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作品名:もしも、もしもの高野ミウのお話 作者:なおちー

第29回   本編 21 生徒会選挙 公開討論会2
    第二十四話「あーそれたぶんデマだよ」


生徒達が一番気になるが学内の政治である。

「次は質問型の討論です。まず井上さんの考える
 常設委員会について、高野候補と近藤候補による質疑を行います」

ミウはさっそく突っかかった。

「失敗するに決まってるよ」

「どうしてそう思うの?」

「前も言ったけどね、マリカちゃんは夢見すぎなんだよ。
 一度もボリシェビキとして働いた経験がないのに、
 いきなりボリシェビキの組織を作り出そうなんて無茶だよ」

「私は組織委員部のお仕事のお手伝いなら一年生の時から
 やってる。まったく働いたことがないわけじゃないよ」

「でも実態が分かってない。私はアナスタシア代表の
 秘書をやった経験があるから、部の実態が分かっている。
 これ以上部を増やしたところで混乱のもとになるだけだって」

「やる前から否定に入るのは悪いことよ。
 確かに失敗する可能性もある。でも一度は試さないと
 意味がない。やってみる価値はあると、
 多くの生徒は思っているから私を支持しているんだと思う」

ミウは黙った。次にサヤカが、常設委員の創設に関して
現在の各クラス委員の賛同が得られているかを質問した。
マリカは出馬前の事前の調査で過半数の支持を得ていると答えた。

とりあえずサヤカは納得し、それ以上の質問をしなかった。

「ありがとうございました!! 
 さあ!! それでは次は、高野候補に質問をしてみましょう!!」

ここでサヤカが声を張り上げる。

「私は全校生徒が一番気になっているであろう疑問を、
 今ここで解消しようと思っています!!
 高野さんに質問します!! 科学部の実態を教えてください!!
 なぜ彼女らは今日も休んでいるのですか?
 また学内で大きな噂になっている化学兵器の正体についてもお願いします!!」

「はぁ……あのさぁ? アナスタシアが何度も話してる通りだよ。
 化学兵器なんて存在しないって。あれは私が演説でみんなを
 脅すためのはったりだよ。高校生の若い人が
 そんな高度な兵器を作れると思ってんの?」

「しかし科学部の人は諜報広報委員部の中でも指折りの
 エリート揃いで、しかも全国から集められた飛び級の生徒ばかりです!!
 化学兵器を持ってないと考える方が不自然だと思いませんか!?」

「だから、ないって。そのために科学部の部室をボリシェビキに
 公開したんだよ。保安部の人も何度も立ち入ったけど、
 どこにも怪しげなものなんてなかったはずだよ」

「ではSNSで流行っている毒ガス兵器のことはどう説明するのですか?
 中央委員部が調べたところ、一部生徒が毒ガスをすでに
 保有しているとの情報がありますが!!」

「あーそれたぶんデマだよ。
 だってうちの部で今まで一度も開発に成功しなかったんだから。
 兵器の意味わかってる? 戦争でも使えるレベルの高度な
 技術をもって開発されるものを指すんだよ。
 仮に作れたとして維持管理はどうするの? さっきも言ったけど、
 軍の研究機関でもないのに作れるわけないじゃん」

「では、なぜクラス演説の時には、保安委員部の戦力無しでも
 我々中央委員部を壊滅させられると言ったのですか!!
 あれはどう解釈してもあなた方が秘密兵器を所有しているとしか
 思えない発言でしたよ!?」

「だから、脅しだって。マリカちゃんが強すぎるから、
 普通に演説しても勝てないと思ってみんなの恐怖をあおったの」

「あなたのせいで学校を休む生徒が続出したんですよ!!
 中には心を病んでいる一年生もいるそうです。兵器の真偽はともかくとして、
 生徒の模範となることを目指す人間がこれでは、これは……責任問題ですよ!! 
 選挙に勝つためのはったりだったで済む問題ですか!!」

「うん……そうだね。じゃあみんなの前で謝るよ。嘘ついてごめんなさい」

ミウは席を立ち頭を下げた。生徒がざわつく。
司会のクロエも困っていた。
そのスキを突いてマリカが横から切れ込む。

「あっクロエさん。私からもミウちゃんに質問しますね。
 ミウちゃんは今までに人を殺したことはあるんですか?」

「ないに決まってるでしょ」

「では今は人を殺すことにためらいはありますか?」

「なにそれ誘導尋問? うざいけど応えてあげるよ。ある」

「あなたの理想のために多くの命が犠牲になったとしても、
 構いませんか? 罪悪感はありませんか?」

「構うし、罪悪感もあるよ。なに?
 君も私が大量破壊兵器を持ってると信じてるの?」

「いいえ。今持ってるかどうかは証明しようがないだろうから
 どうでもいい。私が知りたいのはあなたが潜在的な人殺しか
 どうかってことだよ。本当に人を殺してもなんとも思わないような
 奴だったら、あなたは絶対に人の上に立たない方がいい。
 そんな資格は絶対にない」

「ふーん。全否定するんだね。私のことを」

「生徒が気になっているのは、あなたの人間性なんだよ。
 あなたが仮に大量破壊兵器を持っているとしても、
 使うかどうかはあなたの判断だから。
 あなたに良心が少しでも残っていれば、使用をためらうはず」

「あっそう!! さっきから私の人間性を否定してるだけじゃない!!
 分かりましたよ!! 私が殺人鬼だってことにしておけば!!
 科学部の部室まで公開してるのにまだ疑われてるのは不愉快だけどさ!!」

憤慨するミウをなだめながら、クロエは次の質問先にサヤカを指名した。

まずマリカが手を挙げる。

「近藤さんの思想はずばり保守ですね。
 その考え方で、現在までの密告制度を主因とした
 冤罪の容疑者を減らすことができるのですか?」

「密告制度は今年の春から採用された制度でして、
 まだ実験の段階にあったと言えます。密告制度は中央委員部で
 よく検討してから細かい内容を変更する予定です。また冤罪にあった
 生徒には手厚い保証をすると同時に、本人たちから聞き取りをして
 再発防止のための方法に役立ていますよ」

「なるほど。では各部の仕事の割り振りについて聞きます。
 現在特に中央委員部の負担が大きいと思います。
 体育祭文化祭などの学校行事をすべて担当するだけでなく
 規則の制定や予算の管理、学内設備の保守点検など多岐にわたります。
 20名足らずの人数では多忙でしょう。そのために
 新しい部の創設をすることは意義のあることだと思いませんか?」

「確かに……。常設委員部に各クラスごとに自治をしていただけるなら
 すごく助かります。我々は取り締まる手間が省けるわけですから、
 事務に集中できる。特に諜報部が助かることでしょう」

「私が特に確認しておきたいのが、もちろん仮の話ですが、
 私が当選した場合は、中央委員部の皆さんには私の方針通りの
 新しい規則を作っていただきたいのです」

「もちろん従いますよ。この学園では会長の権限が強く、
 中央委員部を初め、その他の部も会長の意向通りに職務を
 行う決まりとなっていますから。ですから井上さんが
 考えている常設委員部も、中央委員部が正式に許可を出して発足させます。
 業務に必要な人員もしっかりと用意させていただきます」

「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。
 逆に私が落選した場合は、そちらに一つだけお願いがあるのですが」

「なんでしょうか?」

「組織委員部の人数の増設をお願いしたいのです。
 囚人の管理に関する権限をもう少し引き上げていただければ、
 保安委員部と中央委員部の負担を減らしてあげることができます」

「それは結構なことですね。むしろこちらからお願いします。
 ところで井上さんは、仮に落選した場合はボリシェビキになる
 つもりで先ほどのお話をされたのですか?」

「いいえ。私は卒業まで一般生徒でいようと思っています。
 ただ、組織委員部には助言役として認められているので、
 たまに顔を出すことはあると思いますが」

「そうですか。井上さんは聡明な方ですし、ぜひボリシェビキに
 なることをお勧めしますよ。もちろんうちの部でも大歓迎です」

「ありがとうございます。恐れ多いことです」

「なんだか質疑って感じがしませんでしたね。
 井上さんからの質問は以上でよろしいですか?」

「はい。ありがとうございました」

「こちらこそ。さて……」

問題はミウだった。先ほどからサヤカに質問したくてうずうずしていた。

「いや、何マリカちゃんと友達みたいなやり取りしてんの?
 見ててすごい腹立ったよ。しかも生徒の前で猫かぶっちゃってさ」

「……それは政策に関する質問なのですか?
 あいにくですが答える必要のない質問には答えませんよ」

「うん。だって私の言いたいことはひとつだよ。あんたの部の
 コネ採用の人間を公表しろってこと。この間、管理システムを
 開いたら中央委員部のデータが読み込めなくなってた。ロックかけたでしょ?
 あんたは卑怯者だ。都合が悪いことは逃げてばかりのくせに、生徒の代表を目指すな」

「確かに過去にコネ採用があったのは認めます。
 ですが、過ちは当然どの組織にもあるわけですから、
 今後はそういったことのないよう努力します」

「それが政治家の言い方だって言ってんだよ!!
 あんたの父親って衆議院議員なんでしょ?
 私もテレビで見たこと何度もある。親父さんと
 全く同じ言い方してるじゃない。自分で気づいてないの?」

「なぜ私の父の話になるのでしょうか。 
 私の学内政策と何ら関係があるようには思えません」

「嘘つきだって言ってるんだよ!!
 政治家は国民によく嘘つくでしょ。
 あんたの言ってる事なんて、誰も信用してないんだよ」

「毒ガスを流通させた疑いのある高野さんに言われたくありませんね」

「ふん」

とミウは鼻を鳴らす。

「ガスガスってしつこいんだよ。私を攻撃する材料が
 それしかないからってしつこいなぁ。腹立ってきたよ。
 私、あんたの事大嫌いだから」

「今度は私への中傷ですか。
 最終的に私達の評価をしてくれるのは生徒や教師の皆さんですよ。
 あなたが個人が私をどう思おうと選挙の結果には影響ありません。
 そもそも高野さんは質問する気があるのですか?
 ないならこれで終わりにしますが」

「私があんたを一番気に入らない理由はね、親が金持ちだってことだよ。
 ネットで調べたよ。衆議院議員に10期連続当選。地位は政調会長。
 年収5000万とかでしょ? 典型的な金持ち。特権階級。資本家。
 あんた、もうダメじゃん。全然ボリシェビキになる資格ないよ。
 なんでお金に困ったことのない奴が生徒会長を目指しちゃったの? 
 貧しい女性を救いたい……? 貧困撲滅……?
 ならあんたが今すぐ全財産を捨ててアパートで一人暮らしでもしてみろよ」

サヤカは手を固く握りしめ、小刻みに震えていた。怒りに耐えているのだ。
今すぐに怒鳴り散らしてしまいたいが、ここには全校生徒と教員がいる。
囚人でさえ参加を許され、体育館のすみに集められているのだ。

「ねえ近藤!! あんたもテレビで見る政治家と全く同じだよ!!
 自分の生命も財産も侵害される恐れがなくて、雲の上であぐらを
 かいて、下界を見下ろしてるだけの偽善者!! こんな奴に
 権力を与えてもね、すぐに公約なんて忘れて私欲に走るんだよ!!
 来年度の中央委員部の予算は、こいつの小遣いだ!! 
 学校の組織も、人も、規則も、全部こいつが好き放題にできるんだよ!!」

ここでマリカが口をはさむ。

「それは近藤さんに対する誹謗中傷となりますよ。
 討論会の場でするべき話ではないわ。撤回しなさい」

「いやいや、なんで!? どこが誹謗中傷なの? 真実じゃん!!
 金に困ったこともない、権力もある人間が、どうして弱い人の
 立場に立って物事を考えられるの!! そんなの無理だよ!!
 だって日本の政治が証明している!! 近藤サヤカは根本的に
 ボリシェビキには向いてない存在なんだよ!!」

「黙れえええええ!!」

サヤカが、吠えた。

「私のことはいくら馬鹿にしてもいい。でも父のことを
 金目当ての政治家みたいに言うのだけは許さない!!
 高野さんは衆議院予算委員会を一度でも見たことがあるの!?
 私の父はアベ政権の時から外人奴隷法案(特定技能)への反対!!
 毎月勤労統計の虚偽の証明、裁量労働制(過労死法案)への反対、
 近畿財務局の決済問題(森友学園)についてもすべての党に先立てて、
 いち早く問題を指摘して改善しようとした!!」

さやかが猛然と噛みつくようにまくし立てる。

「自民党の政治が続いて30年間も経済が停滞し、
 多くの国民が生きる権利を失われつつあることをみんなが知っている。
 だから止めようとしたけど、有権者の7割がシルバーだから
 彼らは自分の年金だけもらえれば後はどうでもいい!!
 若者は選挙に参加しないから、どんどん老人有利で若者が 
 賃金奴隷にされる法律ばかりできていく!! それを止めようとしたのよ!!」

続ける。

「でも何をやっても無駄だった!! だって自民党の一党独裁だから!!
 結果的には野党議員なんている意味がないのよ!!
 それでも!! 諦めるわけにはいかないのよ!! 貧しくて死にそうな
 人が確かにそこにいる!! あと少し、あと一か月分の給付金があれば
 生き延びて、無事に就職して今でも元気に働いてくれた可能性があった!!
 でも自民党はそういう人を全部殺そうとしてる!! だから私は許せない!!」

サヤカはまだ続ける。

「高野さん言ったわよね? 私がお金に困ったことがないって。
 ええ。確かにそうよ。でも私はお金の無駄使いなんてしてない!!
 高級品、ブランドものには興味ない!! あなたと違って海外に行ったこともない!!
 私は今の仕事が好きだから。仕事さえしていればそれで満足してる。
 信じてもらえないでしょうけど、毎年のお年玉はほとんど
 使わずに孤児院に寄付してるわ。最近は寄付を名乗った怪しい団体が
 多いから、お金は園長先生に直接手渡しているのよ!!」

ミウは、圧倒されて口がはさめない。

「たまに東京にいる父から電話が来るわ。学校ではうまくやってるかって。
 私は何も問題がないって答えるわ。だって私は誇りをもってやってるもの!!
 私には理念がある!! 誇りがある!! 信念がある!! 父親譲りの
 強い気持ちがある!! その気持ちまでをあんたに否定される筋合いはない!!」

「うん……」

とミウがうなだれる。

「私の父はね、生まれが宇都宮なんだけど、私が小学校を卒業してから
 国会議員になって、ずっと東京に暮らしているわ。私は母親や弟たちと
 宇都宮から引っ越して足利で暮らしている。この学園に入るためにね。
 引っ越しの費用も住居費も、日本で四番目に高い学費も、全部父が
 出してくれてる。昔は家族に顔を見せずお金しかくれない人なんだと
 思っていた時期もあった。でも今では、パパのことを尊敬しているわ!!
 だから私の父のことを否定するのは止めて!!」

「ごめん……。確かに悪かったよ」

とミウは素直に頭を下げた。

サヤカの方も、相手が素直な反応を見せたのでこれ以上は怒鳴れなくなる。
生徒達の方を見ると、やはり呆然としていた。

(やっちゃった……。こんなに多くの人の前で……私……バカだ……)

その時だった。サヤカの視界がぐるりと回転した。
司会のクロエが何かを言い、いよいよ最後の挨拶として
三人の候補が順番に立つことになったのだが、サヤカは立ち上がった瞬間に
肩を前に出した状態で床に倒れ、そのまま意識を失った。

原因は過労とストレスによるものだった。
2学期が始まって以来多忙が続いたサヤカは、ミウとの舌戦がきっかけで
脳の処理能力が限界を超えてしまい、突発性の頭痛で倒れてしまったのだ。


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