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作品名:Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆(令和12年) 作者:なおちー

第10回   「アキちゃんが家出しちゃった……」
初めは外出してるのかと思った。
その日は平日だったから東京証券取引所は開いている。

彼は取引時間中はアパートの自室から決して離れなかった。
洋服タンスを見ると外出用の服を着た形跡がある。
それに玄関から靴も消えている。外出したのは間違いないのだ。

ただ、おかしいのは彼が夜になっても帰ってこないことだ。
メールも電話もしたが応答がない。

まさかミスズに無断で外泊でもしてるのかと思ったが、

(アキちゃんにはお金がないはず)

そう。彼はヒモ男で株式に全額投資するおバカなので
お金の持ち合わせなどないはずだ。確かにミスズが、定期的に
お小遣いを渡してはいるが、それを「全額消費」させるように仕向けている。

生活保護費が月ごとに全額使い切る決まりになっているのと同じで、
常にアキオの金欠状態を作り出し、ミスズに依存させることを目的としていたのだ。
ちなみに出費のほとんどは食費(贅沢)か、ミスズへのプレゼント代だ。
彼は気が利くのでミスズに対するプレゼントは毎月買ってくれる。

そもそもお小遣いを渡したのはミスズなので、
結果的には自分で買ったようなものだが。

ただ彼の好みで選んでくれた冬物の
衣服、小物、アクセサリーのコレクションが揃うだけだ。
それに外食も必ずふたりで行くのだ。

時計の針が、10時を指した。夜である。

「まあまあ。あらあらあら。まったくもう、
 アキちゃんったら、少しお仕置きが必要かしらね」

ミスズは念のため、菖蒲町(埼玉県の田舎)にある彼の実家に連絡したが、
実家には帰ってないと言う。たまたま電話に出た父親が
「あんな奴、いつどこで野垂れ死んでも構わんぞ」と言うものだから、
大変なショックを受け、やがて怒りが込み上げてスマホを握りしめた。

(世界が震えるほどの衝撃を受けたわ。
 どうして自分の息子が行方不明になってるのに心配しないのよ。
 うちの父親とは大違いだわ)

夜が明ける。やはり彼は帰ってこなかった。

これが遊び歩いている旦那の設定だったら、
妻にばれないようにこっそりと朝帰りでもしそうなものだが、
玄関の扉が開くことはない。

その日の夕方になっても彼は帰ってこなかった。
ミスズは探しに行こうと街へ出ようとしたが、
今日は1月の末なのでそうも言ってられない。

令和12年の月末は、相当にまずい。

『反対主義者の国民、一掃キャンペーン、実施中☆』

全国の自治体で行われていたのは、秘密警察による反自民党と思われる
あらゆる国民の摘発だった。月末の28日から30日くらいにかけて、
秘密警察が町中を歩き回って「物乞い」「乞食」「反政府活動をしている者」
「秘密の集会を開いている者」「自民党以外の組織を結成しようとしている者」
「貧者の救済をしている者」などを捕まえるのだ。

捕まった場合は、

『Go to 収容所 キャンペーン、実施中☆』 となる。

またしてもタイトルコールである。
令和12年では反自民党的な分子は強制収容所送りとなるのだ。

令和7年より厚生労働省に新しい組織が設置された。

『怠惰、怠業取り締まり、全日本非常委員会』

全国の自治体(役所の職員、労働組合その他)、警察、自衛隊を
動員して、日本全国において健康であるにもかかわらず職業につかずに
遊んでいる者を取り締まるための委員会である。

これによって生活保護の不正受給をしている在日朝鮮人を始めとした
勢力は簡易裁判にかけられ、最低でも16年以上の強制労働を命じられた。
仮に彼らが脱走や自殺を図った場合、その者の家族もまた連帯責任として裁判にかけられ、
次々に収容所に送られる。北朝鮮の朝鮮労働党が実施している「連帯責任制度」である。

令和12年とは、自民党の圧政によるこの世の地獄とされていた。

多くの労働者の賃金は一円も上がらないのに、物価だけは上がり続けて
税負担は際限なく上がり続け、不満を言う者は逮捕され、拷問され、粛清される。

年金支給開始年齢はどんどん引き上げられ、

    基礎年金が 「95歳から」
厚生(共済)年金は 「105歳から」 とされた。

実質、死ぬまで働き続けないといけないのだ。
老人の多くが動けなっても働かされたが、最後の手段で生活保護を申請しても
青酸カリを渡されておしまいなので、自殺する人が多かった。

令和12年では青酸カリを製造するための医薬品メーカーが繁盛していた。
それと多すぎる自殺者の遺体を火葬するための火葬場も盛況だ。
自殺者は政治犯と見なされるので葬儀は認められない。

全国の健康保険組合は令和10年までに完解体され、
国民の医療費は全額自己負担。介護も同様だ。

民間に頼ろうにも、スタフレにより一部の富裕層を除いて
誰も医療保険を払えないので民間の保険会社は9割が破綻した。

仮にガンなどの治療で入院した場合は、以前なら存在した
高額療養費制度(健康保険)がないので費用は全額自己負担する。
国民の9割が払えないので高利貸しの金融機関からお金を借りることが推奨された。
その場合の金利は最低でも14%で当然福利である。

手術に成功しても、借金が返せない者は「自己責任」として収容所送りになる。

こうして日本人の労働者はどんどん減っていくので、
自民党は外人奴隷を連れてくることにした。

令和12年では「外国人ブローカー」と言う名の派遣の仕事が高給で知られていた。
これは、タイ、マレーシア、フィリピン、ペルーなどに営業マンが出向き、
日本の労働環境のすばらしさを宣伝して第一次産業と二次産業に就業させるのだ。

無知な外国人に対し事前に説明した雇用条件とは全く異なり、

「一日12時間労働」「残業代の割り増しはなし」
「脱走した場合は空港で取り押さえられ、暴行される」
「永遠に支給されない厚生年金保険料を払わされる」
「日本で暮らしている以上、スタフレであり貧困であり、
 故郷で待っている家族に送るお金が稼げない」

などの現実世界の日本とほぼ同じ条件での奴隷労働がわれていた。

若くて健康的な男女は、どんどん子供を作るように命じられた。
日本人も外国人も関係なく、自民党に好意的でよく働く労働者には、
国が強制的にお見合いの機会を作らせ、子供を作らせる。

そしてその子供は生まれた時から自民党の思想に洗脳させ、
完全に物言わぬ奴隷として一生を送らせる。文科省の命により、
全国の教育機関で自民党を褒め称える教育が行われていた。

国民のこれだけの過酷な生活を強いる一方、
この国での唯一の立法府である国会では、次々に憲法や法改正が成され、

「基本的人権」の廃止によって拷問が解禁。
警察組織は秘密警察となって国民を管理、虐待する正当な権利を有していた。

思想の自由が認められず、反自民党的な出版社は次々に放火された。
前述のとおり、ネットでも思想の自由はない。

国会議員の平均年収は「一億一千万円」
議員年金は60歳から最低でも月220万が支給される。医療費もタダだ。
さらにタクシー、電車、空港などの交通費もタダ。住居費も無料となっていた。
また議員特権として議員が在任期間中に国民を殺害しても無罪とされた。

信じられないだろうが、国会議員の殺人無罪
(正確には国会の会期中における逮捕の免除)
の件は小説の設定ではなく、現実世界で実際に存在する制度だ。

ここまでくると、どこまでがファンタジーでどこまでが
現実なのか分からなくなってくる。

筆者の書く小説は過去作品も含めて「まず読み物として面白くする」という
筆者の基本方針に従って書いているので、どれもが非現実的すぎる内容に
なっているが、現実世界の日本もこれに劣らず相当に狂っていることが分かると思う。

国会議員は国民から「議員様」と呼ばれ、恐れられ、
もはや天皇陛下すら超越した存在となっていた。

この国の憲法では、最初に天皇陛下ではなく
議員の権利から書かれることになった。

これが『自民党独裁の日本』である。

かつて日本では朝廷が存在し、幕府が存在し、軍部が存在し、
国を治めていたが、令和12年ではその頂点に立つ存在が「自民党」に代わっていた。

三権分立を否定し、行政権、立法権、司法権を党が独占して
国家を完全に掌握する点においては「国家社会主義的ドイツ労働者党(ナチス)」
「ソビエト共産党」「朝鮮労働党」「中国共産党」と変わらない。

実は令和8年に全国で大規模な暴動が発生していた。
国民の反乱を鎮圧するために自衛隊の陸戦部隊を投入し、「粛清」が断行された。

岸田政権は令和8年の秋に、「テロリストたちの鎮圧に成功しました。
抵抗する者は頭を撃って殺害し、生き残った人は
反省してもらうために裁判にかけています」とNHKの中継で演説し、
この会見が国民の戦意を完全に奪ってしまった。

のちに「11月暴動」「テロリストの赤い11月攻勢」と呼ばれ、
文科省が社会科の教科書に記載することを許可した。

殺害された人数は全国で18000人。負傷者はその倍。
収容所送りになった人は26万人を超えた(うち半数が2週間以内に自殺)

自民党は国民に重税を課す一方で陸上自衛隊の戦力を拡充し、
戦車2300両、輸送用トラック5000千両、攻撃用ヘリコプター700機、
大砲各種20000門を用意した。

国が貧しくなるほどに軍需産業で働く労働者の割合は増えて行った。
自衛隊員の数より明らかに機械戦力が増えているが、
令和12年にもなるとヘリコプターや戦車はAIによる自動運転が可能となっていた。

国防大臣がスイッチ一つ押すだけで機甲師団は動き出す。
国民を殺すのはゲーム感覚だった。

実は国家予算における歳出の割合は令和元年と比較して大きく異なり、
国民には社会保障(サービス)がないに等しいのに、徴収額だけは倍増した。
ではその予算をどこに使っているのかと言うと、陸上自衛隊の強化に使用していた。

岸田政権では中国、ロシア、北朝鮮に対抗するための海空軍の増強は
ひとまず考えず、まずは国内の反乱分子を鎮圧するために、
あの一等国のフランス陸軍、ドイツ陸軍の実に10倍規模に匹敵する陸上戦力を用意した。
これにより、国民がいくら警察署を襲撃して銃を奪ったところで、
秘密裏に爆発物を製造したところで、もはや完全に積んでいる。

国民は皆こう思った。

「こんな国に生まれてくるんじゃなかった」

なぜあの時、選挙で自民党を選んでしまったのか。
きっと何も考えてなかったからだ。

以下は自民党の宣伝だ。

「党の力によって!! 日本国は戦後最長の経済成長を達成しています!!」

「労働組合との協議の結果、最低賃金はアップし!!
 先進国の中でも最良の生活を国民に提供しています!!」

「苦しかったインフレとの戦いはすでに終わりました!!
 誰もが安心して暮らせる社会となっております!!」

なにひとつ、真実などなかった。
令和元年から時は過ぎ、世は脱炭素社会となり、市販の車は全て電気自動車となった。
インドの軍事力はあの英国やドイツすら超越し、世界の覇権国のひとつとなっていた。
中国海軍の勢力は米国海軍の1.5倍にまで膨張し、米国国防省はパニックに陥っていた。

世界は、大きく変わっていた。
2030年になってもまだ「大本営発表」を続けている政府は
先進国の中でも自民党だけだった。
大本営発表は神の言葉であるから、否定することは許されない。

国民のSNSでのやり取りは、総務省と内務省が把握している。
パソコン、スマホでの会話はすべて盗聴されているし、書き込んだ内容も
チェックされる。不穏分子と見なされた人には、深夜の三時から四時の間に
秘密警察が自宅にやって来て、黒い車に乗せられて収容所へ送られる。

黒い車のあだ名は、「収容所行きのタクシー」と呼ばれ国民に恐れられた。

自民党の宣伝する社会は「一億総幸福社会」なため、
国内に乞食がいることは許されない。またニートがいることも認めない。
駅前で寝ている乞食は真っ先に消される。
だから乞食たちは場所を移動し、レストランの駐車場の一角や
目立たない路地裏で寝泊まりするのだ。

これは現実の日本でも同じなのだが、貧しい家の子供は
電気も水道も使うことができないので、公園の水道を使って髪を洗う。
親が食費を払えないので、お肉を食べられるのは月に一度だけだ。
給食費など、当然払えない。

子供の餓死者が年々増えていったが、
それでも自民党は「我が国には餓死者などいない」と言った。

ミスズは、考えないようにした。

彼女だって道端で寝転がっている人を何度も見たことがある。

人は、食べるものがないと寝転がるしかないのだ。
脳に栄養が足りない状態では思考することもできず、
最後は食べ物のことしか考えられないようになる。

4歳くらいの女の子が、白い眼をしながら
「みず……おみず……ください」とうわごとのようにつぶやいていた。

貧しい者の住む団地では、
お互いの子供の死体を交換して、死肉を食べている例もあった。
これは、かつてドイツ軍に包囲されたレニングラード市民の間で
日常的に行われていることだった(第二次大戦のドイツとソ連の戦争)

ミスズは、あれは犬か猫なんだと思って見ないふりをした
見過ごすしかなかった。彼女の父親は自民党の衆議院議員だ。
彼女は勝ち組なのだ。父親のお金で一生が保障されている。
今さら負け組のことなど考えて何になる。

今は貧乏人のことなど、どうでもいい。死にたいなら勝手に死ねばいい。
岸田政権の圧政から教会での食べ物の寄付が随分と増加し、
その影響か、多くの貧民がキリスト教徒に目覚めた。

貧困者は何一つ間違ったことなどしてないのだから、
死んだ後は天国に行けると言った。イエス様の右側に召されると。
なら天国に旅立てばいい。こんな地獄にいる意味などないのだから。


「アキちゃんは、どうして……」

ポロポロと涙がこぼれる。狭いはずのこのボロアパートの部屋が広く感じられる。
彼がちゃぶ台の前に座って株取引している姿が懐かしくさえ思える。

「どうして出て行っちゃったの? 私が言い過ぎちゃったから?
 私がもっとお小遣いを上げればよかったの?
 お料理がまずかったから? 私ってうざかったのかな……?
 上から目線で投資のことで説教したのが嫌だったの……?
 ねえ教えてよアキちゃん。どうして私に何も言わないで去ってしまったの……」

それから三日が立ち、ミスズの左の手首には「バーコード」のような
切り傷が目立つようになった。リストカットの後である。
夜寝る前はカミソリを当ててないと不安になるのだ。
さっさっさっと、切り傷を付けていくと次第には楽しくなってくる。
自らの真っ赤な血を見てニヤけていた。

この心の痛みを、一刻も早く彼に見せてあげたいと思っていた。

彼が何気ない顔で帰って来たのは、それからさらに二日経った後だった。


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