20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ママエフ・クルガン(102高地)〜川口ミキオの物語〜 作者:なおちー

第19回   真の生徒会副会長
なおも堀太盛を殴り続ける井上マリカ。
鬼と化した彼女は、太盛の左目が内出血でパンパンにはれ上がり、
あごの骨が砕けても、それでも殴るのを止めなかった。
マリカの右腕の甲にひびが生じても
殴り続ける彼女の心は、人のそれではなかった。

「い、井上会長代理!! き、緊急のお知らせがございますぅぅっ!!」

「なにごとだ!! 今取り込み中なのを承知して言っているのか!!」

「か、かかか、会長閣下がぁああ!!」

「会長!? ナツキがどうした!? 簡潔に言えっ!!」

「息を……引き取られたようです……」

つまらぬ冗談だと一笑したいが、警備兵は涙を流している。
一瞬で血の気が引いたマリカは、本部奥の医務室へ駆け込んだ。

そこには、
医者と、ナジェージダと、ベッドで死体となったナツキがいた。

「うっ……うっ……うっうっ……」

初老の医者はうなだれ、
ナージャは嗚咽し、ナツキの肌は冷たくなっていた。
ナツキの前髪にそっとマリカの手が振れた時、
感情が爆発して声をあげて泣いた。

「うわあああああああああああああ!!
 ナツキのバカ野郎ぉおおお!!
 なんで死んじゃうんだよおおお!!
 私がこんなに頑張って後任を決めようとしてたんだぞ!!
 なんでこんなにあっさり死んじゃうんだ!!」

マリカはこの時、自分がナツキのことを愛してたのだと初めて知った。
ナツキのベッドに手をついて震えているナジェージダもそうだろう。
マリカもナジェージダも、ナツキを失う悲しみに耐える術を知らない。

「だから言ったんだよおお!! ボリシェビキになるなって!!
 一年の時にさんざん言っただろうがああ!!
 なんであんたが死ななくちゃならないんだよ!! 
 会長になったのに!! そんな末端の生徒みたいに簡単に死ぬなよお!!」

マリカがどれだけ語り掛けても、ナツキの目は閉じたままだ。
心なしか、安心しきった顔で眠っているようにも見える。
校内でファンがいたほどの彼の美貌。大人っぽい声。優しい語り口調。
もう二度と、彼がマリカと話をしてくれることはない。

「くそおおお!! うおおおおおおおおおおお!!」

彼の死はミウの呪い。その遠因を作ったのは、堀太盛。
マリカは今決めた。堀太盛を今度こそ殺す。

再び拷問室と化した会長室に行こうとした彼女の足を止めたのは、
一本の電話だった。

「こんな時に……!!」

ありえない番号からコールされていた。
昔友達だったから、なんとなく保存していた名前。
二度と思い出したくもない、悪女の名前。

「久しぶりだね。マリカちゃん」

心臓が止まるかと思った。
まさか、他人のそら似か何かだろうと思いたかった。

「出てくれて良かった。
 電話越しだと伝わりにくいと思うけどさ、
 今あなたと話してる私が誰だかわかる?」

マリカの手が震え、もう携帯を握ってるのが精いっぱいの状態になった。
聡明なマリカは、今まで会ったすべての人の特徴を記憶している。
その『人物フォルダ』の中で、最も忘れがたい人物といえば彼女しかいない。

「み……う……?」
「せいかーい」

マリカは生まれて初めて超常現象に遭遇した。
半年も前に死んだはずの『高野ミウ』と電話越しに話をしているのだ。

「今からそっちに行くから、ちょっと待っててね?
 あっ私の太盛君をそれ以上殴ったらダメだからね。
 いい? 悪さをしないでおとなしく待ってるんだよ?」

学園一の頭脳を持つ秀才、井上マリカは、脳みそをフル回転させて
事態の収拾を試みた。あらゆる角度から検証した結果、
電話相手のミウは本物だと結論するに至り、
直ちに生徒会本部から逃げ出すことにした。

まずは自宅に帰ろう。
自宅でじっくりと今後のことを考えよう。

なぜミウが復活したのかは知らない。考えても分かりようがない。
ただ問題なのは、ミウが自分に深い恨みを持っていることだ。

マリカは太盛の顔面を変形するまで殴り続けた。
ミウの正体が悪霊、神の一種なのかは不明だが、
最悪学園からの転向すべきかもしれない。
もうあの学園に関るべきではないと本能で察していた。

「そんな必死に逃げることないじゃない」

マリカの足は、どれだけ地面を蹴ろうとしても宙を浮いていた。
滑稽なことに、宙に浮いて自転車をこいでるような格好になっていた。

「やあ。マリカちゃん。It's been a while!!」

ミウは気さくにマリカの肩を叩いてくれた。
マリカの体は、全身から力が抜けるようにして地面にへたりこんだ。

「う……うそ……こんな……これ現実……?」

「うん。現実だよ。私は運が良いから生き返ったの。
 私は死んで魂だけの状態になっていたから。
 それにしても生徒会ってすごいよね。
 私の肉体を地下に冷凍保存してくれたんだから」

人の魂は、天使のラッパが鳴るまでは、一定の期間待機状態になる。
神の世界に行くためには、魂の器である肉体が必要とされる。
ミウの場合はかつての世界に蘇生した。
現実世界に残っていた肉体に、魂が呼び戻された。
肉体が冷凍保存されていなければ実現不可能なことであった。

「さっそくだけど、井上マリカ。
 あなたを太盛君を暴行した罪、
 および生徒会を私物化した罪により逮捕します」

10人を超える、保安委員部の生徒がマリカに襲い掛かる。
手首骨折、肩の脱臼、足首捻挫、前歯三本損傷、眼球破裂。
肺の一部に損傷を負ったマリカの顔を、ミウは足蹴にする。

ミウはどんな魔法を使ったのか、復活と同時に
多数の部下を以前のように従えていた。
まるでボリシェビキがミウの復活を待ち望んでいたのように。

「同時に、ただいまの時刻をもってあなたが
 ナツキ君から受け取ったすべての権力をはく奪し、
 私がその地位を引き継ぎます」

虫の息のマリカの前髪をつかんで持ち上げ、仰向けに寝かせる。
彼女の制服のバッジをむしり取った。
会長、副会長、保安院部代表。ミウが持てば仮ではなく本物の地位。
この瞬間にミウは生徒会の新たな独裁者となったのだ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1907