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作品名:もしも、もしもの高野ミウのお話 作者:なおちー

第21回   本編 16 生徒会選挙
  第十九話「すみません。高野候補者に対して質問してもいいですか?」


アキラは、この一年生のはち切れんばかりの胸ばかり見ていたので、
話の内容はよく聞いてなかった。さて。次の候補だ。

「お久しぶりです会長さん。高野ミウです。さっそく説明を始めますね」

その瞬間、会場にいるすべての人間がミウに注目したので、
ミウはさすがに顔をしかめた。

「なんで私の時だけ皆さんの目がマジなんですか?
 そんなに人の顔を見ないでくださいよ。失礼じゃないですか」

「う、うむ。たまたまそうなったのだろう。気にせず続けてくれ」

「私の公約を言う前に、まず私以外の候補者の否定から入りたいと思います」

「なにぃ!? ここは討論する場所ではないのだぞ!!」

「いえ。結局同じことなんですよ。私の公約内容が、そのまま彼らの
 否定になってしまいますから。早いか遅いかの違ってことで。
 それじゃあ言いますね。まず井上マリカさん」

マリカは、ミウの親友である。だが今は対立候補なので容赦がない。

「あなたのマニフェストは途中から聞いてたから全部は知りませんけど、
 まず現在の各委員部を取り巻く状況を全く分かっていないと思います。
 各委員部はすごく人間関係が悪くて、例えば文実の派遣制度があるのに、
 諜報広報委員部は最後まで誰も派遣しなかった。
 それで中央にすごい恨みを買ってるけど、これはほんの一例。
 生徒を管理する組織が四つもあるから、お互いに対立する。
 その中に、クラス委員連合組織なんて作ったらさらに険悪になるに決まってる」

ミウは次にユウナを見た。

「高倉さんは普段は諜報のサイバー部で勤務されているようですが、
 仕事部屋に引きこもってばかりで見識が不足していると思います。
 まず恋愛の悪い面ばかり見て、良い面の説明をしなかったことが致命的です。
 物事を一面的でしか理解できていません。恋愛をすることで交感神経が
 活発になって仕事の効率が上がることは脳科学でも証明されてますし、
 当時女性兵の比率が多かったソ連軍内でも恋愛はたくさんありました」

ミウは続ける。

「高倉さんはボリシェビキなのをいいことに、
 通常授業に出てないのでないですか?
 私は元一般生徒の経験から、一般生徒たちはごく普通の学生として、
 男女で仲良く話したりイベントに参加して楽しんでいることを知っています。
 むしろ恋愛禁止にしたらますます不良が増えちゃうんじゃないですか。
 保安委員部のデータを見たんですけど、収容所内で
 恋愛をしたことで卒業するまで脱走しなかった囚人もいましたよ」

ユウナが歯がゆそうに、
顔を真っ赤にしてうつむいているが、ミウはさらに続ける。

「そもそもカップル申請書って便利な制度もあるわけですし、
 それを管理する中央委員部がよほどアホな人の集まりでなければ、
 恋人関係の契約、破棄についてはしっかり管理してくれるはず。
 そうですよね近藤さん?」

「……なんで当てつけのように私に言うの?」

「いえ。この部屋に中央委員部出身者が、
 たまたまあなたしかしなかったから。
 別に近藤さんを否定したわけじゃないから」

「してるじゃないのよ!!
 あなたのその態度は何なの? 
 いちいち他人を否定しないと自分の意見も言えないの?」

「待ちなさい君達。ここは討論する場所ではないと説明しただろう」

アキラに制され、立ち上がっていたサヤカが着席する。
ミウは咳払いする。手を顎に当てながら発言した。

「失礼しました。それでは私の公約を述べますね。
 私はチョイバルサン君の考えとだいたい同じです」

全員の視線が、今度はチョイバルサンに集中した。
チョイバルサンは、かつて蒙古のスターリンとして恐れられた
革命家、独裁者の顔とよく似ている男なのだ。

ミウは「ただし」と言い、

「ボリシェビキを粛正します。対象はボリシェビキのみです。
 一般生徒は関係ありません。だって明らかに能力が足りないのに
 ボリシェビキに配属されている人を何人も見かけますよね。
 一般生徒を取り締まる前に、まず内部から綺麗にしておく必要があります」

「高野さん!! それはあなた、独裁者になりたいって言ってるのと同じなのよ!!」

「何を今さら。生徒会の会長は独裁的な権力を代々有しているじゃないですか。
 近藤さんだってどんなお題目を掲げたところで当選すれば独裁者ですよ」

「私はあなたとは違うわ!! 
 弱いものをいじめてなぶり殺すようなことはしない!!」

「そう思っているのは今だけですよ。人は立場が変わると考え方も
 コロッと変わるものですから。さっきの続きですけど、
 皆さんは優先採用制度という単語を聞いたことがありますか。
 そうですね……。高倉さんはどうですか? 
 お兄さんからこういう話を聞いたことはありませんか?」

「くっ……」

「どうしましたか? 私はたまたまあなたと目が合ったから
 質問したんですけど、どうして今目をそらしたんですか?」

ユウナは、何も言えなかった。言えるわけがなかった。
実は自分が兄の推薦枠でサイバー部に入ったことなど。

ミウが両手を肩より高い位置に持ち上げて話すと、
その動きにつられて全員の視線がますますくぎ付けになる。
かつてヒトラーが考案した演説のテクニックだった。

「私はこの前、たまたま諜報部のデータベースにある、個人情報管理システムから、
 各員の経歴に誤りがないかを調べていたのですが、採用試験の
 結果がなぜか未記載になっているボリシェビキが少なからず存在しました。
 これは、明らかにコネ採用があったことを意味していると思いますけど、
 ユウナさんは何か心当たりはありませんか?」

ユウナはまた沈黙してしまう。彼女は学力が高く決してコネなど
必要なかったのだが、兄が妹を心配して使ってくれただけなのだ。
だが不正には違いない。

「それと中央委員部は、先般の文化祭の準備期間においても当日まで
 同好会状態にあった美術部の状況を把握しておらず、理事長に
 御叱りを受けていました。完全に失態です。結果的に文化祭が成功した
 とはいえ、実際の絵画は大学生の展示が大半を占め、管弦楽部では
 指揮者を女装させたりと学園の歴史に残る茶番を披露しました」

「ちょっと待ちなさいよ!! 
 私達は人数不足で校長が不在の中、それでも知恵を絞って文化祭を成功させた!!  
 一人も派遣をよこさなかった諜報側の人間がよくも……!!
 それ以上中央を侮辱するのなら絶対にあんたを許さない!!」

「それだけではありません。彼女たちは法律制定の専門機関だと胸を張りますが、
 実際に生徒の取り締まりをしているのは諜報部と保安部のみ。いずれの
 部からも中央は信頼されておらず、法を通さずに過酷な拷問や銃殺刑が実行されている。
 これはすなわち、一つの可能性を示しています。中央委員部を解体するべきだと」

彼女の目つきは間違いなく本気だった。サヤカと口げんかの末に
思い付いたネタではない。本気で中央委員部をつぶしにかかっていると
全員が理解した時には、室内の空気はシベリアの永久凍土のごとく凍り付いた。

その沈黙を最初に破ったのは、中央の実質的責任者の彼女だった。

「解体……? 解体ですって!! 伝統ある中央委員部を解体!? 
 あははははっ!! もう笑うわ!! こんなバカが出馬してるとは思わなかった!!
 会長!! この女は資本主義日本のスパイです!! 今すぐ逮捕してください!!」

「……気持ちは分かる。だが落ち着くんだサヤカ君。
 君らしくない。相手のペースに乗せられているぞ」

「だって国家を運営するのに国会議員が
 要らないと言ってるのと変わらないじゃないですか!! 
 議員が存在しないなら民主制はない!! 完全な独裁です!! 
 こいつは同志レーニンを否定した悪しきスターリンの末裔です!!
 こいつが当選したら私たちは皆殺しにされます!!」

「むぅ……しかしまだ候補者の段階ではないか」

「会長だって裏でこいつが毒ガスを開発してる情報はつかんでらっしゃるでしょ!?
 あなたの妹、私の友でもあるエリカさんはどうなるんですか!?
 あなたの妹さんは、絶対にこいつに殺されますよ!!
 下手したら堀太盛君にまで被害が及びます。それでもいいんですか!!」

「う……それは困る……。エリカや太盛君に危害を加えられるのは困るよ……」

「でしたら、こいつのさっきの発言内容の録音を、今すぐ校内放送で
 流しましょう!! ボリシェビキなら全会一致でこいつを逮捕するはずです!!」

「あのぉ」

とミウは低い声で言った。

「近藤さんが騒がしすぎて私が話をする暇がないんですけど。
 私の公約はまだ言い終わってませんよ」

「黙れこの悪魔が!! それ以上何も聞く価値がないわ!!
 あなたはもう学園の生徒でもなんでもない、
 私欲を満たすためには平気で人を殺す悪魔だ!!」

「……うるさいけど、続けますね。
 中央委員部の解体後、彼らが持っていた全ての職務と権限を
 諜報広報委員部に移行します。また、保安委員部も管理下に置きます。
 これによって諜報広報委員部による効率的な政治運営が可能となります」

まさかの諜報広報委員部の権力拡大案。実質的な諜報部の独裁体制だ。
ミウはどこまでもスターリンに似ていた。またしても
室内は重苦しい雰囲気に包まれ、現会長のアキラでさえ、頭を抱えてしまう。


「すみません。高野候補者に対して質問してもいいですか?」

と手を挙げたのが井上マリカだった。会長が頷き、どうぞと手を差し出した。

「解雇された中央委員部の人は、そのあとはどうなるんですか?」

「そのまま諜報広報委員部で所定の仕事についてもらうか、
 一般生徒に戻るかの二択かと思います」

「そうですか。次の質問です。
 公約でボリシェビキの大量粛清同然のことを宣言されてましたが、
 そんな公約を掲げたら高野さん自身が暗殺される可能性が高ると思います」

「そうですね。殺された場合は仕方ないので死のうと思っています」

「その割には全く悲壮感が感じられませんけど?
 高野さんみたいに考えの深い人が、そこまで堂々と
 大改革を言いきれるのか不思議に思います。多くのボリシェビキを
 敵に回す以上、少数派に回った人間が粛清されることは知っているでしょうに」

「私は普段から死ぬのが怖くありませんから」

「話が変わりますけど、科学部の人が最近休んでいるそうですね」

「科学部の人は用があって実家に帰ってしまいました。
 選挙期間中は帰ってくれないそうですよ」

「どんな理由で実家に?
 それに貴重な登校組だった四人が一度に帰るのですか?」

「さあ。みんなの家庭の事情ですから。
 親族の冠婚葬祭などが重なったのでしょうか」

「また話を変えます。あなたの公約とは直接関係のない質問ですが、 
 最近堀太盛君とはどうなんですか? 仲良くしているんですか?」

「マリカちゃん……。ほんとにそれ、今聞くことじゃないよね」

ミウの顔が凶悪にゆがむ。会長のアキラでさえ戦慄するほどの恐ろしさだった。

「私も正直に話すよ。ミウちゃんは太盛君にかまってもらえなくて、
 暴走しているだけなんでしょ? 文化祭の時も彼、橘さんの家に
 ずっといたもんね。ミウちゃんはもう……負けたんだよ」

「うるさい!! なんでそれを今言うの!!  
 私達は選挙の所信表明をするために集まってるんだよ!! 
 そんな個人のちっさな恋愛事情なんてどうでもいいでしょうが!!」

「どうでもよくない!!
 あなたの個人的な恨みのせいで、ボリシェビキのみんなが
 虐殺されるかもしれないのに、黙ってられないよ!! 
 もう堀君とあなたの関係は、個人の問題じゃなくて
 学内を巻き込んだ大革命に発展しつつあるんだよ!!」

「じゃあ、どうすればいいの!?
 私がおとなしく一般生徒として授業を受ければそれで満足なの?
 マリカちゃんが彼との仲を応援してくれてたのに!! そんなのないよ!!
 私は収容所送りにされたり、近藤サヤカたちに暴言吐かれたりして
 すごく、すごく、すごく傷付いたんだよ!! 私の気持ちがマリカちゃんに分かるの!!
 マリカちゃんは良いよね!! ナツキ君とラブラブでさ!!」

「私は……友達のミウちゃんが人殺しになるのを阻止したいんだよ。
 私だって本当に会長になりたいわけじゃないの。
 でもあなたの対立候補を一人でも増やした方が学校のためにはなるでしょ」

「学校のために、私は何もせず我慢しろって言うの!? ねえ!?
 ……ええ認めますよ!! 私は今でも彼の事大好きだよ!!
 エリカ、近藤、山本は八つ裂きにしてやりたいくらいに憎いよ!!
 でも私はもう止まれない!! こいつらに復讐を果たすまでは!!」

「ミウちゃん……」

マリカの瞳から、ポタポタと涙がこぼれてきた。

あの時、自分があんなことを言わなければ良かったのだ。
堀君と同じ部活に入ればと、軽い気持ちで言ったのが悪かったのだ。
ミウは太盛と関わるべきではなかった。
実は短気だけど、普段はオドオドした美少女としてA組で過ごしていれば、
こんなことにはならなかった。

ミウは根が悪い子じゃないことを、マリカは知っていた。太盛もそうだ。
ミウにだって彼女を愛してくれている父や母がある。
お金にも恵まれて育ってきたのだ。

だが彼女と付き合いの短い人や恋敵、政敵はそうは思ってくれない。

サヤカとミウがつかみ合いをしながら罵倒合戦をしていた。

「高野!! この悪魔!! おまえなんか、死んじまええええ!!」

「なによ地味眼鏡!! おまえこそ、くたばれ!! くたばれブス!!」

「死ねええ!! この学園からいなくなれ!! 退学しろ!!」

「おまえこそ死ね!! 汚い。つば飛ばすなよクズ!!」

互いに嫌悪感をむき出しにすると、
もはや、小学生レベルの喧嘩になってしまう。

アキラは冷静なサヤカがここまで取り乱すのを始めて見たこともあり、
あ然としていた。他の候補者も同様だ。女同士のすごい迫力に
誰も口がはさめず、彼女らは一時間以上も口げんかを続けていた。

最終的に、チョイバルサンとユウナは自ら立候補を取り消すに至る。
これで候補者は三名に絞られた。


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