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作品名:ママエフ・クルガン(102高地)〜川口ミキオの物語〜 作者:なおちー

第20回   7月27日 火曜日
ミウは全校昼礼をかけた。

夏休み期間中のボリシェビキは午後出勤が認められるため、
メンバーの半数は午後からの勤務を選んでいた。
だが今回は特例だ。
長期で帰省している人にまで招集令が出たため、
学園の全ボリシェビキが一堂に体育館に集合した。

夏休みのため、一般生徒はいない。
ここにいるのはボリシェビキだけだ。

気温が36度を超えた。窓を全開にしても、体育館は蒸し暑く不快だ。
だが壇上に立つミウの神々しいまでの姿を拝見してしまうと、
夏の暑さなど忘れてしまい、吹雪が吹き荒れるようだった。

この貫禄、威圧感、風格。指導者として生まれた者のオーラ。
学園ボリシェビキは半年間も忘れてしまっていたのだ。
真の学園の支配者の存在を。

「嬉しいニュースと、悲しいニュースがあります。
 まずは嬉しいニュースから」

ミウの肉声を聞いたボリシェビキが動揺しざわつく。
静粛に聞いているとはとても言えない状態に
なっているが、ミウは構わず続けた。

「皆さんに会うのは半年ぶりだと思います。
 私は一時的に海外に留学していため、学園を留守にしていました。
 今日から正式に職務に復帰します。まず私の役職ですが、
 会長とします。代表が不在の保安委員部の責任者もかねます」

……留学してただと!? 絶対にデマだ!!
……確かに死んでいたはずだ!!
……私は冷凍死体を見たことがあるわ!!

「ナツキ会長の死は、すでに多くの方の耳に入っていることだと思います。
 彼を弔うための葬儀は学園葬とします。偉大なる指導者を不幸にも
 病気で失ってしまった。この悲しみを全ボリシェビキが共有しなければなりません。
 学園葬には当然全員参加。たとえ当日に高熱が出ている人でも参加を強制します」

……奴が殺したんじゃないのか?
……ちっとも悲しんでるように見えないわ!!
……学園葬だと? ボリシェビキの死は公表しないんじゃなかったのか!!

「生徒会の参考人として活躍していた井上マリカさんですが、
 取り調べの結果、半ボリシェビキのスパイということが判明したため、
 重罪人として逮捕しました。そして彼女が権力を私物化して不当逮捕した
 橘エリカ、クロエ・デュピィの両氏を解放しました」

……なんで井上さんが!?
……権力の私物化ってどういうこと!?
……どうせでっち上げに決まってる!! 奴は悪魔だ!!

「これは諜報広報委員部に対してのお知らせになりますが、
 堀太盛君はスパイ井上による暴行を受けたため、治療中です。
 しばらくの間は休学します。復帰の時期はこちらで判断します」

ミウはさらに、カップル申請書を中央委員部に提出したと報告した。
書面上ではミウと太盛が正式なカップルになったことをあえて
公表したことで、エリカたちをけん制した。
エリカとクロエにとって、太盛の顔面が過度な暴行によって
変形したことよりこっちの方が大問題であった。

ナツキ会長の死、ミウの復権。
昼礼が終わりミウが去った後も
うだるような暑さの体育館では、ざわめきがやむことがなかった。

『また奴の恐怖政治が始まるんだぞ……』
『俺は今日からどう仕事をしたらいいんだ?』
『奴の支配下でこれからどうなるの………?』

ミウの評判は悪い。
皮肉なことに学内では一般生徒よりも、
仲間のはずのボリシェビキに嫌われていたのだった。
彼らにはマリカの一時的な独裁の件は知らされて
いなかったが(サヤカたち以外)、
マリカはすでに粛清されたのだと誰もが思っていた。

実際のマリカは全治三か月以上の大けがを負って入院中だから
生きているのだが、ミウの大きな怒りを買った人物が
生きていることが過去存在しなかったことからそう思われた。

ミウの代名詞は内部粛清であるから、
ここにいるボリシェビキ全員も明日は我が身である。
穏健派のナツキ会長時代に慣れ切ったボリシェビキらには
耐えられそうもなかった。

誰もが新たな恐怖政治の幕開けに脅えきり、
生徒会から離脱しようとする者も現れ始めた。

一部でこんな声も聞かれた。

『冷静になれ。奴の任期は秋まで。あと半年間の辛抱だろ?』
『バカね。引継ぎが終わった後も、三年が裏で生徒会を操るのよ』
『じゃあ奴が卒業するまで恐怖政治が続くのか!?』
『そう考えるのが妥当だな。保安委員部は奴の支配下なんだぞ。
 奴がその気になれば、いつでもボリシェビキを粛正できる』

この流れを受け、近藤サヤカ、相田モトハルらを中心とした
反ミウ派のメンバーを筆頭に、中央委員部と諜報広報委員部から
ミウの抹殺を目的にした非常委員会が発足するなど、
すでに権力争いの火種がくすぶりはじめていた。

保安委員部の連中は新人の外国人が多いためか、ミウのカリスマに
ひれ伏すだけで、彼女の政治を疑おうとしない。
まさに愚か者だとサヤカやトモハルは見下した。

そんな彼らの思惑とは違い、
ミウは、太盛と一緒に過ごす時間を大切にしたいから、
学内での争いごとは望んでなかった。

これからの生徒会では会長の後任の件など
考えるべきことはたくさんある。
まずミウは月末に予定されている
オープン・スクールと花火大会を予定通り実行する気でいた。
驚くべきことに、この点ではサヤカたちと利害が一致していた。


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