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作品名:『チベット高原を旅する』〜三人の兄妹の悲劇〜 作者:なおちー

第4回   「大きな湖ね。海なのかと思ってしまったわ」
   〜〜〜天空の鏡・チャカ湖を目指して一行が行く〜〜

 
         ・青蔵鉄道(せいぞうてつどう)
   
  中国の青海省の省都「西寧」とチベットの首府「ラサ(拉薩)」を結ぶ高原鉄道。
            全長約2000キロ。

      貴重な動植物の宝庫「ココシリ自然保護区」、崑崙山脈、タングラ山脈、
        ニェンチェンタンラ山脈という3大山脈、
        『平均標高4,000m以上』の青蔵高原を駆け抜ける高原鉄道。

        チベットの空飛ぶ鉄道。現代によみがえる銀河鉄道999である。


※ アツト

今日は雲が多いな……。
乗車券は学生が使う定期券みたいな大きさのものだ。
近代的な駅の中でチェックを済ませて、さあ乗り込むぞ。
駅の改札でもお二人のお嬢さん方は言い争いをしてるが、かまってられねえ。

しかし騒がしいな。日本語だから余計に注目の的だ。
そろそろ普通に観光させてくれよ!!
俺たちはこれから世界一標高の高い場所を走る鉄道に乗るんだぞ!!

『アテンション アテンショん プリーズ
 デスイズ メディカル・サポートセンター』

今のは館内放送だ。英語のあとにチベット語も聞こえてきたぞ。
何が起きたんだと思うと、駅のホームからタンカが運ばれてきやがった。
どうやら白人の夫婦が高山病でくたばりそうになってるそうだ。
夫婦は帰りの便に乗っていて、ラサに着くまでに病気になったそうだ。
マジでやばい状態のようで救急車が駅から発進した。

「列車の旅でも高山病にかかるのか……。
 これは姉妹喧嘩なんかしてる場合じゃないぞ」

ナツキ閣下は真顔だ。自慢じゃねえが俺は外国生活で
鍛えてるんで高山病にかかったことが一度もねえ。
ボリシェビキ訓練兵時代の成果も少しは出てるんだろうな。
ふ……雨の日は学校の体育館で訓練を受けてたな。なつかしいね。
いつか水谷のおっさんの墓参りに行きたいもんだ。

ホームに立つ。さあこれから乗車だぞ。乗車番号を間違えねえようにしないとな。
中は寝台列車だ。上部分がベッド、下部分がテーブル付きの座席となっている。
二人ペアで一つの部屋が割り当てられてる。ここでユウナちゃんとアユミちゃんが
兄の隣を巡って言い争いを始める。小学生のお子様かよ。番号通り座ればいいだろ。

うおっ。ペットボトルがこっちに飛んできた。そろそろ俺も我慢の限界だ。
俺がチベットに来た一番の目的がこれなんだぞ。
楽しみにしてた列車の旅が早くも台無しにされつつあることもあり、
さすがの俺も嫌味の一つでも言ってやろうかと思う。

「あの、私はアユミさんは死んだほうがいいと思います」

!?
 
全員が( ゚д゚)ポカーン とした。

「ご夫婦なんですからそこはユウナさんに席を譲るべきでしょ。
 アユミさんはお兄さんの妹なのに何様のつもりなんです?
 こっちは見ててイライラするし自分でも不毛だって思いませんか?」

おいっルナ……!?
おめーってやつは……

「さっすがルナちゃん!! 話が分かるわ!! 
 さあ兄さんも同意してくれるわよね!! 嫌とは言わせないわよ!!」

バナナを得たマウンテンゴリラみたいに元気なユウナ。その流れで
兄の隣を強引に奪う。本来の番号順だとアユミのはずだったようだが。

アユミは、怒りに震えながらおとなしく違う席に座る。
相方は知的なメガネのおじいさん(オランダ人?)だ。
大学教授みたいな雰囲気で厳めしい。アユミちゃんが英語で挨拶をすると
普通に英語で返してくる。どこから来たのかなど軽い会話をしていた。

このアホ姉妹はどうでもいい。
景色を堪能しねえとな。ラサ市街を抜けると、広大な雪原地帯が広がる。
10月になったばかりだが、雪降ってんだな。すっげえ遠くに何かの施設みたいな
建物が見える。きっと寺院なんだろう。

景色はゆっくりと変化していって、ここは山岳なので山は当然として
荒野地帯、草原地帯、湿地帯(正確には湖沼)と、地球の自然の全てを
堪能できるんじゃねえかってくらい車窓からの景色は最高だぜ!!
幸運なことに高山病の心配もないときた。

俺の妻はニコンのミラーレス一眼レフを出窓にセットして、
せっせと写真を撮る。たぶん動画の方が効率良いぞとアドバイスした。
動画だと電池の残量が心配らしい。そりゃそうだ。

さて。鉄道の揺れもいい加減激しくなってきたんでむしろ眠くなってきた。
チャド湖に到着するまで所要時間はおよそ22時間だ。
たっぷり時間があることだし、少しくらい眠っておいた方がいいか。

「ねえねえ。さっきのことだけど」
「なんだよ? 眠いんだが」
「かなり失礼なこと言っちゃったから、アユミさんに謝った方がいいかな? 」
「逆に謝ったら火に油になるかもしれねえぞ。ほっとけよ」
「でも」
「心配性なんだな。どのみちナツキ殿の正妻はユウナさんなんだから問題ねえだろ」

いいから寝かせろと言うが、妻が本気で青白くなってので心配してしまう。
だったら初めから言うなっつの。

「私がどうかした?」 アユミさんが座席の横から顔を出した。

ルナが委縮する。盗み聞きかよ。

「別に謝られても一度言った言葉が消えるわけじゃないから、いいよ」
「私は、乗車中に喧嘩されたら他のお客様にご迷惑かと」
「だからいいって。ルナちゃんに嫌われてたのはショックだけどね」

景色は一面の雲海に代わる。俺らはまじで空と同じ高度を旅してるんだな。
列車の真上に雲があるんだぜ。この大自然の中で喧嘩とか有りえねえわ。

「俺からも言わせてもらいますぜ。人生諦めた方がいいこともあるっすよ。
 アユミさんがユウナさんより早くプロポーズしてればチャンスがあったかも
 しれねえすけど、現実はユウナさんが結婚しちまったんだ。それが事実っすよ」

「確かにそうだけど」

「それでもナツキさんのことが諦められねえってんなら、回教徒(ムスリム)にでも
 改宗して重婚するとかどうっすか。いや冗談じゃねえっすよ。ラサにもムスリムの女
 けっこういたでしょ。まじでそれくらいの発想がねえと、この三角関係の修羅場
 無限に続くっすよ。俺らも結構ストレスやばいっす。ルナが切れたのもそのせいですよ」

アユミさんは唇をアヒルみたいにトンがらせる。可愛いな。
この人は姉には反発するが、根っから聞き分けが悪いわけじゃなさそうだな。
俺22なんだが、24の女性に説教垂れてていいんだろうかと思いつつ。

「失礼なこと聞いていいっすか? 実の兄ってことは血がつながってますよね。
 血のつながりがあるのにお兄さんとベッドを共にしてもオッケーな感じなんすか?」

「うん。自分でも不思議だけどなんとも思わない。
 体触られても気持ちいだけで全然嫌じゃない」

俺らは明らかに時と時間を選ばねえ会話をしているが、
鉄道内に日本語の分かる奴はいねえだろ。外国は便利だぜ。

ちなみに近親相関を防ぐためのメカニズムとして「匂い」があるらしい。
こいつらで例えると兄と妹の間では遺伝子が近いため「フェロモン」が
似ているため、性的な感情を抱かないとされている。
もっとも高倉家には関係なさそうだが。

「お、お兄さんとは小さい頃からずっと仲良しだったんですか?
 いつもべったりですけど喧嘩とかされないんですか?」

「小さい頃? 私が小さい頃は兄を知らなかったよ。兄は日本にいなかったから」

え? とルナに続いて俺も驚く。

「兄はブリティッシュ・スクールに通ってたんだよ。エジプトのカイロにある学校。
 父は若い時は総合商社で石油の担当だったの。それで中東によく出向いていた。
 石油専門の部署に配属になって数年間。ついでだからと長男に英才教育を施したいと、
 父と兄だけで海外暮らしをしていたんだ。

 兄さんがあっちにいたのは小学校を卒業するまで。私とは5歳違いだから
 私が初めて話をしたのが7歳の時。親戚のお兄ちゃんなのかと思ったら
 これがあなたの兄なんだよって言われて驚いた。兄も私をかわいがってくれた。
 ユウナよりもずっとだよ。ユウナは兄と年子だからそこまで新鮮じゃないのかも」

すげえな。安いドラマの設定かと思ったぜ。ナツキさんがエリートなのは
親父さんのおかげなんだな。親父さんの職歴もすげえんだな。

BP(英)ロイヤル・ダッチシェル(蘭)、アラムコ(サウジ)
ガスプロム(ロシア)など世界の石油市場を代表する企業と取引していたそうだ。
親父さんの会社は日本の商社の中では比較的規模の小さい日照って会社なんだが、
当時は原油部門に少数精鋭のエリートを有していたそうだ。

親父さんの会社はペルシャ湾とサハリンの油田開発の共同出資計画に参加し、
見事プロジェクトを成功させた。22年にも及ぶ計画だったそうだ。
計画自体は成功だったが、英蘭の奴らが巨額の利益を分捕り、
親父さんの会社の取り分は少なかった。
後年、海洋環境への悪影響で漁業問題から起訴される始末。

その後は英国での勤務を経てエジプトのカイロにも栄転。
原油、石炭、天然ガスの先物取引にも関わっていたんだと。
一度大もうけしたんで自分が天才とレーダーだと勘違いしたが、
30代の終わりに会社に150億もの損害を出して自主退社に追い込まれたそうだ。

それから親父さんは退職金を酒に溶かしてしまう。
妻のパートのわずかな収入を当てに、家で飲んだくれの生活を送る。
たまに派遣で働いては飽きたら辞め、家にいることが多くなった。

巨大なお金を動かしてきた人にとって、まともな転職先を見つけるのは難しいそうだ。
まず給料に納得がいかねえ。ライバルにあたる総合商社にはプライドが
許さないんで転職をしなかった。証券会社の道もあったが、二度と金融資産の取引を
したくねえってんで、こっちも断っちまった。

アユミさんが小学生の時は妻の実家から支援金があって
なんとか食ってる状態だったらしい。まじでドラマだな。
かっこいいけど、俺の親みたいに平凡なのが一番だと思うぜ。

「お兄ちゃんはすごくカッコよかったんだよ。
 中学生の時から成績は学年でトップ3に入っていたんだから。
 家でも父親代わりでキリっとしてて、母もすごく頼りにしてた。
 お兄ちゃんの言うことに何も間違いはなく。お兄ちゃんの言うことに
 従っていればみんな幸せになれたんだよ。それからね。私のことは…」

「さーせん、長くなりそうなんでその辺で止めてもらっていいっすか?
 アユミさんのブラコンは今さらなんですけど、兄以外の人を
 好きになったことはないんすか? 学校とかで良い人いたでしょ」

「いるわけないじゃん。学校の男子なんてガキじゃん」

「確かに男子は女子より幼稚なのばっかですがね。
 じゃあ職場はどうだったんすか?」

「働いたことないから分かんない」

「働いたことねえんすか!? 俺より年上なのに?」

「全くないわけじゃないよ。ソ連の食糧配給所なら働いたけど
 まだ一年もたたないから職歴には入らないと思うし、
 配給所はおばさんばかりだから若い男の人いないもん」

「たぶん今までの人生で出会いがなかったんじゃないっすか?
 大学時代にサークルとか入ってましたか?」

「あんなチャらい奴らの集まりなんて入るわけないでしょ」

「そうっすよね……。俺はゼミの飲み会とか常連でしたが」

鉄道がどこかの駅に着いたようだ。
当たり前だが途中でどこかに止まるよな。

外を見てみるか。
駅のホームは無駄に広くて、人の往来が激しい。
石造りの床がピカピカに輝いてやがる。
なんかまたタンカで男が運ばれていったのは気のせいか?

改めて俺らの鉄道を外から見てみる。
色もシンプルでどこにでもありそうな形だが、
正面から見ると人の顔に見えなくもない。

鉄道はすぐに発進するから急がねえとな。
俺が再び座席に戻ろうと通路を歩いていたら、
ユウナさんとその旦那が口論していてうるさかった。

「ユウナは話の分からない女だな!!
「ええそうよ!! 悪い!? 兄さんがいけないんじゃない」
「声がでかい」
「兄さんこそっ。兄さんが私を怒らせるからこうなるのよ」
「……分かった。謝るよ。目的地に着くまでは口を利かない」
「それって逃げてない? 都合が悪いから黙るの?」
「すぐそうやって喧嘩腰になる!!」
「黙りなさいよっ!! また係の人に怒られるわよっ」

係の人に怒られていたのかよ。まあ当然だろうな。
俺らはアユミちゃんの相手をしてたから、この人たちの
ことなんてかまってる余裕はなかった。

仕方ないんで仲裁に入る。

「はぁ……さて。今度は何が起きたんすか?」
「ちょうどいいところに来たね君!! 
  ユウナがバカなことを言い始めたのだ」

幼稚園児の発想かと思ったぞ。
ユウナさんは車窓から景色を見ていたら、
なぜかアユミさんへの積年の恨みが募ってしまい、悪口を言い始めた。
永遠と悪口を言われるのが不愉快なのでナツキ閣下が怒る。

たったそれだけだ……。
おい。これって喧嘩の理由になんのか……?

確かにユウナさんの愚痴は長いそうだが、だからって
楽しい旅の途中で怒鳴り合いに発展するほどなのか……?
ふざけんじゃねえぞ。完全に頭に来ちまった。

「あのねえ!! 俺やルナにとってはあんたらの恋の行方がどうなろうと
 知ったこっちゃないんすよ!! なんでおとなしく旅行ができないんすか!! 
 旅行ができないほどギスギスしてんならチベットに来ないでくださいよ!!
 もうほんとマジで迷惑なんすよ!! 二人の相手するの疲れました!!」

やべえ……。言っちまった。
車掌ににらまれてるので片言の英語で謝罪する。他の客共も白けてやがる。
バッカ野郎。俺だって好きで怒鳴ってるわけじゃねえんだぞ。
言い訳したいが日本語で何言っても通じねえだろうしな。

「ごめんなさい。アツト君達には迷惑をかけてばかりいるわ」
「すまなかったね同志アツトよ。我々は今日の行いを自己批判させてもらうよ」

おとがめ……なし……だと?
             ざわざわ。 ざわざわ。

まあいい。あと19時間くらいそのままにしてろよアホども。

席に戻ると、ルナとアユミはお菓子を片手に談笑してやがる。
そんなに気が合うんかね。邪魔しちゃ悪いと思い、俺は本来ならアユミさんの
座る席にお邪魔して昼寝することにした。隣の爺さんはずっと本を読んでやがる。
揺れの激しい状態で読むと視力が落ちるぞ。あと高山病も怖いからやめとけ。


※  ルナ

夕食の時間になりました。夕食は専用の食事列車が設けられている。
対面式の豪華な座席で、テーブルをはさむ。食事は粗食過ぎて驚いた。

丸皿が六つ並んでいて、野菜の煮物、豚肉の炒め物、海藻の入ったサラダなどが並ぶ。
ナンみたいな形のパン。どうみてもこれナンでしょ。
メニューは家庭料理の域を出ない。少し辛いけど、不味くもなければ美味しくもなく。

私は旦那のアツト君と同じテーブル。
背中越しに反対側のテーブルには高倉兄妹が座る。また喧嘩するのかな……。


※三人称

ルナの心配は杞憂に終わる。ユウナとアユミは隣同士で座り、仲良く皿を分ける。
ナツキもこれといって話題を振らずモクモクと食事を続ける。

他の観光客も騒ぐものはなく、静かに談笑している。当たり前のことだ。
皿を空にするのにたったの10分。大した量ではなかった。
ナツキは食後の茶を飲みほし、さあ戻ろうかと席を立つのだが。

「ルナちゃんって可愛いよな」

爆弾を投下する。

「は?」「今なんて?」

二人の妹の表情が強張る。

「お前たちも海外を旅すれば少しは変わるかなって期待していたんだ。
 ルナちゃんは月のように美しい女の子だ。あの子がなぜ魅力的なのかわかるか?
 海外での過酷な生活をしてきたから生きる知恵があるんだ。生きる知恵の
 ある女は素敵なんだぞ。あの子はまだ子供を産んでないが母親の貫禄がある」

「兄さん。ちょっとなにをい…」

「むしろお姉ちゃんと言っても過言ではない。彼女からはあふれんばかりの
 母性を感じるんだよ。宮古の広場で僕に水入りのボトルを渡してくれたことがあった。
 あの時も僕は何かを感じたんだよ。こうキュピーンとね。やはり旅はいいもんだ。
 今まで知らなかった自分に出会うことができる」

荒ぶるユウナを「まあまあ」と制し、反対側のテーブルに回る。
寺沢夫妻が楽し気に語り合っているところだった。

「はい。なんでしょうか同志?」(ち……また喧嘩でもしたのかな)

ルナの笑顔の裏を読みとめるほどナツキは冷静じゃなかった。

「お姉さん」
「!?」

奴は一体誰に話しかけたのかと、寺沢夫妻がキョロキョロするが、
ここは外国の列車内である。日本人は他にはいない。

よってお姉さんに該当するのは、ルナだと思われた。

「またまた。ご冗談を」
「僕は君のことが好きだ」

また爆弾が投下された。

まず状況を確認しよう。彼ら一行は列車内の食堂にいる。
ナツキは妹二人と食事を済ませたのか、こちらに来たのだろう。
なぜルナをお姉さんと呼び、さらに告白までしたのか。

まずルナはナツキより7歳も若年である。あのアユミより2歳も下である。
よってお姉さんと呼ぶ道理がない。さらに告白の件はどう解釈するべきか。
ルナは夫のアツトと食事をしていた最中だ。さらに困ったことにナツキも
既婚者であり、妻のユウナも後ろの席からにらんでいる状況だ。

「ルナさん。好きだ」
「ご冗談は困りますよ同志閣下」
「アツト君と別れて僕と結婚してくれ」
「あの、ほんとにやめてください」

何が彼をこのような奇行に走らせてしまったのか?

「ボリシェビキってジョークとか言うんすね。
 マジつまんないし笑えないんで、やめた方がいいっすよ」

寺沢アツト。真顔である。
訓練兵時代もヘラヘラしていた彼がついに真顔である。
ブチ切れてるのは言うまでもない。
今度は一人の女性を巡って男性二人の修羅場が発生したのか。

「なにバカなこと言ってるのよ兄さんっ!!!!!!」

ユウナの拳でテーブルの皿が浮く。あまりの迫力に列車内が騒然となった。
またこいつらかと、あきれてる人達もいる。
係の人に通報しに行くおばさんの姿もあり。

「私の見てる前で別の女に告白するなんて頭は大丈夫なの!?」
「黙れ。我は聞かぬ。媚びぬ。顧みぬ。おまえのことなど知らん」
「浮気は許さないわよ!! なんでルナちゃんが好きになったの!!」
「黙れと言っている。ふん。これだから小娘は困るのだ」

ナチキはチベット仏教にでも目覚めたのか、耳元でつばが飛ぶほど
怒鳴られても平然とし、その瞳はいつまでもルナの美しい姿をとらえていた。
当のルナはドン引きしていたのだが。

係の人(車掌さん?)が二人掛かりで仲裁に入るまで喧嘩は続いた。
一方的にユウナが声を荒げるだけであったが。


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