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作品名:ママエフ・クルガン(102高地)〜川口ミキオの物語〜 作者:なおちー

第16回   会議の続き。マリカは演説をした。
※マリカ

議事録の進行を止めても、
会議室には監視カメラ、盗聴器が仕掛けられている。
この学園では、監視されていない場所などないのだ。

サヤカさんは、公式記録(議事録)に残らない程度の
暴論は認める意味で、私に発言をうながしているのだ。

それにボリシェビキ中枢である中央委員会の会議室を
盗聴する権利を有するのは会長と副官のみ……ならば。

「みなさんは、ナツキの体調不良についてはどう考えていますか?」

サヤカさんとモチオ君が顔を見合わせていた。
トモハル君は、いきなり何を言い出すんだと非難してきそうな顔だ。

「恐れながら!! 会長閣下のご体調は日々悪化していると聞いております!!」

「私も同じように聞いています」

「俺もっす。ぶっちゃけ、いつ死んでもおかしくねえよ」

無礼だぞ!! とトモハルがモチオに注意するが、スルーされた。

「私も同様に認識しています。では」

私はここでタメを作る。

「体調を崩した原因、病気の原因はなんだと思いますか?」

「むむ……」

トモハル君は答えられない。
過労だなんて言おうものなら、退席させていたところだよ。

「あの方は、冬の間からずっと悪夢を見ているんでしょう?」
「サヤカさんは心当たりがありそうですね」
「まあね……。私も冬休みは臨時派遣委員だったもの」

意外と話がすんなりと進んだ。
7号室に臨時派遣されたサヤカさん、モチオ君、クロエさん、堀君の四人は、
就寝時にミウの悪夢を見たそうだ。彼らがミウの夢を見たのは一度だけ。
私のマリーも数日間悪夢を見ていたが、今は見てない。

ナツキは違った。
ナツキは今日までミウの悪夢にうなされ続けている。
人の信念は強い。人の姿が消えても人の心は残る。
学園のボリシェビキに深い恨みを抱き、地縛霊となったミウは
今もナツキを苦しめている。

ミウだけじゃない。7号室で非業の死を遂げた
多くの魂が、今もナツキに寄りかかっている。
死んだ者の魂は、会長の席であぐらをかいているナツキを許さない。
何の苦労もせず、何の苦しみもなく、
この学園を生きたまま卒業させるつもりはないのだ。

「みなさん!! なにをおっしゃるのですか!!
 幽霊だか地縛霊だか知りませんが!!
 非現実的すぎますぞ!! って、みなさん……?」

私たちの顔は真剣だったから、
幽霊を信じないトモハル君は明らかに少数派だった。
民主制を尊ぶボリシェビキでは少数派の意見は抹殺される。

「なるほど。では元7号室出身の彼らなら、
 囚人に呪われる心配がないから、
 会長と副会長の後任にぴったりってこと?」

「まあ……ね」

「井上さん……。私がマリーさんを嫌う理由はちゃんとあるんだよ。
 今だから、ぶっちゃけて言うけど、あの人って堀君にラブじゃない。
 食堂でも堀君をすっごいにらんでたわよねぇ。
 まだ彼をあきらめてないんでしょ。
 恋愛関係のトラブルの火種が会長になるのは迷惑なんだけど」

「あっ、それに関しては俺も同感っすww
 クロエたちのガードが堅いから、
 斎藤さんはどうすることもできねえww
 情緒不安定な女に権力を持たせたら大変なことになりますよww
 零細企業の女社長とかその典型例っすよねww」

「堀先輩に対しては、私の方から注意することもできますが!!
 いくらボリシェビキ内の恋愛は自由とはいえ、
 彼の態度は目に余るものがあります!!」

問題はそれだけじゃない。たぶん川口君はマリーに気がある。
その件でマリーと堀君を巡る、新たな三角関係になったらやっかいだ。
そこで私には案がある。

「じゃあ堀太盛を暗殺しましょうか」

「な……?」
「はぁwww?」
「一体何をおっしゃる……?」

私は大まじめだ。ついに父譲りの奥義を発動することにした。

「みんな、これから言うことをよく聞きなさい!!」

私がテーブルに握った拳を叩きつけると、
その衝撃で三人は床を転がる。

壁時計は崩れ落ち、天井に仕掛けられた監視カメラ(キヤノン製)の
レンズには亀裂が生じる。机の下の盗聴器は爆発して煙を吐いた。
偶然にも足利市上空を飛行していた旅客機も、操縦を誤りそうになった。

「い、井上マリカ殿っ。いきなりご乱心か!?」

「そもそもよく考えてみなさい。ミウは決して悪い子じゃなかったのよ。
 ミウが狂ったのは、堀太盛と関わるようになってからなんだよ。
 堀太盛の件がなければ、ナツキがミウを生徒会に誘うこともなかったし、
 ミウが暴走することもなかった!!」

「な、なるほど。一理あるかもしれませんな……!!
 しかし、それで殺す理由になるのですか」

「そうよ井上さん。ちょっと落ち着いて。
 堀君を殺害するのと会長候補の件はどう関係するのよ?」

「私は日々苦しみ、老人のように弱っていくナツキを見るのが
 悲しかったら、ミウの呪いを解く方法をずっと考えたの!!
 ミウは成仏してない!! なら一番の原因は何!? それは堀太盛!! 
 奴が今も女たらしなのが原因だと考えられる!! 
 奴が死んで、ミウと天国でイチャイチャすれば、すべては解決するわ!!」

シーン。
会議室はお通夜会場となった。

太盛殺しと会長の件は関係がないのは理解している。
私の一番の望みは、ナツキを救ってあげること。
仮にナツキが死んだとしても、ナツキの願いをかなえてあげること。

ナツキの願いは、自分が死ぬまでに後任を選ぶことだった。
後任はマリーと川口君。堀太盛を殺す件は、私の勝手な願いだけどね。
でもこれだけは誰に何と言われても譲れない。真っ赤な誓い。

「悪いけど井上さんの意見は論理的に破綻…」

「いいから、黙って……全額私に投資しろおおおおおお!!」

私の叫びにより、サヤカさんは4メートルほど吹き飛び、壁に叩きつけられた。
部屋中の窓ガラスが、ハンマーで叩いたかのように割れた。
上のセリフは、妹に借りて読んだシンゲキのキヨジンの影響である。

「これを見なさい」
「な……っ!? それは……まさかっ!!」

私が見せたのは、水戸の黄門様のご印籠ではなく、
三つのスチール製のバッジだった。

・会長(仮)
・副会長(仮)
・保安委員部代表(仮)

「これは、ナツキが私に託してくれたもの。彼が執務不能な状態に
 陥った時、私がこれらの役職を一時的に掌握できるというもの。
 偽物じゃないよ。触ってみる? なお、このバッジの使用については
 事前に副官のナジェージダや校長にも許可も取っているわ」

話を最後まで聞いた三人は、椅子からひっくり返り、
陸揚げされた魚のように床の上をはねていた。
最初に元の状態に復帰したのはモチオ君だった。

「さすがの俺でも笑えないレベルっすよ。
 まさかマリカさんが独裁者になるつもりだったとは……」

「独裁者だなんて呼ばないで。私だって好きでこんなことしてるわけじゃない。
 信じてもらえないだろうけど、私は地位や名誉にこだわることはないの。
 本当なら今でも6号室の囚人でも構わないって思ってる」

「それ、本当なんすか?
 生徒会を私物化するのが目的にしか思えないんすけど」

「違う!! それは全然違うのよ!!
 私は、私なりに考えた結果、堀太盛をこの世から消し去ることが
 今後の生徒会のために最残の策だと判断したまで!!
 今すぐ保安委員部に太盛の捕縛を命じましょうか!!」

「待ってよ井上さん!! いいえ、会長代理!!
 本当に堀太盛君を殺すことが、ナツキさんのためになると考えてるの!?
 今後の生徒会はどうなるのよ!! 堀君が死んだら、
 うちの部のクロエさんとエリカさんは
 気が狂って自殺しちゃうかもしれないのよ!!」

あの二人なら太盛への恨みから反ボリシェビキへ
寝返る未来まで容易に想像できる。よって結論は一つ。

「そのふたりは直ちに逮捕するから問題ない。
 尋問室に監禁し、自殺できないよう監視すればいいことだ」

「はぁぁぁ!? 
 あなた、自分が何を言ってるか分かってるの!?」

「私は大真面目だ」

「待って待って!! 話が急展開しすぎじゃない!?
 お互い冷静に話しましょう!!
 クロエさんたちは、人手不足のうちでは貴重な人材なのよ!!
 校長だって怒ると思うわ。あとで校長も呼んで一度会議を……」

「そのような暇はない。ナツキは明日も分からぬ身なのだ。
 私は一日でも早く、堀太盛を殺したい」

「待たれよ!! 会長代理殿!! 自分から見ても!!
 代理殿が冷静な判断をしているようには思えませんぞ!!
 百歩譲って太盛先輩の逮捕までは認められますが!!」

私が貧乏ゆすりをすると、部屋がぐらぐらと揺れ始めた。
窓越しに見える足利の山々さえ揺れ始め、いよいよ建物が
倒壊する恐れさえ発生した。

サヤカさんが眼鏡をかけ直しながら、

「分かりました会長代理!! 
 とりあえず、クロエとエリカを逮捕することで手を打ちませんか!?
 堀君の件はそのあとで話し合いましょう!!
 これが私たちにできる最大限の譲歩です!!」

「ならん。逮捕するなら堀も一緒だ」

「分かりました!! 三人一緒に逮捕ですね!!」


※三人称

モチオはサヤカに耳打ちした。

(やべーぞ。太盛の身柄を確保された絶対に殺される)
(中央委員部の人間は武闘派じゃないから止められない……)

太盛はトモハルの部下であった。
トモハルはひそかに携帯で部下へ連絡し、
太盛を遠くの場所へ逃がすように指示を出した。

(一番の危険人物はマリカ殿ですぞ!!
 このような人物が独裁者になったら生徒会は終わりだ!!)

これにて会議が終了となった。昨年に続き、またしても生徒会が
内部崩壊しそうな危機的状況となってしまったのであった。


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