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作品名:学校で大人気の男子に告白されたのだけど…… 作者:なおちー

第4回   「粛清せねばならぬ」と達也に遊ばれた少女が嘆く。
夕方になり売り子のシフトが終了する。
美奈と共に近所の家族食堂(ファミリィレストラン)で
食事をとりつつ達也について語り合う。

「美奈ちゃんに手伝ってほしい。一緒にあいつを粛正しよ?」
「たんなる出来心ではなく真に粛清したいと?」
「あいつを殺さないと気が済まないくらいに本気だよ!!」

その女、名を岩崎キリンと申した。なんとも不思議な名前と
美奈の記憶に確かに刻まれる。キリンは洗練されたる美しい顔を
実に醜悪にゆがめ、1時間もの時間、飽きもせず達也の恨み言を並べる。

いわく、達也はサッカー部のマネージャーである「キリン」のみならず、
クラスの女子にも手を出す始末。入学して未だ
ひと月も経たぬうちに怒涛の勢いである。

美奈の記憶するところ、中学の学童時代の達也とは別人となりけり。
かつてストオカアなる被害にあい、女人を避ける彼の心境に
変化が生じたことに起因するのではないかと問う。

「高校ではすごいチャラ男で有名人になってるんだよ。
 悪い噂が学園中に広がってすごいんだから。
 あいつが中学の時は女嫌いだったなんて意外ね」

「世では高校デビュウなる風習を耳にします。
 高校に進学したことで自らの信条を
 すっかり変えてしまわれたのではないですか」

「あいつの過去がどうであれ許せないことに変わりないよ。
 ねえこのあと時間空いてる? 達也の家がここの近くなんだけど
 よかったら一緒に行ってみない?」

まさか、いよいよ粛清をなさるおつもりかと問うと、彼と話し合いを
したいからだと言う。美奈は思うこと多々ありけりとも、
達也の生家を見たい心境から賛同す。

「ごめんくださーい。誰かいますかー?」キリンが声を張る。

達也の家、老朽化の激しい団地にて予備鈴(チャイム)が故障せり。
それにしても広いおうちだと感心する美奈をキリンがいぶかしむ。
訳を聞くと、四階建ての団地全体が達也の所有と勘違いせり。
世間知らずの娘ここに極まれり。キリンが丁寧にも達也の住む場所は
この玄関の先の部分のみと説明すると仰天し、キリンを憤慨させた。

眠たい目をこすりながら妹者が玄関先に現る。

「誰ですか。今昼寝してたんですけど」

「突然押しかけちゃってごめん。あなたは達也の妹?」

「そうですけど」

「私たちは達也の知り合いです。達也はいますか?」

「まだ帰ってきてないですよ。兄は高校に入ってからバイトを
 始めたらしくて夜8時までは家に帰ってきませんよ」

偽りの香りがすると美奈は悟る。キリンの背後からひょいと顔を出す。

「いずこで働いてらっしゃるのか」
「むむっ……あ、あんた、まさか新見さん?」
「いかにも。わたくしは新見美奈なり」

達也の妹者、名を七味(しちみ)と言ふ。
名の表す通り辛辣なる言葉を使うものなり。
七味と美奈が平和学園中等部で学年を同じにすることは
チヤプタア2付近で述べた通りである。

「あんたがうちの兄のことを知りたがる理由は?
 あんた、兄に振られたんじゃないの?」

「確かに振られましたが、未だ彼に対し未練あり。
 わが疑問の最たるところは、なにゆえ彼がチャラ男なる
 身分に身を落としてしまったのか。その理由を明らかにしませんと、
 このままでは死のうにもこの世に未練が残ってしまうというもの」

「ぎゃはははっ、なにその平安時代みたいなしゃべりかたっww
 うわさで聞いてた通りだwwwwwチャラ男なる身分wwww
 最高に楽しいwwwまじうけるwww腹痛いwwwwww」

七味はそれはもう楽しそうに笑い転げる。
美奈には可笑しなところなど何もなく不快だが、
七味が笑い終わるまで静かに待つ。

「あーやばいっ。こんなに笑ったの久しぶりだよwww
 あんたのこと気に入っちゃった。おかめ納豆みたいな
 ブサイクのくせに、まだうちの兄貴に未練があるんだ。
 うんうん。今日は暇だから二人を案内してあげるよ。
 兄貴のバイト先にね」

あたしについて来いよカスども。
乱暴な物言いに、年長者のキリンは拳を握りしめる。
世俗にまみれた若人の言うことですからと、達観した美奈がいさめる。
それにしてもオカメ納豆みたいなブサイクはどうしても心に残る。

「二人とも兄貴の元カノだったんだ?
 あたしさ、てっきり二人が兄貴の新しいストーカーなんだと思って
 実はびびってたんだよね。玄関開けたら変な奴らがプレゼント
 持ってきたりとか中学の時まじであったからさ。しかも
 プレゼントの中に使用済み下着とか入ってんのよ。
 血がついてたしwwマジキチじゃねwww?」

この娘、乱雑に伸ばされた髪を腰まで垂らす。
白いパンツルックで上はキャミソウルのみを羽織る。
笑う時には口を大きく開ける。
馴れ馴れしい口調も手伝い、その印象は粗暴の一言に尽きる。

やはり兄者と違い美形の血は引いてないのか顔は十人並みであり、
特に描写すべきことが見当たらず。

「あそこが兄貴が働いてるとこだよ」

奇想天外なる店の名前であった。
看板に書き連ねる名は「出張ホスト」なり。

唖然とするキリン。
令和にて平安の世を生きる美奈はホストなる現代語の意味を知らぬ。
さてここは自分の出番だと楽しげに語るのは七味である。

「女をもてなすサービスをする仕事だよ」
「具体的にはどのようなことを?」
「偽の彼氏彼女の関係になったり愛人になったりすること!!」

汚らわしい、水の仕事なのだと説明されてしまい衝撃が走る。
気を失うまいと美奈は必至で足を踏みこむ。
学童の小遣い稼ぎにかような仕事が存在するとは世間は広いものだ。

「中に入ってみようよ」とキリン。
「中には兄貴いないと思うけど」
「どうして?」

「出張ホストだからだよ。
 この時間は出先でおばさん相手にデートしてるはずだよ」

「おばさん相手って、どういうこと?」

「兄貴若いじゃん? 兄貴の客になるのはあたしらの母親くらいの
 年のおばさんばかりなんだよ。40台がメインかな。旦那に飽きて
 若いエキスに飢えてる感じの連中よ。イケメンにちょっと真顔で
 口説かれるとすぐお小遣い上げちゃうんだよね」

「それってセレブ的な人が相手の?」

「ぴんぽーん。説明する前なのによくわかったね。
 兄貴のお客さんは金持ちの専業主婦ばっかりだよ。
 都会のタワマンまで遊びに行って、夕飯を一緒に食べたりして
 旦那が帰宅する前にお仕事を終えるんだ。お仕事ってのは、
 わざわざあたしから言わなくても察してくれるよね」

達也は出張ホストの仕事に手ごたえを感じたことから、
あれだけ熱を上げていた蹴球部を退部するに至る。

三人はどうせならここで兄者の帰りを待つと決め、
小腹が減るためと近代的よろず屋に邪魔をする七味。美奈も続く。
さきほど食堂で三人前も平らげても食欲が衰えぬ様子に
呆れはてるキリン。甘味は別腹なのだと
美奈は抱えきれぬほどのスイーツを手にして戻る。

街路樹のもとに街灯に照らされるベンチあり。
ここで三人は時が過ぎるのを待つ。
七味はから揚げをいかにも美味しそうに食べながら、
あれこれと話してかしましい。

夜の8時を過ぎ駅から降りる人の列に達也の姿あり。
ホストの事務所へと向かう最中、街路樹のベンチに座る三人の娘を見る。

何事もないように立ち去ろうとする達也にキリンが足払いで転倒させる。

「いってぇ。しつこい奴だな」

「何無視しようとしてんのよ。この卑怯者!!」

「おまえは何度言ったら分かるんだ。俺はお前の言う通り卑怯者だ。
 人間のクズだ。俺みたいなクズと関わったところでおまえに
 何のメリットがある? なにもねえだろ。ならほっとけ!!」

「私はね、あんたがチャラチャラしてるのが気に入らないのよ!!
 そこにいる子からあんたの昔のことを聞かされた!! 
 中学の時は女性恐怖症になってたそうじゃない!! 
 それなのになんで高校生になってからホストなんてやってんの!!
 サッカー部のことはどうするつもりなの!!」

「……部長には退部届を出したよ。俺は金が必要なんだ。
 最近おふくろが鬱になって休職しちまってな、
 家の金がやべえ状況になってるんだよ」

いわく、達也は母子家庭なり。父上は妹者の出産後、
妻に何を言い残すこともなく行方をくらます。
おそらく新しい妻を見つけたのだと想像される。

幼い子供を育て上げた母上の苦労は並のものではなく、その母上は
介護職員として長年働くも、ついに心労の極みから心の病を発症せり。
蹴球に才能を見出した息子を、無理して私立の平和学園に入学させ、
華々しい成果を飾る。母上には息子の活躍こそが生きる希望となりけり。

息子が高校へと進学するとますます金の面での苦労が増えてしまい、
仕事の量を増やそうとダブルワアクに手を出したところで
睡眠時間がむやみに減り現在の病気に至る。

「俺の学費だって今は自分で稼がなくちゃならねえ。
 七味はまだ義務教育だけらいいけど、高校に進学したら
 こっちの学費もかかるんだ。俺はサッカーで遊んでる
 場合じゃねえから辞めた。文句あるか?」

「そ、そうだったんだ……」左はキリン

「俺はどうやら無駄に女にモテるみたいだ。
 自分では認めたくないが事実だからしょうがねえ。
 だったらこの事実を別のことに生かしたら金儲けが
 できるんじゃねえかって思ってな。部活の先輩から…
 ああ、サッカー部じゃなくてラグビー部の先輩なんだが、
 その人にホストの仕事を紹介してもらったんだよ」

「その仕事はお金になるの?」

「すっげえ稼げるぞ。俺の財布見るか?
 さっき化粧が濃いババアと少し寝そべってキスしただけで
 こんなにもらえたんだぞ。ほらよ」

万札が5枚もある。
これは達也の一日の売り上げとしては最高を記録した。
富裕層を相手にする商いの特権である。
高校生の学童には過剰すぎる金額である。

「そういうことだから」と妹者。

「うちの兄貴のことに口出ししないでくれる?
 今うちの家では兄貴が稼ぎ頭になってくれてるんだから、
 これは家庭の問題。家庭の問題よ。わかる?
 あんたら学校の女がどうこう言う権利ないっしょ」

「うんいいよ。なんかもう疲れちゃった。
 どうせ達也とはクラスも違うし、廊下ですれ違っても
 無視してくれてかまわないから。それじゃあ、さようなら」

キリンは背を向け歩き出す。
振り返ることはなく事実上の今生の別れとなる。

「なあ美奈」

「は、はい」

「あれだけこっぴどく振られたのによく俺の前に現れたな。
 おまえは帰らなくていいのか?」

「達也様とお話をするためにここに来ましたゆえ」

「その話し方まじうぜー。普通に話せねえの?
 で、何が話したいって?」

「わたくしのお腹に宿る子供のことです」

「またその話か。おろせって言ったの覚えてねえのか」

「わたくしは生むつもりなのです。ご縁がありこの世に授かりし
 生命なのですから粗末にするわけにいきませぬ」

「なら勝手に産めよ。俺は認知しねえぞ。
 育てるのもおまえがやれよな」

「なにゆえ……そのように冷たいことをおっしゃるのですか。
 わたくしは今でも変わらずあなたをお慕い申しておりますのに」

この女メンヘラかよ、めんどくせーと妹者が愚痴る。
妹者としては兄の仕事の邪魔をする女は家計を考えるうえでも邪魔者と映る。
売り出し中のホストが実は子持ちの父親では世間体が大変に悪い。

時代遅れの一途な恋愛を好む様は、令和を生きる七味には
滑稽で仕方がない。両名の感性に700年の差が
あるのだからそれも致し方ないこと。

妹者は打算せり。
同学年の女童(めのわらわ)生まれし時より平安貴族の生活を送る。
家が金持ちであるから、ここはひとつ、むしろ交際を再開して
この女から金をせびる方が、出張ホストより効率が良い。

上の内容を兄者に耳打ちすると「確かに」と手ごたえあり。

「ごめんな美奈。今言ったのは全部嘘だ」
「なんと」
「やっぱ子供を認知しないのは人として最低だ」

優しく美奈を抱きしめ耳元でささやく姿はホストそのもの。
仕事を通じ洗練された彼の仕草は、一度抱きしめた女すら
再び虜にすることなど赤子の手をひねるより容易いとした。

「またそのたくましい腕で抱いていただける日が来るとは。
 達也様はわたくしの子供を認知していただけるのですね?」

「ああ、嘘じゃねえよ。子供は無事に産んでくれ。
 ただ俺は金がちょっとな」

「お金ならわたくしの家から出させてもらいますゆえ。
 御心配には及びませぬ」

「それは助かるよ」

「達也様とはいずれ婚姻を結ぶわけでございますから、
 当然のことです。できれば達也様のお小遣い稼ぎも
 辞めていただければと思うのですが」

「だから金がねえんだって」

「お金ならわたくしが」

と言わしめたので妹者がこそりとガッツポウズをする。

お金を工面するうえで、美奈は様々な条件を出した。
ホストの仕事を直ちに辞めること。そしてサッカー部に復帰すること。
美奈以外の女との不要な接触を避けること。美奈がさみしくないように
定期的に逢引(デイト)をすること。出産には必ず立ち会うこと。
などなど。

「さらに念を押すために」と、美奈は布施家の母者に挨拶をしにゆく。

おい待てよブスと言いたいのを何とか堪える達也。
妹者は成り行きに任せる姿勢を見せる。

「お初にお目にかかります」
「え……誰よあんた」

奥の寝室で横たわる母者に首を垂れる。母者は娘と同じ年の
娘から金銭の援助の件を出され恥に思い気分を害すが、
どうやら新見家が500年も続く名家だと知ると欲に負けてしまう。

母者は息子と新見美奈の婚姻を正式に認め念書までした。
念書は民事裁判で有効な証拠となりけり。達也は大いに焦る。

「さあさあ。お母様の同意も得られたことですから」

と美奈に言われ、もはや頷くほかなく、果たして仮なのか本当なのか
あいまいである恋愛関係がここに生起したのであった。


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