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作品名:もしも、もしもの高野ミウのお話 作者:なおちー

第12回   本編8 ミウが科学部に興味を示す。
  第十一話 「久しぶりだね斎藤さん」


美術部の部員(一年生の女子でミウに嫌がらせをした人)が、
呼び出しを食らったのはその翌日だった。

出頭命令に従ったのは、全7名のうちの5名。残りの2名は恐怖のあまり
脱走をしようとしたため、校門の直前で保安部の人間に捕まり、
警棒で背中を出血するほど叩きのめされた。

今回の逮捕の名目は、盗聴器によって部活動中に反革命的な言動
(生徒会の悪口)をしていた生徒らを発見したためとしている。
訴えたのはアナスタシア本人。出頭場所は、彼女の執務室である。

反革命容疑者かどうかを見極めるため、
口頭での尋問をすると、中央委員部には報告してある。
口頭とは、穏健なアナスタシアらしいと校長は鼻で笑った。

「まず氏名を確認させてもらうわ。今から名前を呼ばれた者は手を上げなさい」

アナスタシアが、逮捕者を壁一列に並ばせていた。
執務室内のソファーを廊下に移動させてスペースを作っていたから、
多少手狭ではあるが7人並ぶことはできる。何よりアナスタシアの執務室に
直接呼ばれたことが彼女達に強烈なプレッシャーを与えていた。

「前川さん。田淵さん。そしてあなたが、斎藤さんね?」

「は、はいっ。同志閣下!!」

マリーは恐怖のあまり奥歯のかみ合わせが合わなかった。

アナスタシアはその後、質疑を繰り返し、このグループのリーダー的な
存在が斎藤マリエであることを確認した。生徒会の規則では、反革命容疑の
集団がいた場合、その先導者に最も重い罪が適用されることを説明した。

「うっ……ううっ……」
「ひぐっ……殺されるっ……」
「もう……何もかも終わりだっ……」

一年生の幼い女子たちは、嗚咽していた。
生徒会に尋問されることは、すなわち拷問であることを知っている。
現に脱走しようとした2名は、立っているのがやっとなほど
衰弱しており、制服は泥と血で汚れている。

「まず、基本的なことからあなた方に教えてあげましょう。
 わが校では、反革命容疑者を密告する制度が設けられているが、
 その場合は細心の注意を払い、多数派の意見のもとに訴えることになっている。
 私の調べでは、高野ミウさんは罪なき罪によって2号室送りになっているのだけど、
 この件についてあなた達はどう思うのか訊いてみたいものね。ねえ?」

一年生たちは、アナスタシアが怖くてうつむいて、目も合わせられない。

「どう思うかって、訊いているのよ!!」

さすがは部の代表であり、アナスタシアの怒号はすさまじい。
隣にいるミウでさえ、肩が上下に震えた。

「密告制度は、私の兄であるアキラ会長が作り出した制度である!!
 この制度は一見すると生徒会の手間を省く合理的なシステムに思えるが!!
 この半年間の容疑者の大量増加を見ると、実はいい加減な理由で密告が
 増えていることが明らかになっている!!」

実際にそうだった。

クラス裁判制度などは取り締まる側の手間を省く一方で、
無駄に囚人の数を増やしている。さらに保安委員部の連中が、
共産主義の理想のために不正を取り締まるためでなく、
ただ楽しみのために囚人を虐待するようになっているから、
組織としては腐敗している。

執行部員(実際に拷問する人)は性根が腐ってるとアナスタシアは吐き捨てた。
アナスタシアと、のちの会長になるナツキは似ているところがあって、
ふたりとも人を傷つけることを心から喜ぶことはなく、革命を遂行するためには
資本家階級と思想の敵の抹殺がどうしても必要だから取り締まりをしているだけの事。

「我々諜報広報委員部は、諜報の誇りにかけて正確に容疑者を特定して
 取り締まりを行っている!! だが美術部員の多数決によって
 ミウさんを通報した件は、まったくボリシェビキのやり方として
 正しくない!! あなた達は正しい生徒ではない!! もはやスパイだ!!」

うんうん、とミウが頷く。
泣きべそをかいている一年生たちを見て楽しくて仕方なかった。

ちなみにミウの起訴の件は、美術部全員の多数決によって決まっていた。
エリカと斎藤真理恵が先導して、他の者を従わせたけ結果である。
ここでも男子は立場が弱く、女子の言いなりであった。

「本当なら直ちに保安委員部に身柄を引き渡すところを、無知、無教養な
 一年生の君達に私がわざわざ時間を割いてまで教育をしてあげているのよ!!」

すると女子の一人が、アナスタシアに頭を下げてきた。

「申し訳りません、同志閣下……。深く深く反省しております」

「謝る相手が違うようだけど」

「え?」

「私じゃなくて、ミウさんに謝るべきじゃないの!?
 あなた達がバカなせいで被害にあったのは彼女なのよ!?
 ほら。なにボサッとしてるの。早く高野先輩に頭を下げなさいよ!!」

「も、申し訳ありませんでした!! 高野先輩!!」

全員が腰を折り、精いっぱい声を張り上げる。

だが、そんな上っ面だけの謝罪でミウが満足するわけもなく、
憎らしい後輩の面々を前にして、ついに怒りが限界を突破しようとしていた。

「ミ、ミウちゃん……?」

「ふふふふ。It's a lovely things. thank you, Anstasia.
I'm very grateful for such a wonderful oppoAtunity.」
 
「え? ごめんねぇ。早口だから聞き取れないよ。
 私は外国語はロシア語じゃないと分からないんだけど……」

アナスタシアは、ミウが感情的になると英語を話す癖があることを
エリカから聞かされていたから、立場上自分が上なのにも関わらず
本気でおびえてしまっていた。

「こいつらを私が叱っていいんだよね?
 少しなら体罰をしても構わないよね?」

「そ、そうね!! あなたの気が済むなら、好きなようにしていいわ。
 ただし、殺すのだけは勘弁して頂戴ね。おけ?」

「オぅケイ!! ジャスト どぅ ナウ!!」

ミウは、歯を食いしばれ、と言ってから、列の左側から順番にビンタしていった。
手加減などなく、全力だ。二番目、三番目の人が頬を真っ赤にしているのを見て、
恐ろしくなった女子の一人が手で顔をガードしてしまう。

「ちょっとあなた、なにしてるの?
 私は歯を食いしばれって言ったんだよ」

「す、すみま」

「このぐずっ!!」

「ごっ……」

みぞおちに膝を入れられ、呼吸ができなくなったその女子は、うずくまった。
ミウはそいつの前髪をつかみ、後ろの壁に何度も叩きつけてやった。
女子の顔は、涙と鼻水でひどい状態になっているが、その彼女に対して
気を付けの姿勢で立て、と命じ、全身全霊の力を込めてビンタした。

「次」

順番に頬を叩いていく、最後に斎藤の番になった。

「久しぶりだね斎藤さん。あなた、美術部で私にさんざんひどいこと
 言ってくれたよね? 絵の才能ないとか、物を物として見れてないとか。
 私はあなたに言われたこと全部覚えているよ。あなたはどうなの?
 自分で言った暴言を全部忘れちゃった?」

「そ、それはその……」

「言ってみなよ。あの時みたいにさ。私になんて言った?」

「すみません……」

「質問に答えてくれる? なんて言ったかって訊いてるんだよ」

「す、すみません……すみませんでした高野先輩。もう……許してください……」

「質問に答えろよこの愚図がぁ!!」

ミウのグーパンが、マリエの鼻を直撃した。
マリエは目に涙を浮かべ、鼻からボタボタと落ちる血を両手で受け止めていた。

「うっ……ううっ……うっ……」

ミウが腕を振りかぶってまた殴ろうとしてきたので、斎藤はしゃがみ、
ミウの足元にすがりついて謝り続けた。ミウが斎藤の頭を足で踏みつけながら
周りを見渡すと、女子たちが涙を流しながら脅えていた。だがその中には、
明らかに自分でなくてよかったと安堵している者もいたのでミウが指摘する。

「そこのあなた、何自分だけが助かるみたいに思ってるの?」

「い、いえ、そんなことは」

「思ってるでしょうが!! 
 自分がリーダーじゃなくてよかったと思ってるんでしょうが。
 私はそんなに甘くないよ。あんたらは全員が連帯責任でこいつと
 同じ目に合ってもらう。 二度とあんた達みたいなクズがこの学園で
 調子に乗らないようにね!! 二度と!! もう二度と
 ふざけたまねができないように!! その体に刻み込んでやる!!」

ミウは、全員に服を脱いで下着だけの姿に成れと命じた。
若き乙女に対しては非常すぎる命令だったが、斎藤が先導を切って
Yシャツを脱ぎ始めたので、他の皆も続いた。

彼女らが脱いでいる間に、ミウが廊下の掃除用具入れから水を満載にした
バケツを持ってきた。そして全員に正座させ、頭からバケツを逆さまにして、
全員均等にかけてあげた。それだけでは気が済まず、さらにスマホで彼女らの
醜態を写真に収めてしまう。

一年生たちは水で下着が透けてしまっており、ほとんど裸に近い状態だった。

「アーニャ。このデータ、諜報部で保存しておけば?
 見ての通りブスばっかりだけど、女子の裸だったら
 物好きな男子が喜ぶんじゃない?」

「なるほど。面白いアイデアね……。グッライディア?
 そろそろ満足したかしら? あの子達も一般生徒なわけだし、
 女子相手にこれはちょっとやりすぎかもしれないわよ」

「うーん、そうかなぁ? 私はまだ物足りないけど、
 アーニャがそう言うなら終わりにしようか」

と言った時であった。
ここで女子の一人が明らかな失言をしてしまう。

嵐のような体罰が終わったことによる安心感からか、
あるいはミウに対する恨みからか、こう言ってしまった。

「やっと解放される……」

蚊の鳴くような、声だった。だがミウは二か国語話者なだけあり、
耳が良く、かすれた母音の音でさえ逃さない。

「今、なんて言った?」

ミウは再び怒り狂った。

「解放されるって!! 誰が言ったの!! ねえ!! ねえ!!
 おかしいでしょう!! 私がお説教を終わりにしてあげようって、
 慈悲の心で言ってあげてるのに!! 解放されるって!!
 それって嫌なことから逃げる時に使う言葉だよね!! 
 私の日本語が間違ってるの!? ねえ違うの!!
 解放されるってことは、全然反省してないってことになるよね!!」

実際に発言したのは、小太りだが、目がぱっちりしたショートカットの
美少女だった。彼女が「私が言いました」と素直に手を挙げると、
ミウは花瓶を持ってきて、彼女の頭の上で逆さまにして水をかけた後、
今度は花瓶で彼女の頭を強く叩いた。花瓶が割れてしまい、破片の一部が
彼女の頭に刺さってしまい、出血する事態となってしまった。

「いったぁ……い、痛いです……ごめんなさい。本当に痛いです……
 許してください……高野様……」

「謝るくらいなら、初めから人を怒らせるようなことを言うな!!
 ほらほら。どうしたの!! あんたみたいなクズは、
 生きてる価値もない生徒なんだよ!! 人間以下の家畜なんだよ!! 
 ほら!! 何とか言ってみないさよ!!」

ミウは彼女を土下座させ、頭を何度も踏みつけていた。
他の女子にも土下座を命じると、皆が一斉にその通りにした。

殺さないでください……殺さないでください……。
女子たちは嗚咽し、うわごとのようにつぶやき続けた。

ミウは、アーニャが買ってきくてくれた紅茶のペットボトルを渡され、
半分くらいを一気に飲むと、ようやく気分が落ち着いてきた。

「ねえアーニャ。こいつらこのあと、どうするの?」

「嘘の密告をした人は連帯責任で全員が2号室行きになるんだけど、
 現に被害者のミウちゃんがこうして無事なわけだし、
 今回は大目に見てあげようかと思っているのよ」

「それって一般生徒として生活させてあげるってこと?」

「……保安委員部がね、2号室の囚人が特に脱走や反乱が多くて
 手を焼いているのよ。あっちは人手不足なうえにバカが多いから、
 これ以上囚人を増やしたくないってのが我々の本音なの。秋の総選挙も控えてるし、
 基本的にイベント事が多い2学期は取り締まりを緩くする暗黙の了解があるのよ」

「へーそうなんだ。ごめんね。
 私はボリシェビキに詳しくないから、
 そんな裏の事情まで気が回らなかった」

「いえいえ。本来ならミウちゃんが気にすることじゃないから。
 じゃあ私も仕事が溜まってるし、この馬鹿どもは開放してあげましょうか」

優しいアナスタシアは、人数分のタオルを用意してあげた。
身体を拭き終えても下着は濡れてしまっているが、下着の予備はないので、
そこは我慢してもらうしかない。まだ午後の授業が残っているが、
精神的な疲労を考慮して全員帰宅していいことになった。

そして一週間以内に、今回の件の反省文を諜報広報委員部に
提出するようにと厳しく命じた。

「最後にこれだけは言っておくわ。高野ミウはね、アキラ会長からも
 一目置かれるほどの存在なのよ。あなた達みたいなザコとはレベルが違う。
 だから私が2号室から真っ先に彼女を引き抜いたのよ。
 今回は私が多めに見てあげたから、こんなもので済んだけど、
 次はないわよ。そのことを肝に銘じておきなさい!!」

「はいっ!! 申し訳ありませんでした同志閣下!! そして高野様も!!」

急いで服を着て出て行く一年生たち。アナスタシアは
これでミウの気持ちがどれだけ晴れたかと思っていた。
今回の件はただのガス抜きだが、彼女が一番恨んでいるのは
エリカとそのクラスメイト達だ。最悪、クラス全員を始動する機会でも
儲けるべきかと考えていたが、全てはミウの気持ち次第だ。


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