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作品名:学校で大人気の男子に告白されたのだけど…… 作者:なおちー

第6回   「人の死を軽々しく扱うものではない」美奈が弟者の頭を叩く。 
術後の達也は当面の間眠り続けた。その時期実に2週間にも及ぶ。
まさかこのまま目を覚まさぬのかと、妹者が瞳に涙をにじませる。

達也の見舞い客に森由紀の姿有り。この女、本名を森雪と申すが、
これでは宇宙戦艦ヤマトのヒロインと同姓同名となるため偽名を使う。

「ううん。ここはどこだ? 家じゃねえようだが」

達也覚醒す。達也の見舞いは妹者、美奈、由紀が順番(ロウテイション)
を組み行う。この日の当番は由紀だが、心配のあまり妹者も同行した。

「兄ちゃん!!」
「七味……か。どうやらここはあの世じゃないらしいな」
「達也くぅん!! ずっと心配してたのよ!!」
「由紀さん……あなたもそばにいてくれたんですね」

退院後の達也、車いすの生活を余儀なくされる。
高校は回復するまで休学扱いとし、自宅にて宿題に励む毎日。
半年もすると学業に回復し、いよいよ迎えた美奈の出産に立ち会う。
美奈はいと可愛らしき男の子を出産する。

二人は両親の了承のもと婚姻を結び、美奈が満16歳を迎えると同時に
式を挙げることに決まる。かつての恋敵、森由紀もいさぎよく負けを認め
祝福の拍手を送る。妹者も二人の旅立ちを笑顔で迎えた。



ーーーーただ今の内容は、美奈の妄想であり偽りである。


「23時54分。息を引き取りました」

男性の医師が遺族に首を垂れる。

床へ座り込み嗚咽する達也の母者。妹者も同じようにしていた。
森由紀は奇声を発し壁を叩く。美奈は虚空を見つめ、だらりと口を開ける。

達也の死因は、胸を深く差されたことによる多臓器不全である。
心臓の近くを刀が貫通したことにより出血が止まらないため
一夜を超えることができずに終わる。

「そういえば、達也様を殺したのはわたくしの弟でしたね」

美奈は弟者を懲らしめる決意を固める。どのやうな経緯にしろ
彼の殺害に直接加担した弟の罪は許されるものではなく
復讐の対象とするには十分すぎる。

「あ、姉上ええええ!!」

屋敷の地下室に弟を閉じ込める。江戸時代より使われし牢獄なり。
座敷の外を格子が囲い脱走を防ぐ。

美奈は愛する旦那を奪いし自らの弟を懲らしめるため、
どうしようかと知恵を絞る。美奈は腕力に劣りまた暴力の経験なし。
そこで学園の理科の実験で習う薬品の調合に頼る。

家中にある薬品を探し集め、硫酸を生成せり。
大きな樽の中を硫酸でいっぱいにする。これを風呂代わりとして
弟を入れてしまうことにする。家族とはいえ弟を殺し罪に問われるなら
その証拠を消し去ることに決める。

「姉者ああ!! 本気でやるつもりなのですか!!」

美奈の決意は固く弟を亡き者にすることに躊躇なし。

「何をするつもりなの!? やめなさい!!」

ここへ宇宙戦艦ヤマトの美形ヒロインがさっそうと登場せり。
オレンジ色のセミロングの髪の毛。毛先が愉快にはねて愛嬌あり。
地下室のランプに照らされてもその美貌がいささかも衰えることなし。

「きっと先生様もご賛同してくださると期待しておりました」
「人を殺したって達也君が生き返るわけじゃないのよ!!」

大粒の涙が美奈の足元を濡らした。
達也はこの世におらず。その事実を認めるだけで涙があふれる。
子を宿したお腹が大きくなりつつある。彼と再会できる方法ありければ、
自らの財産を全て費やしても惜しくはない。

「私だって彼のことが好きだった!!」

「何を申しますか。私の彼に対する愛は地球の重力より重いのですよ。
 今さら止めようなどと思わぬことです。わたくしは弟を殺すことでしか
 自らの気分を晴らすこと叶わぬのです」

「あなたの弟だって、お姉ちゃんのことが大好きだったのよ!!
 お姉ちゃんを奪われたくなかったから達也君を殺してしまったのよ!!」

「嫉妬か。弟に好かれて嫌な気持ちはせぬ」

「私たちは生きているのよ!! 生きている人を大切にして
 生きるべきじゃなくて? 達也君は悔しいけど死んでしまった!!
 あなたの弟は殺人罪で警察から逮捕状が出ている!!
 あなたが罰を下さなくても司法が裁いてくれるのよ!!」

こつん、と小太刀が床に落ちる。
最後は自分の胸を突こうと隠しておいた刃物だ。
美奈は教師の言うことがもっともだと考えるに至る。

自分は確かに生きている。そして生まれてくる子供もいる。
母親になる自分が死ぬわけにいくものか。
自らとその子孫には令和の世界を生きる権利がある。

美奈は声をあげて泣く。その顔を由紀は豊満なる胸で抱く。
かつて達也を巡り対立した二人が和解した瞬間である。

しかし不幸は続く。

8月某日。達也の母上。自刃。
自宅の風呂場で手首を切り裂く。
セミの鳴き声やかましく蒸し暑き日である。

息子の死により「うつ」が加速するも、自民党の時世の自治体は
生活保護の申請を許さず「自己責任」で切り捨てる。
求職活動にことごとく失敗し焦る日々。娘の励ましも
大した効果はなく、ついに人生に見切りをつけ息子の後を追う。

天涯孤独の身となる七味。
母方の両親はすでに他界。頼れるものもなく児童施設の
入居を行政に斡旋されるも美奈が救いの手を差し伸べる。

「本日から七味はわたくしの家族の一員となるのです。
 あなたは達也様の血を受け継ぐ妹者。わたくしにも大切な存在となる。
 わたくしのお腹から生まれてくる子供の世話をしてくださいな」

その日から七味は美奈をお姉さまと呼び慕う。同級生だが気にしない。
残暑厳しい九月に出産する。美奈の妄想と同じく男の子である。
元気に泣く男の子の顔は、亡き父上によく似ていたので母親の目に涙が浮かぶ。
出産に立ち会う妹者も声を上げて感動する。

子の名を「達郎」と名付ける。古風な名前だと妹者はからかいつつも、
たまらなく幸せそうだ。その日のうちに駆け付けた森由紀も
大粒の涙を流しながら祝福の言葉をかける。嘘偽りのない祝福である。

美奈の弟者スゴロクは、満18歳を迎えるまで栃木県の児童厚生施設で生活を送る。
未成年は無期懲役の刑にならず。成人男子であれば
殺人罪に刑事罰の最高刑が適用されるのは世の常であるが。

美奈ら女三人はスゴロクなど初めからこの世に存在しないものとして
扱うことにした。新見家一族も同様の認識で、面会の機会ありけりとも、
母上でさえ一切の面会を拒否する。こうしてスゴロクは一族から消し去られた。




それから時が過ぎ、息子の達郎はすくすくと育つ。
10歳の誕生日を迎える。

美奈はこの時24歳と実に若々しい。
成人を機にデンマーク体操を繰り返し行い、
余分な脂肪をそぎ落とすことに成功する。
丁寧に化粧を施したその顔は、かつての平安顔を過去のものとし
十分に美しいと評されるまでになる。

22畳の和室に正座する母と息子。
膝の高さに丸テイブルを置き、切り分けたケーキを食する。
ふんだんに盛られた生クリームと栃木産のイチゴが美味である。
息子はどんどん食べる。美奈は日本茶の湯呑を持ち微笑む。

「時に母上よ。叔母さまがおらぬようです」

「お前は実に七味のことを好むわね」

「はい。おばさまは大変に美しい方ですから」

成人後の七味はギャル風の外見をする。毛髪を濃い茶色に染め、
衣服においては肌の露出を好む。息子とて決して好みではないだろうが、
父親の肉親ということで慕うのだと美奈は思う。
しかし現実は逆で清楚可憐なる母上のもとで育つ達郎は、
ギャルのおばさまが新鮮であり好ましく思うのだ。

「来たわよ美奈ちゃん」
「先生様」
「先生様はやめてちょうだい。今の私は会社の事務員なんだから」

36歳の森由紀である。10年間で離婚を二度も経験し男に懲りた。
森由紀は年を重ね熟年の色気が増し、未だに職場で花となる。
世にはこのように美しき女人がいるのだと美奈が嫉妬を覚える。

多少に尻にたるみがあるものの、165を超える長身に相応のスタイルが維持される。
しっかりと化粧されていて涼しげな眼元、厚みのある唇がなんとも女らしい。
教職を辞してから職を転々とし、現在は貿易会社の事務を担当する。

「誕生日おめでとう達郎君」
「由紀様。光栄でございます」

子のおらぬ由紀には達郎が我が子の代わりとなる。
誕生日の祝いにとウルトラマンの人形が満載された袋を広げる。
達郎は感極まり由紀の胸に飛び込む。色気あふれる由紀に頭を撫でられ
顔がにやける。不快な顔をする母に気づく様子無し。

その日の夜。残業を終えて帰宅する七味。

達郎にありたけの祝福の言葉をささげプレゼントを渡す。
ウルトラマンのブルーレイボックスなり。
飛び上がり喜ぶ達郎。愛しそうに甥を見つめる七味。
実に微笑ましい光景である。

「大切な話があるんだけど」

と叔母が達郎を夜に自室に誘う。
母上に内密にするよう言い含めた。

「たっちゃん。あなたすごく可愛いわ。学校で女の子にもてるでしょ?」

「それほどでもありませぬ。自分はごく普通の男子と思います」

「またまた。バレンタインのたびに山のようにチョコもらってるの
 知ってるよ。女にモテるところも兄貴とそっくりじゃん。
 兄貴が生きてた頃はストーカーがしつこくてさ…」

「それで叔母様。お話というのは?」

「ああ、ごめんね。一人で話し続けちゃって。
 別に特別なことは何もないんだ。最近仕事で忙しくて
 たっくんと二人気になれることなかったじゃん?
 だからたまには二人きりでお話でもしたいなって」

ベッドに腰かける両者。腰を上げ、にわかに距離を詰める七味。
肩がぶつかる。大人の化粧の匂いが漂う。

「おばさまがこんなに近くにいるとドキドキします」

「今夜は叔母さまって言わないの。七味って呼んでいいのよ?」

「なんと。それはどのような意味でおっしゃってるのか」

「こんな意味だよ」

達郎は生まれて初めて唇を奪われ気絶しそうになる。
幼き頃から憧れていた叔母に求められている。
その事実に頬を赤く染める。

「ふふ。たっくんも男の子なんだね。ここが大きくなってるよー?」
「あ……なんだかおかしな気分に」
「お姉さんの胸、大きいんだよ。触りたくない?」

〜〜〜〜例によって中略〜〜〜〜〜〜〜

七味は夜遅くまでベッドの上で乱れた。
相手が児童なため挿入こそしないが満足した。
聖なる誕生日を性なる目覚めとして達郎が記憶する。

やがて二人は夜の逢瀬を繰り返す。
美奈に悟られぬよう神経を十分に払う。
それでも家庭の出来事の故ひと月も経たぬうちに美奈の知るところとなる。


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