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作品名:ママエフ・クルガン(102高地)〜川口ミキオの物語〜 作者:なおちー

第23回   7/29 夜
俺は今日は学校を休んだ。
夏休み期間中は、強制参加ってわけでもねーしな。
職場に行っても勉強会や自主学習がほとんどで、実務はないに等しい。

前日が偉大なるナツキ会長殿の葬儀だったこともあり、
仕事する気にならなかったので俺は家で一日中過ごした。

とはいえ、何もしないのも退屈だし、時間の無駄だ。
何か有意義なことをしようと考えたが、休みの日は頭を使いたくない。
そこで部屋でゲームをすることにした。
このプレステ5は妹のなんだが、勝手に使わせてもらってる。
たまにはエアコンの利いた部屋でゲームもいいもんだ。

俺がやってるのは大作RPGだ。途中で眠くなってきたので
セーブして、ベッドにダイブ。思ったよりも寝込んじまった。

「夕飯の時間よー。ミキオー。寝てるのー?」

母さんの声だ。さあ、重たい体を起こして一階に降りるかね。
今日はたっぷり3時間も昼寝しちまったぜ。

「いただきましょうか」
「うむ。いただきます」
「おっ、今日はハンバーグか」
「私太るから肉は半分要らない」

妹のセリフは思春期全開って感じだな。
母さんが揚げ物を出すとたまにキレるし、
作る側の苦労を理解しろよガキが。

「明後日はミキオの学校のオープン・スクールだな」

「ああ。それがどうした? まさか親父まで行きたいんじゃないだろうな?」

「いけないのか? 娘が心配だから私もついていくつもりだが」

「お母さんも一緒に行ってもいいかしら?」

「え? 母さんもかよ!!」

こんな流れでうちの家族はフルメンバーで出場することになった。
いわゆるご家族の人は、事前に参加申込書が要るんじゃかったか?
今から出して間に合うのか? やべっ。あとで先輩に聞いてみないと。

「うちの学校なんて、見てもそんなに楽しいもんじゃねえぞ?」

「そう言われると行きたくなるのよねぇ」

「まったくだ。親としてミキオがどんなとこで
 教育を受けてるのか知っておかないとな」

親御に紹介されるのは総合コースまでだと聞いてるから、
俺の職場のことは、たぶんバレないだろう。

ちなみにオープン・スクールで紹介されるのはこんな流れになっている。

一般生徒→ 総合コース。進学、情報、芸術の各コース。
幹部候補→ 専門コース。既出の各委員部。

専門コースは学力と内申点が一定以上の生徒のみ募集。
俺の妹のハルナはまだ中二であり、見学に行くのは一年早いわけだが、
参加するのはどの学年でも自由なのだ。もっともハルナの場合は
学力が圧倒的に足りないので総合コースしか見学できない。
よって親がついて行っても諜報広報委員部にたどり着けない。

「兄貴は部活に入ってないんだ?」
「まあ俺はちょっとな。受験に備えて今から勉強に専念したいし」

実はウソだ。専門コースに入る条件の一つとして、
部活動に入らないことがあげられる。入ってもやる暇がないのだ。
専門は、半分社会人になるようなものだからな。

うちの学園は普通の私立高と同じように部活動の設備は豪華だが、
部活に汗を流せるのは総合コースの人だけだ。
ハルナは高校でもテニスを続けたいと思っているらしい。
だったら、なおさら総合に入れ。楽そうな情報コースがオススメだ。

「あら、こんな時間に電話かしら」

母さんがスリッパをパタパタ言わせてお上品に受話器を取る。
どうせセールスだろと思い、俺はなんとなくテレビを見ていた。

「ミキオに代わってほしいって。学園の偉い人からみたいよ?」
「えええっ!? 早く貸してくれ!!」

電話はトモハル委員からだった。

「いやはや。夜分に失敬。君の携帯につながらないから、
 こちらにかけさせていただきましたぞ!!
 お食事中でしたか? すみませんね!!
 緊急の連絡事項がございまして!!」

声でけーよ。受話器を少し離すとちょうど良くなった。

「は、はあ。どういったご用件で?」

「会長と副会長の後任が、
 たった今中央委員部で正式に受理されたのですよ」

俺は耳を疑うのを通り越して、食べたハンバーグを吐きそうになった。
どうやら俺と斎藤のペアが、後任に選ばれてしまったらしい。
ミウは自らが手中に収めていた不動の地位を、俺らに渡しただと……!?

そんな……?
  俺がたった一日学校を休んだだけで……
              まさかの事態……?

「今日から君は副会長ですぞ!!」

「え、えっと……まだ頭で理解できないっす……。
 俺が本当に副会長になったんですか……?
 それで本当に中央委員部の人たちも許可したんですか……?」

「無論です!! これは正式に決まったことですぞ!! 
 明日は花火大会の準備ですが、
 その際に全体朝礼で全員に布告されます!!
 そこで君には挨拶を述べてもらいますぞ!!
 原文はこちらで用意してあるので、スマホに送ります!!」

挨拶とか想像しただけでゲロ吐くわ……。
人前で話す訓練もしたことのねえ小僧にどうしろと……?

俺がその事実を恐る恐る家族へ伝えると、
家族みんながイスからひっくり返ってしまった。

俺は専門コースで、特待生を接待する側の人間となってしまったのだ。
経験ゼロ。貫禄ゼロのデクノボウに、何ができると言うのか。
うれしくともなんともない。頼む。誰か変わってくれ。

俺は夕飯を半分以上の残して、自室のベッドにダイブした。
スマホの原文を見ると、すさまじく堅苦しくて長い口上が
並べられている。これを丸暗記して、みんなの前で読むのか……?

無理だ……胃が痛い……。

斎藤にメールしてみるかと思ったら、あっちから電話してきた。

「ど、どうしよう……やっぱり私……会長なんて無理だよ……」

あっちも俺以上に動揺していて笑えた。
会長は副会長より責任が重いからな。
お互い、今夜は一睡もできなそうじゃねえか。

それにしても、こいつとは不思議な縁があるもんだ。
去年は一年五組のクラスメイトで、7号室に収容された仲間でもある。
それが今では生徒会の最高権力に収まるんだからな。


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