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作品名:学校で大人気の男子に告白されたのだけど…… 作者:なおちー

第3回   「なりませぬぞ!!」弟者は姉の結婚に異議を唱える。
時が過ぎ春休みとなる。学童らにとっては心やすめの時だ。
この春休みが終わるころには桜が舞い散る。

あれから達也は高校の指定校推薦に合格する。
一月の中頃であった。中学時の蹴球部での好成績により
県内で蹴球の強豪校として知られる高校へと進学を決めた。

美奈は彼の球を蹴る姿を拝見したことがあるが、
それはもう立派なものだった。ゴールキーパーという役割は、
敵から一度奪ったボールをこう、ぽぉんと、グランドの中央へと
蹴り返すのだが、躍動感あふれる動作と力強さに惚れ惚れとしたものだ。

「姉者よ」

と弟が姉の部屋のふすまを開ける。年は11歳。名をスゴロクと言う。

「ならず者の子を宿したという話を父上から聞かされた。
 その話は真(まこと)か?」

「真である。なんじゃそなた、自分の姉上の結婚に不都合なことでもあるのか」

「結婚とな!? 姉者は結婚を考えてなさるのか?」

「うむ。倭国の法律では女子は齢16より婚姻を結ぶこと可能なり。
(※現在では改正された)
 あちら側の両親の説得には難儀しようが、わたくしはすでに心を固めておる」

「それではなにか? 姉者は、高等学校への進学を断念し中等学校を卒業ののち、
 直ちに夫婦(めおと)となることを望むと?」

「そうだ。わたくしは一刻も早くあの方と婚姻を結びたくてな」

「事を急ぎすぎではなかろうか。ここはひとつ高校までの学業を
 修めるべきではないのか? 父上や母上も姉者の
 優れた成績を好ましいと思うご様子であったゆえに」

「われは女人である。女人はやがて母となり子を宿す使命。
 子育てに必要のなき学業は過ぎたものと知る」

「なんと時代錯誤な考え方をされる方なのだ」

弟者はこの話にたいそう不満を抱く。
言葉をもってしても姉を説き伏せることに難儀し、
何を思ったか、畳の上をゴロゴロと転がり駄々をこねる。

「これ。弟者よ。暴れると茶がこぼれるではないか」

「認めぬぞ認めぬぞ。ワガハイは認めぬ。あの達也なる男は
 姉者にはふさわしくない。あの男が高校生になれば、
 いつか姉者のことなど忘れて他所の女とあいびきをするかもしれぬ」

上のように話す理由として嫉妬もある。
弟者は、幼き頃より母親代わりとして接してくれた姉のことに
深い親しみを感じている。両親は共働きで家を空けること常にて、
姉と弟の他には使用人の方々に囲まれ、この広すぎる屋敷で育つ。

彼の遊び相手は常に姉であり、いかなる時でも姉は共にいる。
そう信じた。その夢がたやすく壊され心中穏やかでいられず。

「スゴロクよ!! わたくしの夫となる殿方を悪く言うとは何事か!!」
「うわーん。僕はあんな奴、義理に兄だなんて絶対に認めないぞー」

弟者は前触れもなく現代風の言葉で話し廊下を駆ける。
バタバタと足音がやかましい。

「ふぅ」と美奈が腰を上げ、縁側から庭の木を眺める。
桜の木の枝にメジロらしき鳥ありけり。白きアイリングが愛らしい。
他にもスズメやヒヨドリあり。実に気持ちの良い風が吹く。
日差しの温かさもあり、いっそ縁側で昼寝でもしようかと考える。

「むむ……?」

正面から殺気を感じ、首をひねる。
肩の上を通過し、背後にある壁に刺さる、一つの矢。
矢文(やぶみ)であった。何者が放ったのか。
刺客は矢を放ち直ちに逃走したと思われる。

『これは不幸の手紙です。この手紙を読んだ人は必ず不幸になります。
 回避する方法は一つ。この手紙をあなたの知り合い7人に読ませてください』

実にたわいもない内容だったので、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ投げる。
内容は問題にあらず。殺意を持って矢が放たれたことが恐ろしい。
かつて美奈に暴行を加えた悪女の三人衆は中等学校を卒業している。
したがって新学期が始まれば、もはや学童としての接点無きにして、
恨まれる理由もないものと想像する。

弓を放つ曲者の正体とはいかに。
その理由はのちに判明する。

新学期が始まった。美奈は2年4組となる。
新しきクラスメイトらと談笑する。
美奈は決して美形と言えぬとも、でっぷりして愛嬌のある容姿をしており、
また教養に満ち口も大変に達者なことから、クラスの人気者となる。

春休みの間に達也とあいびきを重ね、彼の体をさらにくわしく
知りえたことからも、中学の学童とは思えぬほどの色香が存在し
一部の男子から定評を得るほどに至る。

最たる問題となるのは、子を産む時期である。
妊娠した時期から考え今年度の秋までに出産を迎えねばならず、
その間は学業に励めず休学の措置を取るべしとした。

「その年で出産? 世の中を舐めてるとしか思えないわ。
 教師として絶対に認めるわけにはいきませんよ。
 妊娠中絶の手術を受けに行きなさいよね!!」

森由紀教員は特に厳しい。
宇宙戦艦ヤマトに登場する森雪とは何もかも異なり心の狭き人物なり。

「今年もあなたの担任になったからには、全力で邪魔させてもらうわよ!!
 イスカンダル星ならともかくね、地球の女性はそんな簡単に
 妊娠しちゃいけない決まりなの!!」

「ならば先生殿も懐妊なさればよろしいのではないですか」

「ぐぬぬ……わ、私はまだ予定が先なのよ」

「女人の懐妊の時期は早ければ早いほどよろしいと、平安時代から
 言われておりました。わたくしの年で子を宿すこと当時では
 常とされており、20を過ぎても男を知らぬ生娘など、
 日本中を見渡しても存在しないとされておりましたが?」

この言葉に腹を立てた森教諭。直ちに宇宙戦艦ヤマトの主砲を
生意気が過ぎる小娘に命中させてやると脅しにかかる。
恋愛小説に宇宙戦艦など存在せず、文字通りただの脅しとなる。

そこで森教諭は、教頭室へと駆けこむ。
100万の札束を受け取った恩をついに忘れてしまうのだ。
そして教頭から激しく折檻されてしまう。

いわく、新見家は茨城県で名のあるヤクザの家系なり。
その歴史は500年を超える。かつてはその地方の城主に仕える身とされた。

美奈の父上はやくざの親玉であり母も極道の道に通ずる。
学園は美奈の出産に伴う休学を認めざるを得ない。
またすでに多額のワイロが支払われている。

森由紀は、この世の終わりが来たと泣きわめき、取るに足らぬ
中学生にすら劣る自らの運命を嘆いた。彼女の怒りの源泉となったのは
深き嫉妬の心であり、大人の年齢の自分より先に、
教え子が母親になる姿を見るのが大変に憎ましい。

また美奈の伴侶が、学園一のイケメンとして知られる達也だったことも
不満になる。なぜなら森由紀はいかに美人としても、それは宇宙戦艦大和で
働くようになる18の年齢を過ぎた頃の話で、彼女は学童時代はこれと言って
目立つような女子ではなく、イケメンの先輩に声をかけてもらえることもなく、
またそのことを今なお心残りとしていた。

吹き矢を使用したのは彼女である。
自分よりも女として劣等にあたる美奈が、むやみに
イケメンに好かれることに大いに嫉妬してのことである。

そこで森は英知を絞り、むしろイケメンと肌を重ねるきっかけを
考えればよいのではないかと思う。ことは成り行きだ。

「私も勇気を出して古代君に自分から迫ってみようかしら」

その日の夕方、森由紀のラインに信じられぬ文が送られる。

『今まで黙っててごめんな。俺には新しい恋人ができちゃったんだ。
 紹介するよ。アキラちゃんだ。職場で知り合って仲良くなったんだ』

森由紀は、直ちに電子文通の内容を消去する。送られてきた
浮気相手の写真画面には画面の上から拳を突き立てた。

美奈は我を失う担任の姿を失笑したものだが、
やがては哀れむようにもなり、世に男は星の数ほどいると
妙に大人びいたことを口にしてはまたしても森教諭を怒らせた。

やがて自らの身にも同じことが降りかかろうとは、
この時点では思いもよらぬことである。

『久しぶりだねミーナちゃん。返事が遅くてごめんね。
 直接会って話したいことがあるから公園まで来てくれないか?』

深刻な話ではあるまいと信じたミーナは、ピクニツクにおもむく
夫人の如き心境で夜の公園へはせ参じた。
団地に囲まれた小さき公園なり。
未来の夫はブランコに乗り表情を沈めている。

「実は俺と別れて欲しいんだ」

「なんと」

「君の家ってヤクザの家系なんだろ? 今まで知らなかったけど、
 君の担任の先生がわざわざ連絡をよこして教えてくれたよ。
 別に君のことが嫌いになったわけじゃないんだけど、
 俺にも将来があるし、さすがのヤクザのお嬢さんと結婚するのはちょっとね」

この男の本心は別にあり。ミーナに内緒で別の女と交際せり。
高校で知り合った女人にて、生まれ育ちもよく、父親はお菓子メーカーを
経営する社長。およそ女性として欠点の見つからぬほどの器。
彼女は蹴球部のマネージャーなりて、同じく一学年の達也と
懇意の関係に発展する。時は4月の末である。

「わたくしは、あなた様のお子様を宿しております」

「そんなの、おろしちまえよ。
 どうせ俺とお前は分かれるんだから生む必要なんかねえだろ」

矢が胸に刺さるかの如く、かような言葉を愛しの殿方から
聞かされるとは思わず、瞳から涙がこぼれ落ちる。

「なにゆえわたくしを捨てなさるのか。
 せめて理由をお聞かせ願いたいのです」

「そうだな。まずはその口調とか。最初は新鮮だったけど、令和の時代に
 平安貴族っぽいしゃべりかたとか有りえねえわ。時代劇の芝居を
 やってんじゃねえんだぞ。あとはその体系かな。おまえよく食べるし
 前より太ったんじゃねえか? やっぱデブはすぐ飽きるわ」

もはや言葉を交わすのも限界に達し、美奈は駆けだした。

それからというもの、美奈は学校に行くことなく自宅の布団にとどまり、
さめざめと泣く日々が続く。事情を知った父上は悪鬼のごとく激高し、ついには
娘を傷物にした達也を亡き者にするとまで言い出す始末。
母上に至っては、達也をコンクリで固めてドラム缶に押し込む案を口にする。
美奈は両親の考えをいずれも否定し、彼に一切の手出しをするのは無用とした。

弟者だけは、ひとまず婚約が破談になることで心を落ち着かせていた。

美奈は学業をすっかり放棄し、三か月もの時を自宅にて過ごす。
いまだ中絶手術を受けることなく、大好きな甘味に囲まれて、
それをむしゃむしゃと食べる日々。さすがに運動不足がたたり、
顔のニキビが増える。また太ももと尻を中心に肉が付く。

「姉者よ。ワガハイとウオゥキングなるダイエツトに励むべきではないか。
 それ。吾輩が先を行く故、姉故は後ろから着いてまいれ」

たわむれも悪くないかと美奈は重い腰を上げる。
外の道を歩いてみると、これが思いのほか楽しく癖になる。
広大なる田園が左右に広がり、この歩道の行く手を邪魔する者なし。

姉たる自分が弟の後ろを歩くなど、多少滑稽に感じる。
やがて姉が散歩を楽しんでいる様子を確認すると、
照れくさそうに弟者は姉の横に並び、談笑しながら歩く。

自宅から実に2キロも歩くと、近代的よろず屋(コンビニ)が見える。
このコンビニは、中学一年の時に美奈が悪女らに暴行された現場なりて、
嫌な思い出を振り払うように頭を左右に振る。

弟者は小腹がすいたので甘味でもいかがと入店を促す。
美奈も空腹を我慢できず電動式引き戸をくぐる。

よろず屋は、夏も冬も関係なくエアコンディショナアにて
快適な温度が維持され店内に陳列される商品の雑多なこと。
書籍だけにあらず文具から日用雑貨など実に幅広い。

その中でもスイーツコーナーなる甘味処の棚は、
美奈のお気に入りである。さて。本日はシュークリームを
頂戴しようかとカゴに商品を入れていく。

「あんたは、すぐ言い訳ばかりして、いい加減にしてよ!!」
「おめーはうっせんだよ!! 店先なんだから静かにしてくれよ!!」

レジスタの目前にて、いさかい発生せり。
どうやら若き男女の様子。
片方は高校の制服に身を包む達也である。
もう一方は美奈の知らぬ女人。これは誰が見ても
その顔に目を奪われずにはいられぬほどの美しさである。

美奈と違いスタイルに優れており、コンビニの売り子なのか、
近代的なデザインの前掛け(エプロン)を着こなす。
長い黒髪を後ろで一つにまとめ、現在は達也と店先にも
関わらず言い争いをしている。

「なんですぐ他の女の子と仲良くするの!?
 私のこと遊びだったなら初めからそう言ってよ!!」

「ミカコと話していたのは、学校の成績のことだよ。
 お前が考えてるようなことじゃねえっつってんだろ」

「嘘よ!! 駅のホームで腕を組んで親しそうにしてたじゃない!!
 浮気よ!! どう考えても浮気よ!!」

達也は強引に話を切り上げて店を去る。
売り子の美人は、もはや仕事どころではなく、奥から出てきた
店主らしき夫人が気の毒そうに声をかけていた。

美奈もまた彼女に声をかけた。

「まさか、あなたも達也の被害者なの?」

その女の視線には侮蔑も含まれていた。美奈がこの三か月で
一層肥えたことで、女の美貌を損ねたためだ。中等学校の
学童にて、目鼻立ちも整っておらぬ娘まで妊娠させていたとは
驚天動地のことであろう。

「あの野郎……絶対に許せないわ。
 絶対に痛め目見せてやる!!」

聞けば、この女も達也と体の関係を持つにいたるが、その後
すぐに別れ話を持ちかけられた。達也は一度床を共にした女を
すぐさま飽きてしまう傾向にあり。

寝るのが目的であり愛情など初めから存在しないのだと知り、
美奈は悔しさに耐えきれず涙がこぼれる。かつて保健室にて
彼が真摯に語る内容は、実のところ偽りであつたのか。


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