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作品名:ママエフ・クルガン(102高地)〜川口ミキオの物語〜 作者:なおちー

第9回   マリーの話は長い。
「堀を殺す話の前によ、あいつって付き合ってる人がいるんだったよな?」
「黒江さんでしょう」
「あのフランス人のボリシェビキな。すげえ美人さんだ」

「他にも付き合ってる人がいるよ」
「え? まさか橘さんか?」
「その通り」

「あいつ、二股かけてんの?」
「正確にはちょっと違う。二人の女が太盛を奪い合ってる」
「……笑えるね。まさにハーレムってことか」
「そうだね」

高校一年の冬休み。人手不足の看守を手伝うために、堀のすけこまし野郎は
臨時派遣員として7号室にやって来た。奴の本来の所属は諜報広報委員部だ。
同じく派遣員としてやってきたのはフランス人のクロエ。
こいつは中央委員部の人間だ。
堀とは任務を通じて心が通い合ったのか、付き合うことになった。

だがおかしなことに、堀の野郎は橘さんに「ノリで」
愛の告白をしてしまったとかで二股をかけている。
この件は学内でもそうらしいが、収容所7号室でも噂でもちきりになったぞ。

堀を巡っての橘とクロエの争いは、とうとう決着がつかず、
奴らが3年に進級した現在に至るも火花をまき散らしているとか。

「やっぱ俺、堀の事むかつくわ。
 美女二人もはべらせてハーレム気取りかよ。死ねっ!!」

「その堀って言い方、好きじゃない」

「あ? あっなるほど。おまえも本名は堀だからか。
 なら太盛(せまる)って呼ぶよ」

「うん、そうして。私のことはマリンでいいから」

彼女でもない女のことを下の名前で呼ぶのは少し緊張するな……。

「しかし殺すのはやりすぎなんじゃないか? 
 おまえも奴が恋しいなら太盛争奪戦に参加しろよ」

「太盛は記憶喪失だから、私のこと忘れてる」

「ミウに受けた拷問のショックだったか。あれは気の毒だったな」

「愛が……冷めちゃった。
 彼のことがどうでよくなって、マリカさんのこと好きになりかけた」

井上マリカさんは、三年生では超有名人だ。
生徒会長のナツキの元恋人だったらしい。マリンとも仲が良すぎて
レズのうわさもあったらしいが、まさか本当にそのけがあったとは。

「で、俺に奴を殺したところで何のメリットがあるのか
 説明してもらいたいね。ちなみに俺は模範的な囚人生活を送り、
 この学園を無事卒業するのを目的にしている」

「確かに。あなたにはメリットがないかも。
 私が自分のわがままを言ってるだけだから」

「もう帰っていいか? 話にならねえ」

「待って。うそうそ。あなたにとってもメリットがあるよ」

「ほう。どんな? 
 言っておくが冗談を言いやがったら今すぐ帰るぞ」

「殺意かな。殺意が満たせる」

「帰る」

「本気で言ってるんだって!!」

「……俺の殺意が満ちたとして、それがどうしたってんだよ。
 今の俺は太盛を殺したいほど憎んでない。
 そこまで奴のことに詳しくねえし興味もない」

「そうかなぁ? この学園には太盛を憎んでる人、たくさんいると思うけど。
 太盛はミウの恋人時代にも浮気を続けてミウを困らせていたんだよ。
 ミウがイライラして囚人に八つ当たりしたことあったでしょ?」

「……あったなんてもんじゃねえよ。奴のヒステリーは日常だった。
 君も被害者だったような気がするがね(前作冒頭の体育の女子野球の時間)」

「そうそう。そんなわけで堀太盛はみんなに恨まれてたんだよ。
 あいつは女をその気にさせて、最後はどの女も選ばないから、
 修羅場になっちゃう」

「だからって殺す理由にはならねえよ。暗殺者が欲しいなら
 他の奴を探せって。てかおまえがやれよ」

「私? そんなの無理だよ!! できるわけないじゃん」

「殺したいほど憎んでるならやれるだろ」

「あの人は、私の実の父親。娘が父親を殺すのって抵抗あるじゃん?
 きっと殺す直前で思いとどまっちゃうよ」

……やっぱりこいつは俺を馬鹿にしてるようにしか思えないんだよな。
なぜか現在は幼女の姿だし。

話に結論が出ない。男にとっては不快だ。女は結論の出ない話をする。
なぜなら、会話そのものがストレス解消であり、楽しみの手段だからだ。
女ってやつは、自分の言いたいことだけをバーっと話す一方で、
相手の話なんて興味がないんだ。

と、これらの心理を分析すると……

まさかとは思うが……。
こいつは俺に愚痴を聞いてもらいたかっただけ……?

こいつは父親を殺したいと言うが、本心じゃない。
ただ口にしてみただけなんだろう。

好きな人には恋人が二人もいる。自分には振り向いてくれない。
ただそのさみしさを……誰かに分かってほしいだけ?

「井上(マリカ)先輩にその話をしてやればいいんじゃねえのか?」

「うん。でも先輩は、ちょっとしつこくて」

恐ろしいことに、レズに目覚めたのは向こうが先らしい。
最近ではマリンのベッドに裸で侵入したり、一緒に長時間
お風呂に入りたがったりと、過激なスキンシップがシャレに
ならなくなってきているらしい。

俺はそういうプレイが大好物なので想像したら鼻血が出てしまいそうだ……。

「カイジみたいな顔してるけど大丈夫?」
「うるせえ。囚人連中からはアカギの方が似てるって言われるけどな……」

エロいことを考えていると、ついこうなっちまうんだ……。
井上先輩って有名人だけど話に聞くだけで顔は見たことねえんだ。
こいつと同じくらい美人だったら夜のオカズにできそうだぜ。

斎藤の話は長かったが、深夜の1時過ぎには開放してくれた。
うへえ……もうこんな時間かよ。
俺は就寝時間の一時間前からベッドで横になるほどの模範囚なんだぞ。
明日朝寝坊したとしても生徒会の奴らに文句言われたくねえな……。

あと仲間たちにどうやって言い訳しよう。
夜、看守に呼び出された奴が
無傷で帰ってくるってのもおかしいよな……(ふつうは拷問されている)

「またお話をしましょうね」

別れ際にマリンは笑顔でそう言った。高校生にしては無垢な笑顔だった。
俺はこいつの笑顔を、いまわしき収容所に
咲く一凛の花だと思った。本気でそう思った。

あいつは俺に気がないのは分かってる。
それでも俺は、寝る前に毎日マリンのことを考えるようになった。
確証はないが、きっとこれが恋なんだろうな。


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