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作品名:もしも、もしもの高野ミウのお話 作者:なおちー

第27回   本編 19 生徒会選挙 ミウの演説
   第二十ニ話「サーセン先輩。ちょっと質問いいっすか?」


ミウが、推薦人のアナスタシアと共に6組の教室にやって来たのは、
15時過ぎだった。夕方であり少し眠くなっていた生徒たちは、
突然現れた2年生と3年生の美女を見て完全に目が覚めてしまった。

「先生。失礼しますね? 時間ないんでさっそく演説始めますよ」

「は、ははは、はいぃ。高野様!! アナスタシア様!!」

候補者の高野ミウ。そして諜報広報委員部の代表、アナスタシア・タチバナ。
アキラ会長の双子の妹であり、実質的な学内の最高権力者の片割れである。

担任の先生は三つ指を突く形で二人を迎え入れ、生徒達の失笑を買っていた。
特にミキオは、権力に屈する先生の情けない姿を
生涯忘れることがないよう、その瞳に焼き付けておいた。

「みなさん。初めましてになるのかな?
 私がアナスタシア・タチバナです。変わった名前でびっくりしたかな?
 何を隠そうお姉さんはソ連系の移民なんです。
 今日は友達のミウちゃんのために推薦人を務めさせていただくわ」

すごい美人だった。妹のエリカをさらにスケールアップした感じだった。
この日のためにアナスタシアとミウは、
アナスタシアの知り合いのメイクさんにお願いして化粧を施した。
髪型も完璧だ。もはや候補者などではなく、
撮影前の女優が二人並んでいる感じだった。

女性に免疫のない男子達は、つい彼女らの美しさに夢中になってしまう。

「今日は、ミウちゃんと対話形式で話を続けていくわ。
 その方が一方的にベラベラ話されるより、
 みんなに伝わりやすいでしょ?」

ニコッとウインクすると、男子達の顔が赤くなる。
女子たちは嫉妬よりも羨望のまなざしで三年の先輩を見ていた。

「それでは、ミウちゃん。あなたが当選したらやりたいことは何かな?」

「粛清です」

「え……。ええっと……?」

「今の生徒会には、不穏分子が多数潜んでいます。
 ですから、そいつらを全員粛清します」

「ちょ……ちょちょちょっ!! いきなりそれ!?
 台本通りに話してくれないと困るじゃない!!」

ふたりは廊下に出て、内緒話を始めた。
いきなり見せつけられた謎のコントに教室内がざわついた。
教師はアホ面して口から泡を吹いている。

美人の先輩達が戻って来た。

「みんな!! ごめんね〜。ちょっとミウちゃんの機嫌が悪いみたいで、
 本当に言いたいこととは違うことを話してしまったみたいなの!!
 それでは改めまして、ミウちゃんのやりたいことを聞いてみましょう!!」

「アーニャ。もうそんなことしなくていいよ。
 マリカちゃんがすごい演説をしてるんだから、
 普通の方法でやっても無駄。勝てるわけないよ」

「し、信じられない!! ふつうそんな言い方する!?
 私はあなたのイメージが少しでも良くなって、
 最悪選挙で負けたとしても敵を作らないために
 推薦人をやってあげてるのに!!」

「だかってこの子達に嘘を言ったってしょうがないじゃん。
 この子たちは理系でも一番頭の良い子が集められてるクラスなんだよ。
 下手な嘘をついたってサヤカの時みたいに白けちゃうだけだって」

「なによそれ……なんなのよもう……。はぁ……。もういいわ。
 私は何も言わないから、好きなようにしゃべりなさいよ」

アナスタシアはもう一度深くため息をつき、出入り口付近で
腕組みして壁に背を預けた。完全に傍観の構えだ。

「それでは改めまして。私が高野ミウ。二年生です。
 普通の名前だから覚えやすいと思います。
 ってか候補者が三名しかいないんだから、覚えるのなんて余裕だよね。
 まずみんなが気になっていることの真相を教えてあげます。
 なぜ候補者が最初五人だったのが三人に減ったのか。気になりませんか?」

ミウは真実が知りたい人がいたら遠慮なく手を上げるようにと言った。
この緊張感の中で誰も手をあげなかったが、最初にミキオがあげた。
続いて他の生徒もぽつりぽつりと手があがっていく。

「お答えします。私が辞めさせたからです」

ミウはチョイバルサンと高倉ユウナが
実はザコだったことが判明したからだと説明した。

「ちなみに私以外の候補者もザコです。
 マリカちゃんは精神的に甘いし、生徒会の実務経験がない夢想論者。
 近藤サヤカは人間のクズです。生きてる価値すらありません」

教室内がどよめいた。この女は、なぜ他の候補者の悪口を言い始めたのか。
この時点で、明らかに異端者である。

「マリカちゃんはまだ一般生徒だから許せます。
 私の親友でもありますから。でも近藤はダメですよ。
 みなさん、あの女の話を聞いてどう思いましたか。
 政治家みたいに綺麗ごとを並べるだけで、
 まるで実行力のなさそうな、頭の悪そうな言葉しか
 出てこなかったと思います。それは彼女が無能だからです」

ミウは、両手をゆっくりと左右に広げた。

「なぜ、近藤が無能なのか。
 それは彼女の所属する組織自体が腐っているからです。
 中央委員部。これは明らかに学園に不要な組織だからです。
 いいえ、組織そのものが悪意の塊なのです」

マジかよ……と言っている男子がいたので、
ミウがマジだよと返すと「す、すみません」と脅えた。

「今私に発言したのは田中君かな? 謝んなくていいよ。
 他にも質問とかある人は、どんどんしゃべってくれていいからね。
 特にそこの君。君は緒方さんだよね? さっきから熱心に
 私の方を見てくるけど、何か言いたそうだね。ちょっと立ってくれる?」

「わ、わたしがですか?」

「他に誰がいるのよ。ほらさっさと立つ」

「はいっ!!」

緒方はミウが可愛いのに毒を
吐くからつい凝視としていただけなのだが……。

「あっ、なんで名前を知ってるんだって顔したね?
 私はクラスを訪問する前に生徒の顔と名前を憶えてから
 来るようにしてるから。だからみんなの下の名前まで全部言えるよ。
 これでも一応諜報部の人間だからみんなの個人情報は全部把握してるしね」

ざわざわ……とさすがに教室内がざわめき、恐慌に近い状況となった。
特に指名されてしまった緒方は、もはや失言が許されない。
普通に考えれば選挙では有権者側の方が有利なはずが、全く逆である。

アナスタシアは、「あちゃー」と言いたげに、
両手の指でこめかみを押さえていた。だが約束通り口は挟まない。

「ほら。緒方さん。質問してよ」

「じゃ、じゃあ。どうして中央の人が悪い人だと思ったんですか?」

「中央の人って近藤の事?」

「あっすみません。私が知りたいのは、
 高野先輩が中央委員部が腐っているっておっしゃっていた理由です」

「そもそもね。この学園が一番腐っている原因は、よくわからない理由で生徒が
 逮捕されているからなんだよ。これは資本主義日本で遊んでるだけの
 国会議員がたくさんいて、国を根底から衰退させているのと同じ。
 いい? 中央はね、この学園で校規を作る立場にある人間なんだよ。
 仮にだよ? もし私が明日逮捕されるにしても、
 その何らかの規則に違反していることが必要とされる」

続ける。

「でもね。君はこう考えたことはない?
 実は逮捕される人が悪いんじゃなくて、
 そもそも規則自体が間違っているんだって」

「き、規則自体が間違えているなんて……。
 だってあれは中央委員部のエリートさん達が考えたことで」

「あんな奴ら、クソだよ。全然頭良くない。この前会長室で
 私が近藤と口論したけど、あいつ私に簡単に言い負かされてヒスってただけだよ。
 嘘だと思うでしょう? 証拠にうちの部の監視カメラで録画した映像を
 流してあげるよ。ほら。前の席から順番にこのIPADをまわしてくれる?」

数話前で、アキラ会長の部屋で所信表明の挨拶をした時のことだ。
最後はサヤカがたくさん怒鳴っていた。
実際はミウも怒鳴っていたが、ミウの都合の悪いところは編集で消して、
サヤカの欠点だけが目立つように作られていた。

ミウはさらに、文化祭実行員のサヤカが理事長に
叱られていたことなど、彼女の欠点を思い付く限り暴露してしまった。

「近藤が演説の時に言ってたんでしょ。私達も皆さんと同じ人間だって。
 そう。同じ人間なんだよ。このクラスは理系の頭の良い子が揃ってるんだから、
 きっと近藤より頭の良い人いるよ。もしかしたら私より優秀な人もいるかも
 しれない。だからね。君達がなればいいんだよ。新しい生徒会のメンバーに」

圧倒され何も言えなくなった緒方は、着席を許された。

「改めて私の公約を言います。既存の生徒会を破壊します。
 無能なボリシェビキを全員逮捕して生徒会から追放します。
 中にはコネで採用された愚図もいます。その証拠もあります。
 そして中央委員部を廃止し、その機能を我々諜報広報委員部が
 引き継ぎます。この学園は、諜報広報委員部のもとで管理運営されて
 成り立つようにします。真の少数精鋭のエリート組織を結成するのです」

気まずい沈黙が、室内を支配した。
もう誰も何も言えない。これから大粛清をすると宣言したこのニ年生の
先輩に対し、なんと反応すればいいのか。反応のしようがあるのか。

そんな絶望的な空気の中、常に大衆と真逆の考えを行く勇者が手を挙げる。

「サーセン先輩。ちょっと質問いいっすか?」

「君は……川口ミキオ君だね。いいよ。どうぞ」

「あざっす。マジで名前覚えんてんすね。すげー記憶力っすね。
 ぶっちゃけ井上さん以来の大物が来たって感じで、衝撃受けてます。
 俺明日にでも高野先輩に粛清されるんじゃないかって今足震えてます。
 それでも言わせてもらうっす。中央をつぶすってそれ、
 無理過ぎるのを通り越して、学内で戦争に発展しませんか?」

「君はどうしてそう思うのかな?」

「普通に考えて中央の人たちが簡単に従うわけじゃないじゃないっすか。
 それに高野先輩は無能だって言いますけど、俺この前中央委員部の採用試験の
 過去問を見たんですけど、一目見て諦めたくらいには難易度高かったっすよ。
 あの人たちが無能だって言われても全然納得できねえっす」

「ふぅ……。君みたいな若い子は知らないだろうけど、近藤サヤカの正体は
 アキラ会長の忠実な僕なんだよ。歴代の中央委員もそうだった。
 奴らが考えて作った規則なんて一つもない。歴代会長や副会長の意見を
 尊重して、その人たちの政治に都合の良いように法を制定している。
 仮に勉強ができたとしても、上の人に逆らうだけの勇気がない。
 なぜだと思う? 自分が法律を作る側にいれば安全で、粛清されないからだよ」

ミウは自民党を例にした。衆議院で発案される「政府与党案」の8割が、
自民の最大スポンサーである「経済連合団体」からの発案であり、それを
いかにも自民党が自分で考えた風に原案を国会に提出しているだけである。

その法案を衆議院は自民の賛成多数で通過させ、
参院でも同じことをして制定させる。野党がいくら束になって反対しても
数が足りず、実質自民党による一党独裁のため、よほど問題のある法律を
除けば全てが余裕で通過してしまう。民主制はゼロである。
『この点において、自民党の本質は北朝鮮の朝鮮労働党と大差がない』

日本は三権分立制の民主主義国家だが、行政権と立法権を実質的に
支配しているのは資本家連中と言い換えても差し支えがない。
もっとかみ砕いていうと、「企業にとって都合の良い奴隷」
を作り出すための組織が日本の国会だ。

ミウはこの例を用いて現在の生徒会を批判し、中央委員部とは
生徒会長と副会長の傀儡であると批判した。だからつぶすのだ。

「そうだったんすか……。俺、何も知らなかったっす」

「無知を認められるなら、次はどうすればいいか、
 考えるだけだよ。川口君はどうしたいの?」

「……まだ迷ってるっす。何が正しいのか俺にはちっと……。
 ぶっちゃけ、うちのクラスは井上さん派が大半を占めてるみたいっすよ」

「ふーん。まさか君も井上マリカの考えが正しいと思ってないよね? 
 マリカちゃんのやり方では、常設委員部を作ったところで、
 部間の派閥争いが確実に始まるよ。そもそも
 保安委員部が常設委員部なんて怪しい組織に従うわけない」

「あっ、それは俺も昼休みにずっと思ってました。
 俺は平和に学園生活を送りたいんで、
 戦争になるのはマジ勘弁っす」

「君は今平和を望んでいると言ったね? 実現できるよ。平和」

「え……」

「嘘だと思う? もっと具体的な政策内容を教えてあげるよ。
 この学園から新政権へのあらゆる反対主義者を一瞬で消し去る方法がある。
 それも保安委員部の力を借りずともできる方法が。
 君たちは理系の人だから、何か一つのことを研究するのは好きだよね?
 私の友達が科学部ってところにいるんだけど、すでに実践で使える
 ほどの秘密兵器をたくさん持っているんだ。それが何かはまだ秘密だけど」

もしそれを使えば、200人以上の生徒を、
10分以内に抹殺できると真顔で宣言した。

「う、うそだろ……」
「狂ってる……」
「あの人の目……マジだぞ。マジでやる気だ……」
「たぶん毒ガスのことじゃないかな……。サリンとか」
「まさか教室に爆発物が仕掛けられてるとか……」
「うそでしょ!! 私たち殺されるの!?」

恐怖が伝染していき、6組はパニック寸前となってしまった。
さすがにアナスタシアが止めようとしたが、
その前にミウが静かにしなさいと命じた。生徒は黙り下を向いた。

「別にこの教室は何もしかけられてないから安心しましょうね。
 私は、生徒会の無能者が許せないだけ。みんなはまだ何もしてないでしょ?
 だから大丈夫。ただし、みんなには二つの選択肢がある。私の側について、
 一緒に学校を良くしていくか。もしくは、無能な近藤や、
 夢見てるマリカちゃんの側についてしまい、そのあと一生後悔するか」

一年生達は、今壇上にいる女の人の方が、近藤サヤカの
何倍も恐ろしいことを肌で感じたのだった。見た目の可愛らしさ
とは裏腹に、ミウの内面はどこまでも黒く底が見えなかった。

「断言します。いつの世も、無能な権力者を倒すために革命は
 行われてきました。今がその時なのです。私に力を貸してくれたら、
 諜報広報委員部が主導で確実に生徒会の腐敗を是正できるのです。
 たった一票、君達が私の名前を投票用紙に書くだけでいいのです。
 私の支持者は絶対に逮捕されることはありません。この私が保証します」

ミウが悪魔の顔で続ける。

「君たちは開票日の11月8日以降、どうしたいんですか?
 死にたいんですか……? それとも生きたいんですか……?
 生きたいなら私に票をください。死にたいのなら、他の候補者の
 名前を書いてください。断言します。近藤はあの様ですから、
 落選は確実です。選挙管理委員会による事前の選挙予想でもそうなっています。
 理由はマリカちゃんの方が人気者だからです。となると……私か
 マリカちゃんの二択です。先ほども言いましたが……」

続ける。

「私の支持母体は諜報広報委員部のメンバーと、一部の保安委員部、
 そして生徒会に不満を持つすべての生徒と囚人です。
 囚人達も生徒ですから選挙権はあるのです。
 現在までに囚人は180名ほどいますから、それなりの人数ですよ。
 それと生徒会に苦しめられていた教師の大半の支持も得ています」

まだ続ける。

「マリカちゃんの言葉に騙されてはいけません。
 クラスごとの完璧な自治は、実現可能性が低いです。
 そんなこと、できるならとっくにやってます。
 できないから歴代の生徒が生徒会におびえて生活をしていたのです。
 マリカの進む先は、内乱です。君達も死にますよ。
 自分だけは蚊帳の外? そんなわけにはいかない。だって
 クラス全員を学内政治に参加させるのが彼女の政策なのだから」

で、でもそんなのやってみないと分からないじゃないですか……
と女子の一人が言うが、

「分かるよ。だって大国の歴史が証明している。
 常に大衆を服従させてきたのは強力な軍事力と警察力によってのみ。
 恐怖こそが人を服従させる最大の力なのは必然。
 マリカちゃんみたいな頭でっかちは、話し合いで解決できると思っている。
 お題目だけが立派で細目が雑なのよ。
 つまり実現可能性という点で考えると破滅の道しか用意されていない。
 私達諜報広報委員部には科学部と言う名の秘密兵器がある。
 今すぐにでも、無能なボリシェビキを全員抹殺できるほどの力が」

先輩は人を殺すことに、ためらいがないんですか……。
と言う男子もいた。

「私だって好きでやってるわけじゃないよ。
 でも学園全体の利益を考えた結果、こうなっただけだよ。
 そもそもこの学内においてここは日本ではなくソビエトだよ。
 ソ連で政敵を殺すのがいけませんって、そんな甘い考えは通用しないよね?」

男子は謝罪し、黙った。すすり泣いていた。

「もうすぐ完全下校時刻になってしまいますね。
 それでは最後にこれだけ。君達は理系の学生であることを誇りに思いなさい。
 いつの世も、世の中を常識を変える力を提供したのが理系の学問。
 戦争で勝つのに必要なのが科学の力。無能な文系の人間は、
 いつだって国を腐敗させてきた元凶だった。もし君達がうちの科学部に
 力を貸してくれるなら、それなりの待遇を約束してあげるよ」

皮肉屋の川口ミキオでさえ、もう何も考える余裕がなかった。
ただただ、目の前の女を恐れることしかできなかった。


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