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作品名:もしも、もしもの高野ミウのお話 作者:なおちー

第3回   序章 そのさん
  第三話 「あの女は強制収容所行きが決定したわ」


翌日の金曜日だった。

太盛がいつも通り登校する。
始業の鐘が鳴ってもミウが教室にいない。
よく見ると彼女の席が消えていた。

朝のホームルームが始まる。
大学を出たばかりの担任の横田リエが宣言する。

「みなさんには、残念なお知らせがあります」

ざわっ、と教室内に緊張が走る。

「出席番号12番の高野さんですが、昨夜、生徒会の皆さんの
 調べによって、資本主義日本のスパイであることが判明しました。 
 そのため今日から特別教室で授業を受けることが決定しました」

ミウは昨日の夜のうちに諜報広報委員部によって起訴された。
電話で罪状が告げられたのだ。
罪は、自宅で母親相手に社会主義の悪口を言ったことだとされている。

本日(0700)尋問室に出頭させられ、
自らが「日本のスパイです」と認めた。

彼女は美しい顔こそ傷つけられなかったが、お腹と背中を金属バットで
何度も叩かれ、大きなあざができてしまった。
人を殴ったこともない内気なミウには過酷が過ぎ、ついに嘘の自白を強要されたのだ。

「なんであの子がスパイなんだよ!!
 ふざけんじゃねえぞおおお!!」

太盛が椅子を倒しながらイキリ起ち、そのあまりの迫力に担任の横田はひるむ。

「なんですか堀君。あなたは、まさか生徒会の皆さんの決定に不服なのですか?」

「いや、だっておかしいだろ!?
 ミウがスパイって!! ミウは政治には全く興味がないし、
 それに生徒会の活動にも全く関心がねえんだよ!!
 つい昨日まで美術部で画をかいてた人が、なんで反革命容疑者なんだよ!!」

太盛はどんどん教卓へと進み、仕舞には横田理恵の胸ぐらをつかみあげる。
さすがにまずいのでマサヤが止めに入る。

「おい太盛!! 教師閣下に対してその態度はどうかと思うぞ!!」

「止めてくれるなよマサヤ!! おまえだって今回の件は
 おかしいって思ってるんじゃねえのか!!」

「今回の件は諜報広報委員部の皆さんの決定なんだぞ。
 彼らは、はるか高みにいらっしゃる方々だ。
 我々の考えなど、とうてい及ばないのだよ。さあ、おとなしくしろ。
 今すぐクラス全員に謝罪するならば、反省文程度で許してもらえるぞ」

クラス委員には、生徒会から一部の権力を託されている。
それは、クラス内で反革命容疑者と思われる生徒がいた場合に
彼らの裁量で処罰しても良いと言うことだ。

(A組男子のクラス委員は太盛なのだが、各クラスごとに
 クラス委員が逮捕、粛清された(されつつある)場合に備えて
 代理の委員を用意してある。このクラスではマサヤが
 その代理となっているため権利を行使しようとした)

本来なら、生徒会の判断を批判した時点で太盛は尋問室行きが決定している。
だが太盛はマサヤの友人だし、
まして女子のクラス委員である橘エリカの婚約者とあれば、
罪を軽くしてやるのが妥当だ。

「マサヤ君は何を言っているのかしら」

エリカが座席で足を組みながら言う。

「彼はクラスメイトが突然、特別教室行きになってびっくりしているのよ。
 ええ。分かるわ。誰だって取り乱すことくらいあるわ。人間だもの。
 ねえマサヤくん。だからってそんなささいなことで、
 太盛君がわざわざ反省文を書く理由になるのかしら?」

「う、うむ。確かに多少取り乱しただけで反省文はなかったかもしれん!!
 よし!! これでこの件は解決だな!! 
 今朝のことは何でもなかったのだよ!! さあ同志クラスメイト達よ!! 
 悪の生徒を摘発した諜報広報委員部のすばらしさ、
 そして我がクラスの橘委員の寛容さに拍手をしなさい!!」

教室から拍手の渦が起きる。
この学園では、いつもこうなのだ。2年A組。進学文系コース。

みんな学園の決定には逆らわず、荒波を立てることを恐れ、そして何より
自分が収容所行きになり、粛清されることを誰よりも恐れる。典型的な日本人だ。

共産主義(社会主義)制度とは、日本国においては今日まで適用されることのなかった
社会制度だが、もともと奴隷気質を内に秘めた日本人にとって、これほど
都合の良い制度はないだろう。なぜなら、日本人とは上の命令
(国家機関、政治家、会社)にはどこまでも従順であり、逆らうことをしない。

たとえば株式会社でみると、日本人の労働者にとって会社組織や直属の上司は
神に等しい存在であり、在職し続ける限りは絶対に逆らわない。軍隊に近い。

政治の視点でも、経団連と政府が国民の税金を搾取し続けても、
若者を中心にたとえ貧困になっても政治には関心がなく、
仮に政治に不満があったとしても全国レベルのデモまでは発生しない。

「こういう世の中だから仕方ない」
「我慢するしかない」
「そんなことを考えるより、まじめに働くしかない」
「政治家の偉い人がやっても駄目なんだよ」
「政治は難しい。俺には分からん」

平成が終わり令和になっても自民党一党独裁政権に変わりはなく、
(民主党に代わった時期も3年半ほど存在したが、あえて無視する)
先進各国を見渡しても一つの政権だけが普通選挙によって
これだけ議席数を維持できるのは日本だけだろう。

一度この国が共産化をしてしまえば、実際はほとんど反乱らしい反乱もないまま、
100年単位で共産化を維持することも不可能ではないだろう。
共産化とは全国民の自発的奴隷化を進める制度に過ぎないのだが、
私の住むこの国においては、すでにその前段階が完了していると
言えるのではないのだろうか。

(2021/11/23 執筆の内容です)

今般のコロナ化における各国の市民の動向を見ても、
政府のロックダウンに対する大規模なデモを
おそらく一度も行わなかったのは、世界広しと言えども日本国だけである。

英国をはじめ西洋列強国でさえ市民たちがロックダウンに反対して
「市民の権利を守れ」と警察隊を相手に派手に暴動を起こしていた。
最近ではベルギーで放水と催涙弾で暴徒が鎮圧された。

ニュースで催涙弾とはよく聞くだろうが、催涙弾とは正式にはガス兵器の一種である。
元をたどれば、第一次大戦で使用された毒ガスを改良して
致死性と後遺症を限りなく軽減したものだ。そう考えたら恐ろしい兵器である。

また放水車による攻撃も、威力は半端ではなく、
当たり所が悪いと、頭と顎骨の脱臼の恐れがあるそうだ。

日本国ではコロナ拡大イベントと恐れられた東京五輪が終わった。
五輪のブラックボランティアと称された奴隷労働も進んでやる人が実際にいたわけで、
筆者は驚いた。近代化された西洋一等国の国民だったら、とうてい納得ができないだろう。
開催者側の称するボランティアとは、古代エジプトの奴隷と大差がないからである。

また五輪開催に関して全国規模での五輪反対の暴動が発生しなかったが、
(日本医師会による書面での中止の訴えなどはあったが、極めて平和的手段である)
民主主義国家の大先輩のフランスでこんなことをやったら、
市民の大反対によって政府が転覆してもおかしくはない。

時代をさかのぼる。江戸の末、戊辰戦争の果てに明治維新が成り立つ。
その後の西南戦争を除けば、反乱らしい反乱もないまま(各地で小規模な反乱はあった)
明治30余年の月日を経て日清日露の戦役で勝利する。

我が国の勝利の最大の要因は、国民としての民族意識の高さも当然にはあるが、
国民が政府や軍の方針に逆らわず、兵も国民も過酷な生活(飢えや貧困)に耐え、
国力を高める努力をしたからである。この全体主義的な強さが、日本の強さの源である。

全体主義的な団結力から、やがては太平洋戦争時の南雲機動艦隊のような、
世界最高の練度を誇る艦隊を保有するに至る。この時代の日本帝国は
ソ連を始めとした敵国からは「全体主義的ファシズム国家」として恐れられていた。

またドイツや日本は兵隊の練度が異常に高く、また好戦的なことも脅威とされていた。
世界の国々では、この二国が中心となって世界征服の野望を秘めているとさえ信じていた。

当時のソ連の認識では、ソ連が戦争しても勝てる見込みのない5つの国のひとつに
日本帝国が入っていた。具体的には米英独仏日である。

ソ連の軍首脳から国防人民委員部に対して、これらの国と交戦した場合に大規模な
消耗戦になるのは確実として、その際に必要な戦力として、最低でも
常備兵300万以上、戦車5万両、軍用機1万機とした案まで提出された。
スターリンは勝てる見込みのない国との戦争は、外交努力によって避けるようにしていた。

ソ連外務省はこれらの国との交戦を裂けるために交渉を続け、
やがては日ソ不可侵条約、独ソ不可侵条約を結ぶに至る。

日本人の奴隷的気質の件に戻るが、他にも決定的な例がある。

戦争で散った英霊の皆さんを侮辱する意図は断じてないのだが、
神風特別攻撃隊、回天特別攻撃隊など、軍が組織的に
大規模な自殺攻撃を実施した国は、世界の歴史をどれだけ調べても日本帝国だけである。

回天を知らない人が多いだろう。回天とは、「人間魚雷」のことである。
超大型魚雷の中に人間が入り、操縦して敵に突撃するのだ。
航空特攻も十二分に非人道的だが、回天の悲惨さは、そのさらに上を行く。
この話で興味を持った読者諸兄らは、ぜひネットで検索してほしい。

1944年の6月のマリアナ沖海戦で日本の空母艦隊の主戦力は壊滅し、
大局的には敗北が決定した。そのことは、政府と軍が一番よく分かっている。
だが、天皇制を維持するために少しでも有利な条件で講和する。
そのためだけに特攻兵器が使用されることとなった。

『国のために、死ね』

上にそう言われたから、死ぬ。

『一億総特攻だ。最後は俺も死ぬ。だから最初に死んでくれ』

そう言われたから、最初に死ぬ。

日本人の本質は、不幸にも散ってしまった英霊の皆様が証明されてしまった。

繰り返すが、死んだ人を悪く言うつもりは毛頭ない。
この内容を不愉快に感じる人は、今すぐページを閉じて欲しい。

だが、

『過労死』『過労による自殺』

これらがニュースで当たり前に報じられる国があるなら、私に教えて欲しい。
わが国では日本国憲法により「職業選択の自由」が認められ、
その憲法によって制約を受ける各種法律、特に民法(各労働法)では
何時自由に辞めても、処罰されないこととされている。

労働契約とは、法律的には諾成契約(口約束)で成立するのだから、
極端な話「今日で会社辞めます。さよなら」と電話で伝えたところで、
労働者を罰するいかなる法律もこの国には存在しない。ただ彼がいなくなったことで
会社が困るだけだ。もっといえば、そんな働き方をさせた会社に問題があるのだ。

一見すると労働契約書に署名が必要になるからこちらに法的拘束力が
あるのだと勘違いされるだろうが、あくまで労働は「諾成契約」を優先する。
つまり契約書は、内容を文字に起こしただけの紙切れであり、法的には意味がない。

たとえば正社員として雇用されても、会社側は労働契約書と異なる
条件で労働をさせても平気な顔をしている。
派遣労働では、実際に労働者が働き始めてから書面を渡し、
一週間以内に返信してくださいと伝える。

これらも、実際の労働をする際に書面の内容には意味がないことを意味している。
コンビニやスーパーのアルバイトでは「ばっくれ」が頻発しているそうだが、
実際に彼らが処罰されたという内容を筆者は聞いたことがない。そんなものはないからだ。

雇用契約書には「退職の2週間以上に辞意を……」と書いてあるが、
やはり紙切れなので何の拘束力もない。
また、いかなる罰金を払う理由もない。その必要もない。
つまり早期の辞意表明は「努力義務」のレベルであり、
自治体の出す「条令」に近いだろうか。

しかし、それでもなお、

『会社のために全てをささげる』
『日付が変わるまで残業するのが当たり前』
『月100時間程度の残業は普通』
『俺がいないと会社が回らない。会社が会社が……』

このようなことを言う人が、実際に大手企業にはいる。
なにも大手企業だけではない。マクドナルドやコンビニの店長など、
いわゆる「ワンオペ」で酷使され、過労死した例もある。

「辞めたら食べていけない」
「金がないんだよ金が」
「転職するのは大変なんだぞ」

分かる。だが、悪いのは労働者ではない。
労働者は勤勉で努力家である。
ふざけているのは、日本の国家制度と労働の環境なのである。

なぜか、日本人は自分が悪いと思い込み、社会制度(政治)に対しては攻撃をしない。
理由は、『直属の上司』『上の立場の人間、あるいは組織』には逆らわないからだ。

平成にあった秋葉原の連続殺傷事件の加藤容疑者をみてみよう。
彼は「派遣先で何らかのトラブルがあった」として、派遣先の仕事を
突然やめ、秋葉原の歩道にトラックで突っ込み、手当たり次第に人を殺傷した。

彼の犯行の一番の動機となったのは、派遣先、すなわち企業である。
なのに、なにゆえ派遣元の上司や、派遣会社の営業に文句すら言わずに、
関係ない人を刺すのか。

また日本軍を例にしても、上官に媚を売る一方で、新兵をいじめるのは大好きである。
会社組織の新人いじめ、学校の運動部による下級生へのしごきも、似た風潮がある。

日本人の本質がここにもある。「弱い者いじめが好き」なのである。
自らのうっぷんを晴らすには「弱者」をいじめることを選択するのだ。

執筆時点から数年前に、日大のラグビー部のタックル問題があった。
ウチダ監督に命じられた部員が、しかたなく相手選手に反則行為をしてしまったのだ。
調べて見れば、実は当該選手のスタメン器用の件で脅していた監督側に
非があることが明らかになったではないか。
しかしながら、その選手もまた「上司には絶対に逆らえない」
日本人の気質を証明してしまった。



筆者は思う。

労働の対価は『金』である。

やりがいなど、理想を口にする人もいるだろう。
だが仮にそれが無償のボランティアだとして、
一日8時間以上も労働に費やす人がいるだろうか?

『生きるために』働く。

『妻のために子供のために、老いた両親のために。
 車や住宅のローンを返すために』

なんでもいい。いずれにしても生存のための行動に変わりはない。

だが「過労死」とは、その真逆を行かないだろうか。
結果的に死ぬために働くのなら、
もはや生物が持ちうる生存の欲求すら放棄したに等しい愚行である。

それは、労働ではなく自殺である。
本質的には特別攻撃隊で不幸にも散った皆様と同じことをしており、
戦時においても平和においても日本人の本質が変わらないことを意味しているのだ。

同じことを何度も繰り返して読者諸兄らは不快だろうが、それでも言わせてほしい。
この国ほど「全体主義的思想」が浸透しやすそうな国が存在するだろうか?

「学園生活」シリーズでは、共産化された足利市という小さな世界での
主人公たちのもがき苦しむ姿を描き続ける。彼らにとって一番の不幸は、
強大な権力に決して逆らおうとしない愚直さゆえに、
卒業までボリシェビキの奴隷として過ごすことである。

ミウとエリカは、ともに一人の男子を愛しながらも、
常に生徒会によって粛清される恐怖と戦いながら、学園生活を送る。

以上で序章を終える。


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