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作品名:令和の大不況。無職になった若者たちの行く末は… 作者:なおちー

第20回   アユミの病院へ爆弾が降ってきた。
※アユミ

昼下がりに病院のテレビを観てもすぐ飽きる。
ソビエト政権ではコマーシャルを極力入れない
国営放送を中心に番組を作っている。

どれも政治経済や軍事の報道番組ばかりで娯楽がない。
新生国家にメディアの質を期待する方が間違っているのか。
こういう時はにスマホでニコ生でも観ようか。
画面にはたくさんの字幕が流れてくる。

           まもなく……攻撃が開始されるww
   うはwww立件民主党まじぱねえ
                 ↑おめえらwwwデマおつwww
         俺も栃木ソ連に移住したいお

こんな感じの煽り?が毎日繰り返されてる。
日本が攻撃するする詐欺ってやつで、
いつまでたってもソ連を攻撃してこない。

ソビエト側では、太平洋の沿岸部に集結中の敵艦隊を
先制奇襲攻撃する案もあるそうだけど、どうなることやら。

そんなことより兄さんと半月も会話をしてないんだけど。
電話には出てくれないし、
メールの返事は次の日にならないと帰ってこない。

  うわっ 私……避けられてる!?
  SNSの返信の遅さで、告白を断られたのが分かってしまう!!
  今なら5分で無料診断!! 登録者は70万人を突破!!

冗談はこの辺にして、まさか本当に振られるとは。
兄さんが私を振るってことは、ユウナを選んだことになる。
だって病院で兄さんがユウナを見る目が前と変わっていたし、
なんか「妹」じゃなくて「一人の女」として見ていた。

おめでとうお姉ちゃん。と言いたいところだけど、
あのぽっちゃり体形の色白豚に負けたことが許せない。
きっと兄の気の迷いなんだと信じたい。

私は兄の肌のぬくもりに飢えていた。
私から求めなくてもあっちから近づいてきた。
兄はいつだって、私が嫌と言っても服を脱がせてきて、
こうしてパンツをずりおろして、割れ目をまさぐって……。

「んっ……」

ふわふわの枕に顔を押し付けながら、オナニーを始めた。


〜〜〜〜エロシーンのため中略〜〜〜〜〜〜〜〜


「僕だよ。ナツキだ。偽物じゃないぞ。
 全くダメじゃないか、こんな昼間から一人で始めるなて」

私は兄さんが突然お見舞いに来てくれたことと、
痴態を見られたことで混乱してしまう。
兄さんは私の腕を持ってベッドに押し倒し、ディープなキスをしてきた。


〜〜〜〜エロシーンのため中略〜〜〜〜〜〜〜〜


事後、ベッドシーツが赤く染まる。
ナツキお兄ちゃんは、この世の終わりのような顔をして
私に頭を下げてきた。ゴムもなしで挿入されたのだ。
レイプされたのとそんなに変わらない状況だったよ。

「用件に伝えるぞ。スパイの情報によると、
 まもなく栃木ソ連は空爆される。敵は無差別爆撃を狙っていて、
 この病院は格好のターゲットだ。今からシェルターに避難するんだ」

私は太ももに力を入れるとあそこが痛むので、
自力で起き上がれない。お兄ちゃんにおぶってもらった。
男の人の肩幅って広い。筋肉のついたゴツゴツした背中。
兄の背中は……暖かかった。

『空襲警報 空襲警報 患者と従業員は、
 ただちに地下のシェルターへ避難を介してください』

兄は一階の廊下を走っていた。私は窓の外をふと見上げる。
空にある雲が全部……飛行機で埋め尽くされている?
嘘みたいな現実だった。

真っ黒な色をした爆撃機の大編隊だった。
その次の瞬間、建物がぐらぐらと揺れて私の意識が飛んだ。


あれから何時間経過したのか。
私は兄にひざ枕されていた。
ここは病院の地下シェルターのようだ。

空爆された時に兄が転倒し、そのはずみで私が投げ出され、
頭を柱に強く打ってしまったようだ。
頭に包帯が巻かれていて、そっと手で触れると血がにじんでいる。
ついでに私の病人服のズボンも処女の血で濡れている。
不潔だし女として最低の状況だ。

「目を覚ましたのか。重症じゃなくてよかったな」
「そうでもないよ。頭がふらふらしてる」
「会話ができるなら十分元気な方だ」

私は包帯だらけの体だ。銃で撃たれた部分も完治してないのに
兄にレイプまがいのことをされて、さらに空爆。
私が今までニートをやっていた罰なんだろうか。

シェルターの中は広大だった。あちこちで非難した患者や
看護師さんたちの姿が見える。男性の医師たちが忙しく
みんなを見回っている。もっとも重傷者もたくさん
いたんだろうから、避難できたのはごく一部だと思う。

病院を狙ってくるなんて資本主義者は血も涙もない奴らだよ。
入院していた人に何の恨みがあるんだろう。

「悪魔の資本主義者、死ね!!」

「僕も同感だ。さて状況は……と。ふむふむ」

お兄ちゃんはスマホで本部と連絡をしていた。
今はスマホで戦闘の様子までわかってしまうから便利だ。

「茨城県の沿岸を攻撃すると思われていた、日本艦隊は
 おとりだったようだね。艦隊の9割は漁船を改造したダミー。
 本命は栃木本部を徹底的に空爆して叩く作戦だ。
 爆撃機の編隊は2000機を超えるようだが、
 敵がどうやって数をそろえたのかは不明とされている」

敵は地上部隊を一切出してきてない。
鉄人やブラックオックスを恐れてのことだろう。
それにしても敵の数が多すぎる。いくらロボットが強くても
陸戦兵器として開発されたものだから、一度に倒す敵の数は
限られてしまう。町は相当な被害を受けることになる。

「ソビエト本部もかなりの被害を受けているようだ。
 あっちは広大な平野部だから爆弾を落としやすいだろうね。
 対空迎撃装置の半分は壊滅したそうだ。
 敵は栃木県を丸ごと飲み込むように空爆を続けている。
 日光市の司令部予備まで攻撃を加えているらしい」

栃木県最大の都市部である宇都宮市には、ミサイルの飽和攻撃が
行われている。民間人の被害が多数発生しているようだ。

「鉄人やブラックオックスの他にも、
 ジャイアントロボがいるんだよね?」

「ジャイアントロボはとっくに出撃していて、
 対空ミサイルを打ち尽くしたよ。
 弾はたったの100発しかないんだ。
 あとはバルカン砲でちまちま倒すしかない。
 まもなく茨城の日立製作所から援軍が到着するそうだ」

「援軍て?」

「空中戦を想定して開発されたゲッターロボだよ。
 ゲッターワン」

栃木ソビエトの脅威の科学力は、ついにゲッターロボの開発に
成功したのだった。ゲッターロボは空中を自在に飛び回り、
ゲッタービームやゲッタートマホークにより、爆撃機を溶かしたり、粉砕していく。

この巨大兵器の出現に爆撃機隊は完全に戦意を失い、撤退を開始する。
敵の本部からはもっと攻めるように指示が出されたが、
やっぱり自分の命が惜しい。あとは消化試合となった。

我が方も、これで済ますつもりはなく、報復として
ゲッターロボを東京まで急行させ、国会議事堂に
ゲッタービーーーム!! を放って粉々にしてやった。

国会にはちょうど衆参両院の議員が集まっていたので、
議員のほぼ全員が熱線により溶けてしまった。

これは大問題だった。議事堂には政府の閣僚もいて、
調子に乗って戦闘指揮をしていたのだ。立件民主党院の
大半が溶けてしまい、もはや国家の指導者がいない状態となった。

これでは、戦闘の停止を指示するともできず、
一方的に北関東ソ連の攻撃を受け続けることになる。
いわゆる停戦交渉する政府がいない状態というわけだ。

これでは国が滅ぶということで、東京都知事を始めとする、
自治体の幹部が停戦交渉をすることになった。

ソビエト側は、外務人民委員と国防人民委員が代表として出席した。
日本側はまたしても戦力が壊滅したため、
どんな過酷な条件でも飲む姿勢を見せた。
ソビエトが示した条件は賠償金の支払いとなった。

・日本政府は、北関東ソビエト連邦共和国に対し、
 以下の賠償金の支払いをする。

・1600兆円。

・期限は10年以内。

・支払いの遅滞が発生した場合、京都府の工業地帯、
 神戸市の港施設をソビエト側に引き渡すこと。

交渉締結後、東京都知事は心労で入院することになった。
その数日後、心臓の発作で死んでしまった。
臨終の言葉は「あんな恐ろしい書類のサインをするために
       私は生まれてきたのか」だった。
 
コロナ化でもオリンピックを
無理やり推し進めようとしたバチが当たったのだろう。


-----------

※ ユウナ

あれから時は過ぎて梅の花が咲く時期になった。
バードウォッチングがお好きな太盛さんから、
木の枝にいるメジロの写真が送られてきて微笑ましくなった。

すぐに私とラインをしていることが奥さんであるミウさんに
ばれてしまい、太盛さんは罰を受けることになった。
樽の中に裸で詰め込まれて、丘の上から蹴飛ばされたのだ。

拷問のショックで入院した彼をお見舞いするべきか悩むが、
奥さんの愛が強すぎるので止めておいた。

「うちの旦那に色目使うのやめてくれる?」

職場では校長のミウさんと気まずくなってしまう。
私が兄一筋だと力説しても信じてもらえなかった。

日本は国際条約に関して誠実な国なのか、あれから
三か月にわたって賠償金を払い続けてくれる。
賠償金は10年で割って月ごとに支払う決まりになっている。

我が国は税制面の不安が大幅に緩和され、
人民へ共同アパートでの入居を薦められるようになった。
ソビエトのアパートは日本では団地と呼ばれる。
家賃は国家が補助するため無料だ。
更新料や管理費などの無駄な支払いも存在しない。

資本主義国家では、住居費こそが家計の最大の支出だった。
ソ連ではそもそも住居費が存在しないのだ。

その代わりと言ってはなんだけど、ソ連内では
食料品以外のお買い物をした時の消費税は、なんと7割も取られる。
その代わり、医療費や学費に関する支出はタダ。
携帯の契約料金も無料。市場を独占して暴利をむさぼる
資本家連中は国外追放してあるからだ。

難民を中心に食料品を買うのに困窮する層に対しては、
自治体ごとに「食糧配給所」を設けてある。
ここではソビエト人民であることを証明すれば
無料でカレーライスやシチューを食べられる。
紅茶もティーパックで淹れてもらえる。
数には限りがあるけどね。

この夢のような制度のおかげで、日本から北関東ソ連内へ
脱走する人が続出。人口が減れば税収が減り、賠償金が払えなくなる。
追い詰めれた日本は、国境から逃げる国民を後ろから銃で撃つことにした。
これが国民の反感を買い、日本からの脱走に拍車をかけるのだった。

私の勤める学園の近所にも、食糧配給所がある。
傷が治り退院したアユミは、ここで国家公務員として働いている。
配給所の仕事は福祉国家のソ連では重要な仕事だ。

旧JA、現全国農業ソビエトから余剰穀物を取り寄せて、
配給所へ送るのだ。配給所では女性を中心に炊事班の人が
料理を続ける。配給所で提供するのは夕食のみだ。

自民党の悪党どものは、貧しい国民に無料で少量を
提供したら勤労意欲が失せるとして絶対に実施しなかった。
実際は逆で国民はソビエト政府に感謝した。
憲法で定められた国民の8時間労働の義務に従い、
多くのソビエト人民が労働に汗を流している。

「おっすアユミ。様子を見に来たよ」
「あっそ。見ても面白いことなんか何もないよ」

赤地にカマとハンマーの旗が、供給所の屋根になびく。
このマークは、人民の腹を満たす正義の象徴と知られている。
同じマークの腕章をし、三角頭巾にエプロン姿のアユミは、
手慣れた様子でジャガイモの皮をむいていく。

「姉さんこそ、そっちの方は順調なの?」
「最近は校内で反乱も起きないし、楽なもんよ」
「そっちじゃないよ。兄さんのことだよ」

私は兄と結婚した。

周囲の戸惑いと非難の視線に耐えながらも、
兄は私を選んでくれたのだ。実の兄と妹では世間体が悪いので、
腹違いの兄妹として世間に公表することで落着した。

私たちの関係について詮索する奴らは粛清することにしているので安心だ。

ミウさんも私を笑顔で祝福してくれた。
本音は自分の旦那を誘惑する奴が減ったと思っているわけで、
そっちの方がうれしいんだろうけどね。
同じ女から見てもミウさんの嫉妬深さは異常だと思う。

むしろバカなんじゃないかと思う。
学生の恋愛じゃないんだから、
いついかなる時も旦那は奥さんのことを愛していて、
どんな時でも笑顔で奥さんを出迎えてくれて、
絶対に他の女のことを見てはいけないなんて幼稚な恋愛観だと思う。

------

※高野ミウ (学生生活シリーズの主人公兼メインヒロイン)

太盛君は立ち直りが早い方なので入院してから
三日で家事ができるようになった。私はてっきり
彼がまた失語症になってしまうのかと心配した。
私は昔から短気なのが欠点だった。

高倉ユウナがあまりにも美人なので嫉妬してしまったのだ。

学園行事のたびに校長と副校長(正確には教頭)の二人で
壇上であいさつするんだけど、どう見ても私の方が
ブスなので恥にすら思っている。太盛君は私が綺麗だと
褒めてくれるけど、私は学生時代からずっと自分の顔や
スタイルの悪さがコンプレックスだった。

どれだけお化粧を頑張ってもユウナみたいにきれいな
肌にはなれないし、ウェーブのかかったオシャレな
髪形を真似できない。太盛君が私に内緒であの女と
メールしてるって聞いた時は、もう心がぐしゃぐしゃに
かき乱されてしまって、太盛君を本気で殺してやろうかと思っちゃった。

「私のパーティドレスはどうかな? 似合ってる?」
「目の覚めるような素敵な赤だ。君にピッタリだよミウ」

今日はユウナちゃんの結婚式。
式場は茨城県の鹿島市に建設されたソビエト文化会館。
結婚式場を使うのは資本主義的だとの判断で却下されている。
だって資本主義国の結婚式って無駄にお金がかかるでしょ?

茨城県の沿岸部の地域は軒並みソビエト連邦に加入した。
正式名称は、茨城ソビエト連邦の鹿島市となる。
ここは鹿島臨海工業地帯として製鉄業や化学が盛んな地域で、
現在は水陸両用型のゲッター3の開発に成功した。
今日の結婚式は、ゲッター3のお披露目会も兼ねている。

鹿島と目と鼻の先にある千葉県の銚子(ちょうし)市は、
ソビエト鹿嶋からの侵略を恐れて急いで軍事要塞を作っている。
銚子は千葉でも特に田舎で治安が良い。
子供からお年寄りまで郷土愛が以上に強いためか、
ソ連内へ逃げる人が全然いない。

彼らは生まれた故郷を守るために全滅覚悟の徹底抗戦の構えを見せる。
別に銚子の人らがソ連に逆らったわけでもないし、
私達には攻撃する予定なんてないんだけどね。
ちなみにこういう人たちを屈服させるとしたら、
本当に割に合わない損害を出すパターンが多い。

それにしてもここ最近は行事ばかりで疲れている。

先週は第一回の全日本ソビエト大会が行われた。
板倉町の遊水地を改造して作られたソビエト本部には、
全国各地から共産主義者が集まり、今後の社会主義の未来への
意見交換が行われた。私は学園の代表として出席した。

出席者の総数は、18万人を超えた。
行政の幹部クラスの人を中心とし、労働者階級の若者、大学生も含まれる。
敵国の日本からの参加者が全体の三割を占めたのには驚いた。
出席者たちのマルクス・レーニン主義的教養の深さにも驚かされた。
今回の大会では、甲信越地方、東北の一部地域もソ連に参加するべきと
いうことで意見がまとまった。会場の拍手で耳が割れそうだった。

学園でも年末恒例行事となっている学内ソビエト大会が開かれた。
学業の優秀なソビエト学生が集まり、討論会を行うのだ。
校長である私を始めとした学園の幹部が立ち合いのもと
大講堂で3時間にかけて行う。

そして冬休み前は強制収容所の視察がある。
学内の収容所はもちろんのこと、栃木中にある
収容所を見回ることになっているのだ。

専用列車を乗り継ぐから時間がかかる。憂鬱だ。
私はソビエト教育の中核である学園の支配者なので、
各自治体の長との挨拶や忘年会も兼ねている。

新たに領土に加わった埼玉や群馬にも次々に
強制収容所が建設されているから、この調子でいくと
日本中の収容所に挨拶をしに行かなければならなくなる。
できれば副校長のユウナに代わってもらいたいけど、
彼女は学内の管理がメイン。

校長の私は外務の仕事を優先しないといけないのだ……
だから出張ということで家に帰れない日ができてしまう。
愛する太盛君の作ってくれるシチューや回鍋肉を
食べるのが楽しみで毎日頑張ってるのに憂鬱だ。

『まもなく、一番線ホームに列車が参ります』

私は愛する夫の太盛君と仲良く手を繋ぎながら、
臨海線のホームで列車を待っていた。雪が降りそうなくらいに
寒いけど、彼と一緒にいると寒さなんて忘れてしまう。

その気になればリムジンで移動もできるけど、
余計な税金を使いたくないのでいつも断っている。

「太盛君は私のこと。好き?」
「好きだよ。どうしてそんなことを聞くんだ?」
「ううん。なんとなくね」

ソビエト内ではダイヤを一新した。国の生産力を上げるため
貨物列車を優先して通常の列車の本数を少なくした。

全労働者は原則生まれた地域の中で労働をするか、
あるいは勤務先近くの共同アパートで生活することになっている。
つまり通勤ラッシュを減らす努力をしたのだ。
ソビエトでは都市部に出向いての知的労働よりも
地元での生産活動やサービス業への従事を推奨した。

そのため一次産業と二次産業に占める割合が極端に多く、
産業構造をグラフにして表すと、あたかも北関東ソ連が
自給自足の生活を目指しているように見えると思う。
もちろんそれを目指してるんだけどね。

ソ連の目指す社会は、文明的な発展よりも現在の生活の維持にあるから、
貿易(外需)で儲けるよりも最低限の内需を維持して、
国民が飢えないことを重視する。だから貿易収支は常に赤字になる。
そもそも貿易で儲けられるような製品を生産してないのだ。
敵国日本は貿易を絶対重視して外貨を稼ぐ。

それは無理な大口受注を最低人数の労働者で、
しかも最低賃金で働かせることを意味するから
過労自殺やうつ病患者が後を絶たない。

私たちは違う。

ソ連では自殺する人がいない。これは悪の自民党の
ように不正統計をしてるわけじゃなくて、秘密警察が
ソ連内をくまなく探しても自殺者が発見できなかったことによるもの。

もちろん収容所は政治犯が収容されるところだから自殺のメッカなんだけど、
一般の労働者の人は真面目に働いて生活を維持できて心から満足してる。
みんなが定時まで働いて、みんなが同じ家に住んで、みんなが最低限の食事を食べる。

スーパーに行けば毎日同じ商品しか並んでいない。
しかも品物は最低限か生産しないのでお昼過ぎに棚が空になったら補充しない。
家具や家電も同じで一度売切れたら次の商品が全然入荷しない。
だから中古市場が活発になり、敵国日本から売れ残った中古品が流れ込んでくる。

テレビ番組は国営放送と娯楽放送、スポーツ中継の三番組しかない。
書籍はソビエト政府が検閲するので、新書がぜんぜん発売されない。
雑誌も極端に少なく、ネット検索でヒットするページ数も激減した。

これでは進歩がないとバカにされそうだけど、コロナで生活に困ったり、
過労で自殺者が出る悪の自民党の政治より百倍ましだと思う。

ちなみに栃木ソビエト内の、平気的な男性の収入は
『手取りで11万円』物価は敵国日本と大差ない。
日本だったら家計が破綻すると思うんだけど、ソビエトでは
この収入でも、妻と共働きなら子供を三人まで育てられる。

税金が高くて手取りが少ない分、育児の費用が無料。
育児証明書を市役所に届ければ、哺乳瓶、紙おむつ、ベビーカー
その他の諸費用を国が払い戻してくれるのだ。
そもそも結婚して出産した時点で、一時金として100万円が支給される。

このように生活コストが安いので、余裕で子供が育てられる。
将来の養育費を悲観して子供を作るのを断念する必要がない。

ちなみに11万円には根拠があって、現実世界のフランス共和国の
平均的な月収を日本円で換算した結果、この数字になった。
フランスでは実際に社会保障が充実しているので
11万の手取りで子供を育てて、大学にまで出してる家庭もある。

「うちの国は無駄な衆議院総選挙がないから税金が浮くな」
「一党独裁国家だからね」
「日本国では選挙のたびに国民負担で360億円の税金が使われるそうだよ」
「そして選挙で選ばれた国会議員が悪さをすると」
「そうそう。前の法務大臣の夫婦なんてひどかったな」

アベーシュキー政権で法務大臣を務めたカワイ・カチユスキーと
妻のヘンリーのことだ。ヘンリーの参議院選挙で不正なお金が使われたのだ。
選挙区の住民に総額で一億五千万のお小遣いをプレゼントした。
お小遣いの源泉となったのは「自民党の政党交付金」つまり国民の税金だ。

「法務大臣」という法律の守護者たる存在が「自ら憲法違反」の行為に加担する。
ちなみにヘンリーの参院選の筆頭支持者だったのがアベーシュキーと
シュガー官房長官であり、応援に駆け付ける姿がテレビに何度も映っている。

「俺は前から思っていたんだけどな。
 一番問題なのは、敵国日本ではカチユスキーみたいな人間のクズが
 コネで大臣に任命されていることだ。こんなバカがわずかな時間でも
 人の上に立っていたと寒気がするね。国家としてはもう完全に末期だぞ」

「私もそう思うんだよね。戦後70年間も民主主義と資本主義を
 継続した日本の政治は腐敗しきっている。あとは腐りきって滅びるのを
 待つだけだよ。腐った果物が枝から転げ落ちるように」

列車が走る。
窓の外からゆったりと景色が流れていく。
日本のどこにである、美しくも素朴な田園風景だ。
私の生まれた足利市と同じような景色だ。

列車は鹿島市へと続く臨海線を走っている。
電車でなく列車だ。敵国日本の空爆に備えて貨物列車を
改装した、政府専用の装甲列車なのだ。
そのため電車と違い、信じられないくらい鈍足になってしまった。

揺れが心地よかったので、夫の肩に頭を乗せて寝てしまう。

「駅に着いたぞ」

時間にして一分しか立ってない感覚だけど、もう着いたのか。
一瞬で別の場所にワープしたみたい。口の中が渇いてしまったので
ペットボトルのミルクティーを自販機で買って飲んだ。

「ミウ。文化会館に行く前に少し話をさせてくれ」
「いいけど……太盛君、顔が怖いよ?」

駅の改札を降りて、噴水広場のベンチに腰かける。
ううっ、じっとしてると寒風が。
寒くて風邪ひいちゃうから早くして!!

「君には黙っていて済まなかったと思っているんだが、
 ユウナちゃんのことでどうしても話しておきたいことがあるんだ」

「ユウナ……のことで?」

私が目を細めると彼は縮こまった。
いけない。話を全部聞くまでは押さえないと。

「あの子の結婚は、たぶん失敗する」

「……へ?」

「俺には占い師の知り合いがいてね。
 そいつが言ってたんだよ。
 ユウナちゃんの結婚は失敗するって」

「……子作りのことを言ってるのかな? 
 あの子だって兄の子を生むほど馬鹿じゃないよ。
 養子をもらうから大丈夫だって言ってた」

「ユウナの幸せは、多くの人の犠牲の上に成り立っている。
 彼女を幸せにさせたくないって思っている存在が
 この世にいるとしたらどうする?」

「ボリシェビキだから人に恨まれるのは慣れてるはずだよ。
 むしろ山ほど多くの人に恨まれてるはずだけど」

そうじゃない、と言いたげに太盛君はため息をついた。
なによ。早く結論を言ってよ。ちょっとムカつくんだけど!!

「ミウは俺とユウナちゃんのメールを見て怒っていたよな。
 狭い樽の中に押し込められた時は離婚しようかと思ったぞ。
 で、あのメールの内容を覚えているか?」

「だってムカついたんだからしょうがないじゃん。
 えっとメールの内容は……最近忙しくて細かいことは忘れちゃうんだよね。
 幽霊がどうとか……わけわかんないこと書いてあったような」

「そう。幽霊なんだ」

「その幽霊がどうしたの?」

風が吹いた。葉の枯れ落ちた木の枝が揺れる。
駅前の広場はあまりにも閑散としていて、私たち以外の
人がこの世から消えてしまったかのように感じられた。

太盛君が私の肩を抱いて寄せてくれる。
私は恋に夢見る高校生のように胸がドキドキしてしまい、
彼の言うことを何でも聞きたくなってしまう。

「孤島組で戦死した少女、川村アヤの霊が、ユウナを呪っているんだ。
 あの子はユウナと同じくらいにナツキ君を慕っていた」

アヤの霊は、三か月の前の大空襲の後、すっかり現れなくなった。
当時はユウナも安心していて、今では幽霊のことを意識せずに生活をしている。
だけど太盛君は用心して、その後もアヤの霊について調べていた。

太盛君の実家は足利市にある古い家で、系譜をたどると神社にたどり着く。
その神社には占いができる不思議な人物がいる。
その人物にユウナの未来を占ってもらったという。
神社!? 占い!? 私は非科学的なことを否定する現実主義者のボリシェビキ。
だけど愛する旦那がうっとりするほど真面目な顔で話してくれるので否定はしない。

「ふーん。じゃあ、その幽霊の女の子を除霊しないとダメだね」
「真剣に聞いてないだろ」
「真剣だよ」
「嘘つけ」
「ぶっちゃけ幽霊ってみたことないし」
「証拠でも見せれば納得するか?」
「うん。もしあれば、だけどね」

私はからかうように笑った。だってこんなバカな話を
するために私と肩をぴったりと寄せているんだから。

「ちょっとこっちまで来て」

太盛君は、私の手を引いて公衆トイレの裏側に行った。
確かにここなら人目がないけど……。
太盛君は、着替えの入った大きな旅行カバンの中から何かを取り出した。

「これを見ろ」
「アンティークな手鏡だね」 
「そのままじっとして、よく見つめてみてくれ」

私は腰が抜けそうになった。
手鏡の中には、女の子が映りこんでいる。
えっ……合成写真や動画じゃなくて、本当に鏡の中に
人間が存在してる……? しかもこの子が太盛君の説明によると
川島アヤなのだという。軍服を着ていて幽霊なのに足もちゃんとついてる。

「この鏡は御神鏡。この世に存在しないものを映し出すものだ。
 俺たちの見てる世界は実のところ現実じゃない。
 この鏡は、そんなものいるはずない、という先入観を
 押し殺して真実だけを見せてくれるんだ」

「うそ……じゃあ本当にアヤは」

「鏡に映ってるってことは、今そこにいるんだろうな。
 俺たちの目には見えないだけで」

私は背中がゾッとして振り返った。
なにもいない。

「俺が副校長(教頭)室を調べた時に、この鏡を使ったら
 確かにアヤは映っていたよ。地縛霊になって住み着いてたんだろう。
 それがどうしてか、今回は俺たち夫婦の後を着けて
 このソビエト鹿嶋市まで来ちまったわけだが」

「ど、どうしよう太盛君!! 今すぐ栃木に帰るべきかな。
 私たちも呪い殺されちゃうよ!!」

「霊はここまで来てしまっているんだ。
 俺たちが帰ったところで、ユウナが呪い殺されるのを待つだけだぞ」

それから太盛君は、一言もしゃべらなくなりました。
あの……? 私の声聞こえてないのかな? おーい。

気のせいだと思いたいけど、白目をむいてない?
意識があるのか不安になったので眼前で手を振るけど反応なし。
話しながら気絶する人って初めて見た。

いよいよやばいと思ったら、「あっ」と言って彼は元に戻った。

「悪い。ちょっと寝てた」
「そ、そう。疲れてるんじゃない?」

もう幽霊の話をするのはやめておいた。彼の方からも
話題を振ってこないし。またきつく手を繋いで歩いた。

ここまで来て引きかえしたらメンツが立たないから
結婚式には参加するしかない。どうなっても私が
殺されるようなことにはならないと信じてるし。
さあ、気合を入れていこう。


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