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作品名:学校で大人気の男子に告白されたのだけど…… 作者:なおちー

最終回   「愛する息子は無垢なままでいて欲しい」と美奈が願う。
誕生日を境に息子から男の匂いがすると感じる。
顔つきも変化が生じる。単なる小童でなく厳めしさを含む。

これは只事ではないと、深夜息子の後を着けると
叔母の部屋へ転がり込むところを発見する。

ふすま越しでも二人の会話は鮮明で事情をすべて悟る。
さてどうしようかと思う。
息子を叱るか、同居人の妹分(七味)を叱るべきか。

まず七味の言い分を考える。七味は不幸にも兄と母を亡くし、
この家に住む者。美奈を姉と慕い甥に愛情を注ぐ。
幼子の夜泣きで眠る暇もない頃、
昼間に息子の相手をしてくれた恩は忘れぬ。

息子が叔母に恋することも事情を複雑にする。
両者が好み合う関係なのは疑いの余地なし。
現代人の言い方を借りてカツプル成立なり。

美奈がむしろ邪魔立てする立場と知り落胆を隠せない。
七味の気持ちは分かる。美奈も旦那を十年も前に無くしてから
一人で寝るのはさみしく自分を慰める。
そばに旦那がいてくれたらと思わぬ日はない。

(達也様……わたくしの中の達也様は古びた写真の中で
 永遠に生きておりますゆえ。わたくしが寿命を迎えるまで
 あの世で再会を果たすことはできませぬ)

22畳の広大なる美奈の部屋。座布団と丸テーブルを除いて
物を置かぬ。学生時代から変化なし。

そこへ旦那の霊が降臨せり。
見間違えではないかと目をこする。

「俺だよ美奈。達也だ」
「ああ……あなた様……お慕い申しております……」

相手は幽霊なり。抱き着こうにも空を切る。

「俺は死んじまったからお前に触れることはできねえんだ。悪いな」
「たとえ触れることできずとも、こうしてお話ができております」

達也は高校の学生服を着る。顔立ちもあの時と変わらぬ。
今では美奈の方が10歳も老けて時の流れを感じずにはいられない。

「今さらこんなこと言っても、信じてもらえないだろうけど
 聞いてくれ。俺が一番好きだったのは美奈だった。俺の初恋が
 美奈だったから、やっぱりおまえのことは特別なんだよ。高校に上がって
 色々あってな。おまえのこと金づる扱いしちまって悪かった。俺は最低だし
 刺されても当然だと思うからお前の弟のことは全然恨んでねえからな」

美奈は祈るように最後まで耳を傾けた。あまり長い時間は降臨できぬ事情が
あるとのことで、達也は一通りの用件を伝えると消えてゆく。

美奈も言葉の限りを尽くして彼への愛を語るが、
果たして十分に理解されたか不安になる。
なんとも心が満たされた一方でむなしさも残る。
美奈は彼が降臨した場所へ布団を敷く。
夢で再会できぬ者かと夢想しまぶたを閉じる。

それから達也の霊は、数か月に一度の頻度でそこへ現れた。
美奈のみならず、七味の部屋にも出るらしい。
七味は愛する甥とのただれた関係を叱られたとか。

美奈が30を過ぎる頃には達也の霊は現れなくなる。

達郎は高校を卒業後、バイト先で将来の伴侶と知り合う。
七味も職場恋愛の果てに結婚し一児の母となる。
叔母と甥の夜の関係はとうに終わりを告げていた。
あれは一時の過ちであると懐かしむ余裕すらあり。

時はさらに過ぎ、美香は白髪の生えたおばあさんになる。
一度はやせたが再び食べ過ぎの生活を始めたことがたたり
肥満による動脈硬化で倒れる。入院してわずか三日で亡くなる。

美奈の死を、愛息子とその娘(孫娘)が大いに涙する。
息子の伴侶も自分の母のことのように思い涙した。

美奈の霊魂は病室を浮遊して家族を見下ろす。
不幸にも亡くなられた旦那の子孫が、
こうして自分の遺体を見て悲しむ姿といったら、
美奈の晩成は幸せに尽きる。

幼き学童の頃、何に替えても旦那が宿した子を
産むと決意して実に55年が経過する。その子孫は今こうして
確かに生を繋いでいる。暖かい涙がこぼれる。

三途の川の向こう側で若き日の旦那が手を振る。
美奈も制服に着替えてから向かうことにする
再開するのに55年も掛けたから、
まず何から話そうかと思い頬が緩む。


                    終わり


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