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作品名:学校で大人気の男子に告白されたのだけど…… 作者:なおちー

第1回   校舎裏に呼び出され「好きだ」と言われてしまい……
美奈が最初に思ったのは、どうして自分が?ということだった。
美奈の学校のサッカー部で有名な人だってことは
知っていたが、学年が違うのだ。とうぜん話をしたことがない。

達也は三年生だから、秋のこの時期は受験を控えている。普通に考えたら
恋愛どころではないだろう。まして学校でアイドル的な存在とされる彼が、
一年生の女の子に告白するなんて普通じゃない。

彼の顔は確かに整っている。野性味を感じさせる目鼻立ち。
日に焼けた肌。肩幅が広く、がっしりとした体つき。
前髪をワックスで固めてオデコを出している。

「あのさ。すぐにじゃなくていいけど……返事、待ってるから」

このサッカー部のイケメンは、告白を済ませると
校舎裏から走って去っていった。
美奈は、13歳になっても一度も人を好きになったことがない。
誰もが通ると言われる初恋の経験もしたことがない。

だから急に呼び出されて好きだと言われても返事に困ってしまう。
それどころか……。

「なるほど。罰ゲームか」と思うのは当然だった。

すぐに茂みに隠れた男子の先輩たちが、クスクス笑い始めるのだろう。
もしくは、「どっきり成功」のプラカードを出てくるのかもしれない。

美奈は、自分を落ち着かせるため深呼吸しながら、どっきりが
明かされるのを待った。10分待ったが何も起きなかった。

「君、そこで何してるんだ。もうすぐ完全下校時間になるんだぞ」
「……はい。分かりました。教頭先生。今教教室までカバンを取りに来ますから」

「私立平和中学」の教頭先生は強面で有名だった。
噂によると元ヤクザ。言うことを聞かない思春期の男子達を
片手でちぎっては投げ、ちぎってはぶっ飛ばし、病院送りにしたらしい。
今どきの教師にしては珍しく、女子相手でも手は出さないにしても
口ではかなり厳しく説教するとの話だ。

美奈は、先輩から手渡された恋文をスカートのポケットにしまい、
帰りの支度をした。


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「ふむふむ。コンビニで買ったお菓子は大変に美味である。もぐもぐ」

自宅に着いた美奈は、とりあえず甘味に頼り落ち着くことにした。
今日学校で起きたことは、きっと何かの間違いなのだ。

座敷にしいた座布団に正座。膝前に置いた小さな円形テーブル。
その上に、コンビニで買ってきたスイーツを並べる。
カスタードプリン。ベルギーワッフル。百円均一のチョコチップ。
彼女は甘いものには目がなく、また親から無制限にお小遣いを
もらえるため、学校帰りにコンビニに寄るのが好きだった。

「お茶のお替りをいただこうかしら」

急須に入れておいた日本茶は空になってしまった。
一度、台所にある電気ポットでお湯を入れようと、重い腰を上げた時だった。
ガラッ、とふすまが開かれる。縁側に頭を下げた召使の女がそこにいた。

「まあまあミーナさま。また学校帰りにスナック菓子を食べてらっしゃる。
 あと一時間もしないうちに夕食なのですよ。食事前に甘いものを食べると
 お夕飯が入らなくなるし、栄養バランスが悪くなると、うんぬん……」

「説教うざし。いとうざし。私は甘いものがないと生きてゆけぬ。
 人の趣味を邪魔するでないと度々言っておるのだ。
 それより何用でこの部屋に参ったので?」

「ミーナ様のご学友を名乗る女性の方々が玄関先で待っておられます。
 どうも制服のバッチからして三学年の生徒さん方のようですが、
 いかがなされますか?」

三年生の友達なんていたかな? といぶかしむが、
思い当たる節がないわけでもない。召使いに命じて
ここで彼女たちを返してしまうこともできるが、
そんなことをしたら明日からの学校生活に不安が生じる。

「……行く」
「そうですか。ではこちらへ」

ミーナとは彼女の家庭内の「あだ名」だ。
ミーナの家はいわゆる、NHKの大河ドラマに出てくるタイプの
屋敷であり、いかにも平安貴族が住んでそうな風である。

現にミーナの召物も「平安貴族の着物」でググればでてくる、あの
着物である。ミコさんタイプの白(上着)と朱(スカート)の着物をインナーに、
真っ赤な羽織をかぶる。この赤が見事で、細かく描かれた花柄がミーナのお気に入りだった。

さすがに令和の時代にこの格好で人を出迎えるわけにもいかず、
適当な私服に着替える。彼女の私服は「ファッションセンターしまむら」で
買った激安品だが、一方で着物の価値は40万を超えた。

「こんにちわ。ニイミさん。私たち友達だよね?」
「ニーミさぁぁん? きょうはお話したいことがあったのよ」
「ここじゃ……ちょっとあれだからさ、コンビニまで行こうか?」

彼女を玄関先で待っていたのは、
恐るべきことにイケメン達也のファンの先輩たちだった。
嫉妬・する子、モブ・モブ子、ヤン・デレ美という名の女である。

彼女たちの達也に対する愛は、インド洋の海よりも深く、
アフガニスタンの荒野よりも広かった。彼女らは、達也に接近しようとしたり、
逆に彼に好かれそうな女子がいたら全力で邪魔をする。

彼女らの悪行は学園中に知れ渡り、
三学年ではその存在を知らぬ者はいないというほどであった。

「おい、ブス。ちょーし乗んなよ?」

美奈は強烈な腹パンを食らい床を転がった。今のはデレ美の攻撃だった。

美奈は恐ろしいことに、コンビニの駐車場の裏手で暴行を受けていたのだ。
このコンビニは茨城県小山市という田舎の立地だからか、
コンビニ周辺に民家は少なく、周囲数キロにわたり田園が広がる。
したがってコンビニの裏手は誰の助けも来ない魔界となっていた。

「このドブスが!! ブッサイクな顔してるくせによぉ!!」
「キモ。こいつ、泣いてんじゃんwww」
「おら!! くつ舐めろよ!! くつ!!」

美奈は言い訳する間もなく、達也に告白された件を追求された。
美奈は今日起きたままのことを口で説明したのだが、それできゃつらが
納得するわけもなく、達也は何かの間違いでおまえに告白したのだと言われてしまう。

美奈の日本人形を思わせるストレートでよく手入れされた黒髪は、
靴で散々踏まれて汚された。美奈は、何より髪を汚されたのが悲しくて涙を流した。

「おいブス。あたしらにひとつ約束してれる? そしたら解放してやるよ」
「……何を約束したらよろしいのでしょうか?」
「達也君に関るな。彼に近づくな。ラブレターは燃やせ」
「ですが、告白された側の私としては、せめて返事をしませんと」
「返事なんかする必要ないんだよ!! 彼と話をするなつってんだよ!!」

こうなっては従うほかなかった。
のんびり屋で人との争いを好まぬミーナには、
この三年の先輩たちは獰猛な獣のように恐ろしいものに映った。

家に帰り、ボロボロになったミーナを召使いはそれはもう心配したが、
「外でブレイクダンスの練習をしていた」と言い訳した。
平安貴族育ちのミーナには無理のある言い訳だったが、なんとか乗り切った。

そして翌日。
ミーナは朝食と着替えを済ませ、改めて自分の顔を手鏡(高級品)で見た。
やはり、自分の顔立ちは美人ではなかった。昨日の暴行によって、もともと
太かったほっぺが、ますます晴れてしまい、顔は左右に延ばされたように
のんびりしていた。おまけに目と口元もおっとりしていて、これでは
男子に「かえるちゃん」と呼ばれても文句は言えない。

男子にからかわれるのは小学生の時から続いているから、今さら傷つくことはない。
前髪は眉の上で綺麗に切り揃えられ、後ろは腰の位置まで垂らしている。
10代らしく、つやつやでみずみずしい髪の毛は自慢で大人からも褒められる。

本格的な作法にも通じているので、親族の集まる会合では
「平安貴族のお嬢様」とまで呼ばれて得意になっていた。

「胃が痛む。朝餉(あさげ)を半分も残してしまった。
 しかしながら、私の仕事は学業に励むことである。
 学校に行かねば母様と父様に心配され、余計に事がややこしくなるのだ。
 とにかく達也さんと関わらなければ良いのだ。ものは単純に考えることにする」

早朝。学校の門をくぐる。校庭ではサッカー部の練習する姿が目に入る。
だが達也はそこにいない。三年の秋なのですでに引退しているのだ。
よく考えてみると、例の女子の先輩たちも、受験で忙しき意味であろうに、
よくも自分を呼び出して暴行を加えてきたものだと感心してしまう。

一年六組の扉をくぐり、自分の席に座る。教室には誰もいない。
特にすることもなく、机に頬杖を突きながら時が過ぎるのを待つ。

やがて生徒たちが次々にやってきて騒がしくなる。
美奈の周りには友達が集まり、昨日テレビで見たドラマの話題に花が咲く。

「お、いたいた」

扉の先には、美奈の知っている男子の顔が。

「おーい、新見さん。俺だよ俺。オレオレ」

サッカー部のイケメン。布施達也であった。
まさかの三年生の男子の襲来に、教室がざわつく。

「おはよう」
「お、おはよう……ございます」

机の前に来て、あいさつされた。
一体何が始まるのかと身構えるが、達也はあいさつだけして
速足に去っていった。一体何をしに来たのかと不安になる。
達也と入れ替わるようにして担任の女教師が入ってきて、
何事もなかったかのようにホームルームが始まる。

しかし教室中はまだざわつきが収まらず、結局担任の
森由紀がプチギレするまで生徒はおしゃべりを続けたのだった。

昼休みになる。
美奈の楽しみにしていた食事の時間だ。この学校は私立で給食制ではない。
美奈の取り出した「重箱」の中は色とりどりのおかずが盛り付けられている。
この子の家は平安貴族風のお金持ちのため、食事は常に和食だった。
通販で取り寄せる「豪華おせちセット」並みのお昼ご飯を
学校で毎日食べていた。このメニューは専属のシェフに作らせている。

「今日も美奈のお弁当美味しそーだね」
「すっごい量だね。一人で食べきるの?」
「うん。誰にもあげないよ」

美奈はケチだった。成長期の娘ということもあるが、
食欲は人一倍であり、自分の分のご飯は独り占めする。
見せびらかすように机の上に豪華な食事を並べて食べるのが趣味だった。

「ふむふむ。この伊勢エビ。大変に美味なこと。
 イクラとしらすが乗せられたご飯も美味である」

そんな楽しい食事を邪魔するように、

「ちょっとそこの一年、面(つら)貸してくれる?」

嫉妬する子が一年六組に襲来したのだった。
する子の後ろには、デレ美とモブ子もいる。

美奈は恐怖と緊張のあまり息をのむ。せめておかずを
全部食べ終わるまで待ってほしいと言う。どのくらいかかるのかと
問われ、あと20分と答える。昼休みが丸ごとつぶれてしまう時間であった。

「ふざけんじゃねえよ!! ぶっ殺されたいの、あんた!!」

もはや女子学生の口調とは思えない。怒鳴ったのはモブ子だ。
この三名は一様に作法を知らぬ下賤な人間であると美奈は思った。

美奈は食事はよく噛んで食べるものだと教わっているし、二段もある
重箱を咀嚼するには、それくらいの時間は当然かけるものだと思っていたのだが。

美奈は首根っこをつかまれ、拉致されてしまう。
教室に残された生徒は、彼女の不運のために泣き、わめいた。

ある者はイエスキリストの十字架を取り出して聖水を振りまき、
ある者は法衣をまとい、インド式仏教の経典を斉唱した。

彼らは昼休みが終わるまでそうしていた。
6組は心を一つにし、彼女が生きて教室に帰ってくることを祈る。
これらは美奈がクラスの人気者だったことの何よりの証である。

校舎裏に呼び出されたミーナを三人が囲い込む。

「今朝のあれはなんのつもりなん? ああ?」
「いえあれは布施先輩の方から挨拶をしてきたのであって、私は何も」
「言い訳が聞きたいんじゃないんだよ!! なに彼とあいさつしてんだよ!!」

みぞおちを蹴られてしまい、食べていたものを吐きそうになる。
苦しくなったミーナは、お腹に手を当てうずくまった。
そんな彼女の背中を寄ってたかって蹴りまくる悪女たち。

調子に乗った悪女は、トイレのバケツを水でいっぱいにして戻って来た。
ミーナの頭の上でひっくり返す。

「きゃあ!! 冷たい!!」

季節は11月の末。水の冷たさは肌を刺すかの如く。
早く乾かさないと風邪を引いてしまう。


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