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作品名:もしも、もしもの高野ミウのお話 作者:なおちー

第16回   本編 12 文化祭 三日前
 第十五話 「元気出せよ。サヤカはすぐ落ち込むんだから」

山本モチオは、サヤカの恋人の二年生である。
(二人は『斎藤マリー・ストーリー』で初登場したキャラクター)
中学時代からの付き合い続けているので学生としては熟年カップルだ。

「サヤカ。顔暗いぜ? まだ落ち込んでんのかよ」

「最近仕事するたびに自信がなくなっていくのよ。
 もしかして私って空回りしてるだけでみんなから嫌われてるのかな」

「んなことねえって!!
 ネガティブに考えんのはよそーぜ!!
 サヤカはすげえ真面目だし、校長の代わりに代表代理も
 頑張ってくれてるじゃん!! うちの部の人間はサヤカに感謝してるぜ!!」

「うん。ありがと。もっちーが励ましてくれるから、今日も頑張れる」

文化祭の三日前ともなると、これ以上手続きが必要な
書類も特にない。今までは書類に判を押すことが多かった。

展示物の許可、予算の承認、活動場所の使用許可、
全部活動の作業の進捗状況の確認、

(文化祭の出し物は、学園側から支給される予算の範囲でのみ活動可能。
 生徒がお金を出すことは一部の特例を除いて原則禁止) 

作成が終わっている展示作品の確認、
食の安全を確認するための製菓部と調理部の作った食品の試食、
当日のプログラムの作成、進捗状況を確認するための会議、
放課後の校内の見回り、各部屋の施錠の確認、消灯作業……。

(最後の一週間は、忙しい部活は夜八時までの作業や練習が認められる。
 責任者は一番遅くまで残るのは当然だ)

文化祭終了後は、閉めの挨拶、
期間中に使用された金額の決算等、代表にかかるプレッシャーはすごい。

しかもこれらの仕事内容が学園の理念(ボリシェビキ)に沿っていることを
意識しながらやるわけだから、普通の学校の非ではない。

逆に言うと、これだけの仕事をこなせられないと生徒会長は務まらないのだ。
生徒会長のアキラは、次の生徒会総選挙の準備に入ってしまって忙しい。
妹のアナスタシアもすっかり兄の手伝いに夢中で、文化祭には関心がない。

アナスタシアの態度は薄情だった。確かに生徒会の引継ぎも大切だが、
校長が実質不在で繁忙と分かりきっている中央委員部を助けに来なかったのだ。
それに諜報広報委員部からは臨時派遣を一人も寄こさなかった。
しかしこれにも実は理由がある。中央と諜報はすごく仲が悪いのだ。

どちらもプライドが高くエリート意識丸出しだから、共同作業を
させるといちいち相手のやり方に口を出し、口論に発展しやすい。
だから伝統的にこの学園では両方の部は共同作業をしない決まりとなっていた。
むしろ言われたとおりのことを黙々とこなす、
保安委員部の人間やクラス委員の方が扱いやすかった。

この生徒会実行委員・本部室と
名付けられた会議室の扉を、エリカがノックした。

「ただいま戻りました」

「橘さん。おかえりなさい」

「そろそろお昼時なのでお腹すいてませんか?
 お二人の分しかありませんが、
 家庭科調理部から頂いた、から揚げがありますので」

「まじかよー!! あざーっす!! マジ腹減ってたんで!!
 うおっ。出来立てじゃん!! さいこー!!」

「こらモチオ……。本当はこの部屋での食事は禁止なんだけどね。
 たまにはいいか。ありがとうね橘さん。さっそくいただくわ」

「ええ。どうぞ」

エリカは上品に微笑んでいた。
こうしていると、ヒステリーな少女には到底見えず、
いかにも令嬢と言った風である。

「もぐもぐっ……うちの調理部の腕やばっ。まじうめえっ。
 しかも橘さん、熱々のコーヒーまで淹れてくれるし、やべーまじ神様だわ」

「食べながら話すのやめなさいよ、みっともない。
 本当に橘さんには助けられてるわ。
 ありがとねー。このから揚げ、すごく美味しいわ」

「いえいえ。私なんて、大したことしてませんから」

「おれら、すげー感謝してっから!!
 俺とサヤカは、文化部の訪問者の対応やら
 会議やらでほとんど座りっきりだったからな!!
 ぶっちゃけ校内を見回る余裕なんかねーわ」

「そうね。それに一時期、風邪が流行ったせいで会計と書記の子が
 順番に休んじゃって大変だったわね。橘さんは優秀な人だから
 いつも一番大変な仕事を任せてしまったわ。本当にごめんね」

「とんでもないですよ。むしろ謝るのは私の方ですわ」

「え? どうしてそう思うの?」

「あの、これを言うと近藤さんにとっては楽しい話ではないかもしれませんけど」

「なになに? 気になるわ。橘さんが私を怒らせるようなことしたっけ?」

「俺も全然記憶にねーわ。むしろサヤカが謝っとけって!!
 お前の方こそ実は何をしてたのか分からねえぞ!!」

「うっさいわね!! 少し黙ってなさいよ。で、橘さん。どんな話なの?」

「美術部の件なんですけど……」

「美術部?」

「実は私の彼氏が美術部でして、彼から聞いていた話がありまして……」

前話のラストシーンの件である。
エリカとの喧嘩が原因で、春に美術部員が大勢辞めてしまった。
その後、新入部員が入らず部員の空白ができてしまったことを言っているのだ。

「もともと私のせいなのに、まるで近藤さんが悪かったように
 理事長に勘違いをされてしまったみたいで……。
 あの時は不愉快な思いをさせてしまい、すみませんでした……」

「ちょ!! ちょっと待ってよ。なんで橘さんが謝るのよ!!
 そんなの全然気にしてないよ。だってあれでしょ? ええっと……
 別に美術部が特殊じゃなくない!? 女子同士の人間関係なんてどこも同じよ。
 私は橘さんが悪いとは思わないけどなぁ〜」

「サヤカの言う通りだぜ!! 女子の人間関係なら管弦の奴らもやべーって。
 あいつらは人の目てないところで火花散らして修羅場ってるってよ!!
 そこまで仲悪いなら、いっそ辞めろよって男子が漏らしてたぜ!!」

「どこも人間関係悪いわよねぇ。自慢じゃないけど、うちと諜報部も険悪よ!!
 あと保安委員部でも男子の新人が先輩にしょっちゅう殴られてるとか?
 男同士も嫌よねぇ。むしろ人間関係がまともなのって、
 うちの部だけじゃないかしらね!!」

「うちの部は校長がだいぶ変わり者だから皆にイジられてて楽しい部だぜ!!
 つーわけで、俺らは橘さんのこと、すげーお気に入りなんで、
 嫌うわけないってことでおk? それより橘さんが
 俺らのためにここまでしてくれた理由の方が気になるんすけど」

「理由ですか? えっと……」

「あっ。ごめんね!? モチオは別に責めてるわけじゃないのよ。
 ただ純粋に気になっててね。実は私もなんだけど……。
 だって橘さん、一日も休まずにお仕事をしてくれたじゃない。
 普通クラス委員の人って適当な理由を付けて
 一日おきとか、二日おきくらいの頻度で派遣委員をやってくれるもんなのよ。
 別にボリシェビキになりたいわけでもなさそうだし、どうしてかなって」

「分かりました。少し長くなるけど、全部話します。聞いてください」

エリカは、太盛を巡る恋愛関係でミウとライバル関係にあること、
そしてサヤカに次期会長にぜひなってほしいことを説明した。
今回のお手伝いが、実は次期会長候補に媚を売る目的だったことも改めて説明した。
ここまで正直に話すと軽蔑される覚悟はできていた。だが彼らの反応は違った……。

「あはははっ、なんだ!! そんなことだったのね!!」
「わははははっ!! いやー、久しぶりに笑っちまったっす!!」

ふたりは腹を抱えて笑い続けた。

「まず結論から言わせて。私も高野さんが大嫌いよ。
 もし私が会長に選ばれたなら、あなたを全力で守ってあげる」

「ほ、本当ですか!!」

「俺も高野さんってムカつくわー。
 諜報部の代表さんにエコヒイキされたからって調子に乗り過ぎっしょ。
 橘さんの彼氏を奪おうとするなんて許せねーわ」

「あ、ありがとうございます!! 本当にありがとうございます」

「しかも科学部のキチガイたちを味方につけてる時点で、
 もう完全に危険人物じゃない。一年生の美術部員に
 乱暴してる時点でまともじゃないとは思っていたわ」

「ほんとだよなーww 嫌なことがあったからってすぐ暴力に頼るのは
 頭の悪い人間のすることだわ!! 俺らだったら法の手続きに
 乗っ取って解決するのに!! そんなだから諜報の奴らは野蛮って呼ばれんだよ」

「ねww 中央が校規の専門組織だってこと忘れてるんじゃないかしら。
 あっちが勝手に処理する前にさ、まず私達に話を通してくれたら
 正式に裁判の手続きをしてあげるのに。
 橘さん聞いて。実は私とモチオが心配してたのは別のことなのよ」

「俺らはよ、こんなにも優秀な橘さんが、あまりにも俺らの言いなりに
 なって動いてくれるもんだから逆に怪しんでたんだよ。もしかしたら、
 諜報部から派遣されたスパイなんじゃないかってな!!」

「ええ!? そんな私は全然……」

「もちろん違うのは知っているわよ!! 
 そもそもあなたのお姉さんも私が会長になるのを応援してくれてるなら、
 スパイなわけないでしょ。今だから言うけどね、
 実はあなたのお兄さんに頭を下げられたことがあったのよ!!
 今後、妹のことで世話になるかもしれんから、よろしく頼むって」

「ええ!? まじかよー!! 会長から直々にかよ!! サヤカ大物じゃん!!

「会長閣下はそれだけ言って去ってしまったから、
 あの時はポカンっ……ってなっちゃって、
 なんのことか分からなかったけど、今理解しちゃったわ」

「私も兄がそこまでしていたなんて知りませんでした……」

「橘さんは良いお兄さんを持ったわね。
 てゆーかさ、もう敬語使うのやめましょうよ」

「そうだよ橘さん。俺らはもう君を友達だと思ってるからさ!!
 同じ学年なのに敬語なんていらねえっす!!」

「ありがとう……ふたりとも」

まさか一時の臨時派遣の仕事でここまで
心強い味方ができるとは思わなかったので、エリカは涙を流しそうになった。

「何かあった時のために、今から連絡先でも交換しておく?」
「俺も俺も〜!!」
「ええ。ぜひ!!」

こうして文化祭を前にして三人は大の仲良しとなった。

心優しい二人は、エリカが一般生徒として卒業を目指しているなら、
その考えを尊重してあげると言った。もちろん中央委員部としては
エリカを試験無しで即採用したいくらいだが、忙しい中、毎日
文化祭実委員の手伝いをしてくれたエリカの意志を無視するような
ことは決してしないと約束してくれた。

また中央委員部の責任者の見解として、現在カップル申請書が提出されている
エリカと太盛が間違いなくカップルであり、両者の合意が得られている限りは、
ミウが太盛を横取りする権利は認められないことも確認してくれた。
それでも邪魔するようなら、最悪、法改正(人間関係に関する)をしてでも妨害すると。

これでミウの問題は解決できるに違いない。
エリカは笑いが止まらなかった。全てがきっとうまくいく。
心強い友達もできたし、あとは文化祭当日を楽しみに待つだけだ。

エリカが高熱を出して倒れたのは、その日の夜だった。


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