安売りのチラシを見せてくれるが、
アキオはそこまで食に興味がない。アキオは食べることよりも
アニメや漫画の美少女の同人誌を集めることの方が好きだったからだ。

「あっ、そういえばこの前、仕事帰りに近所のしまむらに寄ったのよ。
 安いんだけど若い子向けのおしゃれなデザインのセーターがあってね」

今度はファッションセンター島村の話になってしまった。
ミスズはお金持ちなのにユニクロやしまむらで服を買うのを好む。
今着てる服やスカートもそれぞれ1500円くらいで揃えたものだ。
靴も安物だ。髪の毛も飾り気がなく、毛先にくせのかかった茶髪を
シンプルに肩に垂らしている。髪は長く腰にまで達するほどだ。

令和12年では金持ちらしい服装をして街を歩く人は、一週間以内に
9割の人が暴漢(女性や老人含む)に襲われるとされている。
そのため地味な服を着ることは賢明なのだが、
別に防犯面のことではなくて彼女は本当に
ファッションにお金をかけるつもりがなかった。

「服を買えるだけ幸せじゃない。それに安物はその分たくさん買えるし、
 すぐボロボロになってもシーズンごとに買い替えて
 コレクション感覚で楽しめるわ」

そうは言うが、実は20万円もする高級腕時計やダイヤのネックレスを
持っていたり、ワンセットで12万円もする化粧品をこっそり使っていたりと、
全くお金を使わないわけではない。金持ちのパーティに参加するための
高いドレスもしっかりと持っている。ただ普段は出番がないだけだ。

さらに国内の温泉巡りや史跡巡りが趣味なのだが、
コロナ化では医療従事者に迷惑をかけないために自粛するべし、
との信念を持っているので、ランチや買い出し以外で外出はしないことにしている。

「何よりしまむらは財務体質が素晴らしい企業なのよ。
 決算書をよく読んで自己資本比率を見て見なさい。
 コロナ化では紙面やアプリでの広告収入にすごく力を入れてて、
 マンボウ化でも売り上げをほとんど落とさずに不景気を乗り切る知恵があったのよ。
 円安による原材料高も地道な努力を重ねた売上増によって相殺し、
 スタフレ化の地獄の日本では庶民の味方になり……」

アキオはよくしまむらの株(東証一部)を買うように勧められていたが、
100株で90万円ほどするので遠慮していた。そのくらいのお金な
あげるわよとも言われるが、どちらかというと人口減少化の日本で商売を
している企業よりは、ホンダやトヨタなどの外需産業を選択したかった。

しかし実際のトレードではホンダの売買に失敗し、同じ時期にしまむらを
買って半年放置した場合に20万以上儲かっていることが明らかになり絶望した。
ミスズの方が努力家なうえに頭が良いので、気が付いたら実際に
運用しているアキオよりも株に詳しくなってしまったのだ。

特に相場とは面白くも残酷なもので、大衆が絶対にこれが上がる!!
と思っていると真逆の動きをすることがよくある。
これがダリオ氏の言う「ポーカー」である。

特に危険なのが、昨年まで好調だった株式やそのジャンル(グロース株など)
が翌年以降も高いパフォーマンスを維持できると思い込むことだ。
市場の動きはコロコロ変わる。例えば米英が年三回の利上げを
するだけで為替と国債金利が激しく変動し、短期的に株が売られ、
別の世界になってしまう。

金融の世界では、過去の実績がそれ以降の未来を保証するものではないとよく言われる。

「いい? アキちゃん。半導体だとかDX銘柄とか雑誌で取り上げられるけど、
 地味な企業ほど市場で見落とされがちなのよ。派手さはいらない。人々の生活に
 密着し、確かにそこにお店があってみんなの生活を支えている。
 そんな企業はたとえ株価が下がっても最後は見直されて買いが入るのよ」

「なるほど。確かに服がないと人は生きていけない」

「それにユニクロ(ファースト・リテイリング。日経225の最上位銘柄のひとつ)
 みたいにウイグルみたいに強制労働問題も起こしてない。ただ普通に
 服を作って売ってるだけだよ。ね? 素晴らしい企業だと思わない?」

「ああ……ミスズの言うとおりだ。
 君はいつだって正しいことしか言わないもんな。
 俺はミスズの言うことが一番正しいと思ってる」

「アキちゃん、眠そうだね。難しい話をされたから眠くなっちゃったの?」

「あ、いや。そんなわけじゃないけど……」

「うふふ。いいのよ。眠くなったのならよく寝なさい。
 睡眠をしっかりとることも健康のためには大切なことだもの」

ミスズはくすくす笑ないながら膝枕をしてくれた。
そしてまるで母親のように、彼氏の頭をなでてくれるのだった。
アキオが完全に眠るまでそうしてくれた。


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