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作品名:『チベット高原を旅する』〜三人の兄妹の悲劇〜 作者:なおちー

第15回   悪魔はよく嘘をつく いち
そこには不思議な田舎の風景が広がっていた。
土の上で目覚めたナツキとユウナは、冷たい風に吹かれて身震いした。
二人の目に最初に飛び込んできたのは、黄金色をしたイチョウの大木だった。
月明かりに照らされた葉が、風に揺れて輝いて見える。

季節は秋口なのか、底冷えがする。イチョウの前には鳥居がある。
日本ならどこにでもありそうな、変哲のない鳥居だ。

鳥居のてっぺんの右の端に、器用にもしゃがみこんでいる人がいた。
ナツキは、すぐにそいつが普通の人間じゃないことを見抜いた。
そいつは全身黒ずくめで服をまとっていない。いたずらっぽく
幼い顔が微笑んでいる。収容所7号室で見たのとは違う悪魔だ。
背中には黒くてカラスの羽のようなものが生えている。

「に、兄さん。ここはどこなのかしら」
「ユウナ。お前は鳥居に座っている奴が何に見える?」
「鳥居ですって……? 男の子かしら。小さいわね。たぶん小学生くらいだと思う」

やはりそうか、とナツキは思った。ユウナには悪魔が人の姿に見えているのだ。
紫色の唇から、黄ばんだ歯がのぞく。あれをどう見たら「男の子」と呼べるのか。
悪魔は鳥居から飛び、地面へ着地してから、ニコニコと愛想よく二人へ近づいてくる。

「やあやあ、おふたりさん。はじめまして、と言った方がいいか」

「お前は……誰だ?」

「名乗るほどのものでもないさ。俺はここで農業をしているものだ。
 すぐそこに俺の家があるんだ。話ならそこでもできるゾ。
 おまえら、今夜は泊るところがないんだろ? ならツイテコイよ」

ふたりがどうするべきか、悩んでいると、
悪魔は片手を自分の方に振り「早く来い」と呼ぶ。
英語圏の白人を思わせるジェスチャアだった。

「どうするの?」
「ついて行こう。根拠はないが、たぶん最残の選択だ」

ナツキは油断なく悪魔の後姿を観察した。

悪魔は全身がタイツで覆われているかのようで、
外観上服は着ていないはずなのに、生殖器らしきものはない。
腕も足もすごい筋肉質で短距離の陸上選手並みの体つきだった。
爪が長い。指の半分の長さほどもある。髪の毛は一切生えていない。
収容所7号室で見た悪魔の特徴によく似ていた。肌はガサガサで乾燥しきっている。

この地域は田舎なのか、周囲を山に囲まれた田園地帯だった。
道中で大きな川が流れている。川の橋を渡り、林の方に入る。
林の中は深く漆黒の闇であり、今にも悪魔の背中を見失いそうになる。

悪魔はそんな二人を振り返り、「ふっ」と指に吐息を吐きかけると、炎が燃えた。
魔法のような現象だった。爪の先だけが燃え続けている。

「マッチをつけてくれたのかしら?」
「あれのどこがマッチなんだよ」
「兄さん。もしかして怒ってる?」
「別に。さあ行くぞ」

林の道は、大きな枝がいくつも置いていて、足を踏み外しそうになる。
どこからか、フクロウの鳴き声がする。ユウナは不気味に感じたものだが、
フクロウは人間には害がないとナツキが説明して落ち着かせた。

10分ほど歩いただろうか。悪魔の家に着いた。
悪魔は、かやぶき屋根の家に住んでいた。
あるいは秘密の隠れ家か。うっそうとした森林に囲まれた一角である。
家の前には小さな畑があり、収穫前の小松菜やニンジンが目についた。

「狭いところだけどよ、遠慮せずに入れよ」

悪魔が玄関の引き戸を開ける。中はなんとも古風な作りだった。
居間の中央に囲炉裏があり、他にはこれといって何もない。
衣服用のタンス、調理用の器具が部屋の隅に置いてあるだけだ。
天井付近には、格子型の出窓がついている。構造的に閉めることはできないようだ。

悪魔は座布団を二枚持ってきて、二人を囲炉裏の前に座らせた。
悪魔が囲炉裏の炭に指の先で触れると「ぼっ」と爆ぜる。
勢いが良すぎて火の粉がユウナの髪に飛んできて慌てた。

「へへ。すまねえな。いまだに慣れねえもんで、調整が難しいんだ」
「い、いえ」

悪魔はあぐらをかきながら、「くくくっ」と笑う。不快な笑い方だとナツキは思った。

「久々に客人が来たもんでうれしくてよ。腹が減ってるだろ?
 今野菜で鍋を作ってやるよ。大したもんじゃねえが、
 なにも食わねえよりはましだろ」

悪魔は、大鍋の中でお玉をかき回しながら野菜を煮込んでいく。
白菜、ネギ、ダイコンなど、野菜を中心としたシンプルなメニューで
決して栄養価は高くない。

「実は今朝釣ったばかりの川魚があったんだが、俺が昼に食っちまった。
 コメも全部食った。俺は夜は何も食わず寝る。だが今日はおまえらが来たから特別だ」

お椀に、たっぷりの味噌で煮込んだスープを持ってくれた。
これはただの味噌汁だろとナツキは突っ込みたくなるのを我慢していただく。
暖かくて染み渡るように美味しかった。それに囲炉裏の明かりが部屋中を
照らしているのが新鮮だった。この部屋にはランプはあるが蛍光灯はない。
明治の日本へとタイムスリップしたのかと疑いたくなる。
実際にありえることだから困った。

「チげえよ。ここは令和の日本だ。過去の世界じゃねえ」
「……なぜ僕の考えていることが分かった? 僕は口にしてなかったはずだ」
「俺はよ……人間の考えてることが分かっちまうんだ。まっ、特技みたいなもんダよ」

ナツキはスープを飲み干してから「ごちそうさま」と言った。
ユウナはまだちびちびと飲んでいる。おかわりもあるぞ? と言うので
遠慮なくナツキはいただいた。それも飲み干してから、本題に映る。

「君は僕たちに何の用があるんだ? なぜ僕たちを家に案内した?」
「おう。説明すると長くなるんだがよ。俺はおまえらの監視係みたいなもんだ」
「監視だと? どういう意味だ!!」
「まあ待てよ。俺はお前らに敵意はねえんだ。この通り鍋だってご馳走しただろ」

悪魔は本当に慌てていて、荒ぶるナツキに対して、両手を顔の前で左右に振る。

「その監視係ってのはどういう意味なのですか?
 私たちを前から知ってるような口ぶりでしたけど」

「ユウナちゃんは話が分かりそうだな。助かる。
 具体的に言うとな。おまえたちがチベットを旅する少し前から、
 監視を命じられていたんだ」

「誰に命じられていたんですか?」

「俺の上司にあたる人からだよ。正確には少し違うんだがな。
 いきなりこんなことを言われても信じちゃくれないだろうがな、
 俺はお前らを救ってやろうと思ってるんだ」

「救うって、何から救うんですか?
 もしかして私たちは殺される運命だってことですか?」

「あちゃー……」

「はい?」

悪魔は、囲炉裏の炎をじっと見つめて口ごもる。
ユウナが先を早くと急かすので、仕方なく続きを言った。

「ぴんぽーんってとこか。ユウナちゃんの言う通りの結果になるんだよ。
 おまえらは、あのまま上海から成田空港に帰ったら殺されていた」

「なんですって!?」

「ボリシェビキの当局から高倉兄妹の逮捕状が出てる。反革命容疑としてな。
 おまえらはチベットに旅立ったころには、もう逮捕状が出てたんだぞ。
 お前らが何も知らないだけでな」

悪魔はちょっと待ってろと言い、タンスの中にしまっていた一枚の紙を
持ってきた。栃木ボリシェビキ中央委員会が作成した逮捕状の原文だった。
確かに高倉ナツキとユウナの二人の名前が記されている。

まずナツキはおかしいと思った。逮捕状は実際に存在するにしても、
組織の上層部の人間じゃないと、手にすることも目にすることもできない。
発行の母体となる政府と、保安委員会が厳重に管理するはずだ。
目の前の男が衣装タンスにしまっておけるような物じゃない。

「おい貴様。どうやって逮捕状を手に入れた?」
「盗んだ」
「は?」
「栃木ボリシェビキの中枢から盗み出した。俺じゃなくて俺の上司がな」
「バカな……」
「俺は人じゃねえ。人の子にはできないことも可能にする」

まず、この男を信用できるかどうかが問題だった。
確かにこいつは人じゃない。それは見た目でわかる。
逮捕状の件が事実で、こいつが盗み出したのもあり得る話ではある。
百歩譲ればだが。しかし、こいつが自分たち兄妹を救いたいと思う動機は?

「あの」

「なんだいユウナちゃん?」

「私にとって一番疑問なのは、なぜ私たちに逮捕状が出たてたかってことなんです。
 私たちはチベットを旅行しただけなんですけど、それで逮捕って。
 外国への逃亡を図ったことによるスパイ容疑とかですか?」

「残念だが、その通りなんだよ。君たちはスパイ容疑がかかっている。
 書面上では反革命容疑ってことで言葉を濁しているが、正確には
 中国共産党のスパイってことで、当局が結論を出しちまった。
 逮捕できる口実なら何でも良かったんじゃねえの」

党本部は、近親婚をした高倉夫妻が資本主義日本のプロパガンダに
利用されていることに難色を示し、ついには彼らを取り締まって地下に幽閉しようと
考えていた。建国したばかりで日本から多くの難民を受け入れている栃木ソ連は、
今でも茨城や埼玉の一部地域を併合して勢力を拡大中だ。そのため、
イメージダウンとなる要素は何でも排除しようとする動きがあったのだ。

「それであなたが私たちの味方をしてくれる理由は?
 私たちは、言っちゃ悪いですけど、
 出会ったばかりのあなたを信用できません」

「まーそうだよな。それが普通の反応だ。お嬢さんには
 目くらましがきいてるから、それをちょっと解いてやるよ。おら」

悪魔が、ユウナの目の前で「パン」と手を叩くと、ユウナは腰を抜かしてしまう。
ユウナの目にも、はっきりと見えてしまったのだ。
先ほどまでの少年の姿ではなく、おぞましい悪魔が目の前にいるのが。

「俺は見ての通りの存在だ。俺も今では落ちぶれちまったが、かつては
 神のそばで使える存在だった。だが色々あってよ、天界から追放されてからは
 こうして人里で暮らしているんだ。他の人には俺はただの小僧に見えることだろうさ」

「いつからここで暮らしているんですか?」

「んーそうだな。いつからだったか。
 今から数えると……たぶん120年くらい前だ」

通りで古い建物のわけだと、ユウナは思った。
この家は時間が止まっている。歴史の流れから取り残されている。
この悪魔は林の奥にある家の中で、
周囲の農民とは極力関わらないようにして暮らしてきたのだ。

「おい悪魔。妹のアユミはどうしてるんだ?
 僕たちはあの子を上海に残したままなんだぞ」

「なんだその呼び方。俺の名前、勝手に考えんなよ。
 アユミちゃんなら死んだよ」

「は……!? なんて言った?」

「だから、死んだ。反革命容疑の連帯責任だ。おめーらは
 逮捕されなかったが、あの子は上海にいたボリシェビキの刺客に捕まって、
 日本に強制帰国。そんで政治犯が送られる収容所に幽閉されて、
 獄中死した。最後は自殺だったらしい」

「おいおまえっ!! 適当なことを言ってるんじゃないだろうな!!
 アユミが死んだって、そんなの口で言われただけで認められるか!! 
 証拠があるわけでもないのに!!
 お前の言ってることが本当だとしたら、証拠を今すぐ見せろ!!」

「証拠は、残念だが、今すぐは用意できねえよ。死体は本部で火葬されたそうだからな。
 一応おまえらの遺族ってわけで、それなりに丁寧に扱われたらしいぜ。
 収容所でも特別な部屋に幽閉されて扱いは良かった。拷問はされなかったそうだぞ」

「おいおい待てよ!! 何勝手なことをペラペラ話してるんだ!! 
 このくっそ野郎が!! アユミが死んだ!? なあ!! おまえは
 アユミが死んだって言うのか!! うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

ナツキは悪魔に馬乗りになり、拳を振るうが、悪魔は抵抗もせず
殴られるままだった。振り下ろされた拳で、悪魔の顔が右へ左へと揺れる。

ユウナが兄を羽交い絞めにして止めた。

「この人の目を見ればわかる。きっと本当のことなのよ」

ナツキも本心では分かっていた。だからこそ、八つ当たりをしなければ
感情が抑えきれなかった。悪魔は「いてえなクソッ」と言いながら起き上がる。
切れてしまった唇から、緑色の血が流れる。腕でぐっとぬぐった。

「取り乱してるところ悪いんだが、もう一つ悪い知らせがあるんだ。
 あとで話すより一度に話しちまった方が傷は救ねえと思う」

「なんだ? まだ何かあるのか?」

「おめーらの両親なんだが……」

「両親がどうした!? まさか死んだんじゃないだろうな!?」

「母親は死んだそうだ。秘密警察が深夜自宅に押し掛けた時、将来を悲観して
 自分の頭を拳銃で撃ちぬいた。父親は生きてるよ。ただし群馬県の収容所でな。
 こいつもアユミと同じような待遇だ。ボリシェビキ市議会の幹部、高倉ナツキの
 肉親ってことで、清潔な部屋に幽閉されている。今のところ自殺する様子もないし、
 脱走する気もないらしい。ただし精神をやられて廃人と化してしまっているが」

ユウナは最後まで聞く前に泣き崩れた。
両手を顔に当て、そのまま床に押し付けながら大声で泣いた。

「うわあああっ……う……うそよぉ……うちの両親がどうしてぇ……。
 お母さんが自殺したなんてぇ……あのアユミまで……うわあああっ!!」

「バカな……そんなバカな……こんな現実がありえるのか……。
 両親がこんな目にあってるとも知らずに……僕たちは
 のんきにチベットを旅していたのか……」

ナツキの瞳から大粒の涙がこぼれて止まらなかった。口惜しさと
やるせなさで、握った拳で何度も床を叩く。しかし力強さはない。

ユウナは兄の膝の上でうずくまって、気が済むまで泣き続けた。
兄も震える手で妹の髪をなでてあげる。本当だったら自分の方こそ
誰かに慰めてもらいたい気分だった。悪魔はあぐらをかきながら、
神妙な顔でうなだれている。気の毒には思ってくれているようだ。

「おふたりさんよぉ。おめーらは一度別の世界に飛ばされただろう。
 あそこはそんなに悪い世界じゃなかったはずだ。
 こんな世界に戻ってきちまうから、残念な結果を見る羽目になったんだぜ」

「待て。状況を整理させろ。
 僕とユウナは、上海のコンサートホールにいた時から記憶が飛んだ。
 つまり、あの時に別の世界にワープしていた。そしてアユミだけが逮捕された。
 以上が僕が思いついた結論だ」

「んー、ワープとは少し違うんだが、まあだいたいあってるよ。
 アユミちゃんだけが結果的に逮捕されたってのも、その理屈なら納得できるだろうしな。
 俺が言いたいのはよ、おふたりさんは、学園生活を送ってれば良かったんだよ。
 こんな世界に戻ったところで何になる? 令和の日本にはなにもねえんだ。
 政治への諦め、経済の停滞、人間不信、貧乏からの自殺。救いはねえよ」

「だからこそ、僕たちは日本を救うために共産主義革命を起こしたんだ!!
 令和の日本が腐りきってることを誰よりも知ってるのはこの僕だぞ!!」

「おう。おまえらの政治思想までは否定しねえよ。俺は政治とは無縁の人生を
 送ってるからな。ぶっちゃけ、どうでもいいんだ。俺はここで野菜を作り、
 川で魚を釣り、薪を割り、たまに手工業品を町まで売りに行けばそれで満足なんだ」

悪魔は、四段もある壁棚にびっしりと置かれている陶器を指さした。
皿、壺、湯呑など。素人が作ったにしてはそれなりの完成度だ。
人里離れたこの田舎の村では、手工業品には一定の需要があるらしい。

「おめーらの失敗した理由は、血縁者同士で結婚しちまったことだ。
 公の場で結婚式を挙げたのも、後々のことを考えるとマイナスだったな。
 あれで世間が納得してくれるわけがねえ。新郎が行政府の中枢の人間なんだからな。
 結婚はよ、そんなに難しいことじゃねえんだ。自分の身近にいる女を
 見つければいいんだよ。ちなみに俺も結婚してるんだぜ」

「そうなのか!? おまえ悪魔のくせに結婚なんてできるのか?」

「俺の名前は悪魔なのか? そんな名前を名乗った覚えはねえが。
 俺の妻なら町まで働きに行ってるぞ。さすがに野菜作りと、
 手作り陶器のちっぽけな収入じゃ生活するのが苦しくてな。
 妻は町で店の売り子をやってるんだ。ここからじゃ
 歩いて6時間もかかる場所なんで泊まり込みだ。
 月末にならなえと帰ってこないんだ」

そういえば、そろそろ10月の末だな、と悪魔が言う。

「早ければ明日にでも帰ってくるんじゃねえのかな」

「お前の奥さんと聞くと悪魔を想像してしまうが……」

「あれは間違いなく人間の娘だよ。少しばかり霊感が強いんで、
 川で魚釣りをしている俺とばったり会ってしまってな。
 それから町でも何度か顔を見かけるうちに親しくなったんだ」

「その人はよくお前と結婚する気になったな。人間だったら
 悪魔と結婚するなんて普通は考えないはずだぞ」

「それがよ。俺みたいなやつでも良いって言う女が本当にいるんだから、
 人間ってやつは面白れえよな。あいつは美人だから、他にも男は選べたはずなんだが、
 俺だったら絶対に浮気しないし、生真面目だから仕事もサボらないしってことで
 結婚することになっちまった。式は挙げてねえから形だけの夫婦だ。
 子供もいねえし普段は別居してるから、遠距離恋愛中の恋人状態なんだが」

「言っちゃ悪いが、相当な変わり者なんだな。お前の奥さんの顔を見て見たいよ」

「嫌でも来週中には帰るから、会わせてやるよ。お前らの話もしてやりたいしな」

「それで僕たちは今後どうすればいいんだ?」

「しばらくここで暮らせよ。ここは田舎だからボリシェビキの追跡からは逃れるはずだ」

「ふむ……。確かにそうするしかないのだろうが。ところでここはどこだ?」

「関東甲信越地方。長野県のとある村だよ。お隣の山梨県との県境に位置している。
 大きな山のふもとでな、人里からは相当に距離が離れているぜ。
 一時間半も山道を歩かねえと車道までたどり着けねえから、
 ここまで車が入ってくることもない。隠れて暮らすにはぴったりだろ?」

「そうだな。ではお言葉に甘えよう。さっきは殴ったりしてすまなかったな」

「いいってことよ。その代わり、明日から山菜取りを手伝ってもらうからな」

「わかった」

こうして、悪魔と不思議な共同生活が始まるのだった。


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