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作品名:令和の大不況。無職になった若者たちの行く末は… 作者:なおちー

第13回   トオルは男の訓練兵たちと脱走しようか考えた。
〜飛鳥トオルの一人称〜

俺は個室に閉じこもり、頭を抱えていた。
はっきり言って所属する組織を間違えたのかもしれん。
先ほど見せられた茶番は夢だったのだと信じたい。

私の記憶が確かならば、高倉ユウナ氏は間違いなく
『学園』の教頭の地位にあるはずのお方だ。
そんな彼女はどういうわけか兄上殿に恋をしているようだ。

ユウナ氏はアリサと同い年だと聞いた。
私は娘しか持ったことがないので知らないが、
今どきの兄妹は恋愛感情を持つものなのだろうか。
私は6人兄弟で妹が二人いるが、そんな感情を抱いたことはない。

そもそも、今回の鉄人28号作戦とはなんだ……?
無計画にしてもほどがある。
まさかユウナ氏が、たまたま思いついた作戦とは……。

訓練所で支給されたスマホでラジオをかけっぱなしにしてある。

『自民党は生き残った議員を集めて新内閣を結成。
 直ちに全国の自衛隊と警察を動員して赤狩り実施を決定』

ああ、やはりこうなってしまった……!!

栃木県は真っ先に攻撃の対象になる……。
あそこには私の残してきた家族が、私の妻と、二番目の娘がいるんだぞ!!

敵を確実に殲滅しなければ攻撃は逆効果だ。攻撃するべきは
国会議事堂などではなく、武力を行使してくる自衛隊だろうに。

くそう……くそう……!!
私はこの訓練所が秘密工作を仕掛けるスパイを教育する場所だと
思い込んでいた……!! 悔やんでも悔やみきれない……!!

「おう、まだ寝てねえようだな」

な……!? 心臓が口から飛び出るかと思った。
無精ひげと、寝ぐせのついた髪が特徴の彼の名前は……
寺沢アツト君だったか!! 

「驚かして悪かったな。俺だけじゃねえぜ?
 水谷もいる。邪魔して悪いが、ちと相談があるんだ」

紳士的な水谷君もいるとは、よほど深刻な悩みなのだろう。
なんとなく想像がついてしまうのが悲しいが。

「正直に言います。僕は先ほどの腐ったラブコメを見せられて、
 半裸で走り出したいほどの衝撃を受けました。
 つまりですね。もう真面目に訓練する気になれないんです」

うむ。水谷君に同意する。

「ユウナさんにはガッカリさせられたぜ……。
 あんな清楚な美人さんの残念な姿を見せられちまったもんだから、
 いきり立った俺様の弾道ミサイルも、すっかり萎えちまったw」

くだらぬ下ネタはよしたまえ。品性を疑われるぞ寺沢君。

「でよぉ、飛鳥のおっさんはどう思ってんのかと思ってな」
「君の倍以上も生きている人間をおっさん呼ばわりかね……。」
「怖い顔すんなって。俺たちは同志だから年齢の差は関係ない」
「確かにそうだが、まあいい」

私はストレスが溜まっていることもあり、ユウナ氏の破廉恥さを
とことん批判してやった。私が最も気に入らないのは、
彼女が衆人環視の中、堂々とブラザーコンプレックスを発動したことだ!!
それに妹のアユミ氏をペットボトルで殴るなど、実によくない!!

「気になるところはそこですか!?
 どちらかというと、ユウナさんが私情でロボットを
 動かしたことを問題にするべきかと」

「水谷君の意見はもっともだ」

「では脱走しましょう」

「なにぃ!?」

若者らしい、浅はかな意見だ。
我々はボリシェビキとして党とレーニンに忠誠を誓った身である。
それが訓練中に脱走するなど、ありえない。

「おっさんだって茶番を見てあきれてたじゃねえか」
「それとこれとは話が別だ。脱走の手段はどうするのかね?」
「脱走が無理なら、あとでユウナさんに辞表でも出すとかどうだ」
「辞表だって!? ばかばかしい!! ここは会社じゃないんだぞ!!」

そんなことをしたらスパイ容疑がかかり、
死ぬより恐ろしい拷問をされるにきまってる!!
多少のギャグシーンがあっても
ユウナ氏がボリシェビキの一員なのを忘れてしまっては困る!!

まったく、これだから令和の若者はお気楽世代だと嘲笑されるんだぞ!!

「はははwwwマジになるなよ。おっさん。
 辞表は俺様流のジョークだっつのwww」

「な、なんだ冗談だったのかね。真顔で言わないでくれたまえよ」

この寺沢アツトという人物は、
ふざけているようでなかなか愉快な男だった。
私はユウナ氏の件で本気で悩んでいたのだが、この男と
話していると笑みがこぼれるのだから不思議だ。

「一流の共産主義者を目指すなら、共産圏のジョークを
 知らねえといけねえぜwww俺様が今から
 とっておきのジョークを披露してやる!!」

久々に腹を抱えて笑った。
やはり人間は笑わないとダメなのだな。
副交感神経を活発にすると、がん細胞まで殺してくれる。
初めは紳士的な水谷君を好ましく思ったものだが、
アツト君の楽しさを知ると、平凡な男は退屈に感じられてしまう。

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※ ☆高倉ナツキの一人称☆

僕は高校生の時に高野ミウと付き合っていた時期があった。
付き合っていたといっても、たったのひと月だけだ。
ミウは僕では物足りなくて、すぐ太盛君へと愛が移ったのだ。

その時のユウナのヒステリーはすごかった。
僕の携帯からミウの連絡先を消し、僕が復活させ、
またユウナが消すのを5回繰り返した。
僕はしびれを切らしてミウと連絡するためのに
仕事用の携帯を使うことにしたほどだ。

ユウナは家族の食卓でミウの悪口を言いまくり、
僕を怒らせた。学校までミウの様子を見に来ては欠点を探していた。
僕とミウのメールの内容はなぜかユウナの携帯に漏れており、
ユウナの部屋で全文が印刷され、チェックされる。

ありがたいことに僕らの電子文通の添削(てんさく)でもしてるのかと
訊いたら、ミウの欠点を見つけるための参考にしていると聞いた。
僕はいい加減腹が立ったので、ユウナの顔をひっぱたいてやった。

そしたらユウナは、きっと僕を怖い顔でにらんだが、
すぐに頬を赤く染め、目がとろんとした。
気でも触れたかと心配になるが、関係ないミウの悪口を
また言い出したので、ついカッとなってまたビンタしてしまった。

こんな感じで。

「あうっ!!」

ユウナは大げさに床に倒れこむ。
ぶたれた頬を押さえて女の子座りをしてる。

僕は三階のユウナの部屋にいる。
ドアに鍵をかけたので邪魔は入らないはずだ。

早く服を着なさいと言っても、上半身はキャミソール、
下はショーツだけだ。どう考えても僕を誘ってるんだろうが、
あいにく一つ下の妹の体を見て感じるものは何もない。

「少し距離を取ったらこのざまか。やっぱりユウナは
 僕がしっかりと管理しないとダメだな。おまえと
 離れ離れで暮らすのは失敗だったと自己批判させてもらう」

「うふふふ。うふふふふ」

「な、何がそんなに楽しい? 
 おまえのせいで栃木県本部は壊滅するかもしれなんだぞ」

「だって今はお兄様が私のことだけを見てくれてる。
 私に話しかけてくれてる」

「お前ってやつは、27になっても高校生の時から
 少しも成長してないんだな。教頭にまで昇進しても
 それは外面だけで、内面は子供のままか」

「ええそうよ。私は乙女の心を今で持ち続けてる。
 どこまでも純粋で、人心な女の子なのよおお!!」

そう言いながら僕に飛びかかって来た。まさか逆レイプでもするつもりなのかと、
腰を抜かしながらも逃げ回った。か、鍵が開かない……。
かけたのは僕のはずなのに、どうやってもロックが解除できないぞっ……!!

「ナツキ様!! ドタバタと音がしてるけど、大丈夫ですか!!」

アヤちゃんが扉を開けてくれたおかげで、廊下へ出られた。
アヤちゃんは近くにあった花瓶でユウナの頭を殴る。
「うーん」ユウナは気を失った。死んではいまい。

「ああ、ナツキさまぁ。無事でよかった」
「た、助かったよ」

アヤちゃんは僕に気があるようだ。
そこまで正面からぴったりくっつかれてもな……。
さりげなくこの子は僕を彼氏扱いしていたけど、とんでもない誤解だ。

僕は彼女を若く伸びしろのあるボリシェビキの一員として認め、
優遇していたにすぎない。僕はひいきする性格だから
アヤちゃんを特別扱いしてるだけで、恋愛感情はない。
28歳の僕からしたら15歳のアヤちゃんは幼すぎる。

僕はこれ以上彼女を誤解させるのは逆に酷だと思い、
はっきりと伝えてあげた。わざと冷たくして。
どのくらい冷たいかって? コンビニの冷えたおにぎりくらいにさ。

「何言ってるんですか」

そしたらビンタされた。

信じられるか……?
僕はこれでもボリシェビキの市議会のメンバーだぞ。
栃木県は足利市が主導となってボリシェビキを形成している。
その中心となる組織にいるんだ。その僕をビンタ……だと。

「もうすぐ世界が滅びようとしています。今私たちが
 こうしている間にも、栃木県の本部は自衛隊に
 空襲されてるかもしれません。だから、今ここで言います。
 私はナツキさんが好きです」

そしてビンタされた。

二度もぶった……!!
オヤジにもぶたれたこともないのに……!!
もう知らないからな!!
もう二度とガンダムになんて乗ってやるかよ!!

そんな時、部屋のテレビジョンが中継を映していた。

『ご覧ください。悪の根拠地とされている、足利市の学園の前では
 全身黒塗りのロボットが大暴れし、弾道ミサイルを素手で叩き落とし、
 戦闘機にはビームを食らわせて撃墜していきます』

やはりミウは禁断の兵器を使わざるを得なかったようだね。
映像に映るロボットは、チャーミングな猫耳が特徴の

        「ブラックオックス」

   ※ 鉄人28号のライバルとして登場したロボット。
    当時日本のアニメでライバルロボットが登場したのは、
      このブラックオックスが初とされている。
    鉄人を凌駕する戦闘力を持ち、最終的には鉄人と共闘して悪と戦うことになった。

戦闘はその後、3時間に及んだ。
ブラックオックスも鉄人と同じくリモコンで操作するのだが、
操作する人がうまいためか、学園側の被害が皆無だ。
完全に包囲されてミサイルを撃ち込まれている割には
全てを防いでいる。NBAで即戦力になるほどのディフェンスの名手だった。

自衛隊は勝てないことを悟り、撤退した。
最終的に自衛隊の損害は……。

戦闘機       128
爆撃機       20
攻撃用ヘリコプター 43 
戦車        163
その他、車両    200

先進国の軍隊が一つ壊滅するほどの被害だった。人的被害は不明だ。
我々資本主義先進国は、大戦時と違い、質を重視して少数精鋭の
戦力をそろえる。西側諸国の戦闘機を200も破壊すれば、
その国の制空権は奪えるとまで言われている。

自衛隊戦力の被害総額を試算すると、およそ3兆5千億となった。
これは、アジアの小国ミャンマーのGDPを凌駕する。

「ところで君はどうして僕をビンタしたの?」
「答える義務はございません」
「おい」
「ですから、そのような質問に答える義務は、全くございません!!」

どうやらアヤちゃんは、次の首相になる人の
モノマネをしてるようだった。

テレビ画面を見る。記者会見の場で内閣の連中が記者にボコられていた。
直ちに新内閣を組閣して新たな対応をするべきだと怒声が飛ぶ。

ならばいっそと……。マイクを握った立件民主党の党首が、
今この場で政権を乗っ取る意思を表明した。
エダノシュキーと呼ばれる、切れ者で有名な衆議院議員だ。

「我々立件民主党は、先般の鉄人襲撃事件の際、ほとんど人的被害を受けておらず、
 また過去に国民に恨まれるようなことをしておりません!!
 今こそ、草の根を大切にする政治を発動するべきです!!」

エダノシュキーは、外務省に対してある指示を出した。
グアム島を拠点している米国の第七艦隊に出動を依頼したのだ。

これはまずいぞ。第七艦隊は戦艦を中心とした部隊だ。
栃木県は内陸部だが、第七艦隊の射程なら余裕で攻撃できる。
自衛隊より優れた戦力を持つ米国艦隊の攻撃を受ければ、
今度こそ栃木ボリシェビキはオワコンになってしまう。


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