20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:令和の大不況。無職になった若者たちの行く末は… 作者:なおちー

第14回   アリサもカイジの顔になって悩んだ。
※飛鳥アリサ

私の名前をイニシャルにするとAA。
これをドイツ語のアルファべートで発音するとアーアー。
カラスの鳴き声は? カーカー。
00年代にブラジル代表で有名だった選手の名前は? カカ。

こんなつまんない冗談を言うほど、私はまいってしまっている。
私は家族の安否が気になって夜も眠れないのだ。

栃木県では自衛隊の攻撃をブラックオックスが
防いだと報道されたけど、実際の被害状況が分からない。
ナギサは? 母は? 果たして生きているのだろうか。
私たちはボリシェビキの管理下に置かれているので携帯電話を
島に持ち込めなかった。宿舎には固定電話があるけど使用は許可されてない。

それから一週間が経過した。
私たちは次の作戦が決まるまで宿舎での待機を命じられた。
正式には訓練所と呼ぶらしいけど、ただの別荘じゃない?

訓練兵は、娯楽らしい娯楽もなく、暇を持て余している。
庭で体操をしたり筋トレをするのは自由となっているけど
日中は日差しが強すぎる。そのため夕方のわずかな
時間を見つけてジョギングをすることにした。

私は自分が太っているのでジムとか人の多い場所で
運動をするのは恥ずかしい。その点この島は最適だ。
私たちの宿舎は海岸沿いにあるので
カニやヤドカリなんて珍しい生き物が足元を歩いていたりする。

脱走を疑われるといけないから、
宿舎から離れないように、周りをぐるぐると回るだけなんだけどね。

宿舎の裏側へ回った。
そしたら顔面に弾頭ミサイルの直撃を受けたのかと思うくらい。
衝撃的な場面に出会ってしまった。

「お兄ちゃん、こんなところじゃダメだよ」
「アユミ……最近仕事で溜まってて、もう我慢できないんだ」
「夜まで待てないの?」
「すぐ終わるからおとなしくしててくれ」

なにこれ? 職場の浮気現場?

同志高倉ナツキ閣下が、妹のアユミちゃんを押し倒してキスしていた。
かろうじて二人ともまだ服を着ているけど、誰かが
邪魔しないと服を脱いでしまいそうな流れになっていた。

「そこにいるのは誰だ!!」

やばっ。私はヤシの実の陰に隠れる。
……長野県の沖合にヤシの木ってあるんだろうか?

「隠れてないで出てきなさい!!
 ユウナじゃないとしたら、訓練兵の誰かだろう!!
 三秒以内に姿を現さなかったら処罰の対象とするぞ!!」

なんで私が悪いみたいになってんの。
妹を押し倒してたあんたの方が犯罪者だよね?

「すみません……夕方の涼しい時間に
 近くをジョギングをしていたもので」

「正直に答えなさい。君は見ていたんだね?」

「見ていたとは……」

「いいから答えなさい!! 君は何を見ていたんだ!!
 嘘偽りなく、君の二つの瞳で見ていた内容を答えなさい」

仕方ないので正直に伝える。

「そうか……。で、君はどう思ったんだ?
 僕はこれでも栃木ソビエトの代表の一人だ。
 僕が実はアユミを愛していたことが世間にばれたらどうなる?」

「それは……。まあ色々とまずいかと」

「そうだ。まずい」

「はい」

「僕を軽蔑したか?」

「軽蔑するというか、まだそこまで閣下のことを詳しく知りませんので
 なんとも。それに同志閣下のご家庭の事情でしたら、それこそ私には
 関係のないことです。どうぞご自由にと言いたいところですが……。
 これ以上は自重させてもらいます」

「続きが気になるぞ。言いたいことはすべて言いなさい」

「仮にですよ。同志閣下がアユミさんを押し倒すほどに
 愛してるのでしたら、ユウナさんの気持ちはどうなるのかなーと。
 ユウナさん、また切れて鉄人とか出撃させちゃうかもしれませんよ」

「僕はユウナのことは苦手だ!!」

「でしょうね。全力で避けようとしてましたものね。
 あの茶番劇無駄に長いし、しかも聞いてるこっちは
 気まずいのでみんな迷惑してますよ」

「僕だって好きでやってるわけじゃない!!
 ユウナはしつこくて困ってるんだ。
 僕がアユミのことを愛してるって
 伝えられたらどれだけ楽になることか!!」

押し倒されているアユミちゃんが、兄をどけて起き上がった。

「話が長くなりそうだから、私はこれで」
「お、おい。どこ行くんだ?」
「大人たちの話し合いには興味ないので散歩にでも」
「あゆみ!! 待ってくれ、あゆみ〜」

高倉家では近親相関がブームなんだろうか。

こういうのって見せられる側はすごく不愉快なんだよね。
そもそも私たちは訓練を受けに来たはずなのに、
なんで高倉家のラブコメを見せられないといけないの。

私は腹いせに、ユウナさんにばらしてしまった。
しかもみんなが集まる夕食の席で。

「なにそれ、どういうこと!!」
「ナツキ様……? またまたご冗談を……」

ユウナに続いてアヤも切れてる。
食堂はまたしても……ざわざわ……。ざわざわ……。
と逆境無頼カイジの背景が再現された。
特に寺沢アツト君のひきつった顔が笑えるwww

個人的にこの背景は大好きだったりする。
私は中学生の時に漫画を全巻集めていた。
そんでルミに全部借りパクされた上にブックオフに売られた。

ナツキが狼狽しながら、
「同志アリサ。君は収容所送りだ!!」とか言ってるけど、
「いいえ。あなたはソ連邦英雄よ!!」とユウナさんが擁護する。

ユウナさんは兄上殿の胸ぐらをつかみながら、
きゃんきゃん吠えている。

「私にはちっとも構ってくれなかったのに、陰でアユミと
 会っていたのね!! アユミが妙にお小遣いを持ってるから
 おかしいとは思っていたわ!! アユミ相手に
 家庭内援助交際をしていたってことなんでしょ!!」

家庭内援助交際って初めて聞く単語だ。さすがボリシェビキは発想が違う。
私が見た感じだとアユミさんはそんなに嫌がってる風じゃなかったけど、
家族間でも援助交際って成立するんだろうか。

「愛する妹にお小遣いを上げるのはボリシェビキなら当然だ。
 アユミに比べたらおまえなんか、そうだな。ゴマフアザラシみたいなもんだ。
 ペットのように愛らしくはあるが、恋愛感情はない」

「ゴマフアザラシですって!? 言っていいことと悪いことがあるわ!!
 兄さんはド変態のくせに!! 5歳も年下の妹に欲情するなんてロリコンよ!!」

「アユミが中学生の時なら適当なセリフだが、今のアユミは24歳だぞ。立派な大人だ」

「アユミが中学生の時からお風呂をのぞいたりしてたじゃない!! 
 あと脱いだ下着の匂いを嗅いでたりしてたわ!!」

「バ、バカなことを言うな。あれはアユミの成長具合を確認するためにだね……」

私はお腹がすいたので、ユウナさんの分の
カレーライスを食べてしまった。
修羅場ってるのでばれなかった。ラッキー。

「うわぁあぁぁぁ?」

ちょうどそのころ、アユミちゃんが飛んできて、
テーブルの上に落下。大往生した。
まき散らされた料理と皿がすごいことに……。

「ごめん。ちょっと醤油を取ろうとしたら手が滑りました」
「ここの食堂は日本食は出ないから醤油などない……。いてて……」

アユミちゃんをぶっ飛ばしたのは、川村アヤだった。
この娘もハイレベルの変わり者。
訓練時代に私が何度話しかけても不愛想。無反応。
返事を一言だけして黙るので会話が1分以上続いたことがない。

この子はこんなんで社会でやっていけるんだろうかと
心配になるけど、私たちは率先して
その社会をぶち壊すために訓練を受けていることに気づく。

「ちょ……ストップ。まじ腰打ったっぽい。
 部屋で休ませてよ。ね? いいでしょ」

アユミは腰を痛めた割には元気いっぱいに駆けていった。
怒る相手がいなくなったので困ったアヤは、
ナツキさんの尋問に加わることにした。

ナツキさんの右の腕をユウナが、左の腕をアヤが持ち、
耳元できゃんきゃんわめく。

可愛い女二人に奪い合いをされるなんて
モテるねえ同志ナツキ。両手に花。ハーレムじゃん。

「もうナツキ様の浮気には我慢できませんわ!!
 私はここで聞いた事実を党の本部に報告させていただきます!!」

「私は家に帰ってから両親に話してやるわ!!
 お父さんたち、どんな顔するだろうね。兄さんが孤島で
 アユミの体を好きなようにして遊んでいたなんて知ったら!!」

「待て待て。僕は聖徳太子じゃないんだ。そんな一度に言われても困る!!」

他の訓練兵の反応が笑える。
やっぱりやべえ……こんな島。来るんじゃなかった……。
って感じで、キョロキョロして冷や汗をかいてる。

「同志アリサ!! 君も笑ってないで説明をしなさい!!
 このままじゃ、僕は本部に戻る前に聖徳太子になってしまうよ!!」

※ 聖徳太子の本名は、
  厩戸皇子(うまやどのみこ、うまやどのおうじ)である。
  余談であった。

あっそうですか。そんなに助けてもらいたいのね。
せっかく発言権を得られたのだから、遠慮なく話させてもらう。

「すみません。私もナツキ閣下にお聞きしたいのですが、
 アユミさんとはいつからそんな関係になっていたのですか?」

「いつからだと……。そうだな。たぶん僕が高3の夏休みだ」

「どっちから誘ったんですか?」

「僕はドライヤーでアユミの髪を乾かしていたんだ。
 アユミのうなじを見ていたらムラムラしてしまってね。
 家族が寝静まったころを見計らってアユミのベッドに忍び寄ったんだ。
 アユミは怖がって抵抗したが、そんなのお構いなしだ。ああ。最高だったさ」

「もう10年近くのただれた関係ってことですか」

「そうなるね。ちなみに風呂もよく一緒に入ったぞ。
 洗濯機を回すふりをして風呂場のドアを開け、
 入浴中のアユミのところへダイブするんだ。
 そしたらアユミがだね……」

「ちょっと黙ってもらっていいですか。私の質問にだけ答えてくれればいいので。
 しかもなんで私には秘密をベラベラしゃべるんですか。
 私は閣下がアユミさんを愛してる事実に激しく疑問を感じるのです」

「というと?」

「ユウナさんには欲情しないのに、どうしてアユミさんにはするんですか?
 二人とも美人ですし、姉妹だから顔つきはそっくりですよ」

「理屈じゃないんだよ。考えるな……感じろ」

うっざ。この男うっざ。見た目はインテリ風のイケメンだけど、中身が残念過ぎる。
初めて犯した時のアユミさんの年を計算すると中学生くらいだったはず。
中学生を犯すだけでもアウトなのに身内とか……。

こんな奴がボリシェビキの幹部なんだと説明されて納得できるわけがない。
こいつらと国家転覆を目指すのは誰が考えても無理っぽい。

おい……まじやべえぞ……所属する組織、間違えたか……?
って感じで訓練兵一同、ざわつき不可避だから。

「話はこれで終わりだろう? それじゃあ失礼する!!」

ナツキは窓ガラスをぶち破って逃亡した。
あの野郎。逃げ癖がついてるのか動きに無駄がない。
ユウナさんが短距離ランナーの姿勢でスタートを切り、猛追する。

今頃日本政府がどんどん動き出してると思うのに、
いつまでホームドラマを続けるつもりなんだろう。

----------------------------------------------------------------
※高倉ナツキ

僕は海岸でユウナにつかまった。
宿舎から距離にして30メートルしか離れてないだろう。

初めから逃げることなんてできないのだ。
だがこれでいい。これ以上自分の痴態を訓練兵たちに
見せるわけにはいかないからね。

「はぁはぁ……追いかけっこはもう終わりなのね……」

体力がないくせに、たったこれだけの距離を全力疾走しただけで
こんなにも息を切らすとは。

ユウナは美しい。なぜならアユミのお姉ちゃんで顔が似てるからだ。
問題は体形だ……。僕はむっちりした体の女性は好みじゃない。
ユウナは食べ過ぎなのか、運動不足からなのか、20を過ぎてから
ムチムチし始めた。身長は164と大柄なのだが、二の腕や太ももが
太いぞ。色白だからか、余計に柔らかそうな脂肪が気になってしまう。

その胸だが……。

つん。

「きゃあ!? なにすんの!!」

感触が硬かった。スポーツブラをしてるのだろう。

「逃げたと思ったら今度はセクハラ?」
「ユウナ。ちょっと真面目な話があるんだ。聞いてくれ」
「何よ、いきなり真剣な顔になって」
「お前の名前の由来についてだ」

ファイナルファンタジーシリーズの10作目に
優菜という名のヒロインがいる。ユウナの名前の由来は
そこから来ていると、父から聞かされたことがある。

僕はそれだけをユウナに伝えてから、再びダッシュで逃げた。
優菜がすぐに追ってこれないように、「まきびし」を足元に
巻いておくのも忘れなかった。

-----------------------------------------------

※ 飛鳥トオル

これ以上高倉家のホームドラマに付き合うのは我慢ならん。
しかも内容が詰まらん。栃木に残した俺の家族の安否を
確認するために、ついに脱出を強行することにした。

ここ数日、夜のうちに宿舎から出て、脱走の手段がないか探していた。

島の深い森を抜けて海岸沿いに出ると、やはりあったか。
おそらくボリシェビキの監督者らが管理しているのであろう、
モーター式のボートがあった。動くことは確認してある。
仲間もそろえた。俺の家族(娘二人)だ。

本当はカイト君とアツト君も誘ってやりたかったが、
脱走するなら人数は少ない方がいい。
彼らのことは仲間だとは思っているが、いざ脱走を強行したときに
心に迷いがあった場合に足手まといになる。何より家族が一番大切だ。

俺は、家族を捨てるつもりでボリシェビキになったつもりだったが、
所詮は甘い人間だったということだ。だが奴らもたいがいだ。
高倉ナツキやユウナの言動を見て私は悟った。ボリシェビキは
変わり者の集まりにしても、奴らは変わりすぎてる。しかも破廉恥だ。

真面目に国家を転覆させるつもりがないのだろう。
お兄ちゃんがどうだの、妹がどうだの、我々訓練兵にはまるで関係のないことだ。
しかも鉄人28号作戦が失敗に終わった今、
この島にもいつ自民党の反撃を受けるかもわからず、不安ばかりが募る。

「お父さん。私はやっぱり島に残るよ」

何を言ってるんだルナ!! ボートはすぐそこにあるんだぞ。

「本土に戻ったって、つまらない日常が待ってるだけだよ。
 資本主義の奴隷になって生きるのは、もう嫌だ」

「ここにいて何かが変わると本気で思っているのか?」

「私もルナに賛成。ここにいたら命までは取られないわけだし、
 まだ希望はあるよ。だって私たちには鉄人28号があるんだから」

あろうことか、アリサまでルナと似たようなことを言い出し、
二人だけでも宿舎に戻ると言い出す始末。
バカな……。俺はお前たちの父親だぞ。
俺だけ孤島から脱走しろというのか?

おまえたち、脱走を計画した時はあれだけノリノリだったじゃないか!!


「貴様ら、そこから動くな!!」

な……。我々は森の茂みから現れた人物にライトで照らされてしまった。
なんと我々を脱走の罪でこの場で銃殺するという。
しまった……。尾行には細心の注意を払ったつもりだったが。

「き、君は……!!」
「動くなと言っている」

15歳の若きボリシェビキ、川村アヤだった。
バカな……。なぜこの娘は銃を構えているのだ。
重火器の所持は、訓練中以外は固く禁じられているはずなのに。
(そもそも孤島に来てから訓練など一度もしてないが)

「私は逃げたナツキ様を追って森をさまよっていた。
 そしたら偶然貴様らが逃亡している姿を見つけた」

「ふ……。君は高校一年生だったな。
 君に我々を打つ勇気があるのかね?
 訓練兵同士なのに態度がでかいんじゃないのかね?」

その次の瞬間だった。私は腹を撃ち抜かれてしまい、
5日にわたり、生死の境をさまようのだった。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 1286