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作品名:Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年) 作者:なおちー

第11回   「ちょっとその辺を散歩してたんだ」
ミスズからの執拗な問いに対し、アキオは無表情でそう答えた。

『散歩』

と彼は言うが、一週間近く疾走していた者の言い訳としては無理がある。

「なによそれ。いい加減にしてよ。私がどれだけ心配したと思ってるの?
 あなたの実家にまで電話しちゃったのよ。それにこのリスカの跡を
 みて。ほらほら。こんなに傷でいっぱいになっちゃった」

アキオは黙った。それ以上聞きたくないとでも言いたげだった。

「どうして黙ってるの!! 何か言い訳してみなさいよ!!
 アキちゃんったら、本当は私に頼らないと一人で生きていけないくせに!!
 どうして一週間も家出したの!! 私に断りもなく勝手に外出しちゃだめって
 何度も言ってるでしょ!! それに無断外泊ってどういうこと……?
 お金もないのにどこに泊まっていたのよ!! ねえねえ!! ねえ!?」

「警察に逮捕されたんだ……」

「は? 警察に逮捕ですって!?」

「話せば長くなる。今は疲れてるんだ。少し寝かせて欲しい」

「全部話して!! 今すぐに!! ちょっと、なに寝ようとしてるの!!
 まだ寝ないで!! 私が納得したら寝かせてあげるから、
 ほら、ちっ重いわねぇ。布団から出なさいよぉ!!」

「いちいちうるさいなぁ。わかったよ説明するから。
 喉乾いてるから紅茶でも淹れてくれない?」

「わかった。淹れてあげるわ。その代わりちゃんと説明して」

「うん……」

イオンで買って来たティーパックのアールグレイを飲みながら、
アキオは疲れ切った顔で語り始めた。

「俺さ、前にミスズが投資のコツを教えてくれた時、自分は心底
 株には向いてないんだって思い知らされた。そしたら
 自分が株ニートであることが情けなくなっちゃってさ。それでさ、
 食糧配給所で働こうと思って職場見学に行ってみたんだ」

「よりにもよって食糧配給所ですって!! なんて馬鹿なことを!!」

食糧配給所は、令和10年から非営利団体(金持ちによるボランティア)
によって作られた。読んで字のごとく貧困者に対して食料を配給する組織である。
令和5年頃までは「子ども食堂」「大人食堂」などでカレーやシチューが提供されたが、
調理をしているとすぐに警察に取り押さえられてしまうので廃止された。

(ちなみに旧ソ連では食料配給所は実在した。
 貧者救済のためにソビエト共産党が支援したのだ。
 ソ連では住居費無料(共同アパート)医療費無料、
 冬の寒さと戦うソ連人のために暖房に使う燃料代も無料である)

くどいようだが、自民党の時世では
すでにスタフレは終わり、戦後最長の好景気の最中であり、
貧困者は存在しないことになっているからだ。

読者諸兄らも考えてみて欲しい。
第二次安倍政権時代より続いた経済指標の発表は、
ことごとくがフェイクデータであった。

詳細は省くが、2016年から2019年にかけて、
厚生労働省、総務省、財務省、国土交通省が発表した数々の資料が
『捏造』だったと国会で指摘され、自民党側はまともな反論ができなかった。

(この件は令和10年シリーズの第一作で詳しく述べている)
これら大本営発表は、もはや北朝鮮の労働党の発表と大差がない。

そしてコロナ化の2020年においても与党から現金給付の前に
「お魚券」「お肉券」を配る案が出されたばかりか、アベノマスクを
支給するなど『前代未聞のギャグ』を披露する一方、フランスやアメリカなどの
一等国は国民を救うために直ちに財政出動をさせていた。

なお、当時の世界で最も感染封じ込めに成功したのは文明国トップのドイツ国である。

(日本人の多くが米国こそが世界のトップだと信じているだろうが、
 それは経済規模を始めとしたスケールのデカさであり、全世界の貧しい移民が
 目指す先がドイツであることから分かるように、世界で最も文明化された国が
 ドイツであることは世界の常識だ。人口でも経済規模でも西洋最強国だ。
 福祉大国の北欧諸国も大変に文明的だが、日本はすでに後進国である)

スガ政権下の2021年度の5月の段階で日本のワクチン接種率は、
内乱中のミャンマーと同レベルだった。同国は革命軍が政府を転覆させていた最中であり
もはや内政などあったものではなかったが、それと同等だったことを忘れてはならない。

以上のことから、例えばドイツのような一等国の政府と
自民党の国家運営能力を比較したうえで学力で査定すると、
自民党は小学校卒業程度の学力で「偏差値24」 
精神年齢は「10歳程度で止まっている」とするのが妥当だろう。

アベノマスクの件だが、2021年末の段階で、
8000万枚が残り、15%が不良品だった。
倉庫に抱えた在庫の管理費用が「6億円」だったので
岸田政権下では破棄することが決定した。

沖縄県は、アベノマスクを文化財として保存することが
正式に決定したそうだ。日本政府のバカさを世界に披露するために。

このマスクの件を、第三次世界大戦に等しいコロナの緊急時において
自民党は大まじめに決定したのだ。もちろん首相の独断だろうが。

何より問題なのは、これほどのバカがコネで内閣総理大臣に任命される
国家制度そのものである。今後選ばれる首相も確実にコネだ。
以上の例を出しても日本国が衰退に向かっていることが分かっていただけると思う。

筆者は今後も東証へ投資し続けるが、読者の皆さんが
米国株その他に逃げたくなったら、どうぞ自由に逃げてください。

例えば日本電産やトヨタなどは今後も企業努力で株価が上がり続けるでしょうが、
日本政府が今後も企業の足を引っ張り続けることが予想されることから
GDP成長率はG7で最下位を維持し続け、ほとんど成長はしません。
東証は、半永久的に外国の機関の空売り天国と化し、株価が乱高下し続けます。


話を食糧配給所に戻すが、そんなわけで警察の捜査を逃れるために
スーパーで買い貯めした「惣菜パン」「菓子パン」「食パン」を
手渡しで配ることにしていた。全国のあらゆる場所で
不定期に実施され、その場で貧者に対し素早く食料を渡す。
時間帯は暗くなってからの20時以降とされていた。

アキオは、家で引きこもり一日中パソコンをやってるから、
そういう情報には詳しかった。

「俺はクズだ。どうせ生きてても何にも生み出すことのできない、
 非生産的な人間だ。堕落者だ。だからせめて配給所の職員さんに
 コンビニで買ったパンでも渡そうかと思って、軽い気持ちで見学に行ったんだ」

「はい!! 待って待って!! 
 いまコンビニで買ったって言ったわよね!!
 そのお金はどこから出たお金なの!! 
 お姉さん怒らないから正直に答えてみなさい」

「ミスズからもらった……お小遣いです……」

パシイイイイン、と平手が飛び、アキオの頬が真っ赤に染まった。

「このぉ、バカ!! 大馬鹿!!」

「……」

「いったい何度同じことを言ったら学習するの!!
 貧困者を救うために私のお金を使ったですって!! 違うわ。
 金額の問題じゃないの!! 私がこれだけ世の中の真実を教えてあげてるのに、
 それなのに全然理解してくれないあなたの態度が気に入らないの!!
 ほんとにねぇ、いい加減にしてくれる!! 
 温厚な私でも今回ばかりはさすがに怒るわよ!!」

「ごめんなさい……」

「謝って済む問題じゃないでしょ!! 私がバイトに行ってる間に
 こんなことするんだったら、私も無職になろうか!?
 ねえその方がいいよね!? だってそうするしかないよね!! 
 いっそのこと24時間体制でアキオのこと監視しないとダメ!?」

ミスズの怒りは計り知れなかった。
確かに彼女との数年に及ぶ付き合いの中でも、
ここまで怒っているのは見たことがない。

美しかった童顔は消え去り、目がぎらぎらと輝いてるのに
口元だけは半笑いしているという、まさに悪鬼のごとくだった。

言い返す言葉のないアキオは、床に両手を突き、土下座をした。

ミスズは近くにある物を何でも部屋中に投げつけ、窓ガラスが割れて
破片が床に転がった。フライパンが床に跳ね返る。コップは三つも割れてしまった。

「で? 続きをさっさと話しなさいよ!! 警察に逮捕されてどうなったの!!」

「集会場にいた幹部はみんな収容所に送られたらしい。
 俺は、すきを見て脱走することに成功した……。実は違うけどな。
 俺は命の危機を感じたのでミスズのお父さんの名前を口にしたんだ。
 俺が雨宮貴一議員の娘の彼氏だったことを知ったら、警察の人が
 俺に頭を下げてきたんだ。そんで表向きは脱走したことになっている」

「そうだったの。お父さんの名前がアキちゃんを救ってくれてたのね。
 もちろん父の名前を出したことはどうでもいいわ。
 もっと大事なこと忘れてない? なんで一週間も帰ってこなかったの」

「ルートイン(ホテル)に泊まってました……」

「ビジネスマンでもないのにわざわざホテルですって!!」

「ごめん」

「警察に捕まったのは家出した初日だったんでしょ!!
 そのまま、まっすぐ帰ればよかったじゃない!!
 どうしてホテルに泊まる必要があったの!!」

「なんか、家に帰りたくなくてさ」

「なんで!?」

「……」

「黙らないで!! さっさと理由を話して!!」

「死のうと思ったんだ」

「は!?」

「俺はミスズに依存して生きているクズだし、健康な体があるのに
 就職するつもりもない。こんな奴生きてても役に立たないだろ? 
 だから死のうと思ったんだ。令和12年の日本では貧しい人がたくさんいて、
 田舎ではヘビやカエルを食べて貴重なたんぱく源としている。なのに
 俺だけはお金に不自由なく暮らせてて、罪の意識に耐えられなくなったんだ」

「貧困は自己責任!! 貧困は自己責任よ!! ほら繰り返して!!」

「それはちょっと冷たすぎないか……」

「ひとはひと!! あなたはあなた!! 貧乏な暮らしなんて私達には
 一生縁がないじゃない!! なのにどうして貧しい人の心配なんてしてるのよ!!
 アキちゃんは自分では株取引すら満足にできないくせに、
 一丁前に人助けをしようだなんて考えが甘すぎるよ!!」

「やめてくれよ」

「え?」

「俺の事、株の取り引きが下手だって言うのやめてくれ。
 実はそれすっごく傷付くんだ。この前は俺の事、馬鹿って言ってじゃないか。
 バカなのは分かってる。でもミスズみたいに頭の良い人に言われると傷付くんだよ」

アキオは涙を流していた。
たとえ愚か者だとしても男の子にはプライドがあるものだが、
ミスズは知らず知らずのうちに彼の一番触れて欲しくない部分を攻撃していたのだ。

「あっごめんね……。別にアキちゃんを傷つけようと思って言ってるわけじゃないの。
 アキちゃんは今は練習中だもんね。だ、大丈夫よ。私が応援してあげてるじゃない。
 この前だって原油の取引で成功して6万も設けたわ。ちゃんとできてるわ。
 そ、そうよね? だから、ごめんね……? よしよし。もう泣かないで」

歳が二歳上なこともあり、ミスズはいつだって上から目線になり過ぎていたのだ。
だか歳が上だからこそ、あやすのも得意だった。
これで今回の件は一件落着するはずだった。

ところがこの流れをぶち壊してしまったのはアキオだった。

「触るなぁ!!」

頭をナデナデしてくれたミスズの手を振り払い、玄関先へ駆けだしてしまう。


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